朝陽が昇った日-第四話:-嵐の前に飯食って-
「主任!原住民が後退しました!」
「とりあえず一安心か、諸君、被害状況を報告したまえ」
原住民の攻撃は予想外に苛烈だった。
B地点への移動中に予想外の鉢合わせによって思わぬ損害が出ていた。
「三号車走行不能、死傷者はありません」
「ついてたな、では乗員と残りの弾薬を一号車と二号車に振り分けたまえ」
三台連れてきた武装キャラバンの一台は行動不能、足回りを破損しただけなので防壁としては使用可能だが、ここに留まり続ける理由がないためもったいないが放棄するほかあるまい。
「到着して早々だが、陣地転換が必要だな。C地点に移動する。東城研究員に連絡したまえ」
なにが原因で奇跡が発動したのかは不明だが、奇跡は起こり俺も子供もほぼ無傷で崖を降りることに成功した。
さらにありがたいことに地面にぶつけた衝撃波で気絶した川魚が水面に浮いてる。
せっかくだから行動を再開する前に少し腹ごしらえをしよう。
奇跡を連発した影響で腹が減ったし、子供にもなにか食わせてやらねばなるまい。
気絶した川魚を4匹ほど見繕って木の枝に刺す。
次に近くにあった枝と葉っぱを集め薪にする。
火種には上下二連用の弾丸を使おう。銃本体を失ったので残しておく意味はない。
牛蒡剣を使ってケースを切り、散弾を取り除く。
残った発射薬を薪の下に入れて火をつけよう。
火花を出す程度の奇跡であれば俺の理力でも使用可能だ。
「おー」
枯れ枝から赤い火が吹き上がるのを子供は驚きと感激の目で見ている。
「ほらほら、そんな近づいたら火傷するで。こっち来んさい」
火に触ろうとする子供を持ち上げると川につれていく。
この子供の格好は腐臭と糞尿まみれの土蔵にいたときのままだ。本人の祝福の恩恵で病気になったりはしないだろうが少しは身ぎれいにしてやらねばなるまい。
子供がまとっていたボロ布は劣化が著しく、水につけてすぐ溶けるようになくなってしまった。
これで真っ裸だ。着るものはあとで俺のワイシャツを着せてやろう。
「やー、やー!」
水につけると冷たかったらしく、子供は嫌がるような仕草をした。
「ちょっとだけじゃ、我慢しんさい」
あまり水に浸けて怖がらせるのも良くないから手早く済まそう。
石鹸もタオルもないから素手と水で洗い流すしかない。
平坦な部分は最低限に流すにとどめて、脇や首筋、耳の裏、脚の間といった入り組んだところは少し丁寧に洗おう。
かぶれたりしたら可哀想だからな。
「やー、やああー!」
子供は水を恐れて俺から逃げようとしたが、一方で、俺が流されないように支えていることに気づいたのか抵抗せず、ワイシャツの袖にしがみついて動かなくなった。
十分な栄養を摂ってない手はやせ細っていて非力だった。
今俺の腕の中にいる子供は自分の力だけではしがみついていることも満足にできないほどに弱い存在だった。
「うー、ううー!」
水が子供の体を流れるたびに、長年積もった瘴気が洗われるように、きれいな肌が顔を出し、子供の本来の姿が出てきた。
栄養を摂っていないせいでかなり痩せているが、ぱっちりした大きな目の可愛らしい女の子がそこにはいた。
「うあー、あーーーー!」
「よし、終わりじゃ。よう頑張った」
とうとう子供が泣き出してしまったのでこのへんで切り上げよう。
水から上がると燃える火が俺たちを迎え入れた。
「あー、あー」
火の暖かさに子供は喜んではしゃぐ。
子供が火に触れないよう抱きかかえ、体を乾かしてやると子供はたいそう喜んだ。
そろそろこっちもいいか?
