第6話 潜地竜(グラボイド) 後編
間が空きましたが鉱脈編の後編を書いていきます。
地下を逃げ回るグラボイドには実は隠された能力があり・・・。
外人部隊メンバーの本名を思いついたので書いときます。
ハーピー:セシリア・イシュトバーン
サイクロプス:スコット・スコフィールド
シルベリーホワイト:アンジェリーナ・デオロット
「風刃!」
「光波斬!これでラスト、潜地竜以外はザコだな」
敷島少尉とドッグシットワンたちが鉱脈内に逃げ込んだ潜地竜の追撃を開始して10分弱で地上に出現した外来種の掃討は終了した。
「上出来です。工兵、簡易結界の再起動にかかれ!」
周辺の安全が確保されると東城少佐の号令一下、工兵が発電施設に展開していく。
捕虜にした二人の渡来人は予想以上に優秀だと東城少佐は分析する。
まずサイクロプスだが、外人部隊での評価は中の中といった位置づけのハズだが、戦闘能力のみに限定すればかなり上位に来ると評価できる。
身体能力強化の祝福が極めて強く、丸腰でも外来種と殴り合える怪力と耐久を持ち、到達速度が速く、直進性が高い光の奇跡を扱えることで遠距離戦も極めて優秀だ。
―戦闘力だけなら外人部隊最強の『竜戦士』、あるいは総帥、『勇者』ベルンハルトに迫るかもしれんな・・・。
高い戦闘力の評価を素行の悪さで台無しにしている、ということらしい。
特に金銭感覚が壊滅的で他の団員から手当り次第に借金して片っ端から踏み倒す(正確には貸した相手が殉職する)を繰り返していたため制裁として等級を下げられたのだそうだ。
―金を借りたあとで貸主を始末したのがバレて制裁を受けたんだろうな。
これは推測に過ぎないが、外人部隊では別に珍しいことではないし、事実もそう的はずれなものではないだろう。
外人部隊は多種多様な世界から転生した渡来人の寄り合い所帯。
人種も文化も価値観も何もかもが根本的に異なる人間がひしめき合い、報酬の分け前から箸の持ち方まで対立の発生要因が無限に存在する。
外人部隊の構成員同士で殺し合いなどは飯を食う以上の頻度で発生しているし、外人部隊上層部もできないやつはふるい落とす考え方が主流となっていて、黙認通り越して奨励しているフシもある。
―サイクロプス殿は自分の世界より遅れた文明の出身者を『原始人』と呼んで見下す傾向があるらしいしな。
最も、緋ノ本の人間が渡来人に求めるのは人柄ではなく能力だ。
敵を作りやすいだとか金にだらしないだとかそう言った問題はすべて外人部隊が引き受ければいい問題であって東城少佐には関係のないことだった。
つまり東城少佐から見てサイクロプスは金を使わせず戦闘に関してのみ運用すれば旅団にとって有用であるということだ。
「護さん・・・申し訳ありません。刀をいただきたいのですが・・・」
思案していた少佐の三歩後ろに上空を旋回していたハーピーが降り立った。
ハーピーに貸していた官品の緋本刀は刀身が砕け散って柄だけの状態になっていた。
ハーピーの使う奇跡に得物が耐えきれず刀身が砕けてしまうのだ。
「こちらを」
予備の刀を二本渡しつつ、少佐はハーピーについて分析していく。
希少な『飛翔』の奇跡の使い手であることはもとより、奇跡を操るセンスが極めて高い。
同じ『飛翔』の奇跡でもあそこまで速く正確に動ける渡来人を少佐は知らない。
―それにあの「みずち」という術式、外人部隊標準のものでも財団のものでもない。じゃが優秀な術式じゃ・・・作ったやつはまさに天才じゃのう。
通常、風を操る奇跡を攻撃にしようとすれば、一時的に減圧し真空状態を作ることで差圧による空気の移動を利用する『鎌鼬』が主流だが『みずち』は真逆、空気を加圧、線状に圧縮した空気の塊をぶつけて刃とする代物だ。
少佐は分析する。
『みずち』の『鎌鼬』に対する利点、それは使い手の技量によって威力と精度を上げることが可能なことだ。
『鎌鼬』では攻撃する場所を精度良く狙うことはできないが、ハーピーの『みずち』は回避行動を取る潜地竜に立て続けに4発、それもすべて同じ場所に当てている。
よほどの集中力とセンスがないと不可能な芸当だ。
それに、4発目で刀身が砕けなければ5発以上当てて潜地竜仕留めていたことは間違いないだろう。
―もし、ハーピーの能力を十全に発揮できる得物があれば朝陽でも勝てんかもしれん。
朝陽は少佐にとっては最初の成果にして集大成だった。
その集大成が遅れを取る相手を近くに置いておくというのはなかなかにスリリングな体験だ。
今ハーピーが敵でないのは得難い幸運というほかない。
「少佐殿!簡易結界起動しました!」
そうこうしているうちに工兵の作業も終わったようだ。
これで新たに外来種が出現することはない。
あとは地下にいる潜地竜を朝陽が処理すれば終わりだ。
勝手に戦え。
今僕の目の前では相対的に小さいチョココロネと相対的にでかいチョココロネが互いを食べようと戦っていた。
相対的に、といったのはどちらのチョココロネも人間を一呑みにしてしまうくらいでかいからだ。
常識的に考えればでかいほうが勝つんだろうけど今戦いが長引いているのはでかい方は地上でハーピーさんにこっぴどくやられたらしくあちこちズタボロになってるからだ。
岩のような表皮は穴ボコだらけで血が吹き出し、特に脇腹?に当たりそうな場所はなんで死んでないのか不思議なレベルの穴が空いている。
そして小さい方は執拗に負傷した場所を狙うえげつなさを見せていて混戦状態だ。
「それで、朝陽ちゃんは混ざらなくていいの?」
