-the_Sentinel- 第四話
-the_Sentinel- 第四話
ー06:00 航空母艦『鋼龍』飛行甲板
眠い。
そして寒い。
海を進む空母が海面で冷えた空気と波しぶきを僕の顔面に叩きつけ一時眠気は吹っ飛んだ。前方には護衛の駆逐艦が先行している。
これから僕らは暮旅団の空挺部隊と一緒に北千練島に向かうわけだ。
「艦載機上げろ!」
後ろでは僕らが乗る輸送機『アルバトロス』が格納庫から甲板に並んでいるところだ。
飛行機とヘリコプターのあいのこみたいな飛行機は一機あたり20人を乗せることができる。それが10機。
僕らはそのうちの一機に乗り込んで空挺部隊に随伴する。
「よぉ渡来人」
やたらと太くて渋いボイスの主は僕が随伴する空挺部隊の隊長、大塚大尉だ。
平らな顔族の緋ノ本原住民にあって彫りの深い顔と顔の輪郭を覆う口髭は他の原住民との区別が容易でわかりやすい。
その大尉は自身のボイスの次に太い葉巻に火を点ける。
「お前さんは『鷹の目』の奇跡持ちで間違いないな?」
大尉の確認に頷く。
僕が大尉の部隊に随伴するのはこの奇跡を買われたからだ。
『鷹の目』は自分に敵対している相手が光って見える奇跡で、発動中は索敵能力が上がる。
僕はこの奇跡を使って安全な降下ポイントの捜索と降下後の索敵を担うことになる。
「精度はどのくらいだ?」
大尉の質問、同じ奇跡であってもその性能は使用者ごとに個人差があるらしい。
『鷹の目』のような『補助技』はこの個人差は精度と呼ばれる場合がある。
ここでの精度というのは、奇跡で捜索できる範囲と、捜索した上で敵と味方を間違えずに判別できるかどうか、と言うことだろう。
僕は『鷹の目』で前方を見る。
「水平線が真っ赤になってるのは分かります。。数や種類はもっと近づかないと分かりませんが」
船団は南に進んでいる。そして、この世界においても太陽は東から昇る。
つまり船団の進行方向には敵がわんさかいるということだ。
敵地に向かってるんだからわかりきったことではあるが。
ちなみに、奇跡の精度が高い転生者はこの距離からでも敵の数と種類まで分かるらしい。
僕は無理だけどな。
異世界転生者はびこるこの世界においてもどうやら僕はパンピーらしい。
「まあ、よかろう」
微妙な反応しないでくれよ。
出来ないことはちゃんと出来ないと言うのは大事なことなんだぞ。
大尉はパンピーから目線を外す。
「姫、装備の点検をしとけよ」
姫、とは旅団が持つ戦闘要員、『機導兵』のことだ。
技術的な理由かなんかで若い女の子しかなれないことから『姫』と呼ばれている。
呼ばれた『姫』は18ー20歳くらいの若い娘だった。
緋本原で一緒に仕事した『機導兵』とは大分雰囲気が異なり、the_女軍人という風格がある。
士官の制服とシナジーがいい知的な切れ長の目にすっと通った鼻筋、引き結んだ口元。
体はちゃんと鍛えてあるのがわかる筋肉質な作りで肩のラインはそこだけ見たら男と間違うかもしれない怒り肩だ。
そこで異質なのは両手両足が何か機械のようになっているところだ。
あれが義手なのか何かのカバーなのかは分からない。
彼女は暮旅団の有する機導兵:『鉄乙女』だ。
「Copy 装備の点検に移ります」
鉄乙女は女の子にしては高い身長より更に高いコンテナを開く。
中には武器がぎっしり詰まってる。
何に使う武器かは分からない。
鉄乙女はコンテナの武器の動作を手際よくチェックしていく。
「All_Correct 装備を搬入後待機します」
そして淡々とコンテナをアルバトロスに運んでいった。
いやー機導兵と聞いた時はどんなヒューマノイドタイフーンが来るかと思ったけど真面目そうな子でよかった。
なんか生きて帰れそうな気がしてきたぞ。
ー06:30 駆逐艦『黒鉄』
「ルーキー!久しぶりじゃ!よう来てくれた!」
漁師上がりの艦長がすさまじい握力で肩を掴んできた。
海に出るのは何年ぶりか、もう来ることはないと思っていたし来たくもなかった。
「一つ目とシラガはおらんのか?」
「よその案件で捕まっていますよ」
艦長は明らかに残念そうな顔をしたがすぐに気を取り直す。
「まあええわい。お前が来りゃ百人力よな」
本当は来たくなかった。
本当に来たくなかった。
海の上は転生者にとって屠殺場に等しい。
地上ではどれだけ速く走れても海に落ちたら止まった的にすぎず、どれだけ強力な祝福を得て肉体が頑健になろうと船が沈めば魚の餌だ。
この世界に転生して最初の一年で嫌というほど学んだことだ。
海に出るときはそう、死ぬときだ。
そして自分はまだ死にたくはない。
じゃあなぜここにいるのか?
