朝陽が昇った日-第六話:-BEAT_A_CHEAT-
「諸君!我らのルーキーを救出するぞ!前進!前進!前進!」
「わかってますよ!あいつが死んだら俺が一番下だ。威張れる相手がいなくなる!」
主任研究員の号令一下武装キャラバンが爆進する。
吊りだして迎撃するはずだった『はぐれ渡来人』はあろうことか東城研究員に向かったようだ。
これが何を思っての行動かは知らないが東城研究員ひとりで相手をするのは荷が重いだろう。救出に向かわねばなるまい。
「いたぞ!いたぞおおおお!!」
「やかましい!」
猟銃、鍬、鋤、鎌、武器を手に行く手を阻む村人を機銃でなぎ倒す。
倒れた死体は悪路用に換装した大直径の車輪で踏み潰す。
今走っている道が最短だ。こちらが道を譲る理由はまったくない。
「前方に障害物!」
見れば横長の木造建造物から火が上がっている。
同じ顔の子供が火に巻かれて逃げ惑い、同じ顔の大人が火を消そうと走り回っている。
どうやら『売り物』の飼育施設のようだ。
誘導弾はどうやら狙った位置に狙った精度で着弾し、想定した火力を発揮したようだ。
「二号車!障害物を排除せよ!」
「了解!」
二号車には機関銃ではなく擲弾銃を搭載している。この程度の非装甲目標であれば、
一号車が右に車体を振って空いた射線から投げ込まれた榴弾が木造建築を吹き飛ばす。
「クリア!」
「前進!」
『売り物』が炭になったことに怒り群がってくる村人を機関銃で追い払う。
「前方に障害物!」
今度は杭だ。集落の真ん中に杭が立ち、その杭に村人と同じ顔をした右手のない死体が突き刺さっている。
「踏み潰せ!」
「了解!」
わけのわからない田舎の奇習に付き合ってる時間はない。
杭を押し倒し死体を潰し脇目も振らず前進し村を抜ける。
「C地点に急ぐぞ!」
「了解!」
「火炎弾!」
名乗りも挨拶もなく、新たに現れた『渡来人』は攻撃を仕掛けてきた。
この渡来人の『元いた世界』は俺のいる世界に対し1000年は文明のレベルが遅れているらしい。
-パッシブスキル:先制
とはいえ、遅れてはいても火の使い方を知ってるのは厄介だ。
奇跡を使用して『渡来人』の行動に割り込み、射線から外れる。
「!?」
『渡来人』は俺が火球を避けたことに一瞬驚くもすぐに二発目の火球を放つ。
-パッシブスキル:先制
二発目も回避、『先制』の奇跡は『使用者』が『敵対者』を認識している限り『確実に』発動する。
もし、この『渡来人』が俺に敵対していないフリでもして俺に奇襲をかけたら発動はしなかっただろうが、俺を侮って安易な手段に頼ったことで俺にも勝ち筋が出てきた。
「この野郎!逃げるな!」
火炎弾は多くの渡来人が最初期から覚えている基本的な攻撃用の奇跡で、大小の火球を飛ばすものだ。
威力は使用者が持つ理力に依存するが、大抵は人間を殺傷できる程度だ。
そして、俺にとって都合がいいことに軌道は直線で、使用者の手と目の動きを見ていれば回避は容易で、正直、銃を使われたほうが厄介だった。
「何やっとる!」
「早く殺せ!」
「うるせえ!!!!!」
よそ者をいつまでも排除できない『渡来人』に罵声を浴びせた村人を『渡来人』が火球で焼き殺した。
「ひ、ひいいいいいっ!」
「偉そうな口を利くな!ぶっ殺すぞ!」
いいぞ、村人が逃げ散ったことでさらにやりやすくなった。
多数に囲まれたら流石にいつまでも逃げ回ることはできなかったからこれはいい流れだ。
「この野郎・・・」
『渡来人』は更に火球を作り出す。
この様子なら他に攻撃手段は持っていないと見ていいのか?