勇んで僕らより先に来ていた歩く殺戮兵器、敷島朝陽少尉は兵装とか言われていたごつい薙刀を脇の地面に突き立てて岩に腰掛けながら持参していたエナジーバーをむしゃむしゃと貪り食っていた。
「うげ・・・」
僕の後ろでへばっていたちんまいおっさん『大先生』がその光景を見て気分悪そうにした。
朝陽ちゃんが貪っているエナジーバーは僕らにも支給されていて、途中で一度口にしているけど、あれはあんなにむしゃむしゃ食えるようなシロモノじゃないのがわかっているからだ。
あれは棒状のカロリーとも言えるもので、一口食っただけで砲丸を胃に押し込まれたような重さがずっと残るんだ。
そして恐ろしく腹持ちがいい。一口で一日腹が減らなくなるレベルで。
そんなのをあんなにむしゃむしゃ食ってるから太るんだ。
キレた朝陽ちゃんに殺される危険があるから口には出さないけどこれは歴史の真実だ。
「今出たらどっちかに逃げられる。片方だけになってから仕留める」
朝陽ちゃんは包み紙を捨て、次のエナジーバーをかじりながら実に合理的かつ論理的な回答をくれた。
「潜地竜は食べた外来種の祝福を取り込めるって教官は言っとった。地上から逃げてきたやつは他の外来種の治癒能力を取り込んで傷を治すつもりなんよ」
「え、うん・・・」
「小さい方は地上のやつの祝福を取り込みたい。いまのままじゃうちに勝てん、そう思っとるはずよ。今まで逃げ回っとるんがその証拠」
なんだろう、今僕は初めて朝陽ちゃんに知性を感じている。
いつもキレてるわけじゃなかったんだ。
できることなら地上に帰るまでずっとこの調子でいてくれないかな?無理だろうな。
「な、なあ」
ここで新たにチビDQNが加わってきた。
こいつもいつも不機嫌そうな面してるが今はカロリーを摂取して顔色がいい朝陽ちゃんと対象的に少し青ざめてるように見える。
「気になったんだけどさ・・・あの潜地竜、どっちかが勝ったら、どうなるんだ?」
ああ、そうだ、今のままだと朝陽ちゃんに勝てないからあいつらは戦ってるわけだ。
てことは今のままじゃなくなったら・・・。
「勝ったほうがうちらの敵になるんよ」
見ればチョココロネの頂上決定戦はでかい方が制していた。
たとえ負傷していても物を言うのは体格と言わんばかりにでかいチョココロネは小さいチョココロネをその大口にくわえ込むと石臼のような歯でバリバリと外皮を砕きながら一気に飲み込んだ。
「朝陽ちゃん、なんかやばい、ここは逃げたほうがいいんじゃないかな」
アクティブスキル:タカの目
タカの目を通してみたでかいチョココロネは敵対者を表す赤い光をすごい勢いで増していく。
より眩しく、より鮮やかな赤に、つまりより強大な敵へと変貌しているということだ。
そしてそのチョココロネの大口の中から新たな頭、そして逆側から尻尾、さらにはごつい前足と後ろ足が生えた。
アクティブスキル:分析
種族:地龍
「なんか進化したあああぁああああああ!!!!!!!」
「龍、ですか?」
ハーピーが東城少佐が言った単語に反応したことで少佐は説明を始めた。
「ええ、龍というのは竜の上位の外来種になりますその発生源や出現方法は未だに謎が多いのですが龍が発生した場所はほとんどが竜が出現した場所であることからこの2つは近しい種族なのではないかと考えられております」
「若造、読みが同じだから口で言っても伝わらねえぞ、リュウなのかリュウなのかわかりやすく説明しろよ!」
「失礼しました。しかし発音が同じなことには理由がありまして先程述べたように竜の発生地から龍が発生することから竜と龍はもともと同一の種族であるという学説もまた有力でして全く別の種族と断定できる根拠もなく学閥によっては龍か竜に統一して呼称する派閥もあるのです。まあ統一する理由も分ける理由も曖昧だから曖昧なまま進んでいるというのが現状ということですね」
「随分適当だな」
「サイクロプスさんほどではないですよ?」
「けっ、小娘が、偉くなりやがって」
「潜地竜が複数発生したということは、その上位種である龍が発生する可能性も否定はできないということです。少佐の立場で言えばそうなる前に討伐したいところですが小職本来の職務で言えば出てきて欲しい相手でもありますね」
そこまで話したところで地下の朝陽から通信が入ってきた。
「教官!龍が出た、これから戦闘に入る!」
「了解した、じゃが討伐は二の次じゃ、まず自分の身を守れ、わかったな!」
「教官?」
「何なら」
「倒したら褒めてくれる?」
「戻ってきたら褒めちゃるわ」
直後に金属と岩石がぶつかる音が響いた。
どうやら戦闘が始まったようだ。
「ハーピー殿、サイクロプス殿、引き続き協力をお願いしたい」
「承知しました」「ま、メシ代の分は働いてやるぜ」
「兵装起動!」
チョココロネがほんまもんのドラゴンに進化するや、朝陽ちゃんも緑の鎧をまとって迎撃態勢に入った。
そして地上のドワーフ顔のおっさんと通信すると薙刀を振りかぶって地龍に向かって突っ込んでいった。
「うりゃあああ!」
「ゴアアア!」
それを地龍は新たに生えた前足で迎え撃つ。金属の薙刀と岩石の爪が激突、岩石は粉々に砕け散ったけど、前足の力は絶大で、重い薙刀もろとも朝陽ちゃんの体をふっとばして岸壁にぶち当てた。
「あ、朝陽ちゃん!?」
壁に突き刺さった朝陽ちゃんは崩れた岩盤に埋もれて見えなくなってしまった。
まじかよ、開始2秒で最高戦力を失ってしまったぞ。
「やばい、こっち見てる!」