だってしょうがないじゃないか。
外人部隊は常に金欠なんだから。
有力な転生者は旅団や企業が引き抜いていくから残った奴らでこなせる任務といえば安くて割が合わない任務ばかりで薄利の案件ばかりの自転車操業、札束で横っ面を殴られたら嫌とはいえないんだから。
だってしょうがないじゃないか。
自分より強い転生者を送り込めないんだから。緋本原支部が出せる最高戦力、『浄眼鬼』のおっさんも『白銀姫』のオバハンも肝心なときにいないんだから。
消去法で自分が出るしかないじゃないか。
だってしょうがないじゃないか。
艦長とはもう10年近い付き合いなんだから。
緋ノ本の人間は野蛮で凶暴なくせに無駄に友誼友情を大事にする奴らなんだから。
文句言ったら自分が嫌な奴になるじゃないか。
だってしょうがないじゃないか。
この案件の報酬を貰わないと旅団に捕まったままのセシリアちゃんの保釈金が払えないんだから。
わずか9歳で神の悪意を一身に受けた女の子とももう10年近い付き合いになるんだから。
正直、今のセシリアちゃんは自分より確実に強いだろうし、貧乏でクソみたいな外人部隊にいるより旅団の下にいた方がいい暮らしは出来る。
これは間違いない。
間違いないけどほっとくわけにはいかないじゃないか。
自分の方が年上で、大人で、大の男の『はしくれ』なんだから。
ぐらりと船体が揺れる。
海流が変わった。
「総員戦闘配置!外来種を『鳴瀬』に近づけるな!」
局地結界の起動まで10分、起動後空挺部隊突入、離脱まで10分、鳴瀬の離脱まで10分
合計30分。
その間後方にいる駆逐艦『鳴瀬』を守り切る。それが今回の任務。
自分の受け持ち。
外人部隊を乗せた駆逐艦が回頭し、海流を阻むように側面を向く。
「魚群探知機に感!来るぞ!迎撃態勢!」
まだ何もしていないのに腰抜かしたりへたり込んでる転生者どもを叩き起こす。
ガラクタどもめ。
自分が新兵だった頃はまだマシだった。
戦う前から逃げたりヘタレたりするようなやつはいなかった。
年々ガラクタばかり増えていってる。
転生を司る女神はちゃんと仕事してるのか?
文句言ってもしょうがない。
今いるメンツで、持てる力を使って対処するしかない。
陸で調達した防火斧をひっつかむ。
駆逐艦が発砲。
前方の海域に砲弾を叩き込むと赤い水柱が上がる。
命中だ。
命中した要因は砲撃の精度によるモノではない。
どこに当たっても命中するぐらいぎっしり敵がひしめいている証拠だ。
砲撃を驚異とみたのか海面から巨大なエイが飛び出した。
外来種はこちらを餌か敵かのどちらかとして認識したようだ。
そしてエイは無数の氷の矢を飛ばしながら突っ込んでくる。
「伏せろ!」
指示内容に間違いはなかったが氷の矢で二人死んだ。
指示内容に間違いがなかったから二人の犠牲で済んだ。
反撃に移る。
―アクティブスキル:筋力強化
せっかちなエイは海面スレスレを飛行しまっすぐに突っ込んでくる。
その頭に防火斧を投げつける。
ー重力斬
インパクトの瞬間集中的に荷重を増大させることでエイの頭蓋骨を粉砕、脳髄を破壊したことでエイは海面に激突、絶命した。
「次来るぞ!刺突旗魚の魚群じゃ!」
「爆雷投下!近づけるな!」
「クソ外来種が!新型の噴進爆雷砲を食らえ!」
駆逐艦の乗員の士気は高い。
漁師の頃から高いままだ。
「お前ら迎撃しろ!持ち場を守れ!艦を守れ!」
次の防火斧をひっつかんでガラクタどものケツを蹴飛ばす。
原住民がやる気なのにチート授かった転生者様がヘタレてたら示しが付かない。
「凍気が使える奴は水を凍らせて壁を作れ!足止めしたら電撃で一網打尽にしろ!」
外来種がさっきより増えた気がする。
防火斧が足りるか分からないがやるしかない。
だってしょうがないじゃないか。
もう船に乗っちゃったんだから。
ここまできたらもう逃げられないんだから。
to_be_continued




