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迎撃せよ、異世界防衛戦線  作者: ミネアポリス剣(ブレイド)
序章
14/53

朝陽が昇った日-第二話:東城護-

教官、こと東城護の若い頃の話の続きになります。

東城研究員は『人造渡来人』を作るための被験体として地方から適正のある子どもを集めていて、その中で、のちのパートナーとなる少女と出会うことになります。


一部地域に限り合法。


『緋ノ本』で人間が人間を売買する行為の法的な位置づけ。

合法になっている一部地域というのは、主に地方の山村部になる。

この手の集落では人間は『商品』であり、『貴重な財源』だった。

外界との接触が殆どない集落では、水や食料といった資源に対して胃袋の数が増えすぎることは集落の死につながる。

だから生まれすぎた子供が間引かれてきた歴史があり、これに目をつけた外界の人間によって人間が『商品』になった経緯がある。

目をつけた外界の人間は主に2つ。


一つが『国防隊』であり、地方を統治する軍閥、『旅団』だった。

『旅団』は名目上は政府の下部組織ということになっているが、実際には政府の目が行き届いている『旅団』は多くはなく、事実上の自治区の様相を呈していて、領土内の資源や特産品の売買で得た利ざやで独自に軍を形成しているケースが多い。

こうなるのはある種必然ではある。

地方から見て、有事の際は政府は全く役に立たないからだ。

政府はとにかく予算や人員を出し渋る。

地方では『大型外来種』の出現や『はぐれ渡来人』によるテロ行為などの有事に事欠かないが、『旅団』で対応不可能な規模であっても援軍も支援物資も送ってくることはない。

送らない理由はいつも同じ、『予算がない』

そして有事は予算の都合などお構いなしに襲ってきて、多くの『旅団』が消滅の憂き目に遭っているがそのことを『政府』が顧みたことは俺が知る限り一度もなかった。

むしろ政府は旅団が消えてくれたほうがいいぐらいに思っているフシさえある。

つまり『政府』にとっては『地方』など小銭未満の価値しかないということだ。

その積み重ねによって作られた政府への不信感という肥料は、現在では『旅団』という畑に『自警団思想(ヴィジランティズム)』の森を作るに至って久しい。

そして『旅団』は独自に戦力を増強する道を模索し始めた。

石油、石炭、鉄鉱石その他資源が取れる『旅団』はそこから得た利ざやで企業と工場を誘致し、独自のルートで武器を調達するようになった。

また、『渡来人』の互助組織である『外人部隊(レジオン・エトランジェール)』も独自戦力を欲する『旅団』の需要によって創設された経緯がある。

そして、地方が独自に戦力を強化することを政府は快く思わなかった。

無能者ほどプライドが高く、支配欲が強いが、政府の役人はその手本と言えるだろう。

旅団の軍備を制限する法律を一方的に制定し、武器を調達できなくするために国税の度重なる増税を行い、『警察』を送り込んで治安維持の名目で監視体制を敷いた(通常、旅団での治安活動は『憲兵』が行っているため、この行動は完全な嫌がらせだった)。

こうした締め付けに『旅団』は反発し軍備を増強し、それが気に入らない『政府』はさらに締め付けを強化する。この繰り返しは現在も延々と続いている。

そういうわけで、『旅団』は常に兵隊を欲しがっているため、地方の集落にとって作りすぎた人間は極めて利益率の高い商品となっている。

遺伝的な病気がなく、指がついていて、自分の名前が分かる程度の品質であれば、あとは旅団が買い付けて兵器へと加工してくれる。

旅団としてもこうやって調達した兵隊は戸籍を持たず、人員に含まれないため、書類上の戦力を少なくでき、『警察』の監視に引っかかるリスクが減るというメリットがあるので都合がよく、まさしく完璧に利害が一致しているといえる。