チビDQNの悲鳴、地龍は残る僕らに狙いを定めた。
チョココロネから生えたハンサムなドラゴン顔から黒い粉塵をこっちにぶっかける。
パッシブスキル:自己防衛
僕の体は何度も体験した全自動回避行動によって岩陰に転がり込む。
「イワン君!こっち!」
おっさんがへたり込んでるチビを岩陰に引っ張り込んで覆いかぶさるのが見えた。
カチン
石と石がこすれる音とともに洞窟内を炎が吹き荒れた。
強烈な熱量と振動、それによって崩れた岩盤が僕が身を隠した岩に激突する不吉な音。
自己防衛がなかったら今ので頭割れて死んでた。
何だこれヤバすぎだろ。
隠れた岩は一瞬で石焼き芋の石みたいに熱くなるし、空気が燃えてて息しようとすれば中からミディアムレアになりそうだ。
今隠れてる岩陰から早く出ないと今度は蒸し焼きになってしまう。
そう思ってたら岩がなくなった。
地龍が爪を一閃すると隠れていた岩が根こそぎ吹っ飛んで岩石のような鱗に覆われたドラゴン顔が正面に来ていた。
「や、やあ・・・」
ああ、これは無理だ死んだ。
このまま僕はあのドラゴン顔の口に放り込まれたあと、びっしり並んだ石臼みたいな歯に全身をすり潰されてさっき食われた相対的に小さいチョココロネと同じ目に合うんだ。
という予想は嬉しいことに現実にならなかった。
「この野郎!」
僕を食べようとした地龍の顔面をごつい薙刀がぶん殴った。
黄色い髪、緑の鎧、朝陽ちゃんが僕と地龍の間に立ちはだかる。
「ゴアアアア!」
地龍は再び黒い粉塵を吐いたけど、今度は朝陽ちゃんが対策してくれた。
「爆炎!」
薙刀から発生した爆風が粉塵を押し返して粉塵を撒いた地龍の方が火達磨になる。
とはいっても体表が岩で覆われてるから効果はいまひとつではあるけど。
「グアアアッ!!」
火に包まれながら今度は地龍は鋭く尖った岩石爪を岩盤にぶつけながら振り抜いた。
硬い代わりに脆い岩石爪は鋭く尖った破片に分かれながらこっちに飛んできた。
そして朝陽ちゃんはそれも迎え撃つ。
鎧のスカートの中からミサイルを打ち出して破片を撃ち落としていく。
「ガアアアアアア!」
地龍の3回行動、もう片方の前足で直に朝陽ちゃんをぶん殴る気だ。
朝陽ちゃんはこれでは死なないだろうけど、体重差で朝陽ちゃんはふっとばされてしまう。そして朝陽ちゃんがふっとばされたら僕を守ってくれる人は誰もいなくなる。
そうなれば僕の死が確定する。それは困る。
「はあっ!」
朝陽ちゃんの迎撃、薙刀を地面深くぶっ刺して前足の一閃を体で受け止める。
朝陽ちゃんは数メートル後退したものの踏みとどまることに成功、そして反撃する。
ガントレットに覆われた緑の拳で前足の爪を砕くと、鎧の隙間に仕込んだ隠し武器の手斧をぶん投げた。
アクティブスキル:重力斬
ドゴッ!
軽々と投げたのと真逆の重い音とともに手斧が地龍の岩盤の表皮をぶち抜いて根本までぶっ刺さった。
「ゴッ!?」
そして地龍はうめき声をあげながら後退した。
「強ッ!?朝陽ちゃんめっちゃ強!!!!」
素人目に見ても地龍は今までの外来種とは比べ物にならないほど強い。それこそ地龍を10トントラックに例えたら他の外来種はせいぜいミニ四駆レベルだろう。さらにいえば人間はそのミニ四駆に殺されかけるレベル、象とアリでもまだ筋書きのないドラマが書ける。
それほど段違いに強い地龍に対しても朝陽ちゃんは一歩も引かないどころか押し返している。
10トントラックどころかまるで装甲車だ。
「うりゃあ!」
その装甲車は地龍が飛ばしてきた岩の塊をパンチで粉砕すると間合いを詰めて地龍の前足を薙刀で斬り飛ばした。
地龍は悲鳴に近い咆哮を上げながら後退、朝陽ちゃんは追撃しようとするけどそれはかなわない。
地龍は斬られた前足を一瞬で再生して飛びかかった朝陽ちゃんを弾き飛ばした。
「まじかよ・・・再生するのか・・・」
「これはまずいですよ・・・」
チビDQNと岩陰に隠れていたおっさんが不吉なことを言ってきた。
「なにが?」
「敷島少尉の兵装は稼働時間に制限があると東城少佐に伺っています」
「続けて」
「今は優勢に見えますがこのまま戦闘が長引けば稼働限界が来て逆転される恐れがあります」
「まじで?」「まじです」
見れば朝陽ちゃんは地龍の外皮を一撃ごとに砕いて大ダメージを与えているように見える。
でも地龍は砕かれた外皮を砕かれた端から再生してる。
これじゃ倒しきれない。
「おそらく外皮の内側、内蔵や骨にダメージが通れば有効打になると思うのですが・・・」
「あの外皮が厄介だな」
おっさんの言葉であの砕ける外皮の厄介さを理解した。
外皮が砕けてるのはなにも朝陽ちゃんがバカ力なだけではないんだ。
砕けることで体の内側に衝撃が行かないようにしているんだ。
「このやろう!」
そのことに朝陽ちゃんも気づいているようではあった。
朝陽ちゃんは地龍の攻撃を粉砕しながらある一点を狙っていた。
脇腹の後ろ側、ここからかすかに見えるハーピーさんが開けたらしい穴だ。
ここを攻撃できれば多分倒せる気がするけど朝陽ちゃんはどうにも攻めあぐねてるようだった。
坑道内が狭いせいで傷口に向かう進路が確保できないのと、地龍がうまいこと傷口が隠れるように立ち回っているせいで近づくことができない。
確かにこのままだとジリ貧だ。
そう思ってたら地上からドワーフ顔のおっさんから通信が入ってきた。
「ドッグシットワン、生きとったか!」
「ええ、まあ」
お手数ですがハーピーさんに替わってくれませんか?