焚き火の脇で焼いていた魚をとる。
調理の基本は強火の遠火。中まで火を通って油が滴ってる。
醤油と大根おろしが欲しいところだ。
「あち」
俺は魚の背中をちぎると骨を取り除く。
「ふー、ふー」
少し冷まして子供の口元に持っていってやる。
「食べんさい」
子供は恐る恐る魚の肉を小さな手で掴むとゆっくりと口に入れる。
「あうー、うあー」
「どうな、うまいか?」
「うまー!」
どうやら気にったらしい。子供はもっと欲しいと言うように魚に手を伸ばす。
そんなに慌てなくても魚は逃げないぞ。逃げないように串刺しにしてるからな。
「うまー、うまー!」
魚をちぎって渡すと子供は夢中になって魚を貪った。
ここらで俺の方も腹ごしらえだ。
背中はやるが、苦い腹側は俺が食おう。
うまいなこれ。よく油が乗ってる。ワタの苦味がいい。白飯が欲しいな。あと醤油と大根おろしも。
「東城研究員!」
いい気分で飯食ってたら主任から通信だ。
「東城です」
「状況を報告したまえ」
「腹減ったんで、飯食ってます」
「ああ、それは羨ましい。こっちはアクシデントだ」
「何かありました?」
「原住民の攻撃で三号車を喪失した。B地点を放棄してC地点に移動する」
「何にやられたんです?」
財団の武装キャラバンの装備は強力だ。現行の主力戦車や攻撃機ならともかく、田舎の集落にあるような個人で使えるたぐいの武器では撃破は不可能だ。
たまに無反動砲を持っている集落もあるが、こちらも反応装甲で防御している。
そのキャラバンがこうもあっさりやられるということは想定外の何かがこの集落にいるということ。
「おそらくは、『はぐれ渡来人』だ」
はぐれ渡来人とは、『緋ノ本』に転生したあと、『外人部隊』『旅団』『企業』いずれの管理下にも入っていない『渡来人』のことだ。
ときおり、こういった辺境に転生した『渡来人』が集落の人間に言いくるめられて傭兵まがいのことを始めることがあるが、今回はこのパターンだろう。
「奇跡の発動を『イーグルアイ』が捉えたことから『外来種』ではないことは確認済だ」
外来種は渡来人と同じ強い理力を持つが、知恵を持たないため、意図して奇跡を発動することはできない。
そして、知恵を持たないがゆえに人間の制御は困難だ。
戦闘中に『外来種』が紛れ込んだだけならただのアクシデントだが、『渡来人』が奇跡を使ってこちらを攻撃したということは、それはこちらの装備で対処困難な戦闘単位が集落側の制御下にあるということだ。
「その『渡来人』はどうなりました?」
「B地点に行く道中で遭遇戦になってね、三号車が座礁した時点で原住民に呼ばれて撤退していったよ」
「それはおそらく、集落の長が負傷したからでしょうね」
「なぜわかる?」
「小職が撃って負傷させたからです」
崖から飛び降りる前、8人に囲まれて手持ちの武器で対処が困難だったため、長老を負傷させて後退させたのがこういう形で影響したとは。
戦闘になった場合、敵一人を殺せば敵の戦力はマイナス1だが、一人が負傷すればそいつを救出、回収するために一個分隊が機能停止する。
さらに、こういった集落では長老の権力は絶対だ。
負傷した際に見捨てる選択をした場合、待っているのは凄惨な報復であり制裁だ。
だから負傷した長老を見捨てて俺を追跡するものはいないと確信していた。
これは祖父の教えだったが子供の頃に真面目に聞いていてよかった。
「となると『はぐれ渡来人』は今度は東城研究員を狙ってくる可能性が高いな」
「ですね。発見される前に脱出したいところです」
こちらとしては合流地点がC地点なったのはありがたい。
集落を横切らずにたどり着ける。
「飯食ったら移動を再開します。支援と陽動をお願いします」
「わかっているとも」
主任との通信を終えると俺は残りの魚を取る。
これ以上焼くと焦げてしまう。
「さて、食ったら移動じゃ。しっかり食えよ」
「うまー!」
To_be_Continued.