『面』で攻撃するタイプの奇跡を持っていたらいくら先制しても回避は不可能だが、それを使ってこないのはそういう奇跡は持っていないと見ていい。
先程村人を焼き殺したことから周囲への巻き添えを気にしている線もない。
結論として、この『渡来人』は俺を倒すことはできない。
一方俺の方も『渡来人』に対して打点があるとは言い難い。
六連発銃が残り二発、牛蒡剣が一本。
身体能力に祝福を持つ『渡来人』を仕留めるには不十分だ。
泥仕合だが、それなら俺のほうが有利だ。
「東城研究員!あと5分で到着だ!」
「了解」
こちらには後詰めがあり、『渡来人』を仕留められるだけの火力もある。
時間はこちらの味方だ。
『渡来人』もそれを理解したのか、作り出した火球を手の中で転がして俺を睨むだけだ。
このまま撃っても俺に当たらないのを理解したらしい。
10秒ほどの沈黙を破ったのは俺でも渡来人でもなかった。
「うー」
掘っ立て小屋の隠し部屋に隠していた子供が這い出してきた。
子供は状況が理解できていないのかキョロキョロと周りを見回す。
「うまー!」
「火炎弾!」
俺を見つけてヨタヨタと近づいてくる子供めがけて『渡来人』が火球を向ける。
なんてやつだ、相手が子供でもお構いなしか。
-パッシブスキル:先制
六連発銃で『渡来人』の右腕を撃つ。
「ぐっ、てめえ!」
右腕を負傷しながらも『渡来人』は火球を俺めがけて飛ばしてくる。
回避は間に合わない。
ベルンハルト財団特注の白衣は高熱に耐え、俺を消し炭にしない役割を果たしたが、その後の爆風は防ぐことはできず、俺の体は弾き飛ばされて地面に転がされてしまった。
「手こずらせてんじゃねえぞ原住民が」
「がはッ!」
状況はかなりまずい。
有利を確信した『渡来人』は動けない俺の胸を踏みつける。
肋が折れてる。
息が苦しい。
「ごほッ、うぐっ」
苦しむ俺の姿が嬉しいらしい『渡来人』はなおも俺を踏む足に力を込める。
「うー!うー!」
子供が泣きながら俺に駆け寄って来た。
「うあー、あー」
歩くこともできない子供に今の状況をどうこうする事はできない。
それでも俺を助けようとしている姿になぜか呼吸が楽になっていく。
非合理的だが人間の心理というのは調子良くできているらしい。
「なんだ?このガキ」
『渡来人』は子供が俺に懐いているのが気に入らないらしく、俺の手にすがりついていた子供を引き剥がしてつまみ上げた。
「やー!やー!」
焦げ茶色の髪を引っ張られて釣り上げられた子供が痛みに悲鳴をあげる。
「は、なせ・・・」
さっきより息はし易いが喋るのも一苦労だ。
優位に立ったことがよほど嬉しいのか『渡来人』は吊り上げた子供を俺に見せびらかすように揺さぶって見せる。
「子供を、放せ・・・」
「いやだね」
こいつは子供の泣き声が心地いいのか髪を引っ張り頬を張ったりして楽しんでいる。
とんでもない野蛮人だ。こいつは外来種と変わらん。
なんとかこいつの手から子供を引き離さないといけないが、銃が手元にない。
あとは牛蒡剣があるが、これを取ろうとすれば『渡来人』に悟られる。
どうにかして注意を逸らす必要がある。
「あー!うあー!」
「いいかげんうるせーなー」
泣きわめく子供がうっとおしくなった『渡来人』は子供の口を塞ごうともう片方の手を伸ばす。
「あ!?」
子供はその手をつかむと、そのつかんだ手の指に噛みついた。
「いって!」
-パッシブスキル:先制
『渡来人』が子供を引き剥がそうとする動きに俺が割込む。
白衣に隠していた牛蒡剣を抜き、上体を起こして太ももに突き刺す。
「ガアあああああっ!」
『渡来人』が両手がふさがって反撃できない間に次の動きに移る。
牛蒡剣を捻りながら引き抜き起き上がる動きで地面に倒す。