そしてもう一つ、人間を買いたい人間というのが企業であり、我々『ベルンハルト財団』もその一つだった。

今回持ち上がった『人造渡来人』計画は『緋ノ本』の人間に『渡来人』の奇跡を人為的に付与するというものだった。

そして新しい試みには膨大な試行錯誤が必要になる。

試行錯誤にはサンプルが必要だ。

サンプルは最終需要者と条件が近いものが望ましい。

だから、人間のサンプルには人間が最適なのは議論の余地は一切存在しなかった。


―ここより先、緋本国憲法適用せず。


集落の入口にはそう書かれた古びた看板。

『政府』とて、旅団や企業がこうした取引をしている事に気づかないほど間抜けではなく、

そして『旅団』が『政府』の意向に耳を貸さず兵隊を集めていることを黙って見過ごすほど怠惰ではなかった。

その勤勉さの具現として幾度となく取り締まりが行われては来たがその殆どは人件費の削減以外の成果は残していない。

舗装のない獣道の脇には白黒に塗られていたであろう乗用車の群れが破壊され、斜面の下に転がされて小山を形成している。

曲面の少ないボディと、サイドミラーがボンネットに付いていた痕跡があることから『聖和』時代、俺が生まれる前の警察車両だろう。

この集落での『取引』を取り締まろうとした警察が、集落の住民の逆襲に遭ったという事実の証明として警察車両の残骸を晒しているのだ。

こういう事態がそこかしこで頻発したことで政府は戦意を喪失し『取引』への介入を半ば諦め、そして警察は恐れて地方の集落に近づくことはなくなった。


以上を一文でまとめたものが『一部地域に限り合法』というわけだ。

『政府』は自身の力で満たせない自身の支配欲への言い訳として、『地方の貧乏人のために温情をかけてやった』という物語をでっち上げたのだ。


「東城です。集落に入りました」

小型無線で後方で待機中の主任研究員に報告を行うと「そうか」とだけ返事が返ってきた。

「小職の位置は確認できるでしょうか?」

「発信機は正常に動いているとも。君が報告した座標との誤差は3m以内に収まっているぞ」

『取引』には不測の事態が付きものだ。

そのため、今回も集落の外れで支援要員が待機している。

二時間ごとの定時連絡、もしくは発信機からの信号が途絶した場合は彼らが支援を行うというものだ。

「今回は試作品の無人観測機を試してみるとしよう。君の雄姿を上空から観察しようじゃないか」

「了解しました。また二時間後に連絡します」

俺は白衣の中から六連発銃を取り出すと、暴発して足を撃ち抜かないように外しておいた一発目の弾丸を装填し、白衣に戻す。

長い夜の始まりだ。


「こっちだ」

集落の入り口から少し進むと、取引相手が現れた。

『敷島』という30代ほどの男は集落の明かりがある方向とは違う場所に俺を案内した。

「なぜ集落を離れるんですか?」

そう聞くと敷島は不機嫌そうに鼻を鳴らした。

なにかまずいことでも言っただろうか?

