朝陽が昇った日-第三話:火箭の森-
第三話
少女を手に入れた東城研究員は怒りに燃える村人の追撃を振り切り、脱出することができるのか。
ああもう、出ようと言った矢先にまたスタート地点に逆戻りとは。
山を降りようとしたところで敷島の姿がないことに気がついた。
そして集落の方からは松明の群れ。
あの野郎仲間を呼びやがった。
そして松明に先行してやってくるオート三輪とそこに搭載された機関銃。
「一一式軽機関銃、大翔十一年に軍に配備され三百万挺が生産された軽機関銃ですその特徴は薬室側面に取り付けたホッパーにクリップにまとめた5発一組の弾丸を装填手が装填する給弾方式で以降のモデルには採用されていない独自のものになりますこの方式の利点は歩兵銃と弾薬の互換をもたせることで歩兵が持つ弾丸を機関銃に迅速に移管できることです」
「つまり機関銃のせいで足止めを食らってるということかね?」
「そう言ったつもりです!」
土蔵の壁は頑丈で機関銃の弾は完全に防ぎきっているが出口が一箇所しかないため、出口に銃口が向いたら外に出るのは困難だ。
おまけに、大翔時代の銃は現在のものと比べ威力が低い代わりに低伸性が高く射程が長い。
そのため狩猟用として民生品が現在も生産され、各地の集落に供給されているのだ。
俺の手持ちの六連発銃と鹵獲した上下二連では射程で惨敗している。
自力で無力化するのは不可能だ。
「このまま増援がきたら勝ち目はありません。支援をお願いします」
「どうも緊張感がないな。実はそれほど困ってないんじゃないかね?」
「ええけはよせえや!」
「汚い方言が出るということは本当に支援が必要なようだ。機関銃の数は?」
「二挺です。それとオート三輪が二台!」
「装甲目評は?」
「いません!」
「よし、では試作品の誘導弾を使おう」
「頼みます」
「無人観測機を熱源探知モードに変更して、目標補足、座標入力、発射、着弾は30秒後だ。屋根の下に身を隠したまえ」
30秒後、空から炎が降り注いだ。
直後に火達磨になったオート三輪が土蔵の壁を突き破る。
これで直に乗り込むつもりだったとは、援護があと10秒も遅れてたら危なかったな。
そして、壁の穴から外を見ても機関銃は撃ってこない。こちらも無力化に成功したようだ。
「目標沈黙、これより脱出します!」
「了解した。ん?どうしたかね?」
通信に混じって先輩研究員の叫び声が聞こえる。
「なに?別働隊?では迎撃したまえ。東城研究員、どうやら我々も攻撃を受けているようだ。陣地転換のためA地点は放棄、B地点で回収しよう」
一一年式と違う、車載機銃の思い射撃音とエンジン音を残し通信が途切れた。
第一の脅威は排除したがこれでしばらく支援は期待できそうにないな。
「よし、俺達も移動じゃ」
俺は隣に置いていたもうひとりに声をかけるとそのもうひとりはキョトンとした顔でこちらを見ていた。
「あー、うー」
目の前の5-6歳くらいの子供は今外で何が起こっているのかわかっていないようだった。扉の隙間から見える炎に興味があるようで手をかざしているが、あれに触るのはよろしくない。
「これを着んさい」
「うー」
俺はその子供を白衣にくるみ、背中に背負う。
さらに落っこちないように白衣の袖を体にくくりつける。
『ベルンハルト財団』支給の白衣は多少の耐火性能もある。
少しは安全だろう。
主任が撃ち込んだ焼夷弾はまだしばらく消えそうにないから一度は火をくぐらねばならなそうだ。
文句を言いたいがこれによって集落からの増援も足止めできているから文句も言えない。
火の勢いが弱そうなとこから抜けて森の中に入ろう。
「あち、あちち・・・」
結構熱いがやむを得ない。
「おい、怪我はないか?」
「うー、あー」
背中の子供は危機感なく言葉にならない音を出している。
これなら特に問題はないだろう。
問題はこの後だ。
「B地点か・・・」
今いる位置からだと集落を挟んで反対側だ。
このまま森の中を通って集落の連中を振り切り、集落を抜けなければならないのはいささかハードだ。
集落の連中は土地勘があるから見つからずに済むとも思えない。
「危険手当を給料に上乗せしと貰わんとな・・・」
俺が森を抜けるのを読んでいたらしい集落の連中も次の手を打ってきた。
断続的な息遣いと低い唸り声。
「狗を放ちおったな」
予想はしていたが実際にやられるとかなり面倒だ。
森の奥に下がりつつ周囲を警戒する。
子供を担いだ状態だと追いつかれるのは時間の問題だろう。
どこかで迎撃するしかないな。
とか言ってたら足の速い犬が迫ってきてる。
やむを得ないが仕方ない。
ドンッ!