倒れる『渡来人』の腕を掴み肘関節に牛蒡剣を突き刺すとたまらず掴んでいた子供を放した。
宙に浮いた子供を受け止める。腕の中にすっぽりと収まった。
子供を抱き上げると体の痛みが引いた。
「いてえ・・・この野郎・・・殺してやる・・・」
『渡来人』は呪詛を吐きながらなおも火球を生成しようと手をかざす。
-パッシブスキル:先制
「風鎚!」
それより早く、俺が手から放った圧搾空気の鉄槌が『渡来人』の顔面を粉砕した。
今わかった。この子供は俺に自分の理力を分け与えていたのだ。
俺の体は理力を流しやすいように人工的に龍脈を彫り込んである。
今手の中にいる子供は膨大な理力はあってもそれを使うための龍脈はない。
だから子供が俺に理力を与え、理力が増したことで普段は理力が足りず使用できなかった奇跡や祝福を発動できたというわけだ。
そして、子供が最初からそのことを理解していたからこそ切り抜けられた。
意外と賢い子だ。
「東城研究員!騎兵隊の到着だ!」
考えにふけっていたら財団の武装キャラバンが到着した。
「『渡来人』はどこだ!」
「そこに転がしてます」
「不細工な面だな、歯がないじゃないか」
「さっき砕いときました」
「まだ息があるな、持ち帰って実験に使おう」
「好戦的なので注意してください」
「では両手足の筋を切っておこう」
財団の戦闘部隊は『渡来人』をなれた手付きで無力化すると死体袋に詰めてキャラバンに投げ込んだ。
「よし、帰投しよう」
東の空が白み始める。
夜明けが来た。
「うー、うまー」
手の中の子供が大きな目で東から昇る光を見つめている。
「朝陽」
「見ればわかるが、どうしたかね?」
「この子の名前ですよ。気にいると思います」
「うまー、うまー!」
かくして、さっきまで子供だったもの、『敷島朝陽』はいまこのとき、俺の腕の中で産声を上げたのだ。
「でな?これが初めて外来種を倒したときでな?初めて兵装をもらったときでな?」
任務に向かう途中の輸送車両の中で、僕は敷島朝陽『少尉』の上司の自慢話を聞かされていた。
「なあ、アサヒとあのおっさんってどういう関係なんだ?」
イワンのバカが余計なことを言ったせいで到着までの時間を寝て過ごそうという計画が完全に破綻してしまった。
タブレットをスワイプするごとに写真は今に近づいていく、痩せた子供だった朝陽ちゃんはふっくらしていき、イケメンの白衣の王子様は人類を逸脱してゴツくなっていく。
生物学の神秘というほかない。
でも朝陽ちゃんがこんなに楽しそうにしている光景は珍しい。
いつも眠そうな顔でカロリーまみれのエナジーバーをかじってるかムスッとしてる印象しかなかったからすごく意外だ。
「アサヒは、あのおっさんが好きなのか?」
「うん!」
イワンのチビは朝陽ちゃんと少し打ち解けたようだった。
「じゃあ、セシリアさんに取られないようにダイエットしないとね」
-パッシブスキル:自己防衛
ちょっと冗談を言っただけなのに殺されかけた。
朝陽ちゃんの指先から放たれた熱線が掠め僕の頭があった位置の装甲板に朝陽ちゃんの人差し指くらいの太さの穴が空いていた。
「あ?」
「ほら、そういうとこ!そういうとこ直さないと!」
僕が逃げようとして座席を立つと装甲車がブレーキを踏んで椅子から離れていた僕だけがふっとばされた。
「なんで僕だけ・・・」
「デリカシーがないからだろ」
イワン、このチビも前より生意気になったな。
「外人部隊、出ろ!出撃だ!」
やれやれ、行くか・・・。
相手は銃が効かない『外来種』、すげー危険な奴らだけど、素手で戦車をスクラップにできる朝陽ちゃんがいればまあなんとかなるだろう。
ぶつけた腰をさすりながら僕は何度目かの任務に乗り出した。
To_be_Continued.