「すまんが『大先生』殿に替わってくれんか?」
「ええいいですよ、ジークフリートさん」
僕としてもこのおっさんには用事はないので断る理由がない。
「はい私です」
通信を替わったちんまいおっさんは『制地』の奇跡を発動すると何やら数字を地上に指示し始めた。
「ドッグシットワン!イワン君を頼みます!」
言われて、チビDQNが岩陰に寝そべっているのに気がついた。
動きがないのは気でも失っているのか。
「頭を打ったようです。命に別状はないですが見ててあげてください」
「了解」
ここにボケっと突っ立ってても流れ岩に当たる危険があるだけだから反対する理由はない。
「はい、承知しました、では」
僕がチビDQNのところにたどり着くとちんまいおっさんがドワーフ顔のおっさんと通信を終了した。。
「退避!退避―!」
そしてちんまいおっさんの昭和の日本兵みたいな叫び声が洞窟内に響いた。
「まじかよ!」
忙しないな。
僕は気を失ったチビDQNを担ぐ。なんだこいつえらく軽いな。ちゃんと飯くってんのか?ていうかもっとちゃんと鍛えろよ体フニャフニャじゃないか。
「朝陽ちゃんは!?」
朝陽ちゃんはまだ地龍と戦ってた。
鎧の中から今度は鎖鎌みたいな武器を取り出して地龍にぶん投げていた。
投げられた鎖は変幻自在な動きで地龍の後ろ足に巻き付くと、朝陽ちゃんは新たな奇跡を発動した。
「グアアア!?」
どうやらその奇跡は動きを止めるものだったらしく、地龍は鎖が巻き付いた足が地面にめり込んで動けなくなった。
朝陽ちゃんは動きを封じた地龍を攻撃することなく鎖の片端を持ったまま僕らのところに退避してきた。
そして、頭上から地龍めがけて光の柱が落ちてきた。
「殲滅烈光覇!」
『大先生』が指示した座標にサイクロプスが最大火力を叩き込んだ。
神器:ユミルの瞳によって大増幅された光は進路上のあらゆるものを消滅させ鉱脈に大穴を開け、光が収まると同時、大型外来種の悲鳴が地面に空いた穴から突き抜けてきた。
「こりゃ命中したのう・・・」
「あの『大先生』やるじゃねえか。原始人から鳩時計に格上げしてやろう」
事実の確認をしているような口ぶりの東城少佐と、気兼ねなく大技をぶっ放して上機嫌のサイクロプスだが、自らの指示と自らの奇跡で開けた穴から注意を反らすことはない。
悲鳴が上がったということは命中した時点で地龍は死んでいないということだからだ。
緋ノ本の人間も異世界から来た渡来人もたとえ生物を大きく逸脱した外来種であっても死ねば黙るという点だけは共通している。
「守備隊は結界の守りにつけ!ハーピー殿とサイクロプス殿は迎撃の準備を!」
「承知しました」「さて、モグラ叩きといくか」
先程の潜地竜に撃ち込んだ発信機はまだ稼働しているため、地上から動きを追うことができる。
「どうやら、一直線にこちらに上がって来ているようですね」
そして、サイクロプスが開けた穴から大量の粉塵が吹き上がり、一瞬の後巨大な火柱に変わった。
そして火柱の中から現れたのは岩石の甲殻をもつ地龍だ。
サイクロプスの一撃は地龍を倒すには至らなかったが、地龍も無傷とはいかなかったようだ。
四本あったらしい脚部の後ろが片方消し飛んで胴を巻き込んで半円型にえぐり取られていた。
えぐり取られた場所は地龍の能力なのか傷口には岩がびっしりと貼り付けられていて、それで出血を押し留めているようだ。
「死にぞこないが、オレ様が旅の支度をしてやるぜ!」
サイクロプスが吠えると、地龍も標的をサイクロプスに変更した。
どうやら先程体を消し飛ばしたのが誰かを理解しているようだ。
「護さん、今の間に退避を」
「そうします、小職は結界内より援護します」
かくして地上における地龍討伐戦が幕を開けた。
パッシブスキル:自己防衛
ああ、もう、何だったんだ全く。
地龍が自分の脚を引きちぎったと思えば光の柱が降ってきて地龍の体が半分消し飛んで、でも地龍はしぶとく生き延びたかと思うとまた黒い粉塵を撒いて火をつけてそこら中火達磨にしたかと思うと尻から火を吹いて地上にぶっ飛んでいったところをタカの目で確認するとこまではできた。
「ゲホっ、ゴホッ」
それにしてもなんて粉塵だ、裸眼では全くなにも見えない。
右手と左手でじゃんけんしてもどっちがなにを出したかわからないレベルで煙まみれだ。
煙の中に赤く光るのは、朝陽ちゃんの薙刀のパーツだ。
それが翻ると風が巻き起こり煙を吹き散らした。
やれやれ、やっと息ができる。
「朝陽ちゃん」
ありがとう助かった、と言おうとしたけど険しい顔で地上に通じる穴を睨んでたからやめた。朝陽ちゃんがこの顔してるときはなにかの拍子にキレる確率が高い。
その朝陽ちゃんは薙刀の刃がついてない側を地面に突き立てた。
なんだ!?また八つ当たりか?だったら僕がいないとこでやってくれ。
「こっち」
朝陽ちゃんは僕らを手招きして自分の方に来るように促す。
今度はなんだ?
「我々を助けてくれるみたいですよ」
ちんまいおっさんは未だ気を失ったままのチビDQNを背負っていた。
おっさんは体力ないけどチビDQNはそれに輪をかけて軽いから担げるらしい。
「なんで分かるんです?」
「そうじゃなかったら君は火で消し炭になって私とイワンくんは落盤で生き埋めになってるからです」
言われて、さっきの一瞬にあったことを思い出す。
僕に吹き付けた火を突風が吹き散らし、天井から落ちてきた岩を朝陽ちゃんが投げた片手持ちの槍が粉砕していた。
煙に覆われる前に映った緑の背中は朝陽ちゃんだったのか。
ていうか、あの子僕らを助けたりするんだな。まあ、どうせドワーフ顔の教官の命令なんだろうけど。
「うるあぁ!」
サイクロプスの拳が振り下ろされた地龍の爪を迎撃、拳が命中した爪は粉々に飛散した。
「何だこのやろう」
ナリに反してえらくちまちました戦い方だ。
爪を含め、地龍の外装は恐ろしく硬い。そして脆い。
強い衝撃を与えればたやすく飛散するシロモノだが、これが実にうっとおしい。
砕けた破片は鋭く尖った結晶となってサイクロプスに突き刺さる。
破片一つずつなら大したことではないだろうが、これをずっと受け続けるのは面白くない。
祝福:自動回復
サイクロプスのように強い回復の祝福があれば戦闘に支障はないが、そうでないやつはとっくに失血死しているところだ。
さらに厄介なのは体に刺さらなかった方の破片だ。
これらは地面に突き刺さりまるで撒菱のように尖った刃先を上に向けるのだ。
これは鉄板入りの安全靴の底をたやすく貫通するほど鋭く、刺されば常人は歩くこともできなくなる。
こうやって移動を封じてゆっくりと確実に優位を構築する。
全く嫌味なやり口だ。
「サイクロプス殿!」
結界に退避したらしい少佐の若造から通信だ。
「領域術式により朝陽とハーピー殿と知覚を共有します。連携をとって対処してください」
「若造、だったらその二人に下がるように言いな」
戦いながらサイクロプスは待っていた。
片目に仕込んだ神器:ユミルの瞳が再起動する時を。
普通であれば再起動に一時間かかるところだが、戦闘に使う理力を極限まで絞り、自身の回復のみに努めて次の『殲滅烈光覇』を放つ光を溜めていたのだ。
10分の突貫工事のため全開時の四分の一でも出力が出ればいいほうだが、この間合であれば頭と心臓をまとめてぶち抜ける。十分だ。
「あばよトカゲ野郎!ん?」
発動寸前、サイクロプスは自分がはめられたことに気づいた。
地龍が岩の尻尾を叩きつけると足元が崩れた。
「くそ、てめえ、やりやがったな!」
地下での戦闘で崩れやすくなった場所の真上にサイクロプスは誘い出されていたのだ。
そして、知恵比べに負けたサイクロプスは崩落する地下へと滑り落ちていった。
「これからどうするの?」
朝陽ちゃんの近くに来た僕は尋ねる。
「飛ぶ」
飛ぶってなんだよ。
「うちに捕まって」
そう言うと朝陽ちゃんは緑の鋼鉄に包まれた手を差し出してきた。
え、嫌だよ?人間は空を飛べない生き物なんだよ?
