-the_Sentinel- 第五話
-the_Sentinel- 第五話
ー06:25 『アルバトロス』機内
「前衛が『局地結界』射程圏内に到達」
「了解。艦載機発艦せよ」
作戦は第一段階にさしかかったらしい。
前衛が北千練島への侵入経路を確保している間に僕らを乗せたアルバトロス10機が島に突入する。
アルバトロス両翼に担いだでかいプロペラで真上に浮かび上がると高度を下げながら水平飛行に移る。
「局地結界の有効時間は10分だ。10分で降下を完了しアルバトロス隊は撤収、降下部隊は結界の発生源を特定し結界を解除する」
大塚大尉が作戦概要を説明する。
この作戦の重要な部分は降下したら結界が解除されるまで援軍も救助も来ないというところだ。
一応、翌日の同時刻に再度アルバトロスを突入させると言うことだけど10分の活動時間で救助される見込みはほとんどない。
しくじったら島で一生を終えることになる。
いや、僕ら転生者は一度死んでるから二生か。
『帳簿係』の野郎やばい方の仕事をこっちに押しつけやがった。
同じ機に乗り込んでいるのは僕の他には、おっさん、チビのイワン、大塚大尉以下15名の空挺部隊、最後に『鉄乙女』と彼女が使う武器弾薬を満載したコンテナだ。
おっさんは『帳簿係』の資料に目を通している。
島の中の情報はほとんどないから資料の枚数は少ない。通勤中のおっさんが新聞見てるくらいの意味しかない。
『鉄乙女』はシートに座って全く動かない。
その様はまさに兵器だった。
「喉は渇いても島の水は飲むなよ。腹下しても軍医はいないからな」
大塚大尉がタブレットの入った紙箱を配る。
長期行軍の友『梅干し綾子』だ。
強烈な酸味で吹き出した唾液が乾きを潤してくれる。
「あ、どうも」
実は僕はこれ結構好きだったりする。
「またこれかよ・・・嫌いなんだよな」
『梅干し綾子』に文句を付けたのはチビのイワンだ。
「なあ、チョコレートと替えてくれよ」
僕が『梅干し綾子』好きなのを知ってるから僕に押しつけようとする。
「もらえるもんはもらっとけ!」
このチビ、少し前の任務で脱水症状起こして死にかけたのを忘れたのか?
命知らずなやつだ。
「前衛が戦闘を開始したようです」
おっさんが窓から下を見るよう促す。
海上には暮旅団が持つ戦艦が7隻。
1隻を中心に6隻が周りを囲んでいる。
『鷹の目』を使って海面を見ると戦艦の周りが真っ赤だ。
中心の戦艦を狙って外来種が取り囲んでいる。「善戦してるな」
大塚大尉が感嘆。
戦艦を囲む赤色は中心の戦艦までは到達出来ていない。
中でも6隻のうち1隻の周りは急速に赤色が消えていってる。
「Positive. 銀等級(第3位)以上の渡来人と推測します」
銀等級って、相当強い転生者じゃなかったっけ?
僕が今黒曜等級(第9位)でおっさんが鋼鉄(第8位)、チビのイワンはビリッケツの白磁(第10位)、第3位は僕らから見たら雲の上の存在、中卒から見た東大卒よりも遠い存在だ。
知ってる限りだとそんな実力者は妖鳥さんくらいしか心当たりないんだけど。
ていうか『帳簿係』のやつ、そんな強い転生者がいるならこっちに回してくれればいいのに。
「どうやら、今回は『帳簿係』が直々に出張ってるようですね」
「え?」
おっさんが言うには、外人部隊の各支部を取り纏める『帳簿係』は諸々の理由で文武に秀でた人材が充てられるということだ。
特に『武』が占める割合は高く、銀等級(第3位)以上は必要らしい。
理由は大きく二つ
1.構成員の転生者は育った世界が違う。
だから当然文化も価値観も違う。
そいつらに外人部隊の決まりを遵守させるには武力が必要になる。
2.外人部隊は外部に流出が許されない顧客情報を預かっている。
そしてそれらを狙う輩は後を絶たない。
そいつらを撃退出来るだけの武力は当然必要。
そう説明されると納得するしかない。
おっさんが仕入れた話だと『帳簿係』が前線に出てた頃は『赫腕』の二つ名で知られる腕利きだったそうな。
斧や鈍器を使って敵を徹底的に破壊する残虐な戦闘スタイルでいつも両腕が敵の返り血で真っ赤になってることからその名が付いたと言うことだ。
実際、敵を示す赤色マーカーが減る度に海面が倒した外来種の血で赤く染まっている。
二つ名はフカシでもハッタリでもないのは間違いない。
ーいやー、自分、前線に行きたくないから『帳簿係』やってんだよね
ー何で自分が出るの?出たら死ぬかもしれないじゃん。自分が死んだら誰か責任とってくれるの?
