-the_Sentinel- 第三話
-the_Sentinel- 第三話
外人部隊
僕ら異世界転生者で構成される互助組織。
緋ノ本に転生したほとんどの転生者は一番最初にここに身を寄せることになる。そして、ここに身を寄せた転生者は外人部隊の庇護を受ける代わりに外人部隊の構成員として各地の旅団や企業の依頼をこなし上納金を納める生活が始まることになる。
僕が転生してから二ヶ月ほど過ごした限り、上納金に関してはそこまで気にしなくて良かった。
上納金は報酬から外人部隊が天引きしているけど、そもそも旅団や企業の金払いがいいので一度任務をこなせば半年くらいは生活できるだけの稼ぎにはなるからだ。
ついでに、上納金の他にも国税や旅団に支払う団税があって、これらは累進課税を採用しているらしい。
上納金はこの累進課税の税率が上がるギリギリを狙って設定しているとのことだ。
同期のジークフリートのおっさんは報酬を車や土地なんかの資産に換えて税率を下げるということもやっている。
まあ、そういうわけで、元いた日本のように働いても貧乏になるということはこの世界では起こりえない。
報酬が支払われる限り、金で困ることはほぼなかった。
転生者にとっての問題はその前段階、依頼をこなす段階にある。
ー生還率が低い
転生者に降ってくる依頼は例外なく危険度が高い。
当然と言えば当然で、自前の軍備や傭兵部隊を抱えている旅団や企業がわざわざ外人部隊に仕事を振るというのは旅団や企業が自分が抱えている戦力を消耗したくないからだ。
だから、旅団や企業が仕事を振りたくなる案件というのは、訓練を受けた軍隊でも消耗することが『ありうる』案件と言うことだった。その『ありうる』がどのレベルかといえば、同時期に転生し外人部隊で訓練を受けた僕の同期15人が一ヶ月で8人に減るくらいの頻度だった。
―おお!一ヶ月で8人残るとは今期は優秀だな!
ちなみに僕の代はまだマシな部類らしい。
正直、外人部隊にいるのは命の危険しかないけどだからといって逃げる訳にはいかない。
ここでは外人部隊の庇護を失った転生者は『外来種』、つまり野生の熊や猪なんかと同じ扱いになるからだ。
実際、脱走した転生者の『駆除』の任務も外人部隊に飛んできているし駆除に参加したこともあった。
更に言えば駆除されそうになったこともあるね。
転生したてで事情が分からなかった時に、どこぞの田舎村の青年団に丸め込まれて緋本原旅団にケンカ吹っ掛けそうになってたからね。
大砲で立てこもってた山ごと吹き飛ばされかけた時は死を覚悟したね。
転生者の先達、ハーピーさんがいろいろ動いてくれたおかげで僕は半殺しで済んだけどそのハーピーさんは旅団に人質に取られてしまった。
何が言いたいかというと、外人部隊にいて任務を受けることはそれだけ死に近づくということが言いたいわけだ。
でも今回の緊急任務は受ける。
なぜか、任務を受けないと言う選択に比べて『相対的に』生還率が高いからだ。
こないだの任務で思わぬ出費があったせいで資金繰りが厳しいのもある。
「今回の任務について説明すっぞ」
そう言って丸テーブルに地図を広げたのはひょろっとした30代前半の転生者だ。
転生者だと分かるのは瞳の色が紺色がかっているからだ。この世界の人間は日本人と同じ黒髪黒目だから目の色で区別はつけやすい。
あと、ひょろっとした胴体に反して異様に太い腕が妙に目を引く。
この男は外人部隊緋本原支部の取り纏めを行っている『帳簿係』だった。
僕らはだいたいこの男から任務を振り分けられたり、この男に頭を下げて任務を取りに行くことになるわけだ。
今回はかなり広範囲に募集をかけたらしく、総勢で40人近い転生者が会議室に詰めかけていた。
つまりそれだけ死人が出るかもしれないってことだ。
『帳簿係』は広げた海図に手書きで島の絵を描く。この周辺の海域の調査が進んだのは最近で、海図が更新されていないからだと『帳簿係』は説明する。
「つまり、出現する外来種についての情報が無いと言うことですか?」
ジークフリート・フォン・ケーニヒスベルク8世
通称おっさん。
このおっさんは勇ましい名前に反してチビで腕っ節が弱いが代わりに妙に鼻がきく。