俺はただ、売りに出すための人間を飼育するなら集落にまとめておいたほうが効率がいいのにそれをあえてしない理由が気になっただけなんだが・・・。

「気分を害したなら申し訳ない、今の話は忘れていただきたい」

自分に非があるとは思わないが『取引』が終わるまでは余り心象を悪くするのは得策ではないから一応謝っておくか。

「あれは、忌み子じゃ」

敷島は不機嫌そうにそう言うと、後はなにも喋らず俺を村外れにある古びた土蔵へと案内した。

この土蔵は古びてはいたが、横目に見えた集落の建屋よりだいぶ作りがしっかりしているようだ。壁は分厚く、鉄製の閂が掛けられている。

ただし入り口はその鉄扉だけで窓がなく、外から中を見ることはできない。

いや、むしろ中から外を見えなくすることが目的なのかもしれない。

ともあれ、この土蔵は人間が住むことを前提にはしていないようだった。

「この中だ」

「では、確認させていただきます」

閂を外して鉄扉を開けると強烈な臭気が吹き出してきた。

「っ・・・・」

なにかが腐敗したような臭いに、鼻をつくようなアンモニアの臭いと糞尿、これらがごった煮になった不快な臭気だった。

「ああ、くそっ!」

敷島は不愉快そうに顔をしかめる。

当然だ、こんな腐臭に満ちた空間にいてはまともな人間は体に変調をきたしてしまう。

そしてこんな淀んだ空間ではまともな人間は生命の維持すら困難だ。

「敷島さん、我々は『生死を問わず』という条件はつけてなかったはずだ。もし、商品の『品質』が満たされていないなら我々も」

相応の対応を取らせてもらう。そう言おうとして白衣の中の六連発銃に手を伸ばしたところで土蔵の奥でもぞもぞと動くものが見えた。

ライトを当てるとどうやら人間の子供のようだ。

「疑って申し訳ない。直ちに現品を確認させていただきます」

土蔵の中は手前と奥が格子で仕切られていて、その向こう側に『商品』がいた。

やせ細った手足に色素が足りない白い肌、光を見慣れていない目は見当外れの方向を見ていて、随分弱っているようだったが、その『子供』はたしかに生きていた。

俺は主任研究員から預かってきた理力評定機『イーグルアイ』を起動すると、ディスプレイ越しにその子供を覗き込む。

ディスプレイ越しに見た『子供』は淡い金色の光を放っていた。

「これは、祝福(バフ)か・・・」

『理力』によってもたらされる身体への祝福。

この子供は祝福(バフ)によって生命力が強化されているようだった。

『渡来人』は通常、『龍脈』と呼ばれる回路を介して理力を放出し、奇跡(スキル)と呼ばれる異能の力を発動するが、この『子供』には『龍脈』がない。

だから自身の理力が体内に溜まり続けたことで祝福(バフ)として発現し、その生命を繋ぎ止めたということだ。

どうやらこの子供は

・先天的に強い『理力』を持つ『緋本人』。

・ただし『理力』を使うための『龍脈』が退化している。

という条件を完全に満たしているらしい。

主任研究員に報告すれば大喜びする案件だ。

「確認しました。それでは『取引』に移りましょう」

後は金と子供を交換して山を降りるだけだ。

そう思って敷島を振り返ったところで銃声が響き渡った。



「ぎゃああああ!」

銃声の後悲鳴をあげたのは敷島だった。

土蔵を出ると右手を抑えて蹲る敷島と、散乱した敷島のものと思われる指が地面に転がっていた。

敷島をこのようにしたのは、敷島と同じ顔をした5人の男。

リーダー格らしい男が持つ上下二連(ツインバレル)からは硝煙が立ち上っていた。

集落の青年団だ。

この手の集落の人間は『旅団』に均質な商品を提供するために、同族同士で子供を作る傾向があるため、似たような姿になるのだ。

「この裏切りモンが、余所者を連れ込みやがって!」

そして、同族同士で閉じたコミュニティを作った集落は得てして排他的になる傾向がある。

リーダー格は怒りも顕に上下二連の銃口を余所者であるところの俺に向けた。

どうやら、今回の『取引』は集落の総意ではなく、特にこの五人組にとっては望ましいものではなかったらしい。

とはいえ、俺がやることは変わらない。

「お待ちを、あなた方の事情は知りませんが『取引』は継続させていただきたい」

俺は現金の入ったジュラルミンケースを青年団に投げて渡す。

恐る恐る五人組の下っ端が中身を確かめる。

「三億縁用意していますが、こちらは前金になります」

というのは今思いついたでまかせだが、主任研究員からは15億縁までの予算はあるということだから問題はない。

それに、『商品』の品質については確認済で、それだけ出しても惜しくない買い物だと判断している。