それを飛ぶって、絶対やばいやつじゃん僕は歩いて地上に戻るよ?
幸い、もう外来種はいないらしいしタカの目があれば暗闇でも道がわかるからね。
そう思っただけで口に出さなかったのは幸運だった。
新たな落盤で帰り道がふさがった。鉱脈が崩れかけてるんだ。
「どうやら、言う通りにするのが一番堅実のようですよ」
「どうもそうらしい」
僕は朝陽ちゃんの手を掴むと凄まじい力で引き寄せられた。
そして鎧に仕込んでいた鎖分銅で体を括り付けられて密な状態になる。
状況としては満員電車の中でJKと隣合わせになったような状況だけど相手はJKではなく全身武器の生体兵器なのはいただけない。
「しっかり捕まっとって」
朝陽ちゃんは薙刀を何やら操作している。
なにをしているか知らないけど、兵装を起動して黄色に変わった髪、つむじの辺りからはねた一本がぴょこぴょこ動いているのはなんか面白い。
ていうか朝陽ちゃん意外と小さいんだな。
いつも大きな武器を振り回してるからわからなかったけど、並んで立つとつむじが見下ろせるくらい身長差があることに今気づいた。
まあどうでもいいか。
「じゃあ、行くで」
朝陽ちゃんがそう言うと僕らの足元、地面に突き刺した薙刀の端が光った。
そして真下で発生した凄まじい爆発によって僕らは文字通り地上へと吹っ飛んでいった。
サイクロプスが戦線を脱落したことで緋本原旅団は地龍に対して有効な攻撃手段を喪失してしまった。
「くそったれあのトカゲ野郎戻ったらぶっ殺す!」
「言ってる間に戻ってきてください。砲兵、撃ち方はじめ」
発電施設に構築した防御陣地から一斉に対戦車砲弾が撃ち込まれる。
高速で激突した砲弾により地龍がのけぞり、遅れて炸裂音が響き渡った。
「倒しきれんか・・・」
潜地竜であれば一斉射で挽き肉にできる火力だったが地龍はそれを耐えきった。
そして二射目の準備にかかるより早く砕けて剥離した外皮が再構築するのが見えた。
「どうやら地龍の頑健さは外皮よりも高い再生能力によるところが大きいようじゃのう」
砲兵の一斉射を耐えきった地龍はもはや己を阻むものはないと言わんばかりにまっすぐに東城少佐がいる発電施設に向かってきた。
もともと
「感心してる場合ですか!」「やべえぞ、ここにあれ以上の火力は残ってない」「重砲の到着まであと40分はかかるぞ!」「間に合うか!40秒でお陀仏だ!」「少佐、ここは危険です。退避を!」
恐慌状態の司令室にあってなお東城少佐は地龍を興味深く分析する。
潜地竜に比べ、外皮はさらに硬質になっているが、脆く、剥離しやすくなっているようだ。そして、双眼鏡で覗き込んでみると微細なノッチが存在する蜘蛛の巣のように張り巡らされている。
その外皮に、焦った砲兵の放った徹甲榴弾が命中する。
すると砲弾が当たった外皮はノッチに沿って亀裂が走り、当たった部分だけが剥離、直後に炸薬が炸裂し、剥離した外皮が飛散した。
なるほど、実に洗練された防御手段だ。
外皮が剥離することで爆風や衝撃はシャットアウトされ体内には届かない。
さらに、衝撃の進行方向が制御されていることで、必要最低限の部分だけが剥離するようになっている。
全身に反応装甲を取り付けているようなものだ。
そして地龍のそれは剥離した端から再構築される。その点で反応装甲の上位互換と言っていいだろう。
地龍は二度目の斉射も洗練された防御手段で防ぎきり、指令所を射程に捉えるとその鋭利な爪を振り下ろした。
「ゴアアアアアアアアッ!」
そして振り下ろされた爪は不可視の壁に阻まれ、弾き飛ばされて前足ごと飛散した。
「ベルンハルト財団製の結界じゃ。運用試験の名目で緋本原に入れたもんじゃが出力だけなら現行の量産型にもひけはとらんぞ」
量産型と違い術式の構築が洗練されていないため燃費が悪く、持続させるには余分に電力が必要になる点を除けば十分運用に耐えられるシロモノだと少佐は分析していた。
そしてそれは吹き飛んだ地龍の腕が証明した。
「ゴガアァ!!!」
次いで地龍はその牙で結界に挑むが、再び攻撃は弾かれ、今度はぶつかった牙が頭部もろとも砕け散った。
「やった!?」
指令所の士官が一瞬気を緩めるが、それをあざ笑うように今度は砕けた頭部が修復する。
「不死身かよ・・・」
「違うな、あの頭はダミーじゃ。あそこに脳ミソは入っとらん」
可能地龍の四肢と頭部、尻尾のようなものは潜地竜の頃にあった触腕が変質したものだ。
おそらく生命維持に必要な臓器の類はもともとの潜地竜の名残を残す胴体に集められていると考えられる。
こちらの攻撃で受けた傷ををことごとく再生している中で、二箇所再生が追いついていない部分がある。
一つはハーピーによって穿たれた穴、もう一つはサイクロプスが抉った部分で、いずれも胴体についたものだ。
軟体動物や一部の爬虫類は欠損した触腕を再生できるが、臓器の損傷はそうはいかない。
胴体の再生が遅い理由は損傷したのが臓器だからと考えれば整合性は取れる。
つまり目と口がついた頭部のような形の触腕は、臓器が集まっている胴体から注意をそらすための囮ということだ。
「すごいのう、バイタルパートの集約による集中防御に弱点を誤認させる擬態とは。実に面白い」
「のんきなこと言ってる場合ですか!」
「言ってる場合じゃのう、この結界は一時間は持つ。重砲の準備ができるまで40分、サイクロプス殿が戻るまで20分、朝陽もこっちに向かっとる。時間はこっちに有利じゃ」
重砲は対要塞を想定した火力があり、地龍の防御力を持ってしても防御もろとも粉砕できる。
サイクロプスの奇跡:『殲滅烈光覇』は現存するあらゆる攻撃手段に優越する威力がある。
それがどれほどかといえば、どれほど低く見積もっても地龍が破壊できない結界もろとも発電施設を破壊できるほどに。