同期組で一番最初に死ぬだろうと思われていて、今一番危なげなく昇格を続けている理由は一ヶ月つるんでみたらよく分かる。
『帳簿係』ははいともいいえとも言いがたい返答をする。
「無くはないんだ。出きってないと言うのが正解かな」
今まで旅団が交戦した外来種に関してはある程度の情報があるけど、情報にない外来種が出る可能性は否定できない、と言うことだった。
苦り切った顔のおっさんに対し『帳簿係』はいい知らせもあるという。
「新種外来種の捕獲、討伐、解析には追加で手当を出すってさ。『分析』持ちはかき入れ時だぞ」
分析の奇跡は僕も持ってるからこれは確かにいい知らせだ。
生きて金を受け取ることが出来ればの話だが。
「本作線はチームを二つに分けて行うことになる」
作戦の概要はこうだ。
1.水上部隊が北千練島に接近、秘密兵器の『局地結界』を用いて島を守る結界を解除する。
2.結界が解除されてる間に空挺部隊が島に突入、降下する。
3.降下後は結界の発生源を特定し結界を解除する。
4.結界の解除後水上部隊が突入し空挺部隊を回収、および島を制圧。
といった流れだ。
外人部隊の仕事は二つに分けられる。
1.水上部隊に随伴し局地結界の発動中外来種の攻撃から艦隊を護衛
2.空挺部隊に随伴し結界の発生源の調査
「まあ、上か下か好きな方を選んでくれ」
どっちもやばそうで実に悩ましい。
「ああ、お前ら3人衆は上で決定だから」
悩みの種が消えた。
「何でですか?」
「そりゃ、お前らの奇跡が調査や索敵に適してるからな」
実に論理的な回答をありがとう。
「戦闘に関しては暮から機導兵:『鉄乙女』が随伴するということだからまあ、女の尻を見失わなかったら大丈夫じゃないかな?」
機導兵というのは緋ノ本の原住民が機械やなんかで人為的に作った人工異世界転生者とも呼べる生きた兵器のことだった。
一度緋本原の機導兵と一緒に仕事したことがあるけどめちゃくちゃ強かった。
敷島朝陽:通称『緑の悪魔』
外人部隊で五本の指に入るくらい強い『ハーピー』さんと互角に戦い、砲弾も通さない外来種の殻をバターみたいにぶった切るターミネーターだ。
あの子くらい強い護衛が付いていてくれたら上は『相対的に』安全かもしれない。
下はどうか?
「艦隊の護衛には戦闘向きな奴らを集めたいが、『浄眼鬼』『白銀姫』『妖鳥』が不在だからなぁ・・・」
『帳簿係』がぼやく。
この三人は緋本原支部が有する最高戦力と言っていい『人財』だったが、三人ともすぐに投入できる状況ではなかった。
『浄眼鬼』:目からビームを出すおっさんは借金とその返済の課程で発生したやらかしによって鉱山で石炭掘らされてる(こないだ炭塵爆発起こしてまた返済期間が延びたらしい)。
『白銀姫』:ラジコンマニアで10の奇跡を同時に操るオバハンはヤクザから借金こさえてまくって逃亡中。
『妖鳥』:天使のような慈愛に満ちた強く美しい転生者、雪のような肌にスレンダーな体、宝石のような瞳を持つ外人部隊の女神様は先に言った社会不適合者2名のとばっちりで緋本原旅団に人質に取られている。
「みんな、思うところはあるだろうがセシリアちゃんの保釈金のために笑って死んでほしい」
あ、妖鳥さんの名前セシリアっていうんだ。
初めて知った。
育ちの良さをうかがわせるいい名前だ。
よし、脳にしっかり焼き付けたぞ。
「後の二人の保釈金はいいのかよ?」
空気の読めないチビ、イワンが『帳簿係』に聞く。
「あの二人はどうでもいい」
即答だった。
あの二人の金銭感覚のぶっ壊れっぷりは対処不能であり、いちいち保釈金を払ってたらキリがないとのことだった。
「だいたい、あのおっさんの娘の学費は自分が立て替えてるんだぞ!?貸した金戻ってこないぞ?あのオバハンの保釈のために何回ヤクザに頭下げたと思ってんだ!?いちいち付き合ってたらキリがない!」
『帳簿係』の逆ギレ。
本当は金を貸したくなかったが、新兵だった頃に命を救われてるから頭が上がらないんだそうな。
かくして、外人部隊は囚われの天使の救出のため危険渦巻く海へとこぎ出すのだった。
to_be_Continued