「残り15億縁は『商品』を受領後、下山したタイミングで支払う手筈になっています。お互い、悪い話ではないと思いますよ?」

この集落において、『商品』の扱いはあまりいいものではない。

そうでなければこんな集落の外れで監禁同然に飼われることなどありえない。

卵が産めなくなった廃鶏でももっとマシな扱いを受ける。

その廃鶏未満に対し15億、兵隊一人の相場が100~200万だから彼らにとっては大儲けのはずだ。

「舐めとんのかわりゃあ!」

間違ったことを言ったつもりはないがリーダー格は気に入らなかったようだ。

取り巻きも鍬や鋤を手にした取り巻きとともにジリジリとこちらに近づいてくる。

「ひいいいいいっ!」

右手がなくなった敷島は怯えて小さくなってしまった。

「敷島さん、同じ顔なんだから説得してくれませんか?」

説得を依頼したが怯える敷島はものの役に立たない。

「余所者が・・・わしを舐めるんもええかげんにせえよ」

困った、まるで話が通じない。

この五人組はどうあっても血を見ないと気がすまないらしい。

「よくわかりませんが、わかりました」

そうなれば俺も次の手を使うしかないだろう。

俺が白衣の中に手を伸ばすと、5人組が動いた。


―パッシブスキル:先制


体内の理力が俺の体に刻まれた『龍脈』を駆け巡った。

俺は過去にベルンハルト財団の実験により人工的に『龍脈』を彫り込んでいた。

実験ではほとんどの被検体が死亡したが俺は運良く生き残った。

施工を担当した先輩の研究員が機械の操作を間違えたことが生き残った要因で偶然の産物だったが、ともあれこれによって俺は少しばかりの理力で少しばかりの奇跡(スキル)が使えるようになったわけだ。

そして、『先制』の奇跡(スキル)は自身の敵対者の行動に先回りして行動できるというものだった。

これが発動すると周囲は時間が止まっているような戻っているような奇妙な状態になる。

この状態の時にある程度の行動ができるが、体感時間で一秒強の猶予しかないので迅速に処理しよう。

六連発銃を抜いてまずは上下二連(ツインバレル)を持つ中央のリーダー格を撃つ。

そこから右に飛んで右側の二人に一発ずつ。

そこで奇跡(スキル)は終了。

「ギャッ!?」

一発目がリーダー格の右手親指を撃ち抜いて上下二連(ツインバレル)を使用不能にする。

「うっ」「がっ」

右側の二人の眉間に弾丸が命中し、その場に崩れ落ちた。

残り二人、俺の飛び道具を見た二人の反応はそれぞれ異なっていた。

「ひいいい!」

一番最初に転がった敷島と同じ悲鳴をあげて逃げようとした一人の後頭部に一発。

「ひっ!」

そして固まったまま動かない最後の一人を射殺。

「いてええ!ぢぐじょおおお、うぢやがっでええ!」

親指があった場所を押さえてみっともなく泣き叫ぶリーダー格の口に六連発銃を突っ込んで黙らせる。

「うぐっ!?」

「次は7人以上で来ることをお勧めしますよ」

リーダー格の頭をふっとばして敵の排除は完了した。

リーダー格から上下二連(ツインバレル)を回収する。

「あ、ああああ・・・」

失禁しながら呆然と五人組の死体を見ている敷島は放っておいて土蔵の中の『商品』の回収に向かう。

手前と奥を隔てる格子の南京錠は上下二連(ツインバレル)で破壊。

中の『子供』は足が弱っているせいか、それともあるきかたがわからないのか、相変わらずもぞもぞと這っていたが、俺に気づくと俺の方に向かって向きを変えた。

ここから出たいということなのだろうか?

まあ、関係ないか。

『子供』の意思が何であれ、俺がやることは変わらない。

「おいで、一緒に行こう」

俺が伸ばした手を、その『子供』は弱々しく、しかし確実に掴んだのだった。



定時連絡まで後30分は残っているにも関わらず、東城研究員から通信が入ってきた。

「主任、良い知らせと悪い知らせがあります」

「では、いい方から頼むよ」

「まず、多少の外乱はありましたが『取引』は成功しました」

「よろしい、ではそのまま合流地点を目指し給え」

「えっと、それで悪い知らせなんですが」

「なにかね?」

「囲まれました。支援を要請します」




To_be_Continued.

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食糧難による間引き子殺しに、人材難解決のための引き取りからの兵器への加工……。なんとも、生々しい。
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