こっちに飛びかかろうとした犬を上下二連で迎え撃つ。
鹿撃ち用の散弾は素早い犬の動きも見事に捉え、空中から地面に墜落した。
「ああ、クソっ!」
犬は倒したが発砲炎でこっちの位置がバレた。
松明がこっちに向きを変えおった。
それに葉っぱを踏む軽い音がまだ聞こえてくる。
まだ犬がいる。
どこだ?いた。
ドンッ!
上下二連の二発目が木の陰から飛び出した犬を打ち倒すと同時、今度は逆方向から三匹目。
「クソっ!」
喉笛を狙う牙を上下二連の銃身で受け止め、上下二連ごと地面に叩きつける。
だが犬は地面にぶつかる前に身を翻して次の攻撃態勢に入っている。
銃を振り抜いたばかりの俺はまだ対応できる体勢ではない。
パッシブスキル:先制
犬が地面を蹴ると同時に奇跡が発動した。
犬の攻撃の前に割り込んだ俺は白衣の中から牛蒡剣を抜き、犬の喉笛に突き立てた。
「ぎゃうっ!?」
そのまま俺が牛蒡剣をひねると犬はなにが起こったかわからない様子のまま絶命した。
「接近戦ならナイフのほうが早い・・・」
他に犬がいるかは知らんが、襲撃は一旦やんだようだ。
あとは人間の方を撒かないといかんな。
「ああ、もう・・・」
森を進んですぐまた足止めを食らった。
今度は崖だ。
崖を迂回するか、いや、包囲が縮まってきている。それは無理だ。
それとも下は川だから一か八かで飛び降りるか?
「いたぞ!あそこだ!」
迷っている間に松明が包囲網を縮めてきた。
「あいつじゃ!あの余所者がリュウジをハジきよったんじゃ!」
半狂乱で喚き立てながら近づいてきたのは敷島だった。
仲間割れで失った右手を振り回して俺の方をなくなった指で指差す。
少し遅れて出てきたのは敷島がそのまま年取ったような年配の男だ。
おそらく集落の長老、最高権力者といったところか。怒りを孕んだ目でこっちを睨んでくる。その手には銃身を切り詰めたライフル。
三八式騎銃、この長老より長生きな技術遺産だ。
「長老、あの余所者、リュウジをハジいて『忌み子』を盗み出しよった!」
なに言ってんだこいつ?
「お言葉を返すが、小職が助けなければあなたはそのリュウジに殺されてたぞ」
「うるせえ!お前が来なけりゃこんなことにならずに済んだんじゃ!」
「あなたが呼んでおいてその物言いは聞き捨てならない。それにこれは正当な『取引』のはずだ」
「・・・っ!」
「マサ、どういうことな?」
俺と敷島の口論に割って入ったのは長老だった。
「お、おい!まさかあの余所者の言うこと信じんのか!?」
「マサ・・・」
長老が威圧すると敷島は真っ青になって後ずさりを始めた。
だいたい察しはついた。
今回の取引は集落の総意によって行われたものではないわけだ。
この敷島が自分の小遣い稼ぎのために監禁してた『忌み子』を小銭に変えようとしたところをリュウジが見つけて制裁を受けてたということか。
「小職はそこの敷島どのの依頼により『忌み子』を購入したのです。現金で3億縁、今は敷島どのが持っています」
「お、おい!」
現金を入れたジュラルミンケースは敷島が逃走した際になくなっていた。
この男が持ち去ってどこかに隠したと考えて間違いない。
「少し締め上げればどこに仕舞ったかわかると思いますよ?」
ここまでいうと、今度は集落の住民の敵意は敷島に向いた。
「悪いかよ!」
そして敷島はキレた。
「あのガキはわしが捕まえてきた女の腹から出てきたガキじゃ!わしが好きにしてなにが悪い!」
なんとなく想像がついた。
この手の集落は近親交配で血が濃くなる傾向がある。
旅団に売る商品の『品質』を一定に保つためにあえてそうする場合もあるが、血が濃くなりすぎると遺伝子に欠陥が出て売り物にならなくなる。
そしてこうなると『旅団』からはガラクタと呼ばれて二束三文で買い叩かれる。
だから、定期的に血を薄める必要があり、外部から女子供を攫ってくるのだ。
俺が背負っている子供もそうやって攫ってきた女に作らせた子供というわけだ。
いや、敷島は『出てきた』といった。攫った女がすでに身ごもっていたのかもしれない。
実際、背中の子供は茶色い髪に、太く吊り気味の眉、ぱっちりとしたタレ目の娘で、目の前の敷島とは共通点が何一つ見つからない。
「だいたいわしはこんな気味の悪いガキを育てるのは反対じゃった!それを孕み袋にしよういうてわしに押し付けたお前らが悪いんじゃ!お前らわしに押し付けてふんぞり返っとっただけで偉そうに
パアン!