もっとも、これはサイクロプスが考えなしにこの奇跡を使って発電施設を破壊しなければ今回の事態は起こらなかったということでもあるが。
そして朝陽だ。
朝陽に関しては分析の必要はない。
朝陽の体は自分が改造し、朝陽の装備は自分が開発し、朝陽と二人で練り上げてきたのだ。
そしてそれらの情報は『勝てる』という結論をすでに導き出している。
発電施設が復旧し、結界の構築が可能になった時点で、討伐は9割方終わったようなものだったのだ。
それを証明するように地龍は指令所への攻撃を断念し発電所を攻撃対象に変更するが、そこも結界の範囲内だ。
地龍は放っておいてもじきに理力を使い果たして動けなくなるだろう。
朝陽が戻ってきているので処理させようと思っていたが、それすら必要なさそうだ。
「ベルンハルト財団に通信を繋いでくれ」
「はっ!」
ここで龍のサンプルが入手できるとは得難い幸運。
東城少佐の本来の所属、ベルンハルト財団の解析チームに引き渡せば泣いて喜ぶだろう。
外来種のサンプル回収については旅団の指揮官、駒野中佐も了承していて、少佐に一任されている。
あとは滞りなく進むだろう。
という少佐の目論見は地から吹き上がった光の柱によって根本から修正が必要になる。
光の柱は地龍の臓物の入ってない頭部を消し飛ばすと薙ぎ払うように射線を旋回し発電施設のタービンを結界もろとも破壊してしまった。
「どうだ若造!トカゲ野郎の間抜け面をふっとばしてやったぜ!」
地下から光線を放った間抜けは自分の行動が及ぼす影響をまだ認識していないようで実にご機嫌だ。
ふっとばしてやった間抜け面はまた胴体から生えてきたが、巻き添えになったタービンは生えてこない。
「少佐、結界の出力が低下しています!」
「仕方ない・・・ハーピー殿、朝陽が戻るまで足止めを頼みます」
「なんかにぎやかだな、なんかあったのか?」
「サイクロプス殿」
「ん?」
「お前もう何もすんな」
「ハーピー殿、朝陽が戻るまで足止めを頼みます」
呆れが9割、焦りが1割といった通信がが入るとハーピーは飛翔し地龍へと肉薄した。
サイクロプスさんはいつもこうだ。
転生してくる前はPMCという傭兵集団の出身で戦闘技術は恭士郎さんにも引けは取らず、討伐依頼された外来種を仕損じたことはハーピーが知る限り一度もない。
にもかかわらず外人部隊での評価が低いのは討伐の功績を補って余りある損害を毎回出すからだった。
サイクロプスが損害を出しすぎることが原因で、武器弾薬、車両などの備品を旅団は支給しなくなり、出た損害についても旅団から賠償請求が来るようになった経緯は誰もが知る事実である。
等の本人は派手好きでなにかと口実をつけて大技を使いたがり、今になっても『一切』態度を改めないことからサイクロプスは外人部隊の問題児だった。
「いつもいつも、世話の焼ける人ですね」
これでサイクロプスの釈放は10年は伸びただろう。本人は家の電気が止められてるから一生住む気でいるらしいが。
さて、目標の地龍は新たに得た器官、目によってハーピーの接近を察知していた。
「竜が炎を吐く原理については未だ不明瞭な部分が多いですがこの個体に関して言えば石炭を微粉炭に加工して体内に貯蔵し広範囲に吐き出すことで燃焼速度を加速させ牙の摩擦によって発生した火花によって点火し炭塵爆発を起こす仕組みのようです」
護さんの説明が終わるのを待たず地龍は自身に群がる羽虫を駆逐すべく頭型の触腕から炭塵を吐き出した。
「風鎚!」
地龍が炭塵に添加するより早く、ハーピーが放った圧縮空気の鉄槌が地龍の牙をへし折った。
「グガアアア!?」
「風鎚!」
のけぞった地龍の胴体に追撃の圧縮空気をぶつけると、腹部の外皮に亀裂が入り、崩れ落ちた部分からすぐに新たな外皮が再生した。
「・・・・」
―やっぱり、恭士郎さんのようにはいきませんね・・・。
ハーピーに奇跡の使い方を教えた転生者、彼であれば今の一撃で地龍の腹に穴を開けていただろう。
触腕で胴体をかばうようにして対峙する地龍にハーピーが出せる有効な攻撃手段は限られている。
先程の風鎚は触腕に阻まれていて胴体に届かない。
あとは、『風刃』だが、この奇跡が打てる回数には限りがある。
手元にある緋本刀が二本。
これまでの戦闘で一本あたり4発までしか風刃の負荷に耐えられない事がわかっている。
最大8回、潜地竜に打った際は5発以上当てる必要があったため、地龍になったことで強度が上がっているとすれば無駄打ちできる余裕はない。
「風鎚!」
触腕で胴体を守りながら前進する地龍に圧搾空気をぶつけるが、その歩みは止まらない。
地龍はハーピーを脅威ではないと認識したのか脇目も振らず発電施設に向かう。
「少佐!発電施設を失えば結界が維持できません!鉱脈を放棄するしかなくなります!」
「もしそうなったらサイクロプス殿に賠償請求しないといけんな・・・外人部隊に言ってもごねるだけで金は出んしな」
「おい若造!?今の状況はオレ様一人のせいだって言いたいのか!?」
「そう言ったつもりです」
「呑気なこと言ってないで退避してくださいよ!少佐が死んだら財団に殺される!そうなれば緋本原は終わりだ!」
朝陽は自身の兵装から爆風を吹き出し、さながら砲弾のように地上めがけて一直線に吹っ飛んでいた。
「やめてとめてやめてとめてやめてとめてやめてとめて!」
しがみついてる渡来人が止めろと言っているがそんな寝言は聞くに値しない。
朝陽にとって重要なのは教官、東城少佐の安全であり、それを脅かす外敵の排除のみ。
教官の術式で地上の様子はある程度わかる。
トリ女はあのデカブツを倒す手立てがなく、教官を守る結界は消えかけている。
一刻も早く、教官の救援に駆けつけることが全てに優先すべきことなのは疑う余地がない。
それに、教官が未だに退避していないのは朝陽に対する信頼によるものだということを朝陽は理解している。