ー自分の命のためなら他人の命は惜しくないね。そう思うだろ?あんたも。
ここまで見せられたら納得するしかないけど『帳簿係』の普段の素行が僕に納得させてくれない。
ていうか、自分が前線に出ないことを何より重要視する『帳簿係』がどういう風の吹き回しだ?
ーみんな、セシリアちゃんの保釈金のために笑って死んでほしい。
あ、わかった、あいつ妖鳥さんにいいカッコしたいんだ。
とんだ俗物だな。
「鳴瀬が局地結界を展開」
「ガンシップ、針路上に射撃」
前方を飛ぶアルバトロスが結界があった場所に機関銃を撃つ。
結界が残っていれば銃弾は弾かれるはずだが、銃弾はそのまま島の上空に消えていった。
「結界の解除を確認。突入する」
アルバトロスが加速し僕らは島の上空へと突入する。
ここから先は未知の領域だ。
なんだろう、まったく心が躍らない。
ー6:40 北千練島上空
北千練島は全部で5つの島からなる群島だった。
中央に大きな島があり、それを囲むように4つの小島がある。
上空から見た感じだと島のほとんどは樹木に覆われていて全容が分からない。所々に川があるのと、中央の島に異常に幅の広い川があるのが気になるところか。
ーアクティブスキル:鷹の目
奇跡を使ったら島が真っ赤になった。敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵。
敵のデパートだなこの島。
「敵の少ない場所を捜索しろ」
「了解」
真っ赤な中で、赤色が薄い場所を探す。
敵の少ない場所に降りれば生還率はそれだけ上がる。
もちろん僕は生きて帰りたいから真面目に探す。
「各機散開!」
アルバトロスが急激に回避行動を取った。
さっきまで僕らのアルバトロスがあったところに汚い花火が開いた。
そこでなにか警報が鳴り響いてるのが聞こえてくる。
めちゃくちゃすごい音だ。
隣を飛んでいたアルバトロスが片翼を吹き飛ばされて島に落ちる。
まずいぞ、来て早々命の危機だ。
「チャフ散布!渡来人!高射砲の場所を特定しろ!」
「了解!」
断る理由はない。アルバトロスがやられたら僕らも道連れだ。
後部ハッチが開き真下がよく見える。
うっかり落ちないように姿勢を低くして『鷹の目』で下を見る。
可能な限り精度を上げて。
「高射砲発見!4つの小島に一個ずつ!」
「『鉄乙女』!出番だ!高射砲を潰せ!」
「Copy. 兵装を起動します」
大塚大尉の命令に応え生きた兵器が行動を開始する。
軍服を脱ぎ捨てると引き締まった体に吸い付くようなぴっちりした戦闘服姿が露わになる。なんだろう、こういう時でなければすごい役得なんだろうけど、こういうイベントがこういうときしか発生しないのは致命的なバグとしか言い様がない。
僕の気持ちを一切顧みず『鉄乙女』がコンテナから取り出したのは鉄色をしたアベンジャーズに出てきそうなジェットエンジン付きの背負いモノ。まさかこれで飛ぼうというのか?