敷島の大演説は長老のライフルの軽い銃声が中断した。
「うぎゃああ!足、足があぁ!」
「金の場所を吐かせろ。用が済んだら殺せ」
泣き叫ぶ敷島は同じ顔の住民たちに引きずられて森の奥に消えていった。
「では、小職もこれにて
パアン!
この場を去ろうとした俺の足元にライフル弾が突き刺さった。
「待て・・・」
やっぱり駄目か・・・。
「倅を殺した償いをせえ!」
長老は今度は俺にライフルの銃口を向ける。それに合わせて周りの取り巻きも斧や槍を手に近づいてきた。
今度は8人いる。
まずいな、六連発銃では仕留めきれないぞ。
「すぐには殺さん。手足を潰し生きたまま腸を引きずり出して犬の餌にする。倅と同じ苦しみを味あわせてやる」
いや、俺は苦しまないように一発で頭を撃ち抜いたぞ。
苦しみの内容に共通点が何一つ見当たらない。
さては敷島が有る事無い事吹き込んだな。
「どうやら双方に誤解があるようだ。これを放置するのはお互いに良くないと考えるがどうだろう?」
俺は白衣の懐から小切手を出す。
「敷島どのに渡したのは前金だ。小職を生かして帰してくれたら残りの支払いは約束する」
そして小切手がライフル弾に撃ち抜かれて交渉は決裂した。
「余所者め、ぶち殺してやる!」
「それは御免被る!」
パッシブスキル:先制
六連発銃を抜き長老の膝と脇腹を撃つ。
そこからあとは崖めがけてダッシュ!。
奇跡終了。
膝の皿と脇腹を撃ち抜かれた長老の怒号を背に、俺は崖から飛び降りた。
体のどこからも抗力を感じない。
あるのは真下からの向かい風。
下は川だが無事に川に着地できるかは運次第。
だが運任せにする前にやれることはやろう。
白衣の袖を掴んで回す。
背中にいた子供を抱きかかえ、俺の体を下にする。
これで少しはマシになるだろう。
「あー、うー」
手の中の子供は今に至るも自分が置かれている状況が理解できていないようだ。
「全く・・・」
これじゃ俺が死んだらこの子供もすぐに捕まってしまうな。
なんてこった、こりゃなにが何でも俺が死ぬわけにはいかないじゃないか。
少しでも助かる可能性を上げないと。
そのためには落下速度を下げなければ。
そのための奇跡はある。
だが、俺の理力の量では発動させるに至らない。
なにかいい手はないか?
「あー、あー」
抱きかかえていた子供がなにが楽しいのか俺の顎の無精髭を触って笑っていた。
呑気なものだ。
こっちはそれどころじゃないというのに。
落下地点が1mほどずれてる。
このままでは地面にぶつかる。
ああ、ちくしょう、他にできることはないか?
ダメ元だが奇跡を試すくらいしかないか。
発動しないのは検証済だができることはこれしかない。
「うー」
「俺から離れるなよ!」
地面が近い。
やるなら今しかない。
少ない理力を振り絞り、奇跡を願う。
「風鎚!!!!!!」
そして俺の全身に衝撃が走った。
To_be_Continued.