そして、教官に救われてからその信頼を裏切ったことは一度もなく、これからもあってはならない。
まして、教官への献身で渡来人のトリ女に負けることなど絶対に許されないのだ。
教官に必要なのはうちで、うちが一番教官の役に立つ。
それをあのトリ女に分からせてやる。
「再点火!」
爆発の中にさらに爆発を発生させ、さらなる推進力によって朝陽は地上の光の中に飛び出した。
発電施設の破壊に向かう地龍は真下から飛び出した『脅威』に振り返った。
地下の鉱脈にいた奴らだ。
特に緑のやつは自分を殺すことができる、危険だ。
地龍は触腕を飛び出した緑のやつを迎撃すべく振り向ける。
アクティブスキル:縮地
パッシブスキル:超加速
パッシブスキル:知覚強化
祝福:反応速度上昇
「風刃!」
そしてすべての触腕が今まで脅威として見ていなかった空を飛ぶ小さな羽虫によって切り飛ばされた。
「再点火!」
緑のやつはその隙きを逃さず身動きが取れなくなった地龍の胴体、未だ修復が終わっていない破孔に炎を纏う砲弾となって着弾した。
凄まじい浮遊感、激烈な光の歓迎、地上に出れたのを知ったときには僕は朝陽ちゃんから振り落とされて宙を舞っていた。
まずいまずい、あのチョココロネのおばけ、地龍が下に見える。結構な高さだ。
どのくらい高いかというと人間が落ちたら死ぬ高さだ。
これが少年漫画なら悪役が「空中では身動きが取れまい」とかドヤ顔するとこだ。
そのとおりだよ畜生、いつもなら勝手に発動する『自己防衛』も発動しない。
ドワーフ顔の言うとおりなら何やっても助からないから発動しないということなんだろう。
おまけに地龍がこっちに気づいた。
まずいな、これ地面に落ちる前に踊り食いにされるんじゃないか?
だったら多分地面に落ちたほうが楽に死ねると思うから落ちるまで待ってほしい。
そう思っていたら人生において最大の選択になるかもしれない選択は無意味になった。
地龍から生えた頭と手足がすべて切り落とされて地面に落ちた。
見えないほどに速いなにかが僕らを躍り食いしようとした地龍を地面に沈めたんだ。
そしてそれをやったのが誰かもすぐに分かった。
「ハーピーさん!」
艶やかな紫色の髪、宝石のような緑の瞳の天使が僕を救ってくれた。
一緒に振り落とされていたちんまいおっさんとチビDQNもついでに助けられたようで、チビDQNは僕と反対の手に抱えられて、ちんまいおっさんはスラッとした脚にしがみついていた。
くそったれこのおっさんどさくさに紛れてハーピーさんのなだらかなお尻を撫で回してやがる。
「ジークフリートさん、場所替わってくれません?」
「嫌です」
シケたおっさんだ。だから前世でうだつが上がらないんだということが今になっても理解できないらしい。
「再点火!」
一方僕を振り落とした朝陽ちゃんはというと、手足と首を失って地面に転がったチョココロネに向かって火を吹きながら突っ込んだ。
「退避します」
ハーピーさんがそう言った直後、朝陽ちゃんが突っ込んだチョココロネの穴という穴から火柱が吹き上がった。
祝福:炎耐性
祝福:再生能力強化
まともな生物なら一瞬で消し炭なんだろうけど、チョココロネは炎に焼かれた端から体を修復しているようだった。
それでも朝陽ちゃんが体を焼くのが早い。
チョココロネが火で中から燃やされているうちにあたりには香ばしい匂いが立ち込めてきた。
「祝福というのもいいことばかりではないんですね」
ちんまいおっさんはどこか他人事のようにその光景を眺めている。
このおっさんも炎に耐性があったなそういや。
祝福というのは僕ら転生者が持つ特性のようなもので、身体能力を強化したり病気にならなかったり、体に起こる不都合を軽減するもので、常時発動しているものらしい。
だから炎に耐性があると、ちょっとやそっとじゃ火傷しないし、熱さも感じにくくなるらしい。
実際ちんまいおっさんはガソリンかけて火をつけてもピンピンしてたし、地下の爆発に巻き込まれても火傷一つ負っていない。
地龍にはそれの比にならないレベルの炎耐性と、手足がもげても一瞬で生え変わる再生能力があり、普通は死ぬような事態に出くわすことはない。
出くわすとしたら、普通じゃない殺され方をするときだ。
普通じゃない殺され方、目の前の地龍のようにあんなに時間かけて体の中から炙り殺されるくらいならすぐ死んだほうが幸せだろう。
5分ほどたったころ、チョココロネは完全に奥まで全身くまなく火が通ったこんがり肉になり動かなくなった。
そしてチョココロネから朝陽ちゃんの薙刀が飛び出し、ついで朝陽ちゃんが這い出したことで地龍は完全に死んだことが確認された。
こうして、スリルと冒険の洞窟物語はここに幕を下ろしたのでした。
疲れた、寝る。
「では、回収をよろしくお願いします。あ、先輩、そこは地龍の鱗が散らばってます。踏んだら安全靴の鉄板を突き抜けるんで注意っす」
「まじかよ、ていうか東城よう、地龍の内臓がえらい少ないぞ」
「傷みやすいところは旅団で食いました。くさみが強いんで葱と生姜を大量に使う必要がありましたが旨味が強くてうまいっす」
「よく食う気になるな・・・」
「腐らせたらもったいないでしょう。先輩もどうです?」
「いらね、帰って嫁の飯食うわ」
「ああ、緋本原に来たらベヒーモスのモツをお土産にどうぞ。このあたりはよく出没するので旅団起こしで売り出してるっす」
「よく売る気になるな」
「ベヒーモスは捨てるとこないっすよ。肉も臓物も無毒で栄養価が高いし、革はなめして外人部隊の装備にできるっす」
「え、うん・・・」
妖怪チョココロネを倒したあと久しぶりに夢も見ない深い眠りに付いた僕はどうにも半端な時間に目が醒めた。
ドワーフ顔のおっさんが少し年上っぽい白衣の男にチョココロネの死体を引き渡していた。
あれが、たまに名前が出てたベルンハルト財団という連中だろう。