『鉄乙女』はさらにコンテナからバルカン砲と大砲を取り出すと慣れた手つきで動作を確認し、後部ハッチから飛び降りていった。
飛び降りた『鉄乙女』が点になったところで赤い光が点灯、ジェットエンジンに火が付いたのか。
それから10秒ほどしてアルバトロスから一番近い小島から火の手が上がると敵を示す赤い光が急激に減って、消えた。
「目標を破壊。次の目標に向かいます」
強!?『鉄乙女』強!?
一瞬で高射砲を無力化したぞ!?
「渡来人、引き続き降下ポイントを捜索しろ」
大塚大尉のリアクションは薄い。
『鉄乙女』が強いのは別に驚くことでは無いということか。
そうこうしているうちに『鉄乙女』が二つ目の高射砲を破壊した。
「ガンシップ、地上を砲撃しろ」
ガンシップと呼ばれた二機のアルバトロス、こいつらは空挺部隊の代わりに大砲を積んでいる。
『鉄乙女』が飛んだ経路に続くように中央の島の外周を旋回しながら大砲を撃ち込んでいく。
撃ち込んだ砲弾は森の中に火柱を吹き上げるも森が広くてたいしたダメージにはなっていないように見える。
それでも砲撃に驚いた敵が時折機関銃を打ち返してくる。
そして撃ち返した場所に焼夷弾を撃ち込んで無力化する。
その間僕は安全に降下できるポイントを探す。島の上空は以前敵を示す赤でひしめいていて安全な場所は分からない。
代わりに、絶対に危ない場所はあたりが付いた。
「中央の川とその両サイドの丘陵地帯!このあたりは敵が多いです!」
中央に流れる以上に幅が広い川、ここには確実に何かある。
敵が多い場所ということは結界の発生源がある可能性が高いと言うことだ。
だから降下後はこの危険地帯を目指すことになる。
「よし!降下地点を指示する!」
大塚大尉の言葉と同時に警報が鳴り響いた。
「ミサイルだ!回避!回避!」
アルバトロスが急旋回。
ここでまずいことが分かった。
僕は今開いた後部ハッチから下をのぞき込んでる。
そこで回避行動を取ったことで機体が傾いて外に放り出されそうになる。
ーパッシブスキル:自己防衛
生命の危機に瀕したとき、全自動で身を守るための動きをする奇跡が発動した。
持ってた銃剣を全自動で引き抜いて床の荷物を固定するフックに引っかけたことでかろうじて落下を免れる。
衝撃で肩が抜けるくらい痛い。
まあでも助かった。
一人だけ敵がうじゃうじゃいる島に落ちたらまず助からないからな。
マジびびった。
「お、おい、大丈夫かよ・・・」
イワンのチビがこっちに駆け寄ろうと席を立った。
「おい馬鹿来るな!」
「イワン君!戻って!」
僕とおっさんの制止に耳を貸さなかったチビはすぐにその報いを受けた。
アルバトロスの真下で高射砲が炸裂して機体が大きく揺れた。
空挺部隊とおっさんは周囲のものにしがみついたけど、座席を立っていたイワンのチビは周りに捕まるものがない。
「え、きゃっ!?」
床から弾き飛ばされたチビはそのまま空中に弾き飛ばされる。
これはもう助からない。
チビは島に放り出される運命だ。
そうなればこのチビは自力で生き延びることは出来ないだろう。
けんかっ早く厄介事を呼び込むくせに腕っ節は地元の中坊に伸されて涙目になるレベルだからな。
言うまでもないけど島にいる敵は地元の中坊より確実に腕っ節が強い。まだ見てはないけどこれは間違いない。
じゃあなチビ、短い付き合いだった。
「え!?」
空中に放り出されたチビは訳が分からないまま適当に何かを掴もうとした。
その手が床にしがみついていた僕の自動小銃のスリングに引っかかった。
そのスリングは三点式で外れにくい仕様のものだった。
そして、床にしがみついていた僕の両腕はさっきの衝撃からくる痛みで十分な力が入らない状態だった。
「このっ!馬鹿やろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
こうして、間抜けなチビの道連れで僕はアルバトロスの外に放り出されることになった。
to_be_Continued