白衣の指示で防護服を着たスタッフがチョココロネの解体にかかっている。
「おおドッグシットワン!起きたか!」
くそったれあのドワーフ野郎気づきやがった。
「ええ、おかげさまで・・・」
ハーピーさんはいないのかなんの値打ちもない会話だなさっさと切り上げよう。
「報酬はジークフリート殿に渡しといたぞ。今は休んどるけえ起きたら貰いに行き」
「ええそうします」
おっさんと無為な時間を過ごす精神的苦痛は天使がいない今金でしか癒せない。
ドワーフ野郎を振り切ったらおっさんを叩き起こして労働の対価を受け取るとしよう。
「お?誰か来たか?」
ドワーフ野郎との無益な時間は意外なところで中断された。
僕らが詰めてる詰め所によたよたとジープが近づいてきた。
ジープは激戦をくぐった後なのか窓ガラスが全部割れ、車体のあちこちに無数の弾痕が刻まれボディは変形して元の形がわからなくなっていた。
そしてそのジープは防護服が回収し忘れた地龍の鱗を踏み抜き、盛大にタイヤが弾けて力尽きてしまった。
このジープには心当たりがある。
その心当たりは変形したジープのドアを蹴破って外に這い出してきた。
銀髪、紫の目、小豆色の芋ジャージ、転生者『シルベリーホワイト』はよたよたとドワーフ顔に道を聞くとさらによたよたと詰め所に入っていく。
「うお、アンジェリーナ!お前何しに来た!」
詰め所の中から片目の男『サイクロプス』のでかい声。
「車が壊れた。あと帰りの交通費がない」
「うわwダッせw」
「スコット、金貸して」
「バカ言うなよwオレ様に金があるわけ無いだろ。義務教育で習うだろ」
「いいから貸せ」
「無いもんは無理ーwここでの報酬は全額鉱脈の修理代で天引きされてるからカード盗んで『生命付与』しても無駄だぞw」
自慢にならねー。
「なんだったらここでオレ様の家来として働かせてやってもいいぜwここなら電気、水道、ガス全部無料だw」
「チッ!スットコの貧乏人が」
うわ、なんだこの底辺の争い。やだねえ、人間こうはなりたくないね。
あいつら僕には理解できない人種だ。
芋ジャージはプリプリしながらサイクロプスの詰め所を出ると隣の部屋にノックもなしに乗り込んだ。
「セシリア、金貸して」
「嫌です」
待ち望んだハーピーさんの美声、そうか、ハーピーさんはセシリアという名前なのか。美人にふさわしい美しい名前だ。
「倍にして返す」
「今貸してる500万縁を1000万縁にして返してから言ってください」
「暴利すぎる!?」
「自分で言ったんじゃないですか!?」
「明日までに金を準備しないとまた漁船に乗せられる」
「またヤクザから借りたんですか!?」
ああ、この世界にもヤクザいるんだ。ていうか、『また』ってなんだよ。
金にだらしないにも程があるぞ。
「新発売のドローンがどうしても欲しかった。外人部隊は貸してくれないし仕方なかった。」
あの芋ジャージ、カスだな。
なんだろう、芋ジャージから人間として尊敬できる要素が何一つ見つからない。
ここにいたら僕まで人間が腐ってしまうな。セシリアさんに会えないのは残念だけど仕方ない。
「ん・・・」
視線を移した先にいたのは朝陽ちゃんだった。
いつもの偉そうな軍服でも、地下で大暴れしたときの緑の鎧でもなく、普通の民間人の女の子が着るような普通の格好してたから一瞬わからなかった。
「なんか用?」
『自己防衛』が発動しないということは僕を取って食おうというわけではないだろうけど油断はできない。
この子は短気でなんの拍子にキレるかわからないからだ。
そしてキレたら僕の体は一秒も立たずにランチョンミートに加工されてしまうということは地下で嫌というほど理解している。
「これ、あげる」
警戒する僕に朝陽ちゃんがよこしたのは一抱えあるでかい保存容器だった。
朝陽ちゃんは片手で渡したけど僕は両手でかろうじて支えてる。かなり重い。
「なに、これ」
「晩御飯。さっきまで寝とったしまだ食べとらん思うて」
一食分とは思えない暗い重いんだけど。
「あっちで食べよ?」
朝陽ちゃん促されるままに静かな場所に連れて行かれ、そこで保存容器の中を見ると、
8つの保存容器に肉肉肉肉肉米米米米。
いやこれ、一食で、しかも寝起きで食える量でも内容でもないぞ。
「今日回収した地龍の余り。あんたら渡来人は新鮮な状態なら外来種の体から祝福を取り込めて元気になるって教官が言うとった」
「だから僕に食えって?」
「うん」
一応、僕を気遣ってくれてるということなのかはわからないけど、とりあえずもらっておこうか。
「火炎弾」
少し冷めてたから保存容器に混じってたメタクッカーに火を付けて温めよう。
保存容器に入った骨が突き刺さった塊肉を炙ると油が滴り落ちた。
寝起きで食える状態ではないと思っていたけどこの香ばしい匂いに消化器官は緊急戦闘配置についた。
一口かじると肉は柔らかく、噛めば噛むほど脂がしみ出す。
これはうまい。
ていうかあの岩の塊のチョココロネのどこにこんなにうまい部位が隠れてたんだ?
よく売れ残らなかったものだ。
やべえ、食うのが止まらねえ。口の中に脂が広がって口の滑りが良くなってるぞ。
こりゃもう米を食うしかねえな。
脂が沁みた米、これに勝る組み合わせはない。
食道に溜まった脂が米で押し流され胃に落ちる感覚がたまらない。
絶対食えないと思っていたマンガ肉と米がアクセル全開にしたアメ車の燃料ゲージよろしく目に見えて減っていく。
うまい!うまい!うまい!
僕を見る朝陽ちゃんもこころなしか嬉しそうだ。
「今日は、ありがと」
朝陽ちゃんがそう言ったような気がしたけど、それを訊き直すのはなんか違う気がしたからそのまま肉を食う。
暗い子だと思っていたけど笑うとこの子も結構可愛いじゃないか。
完璧超人のセシリアさんと比べるからあれなだけで悪い子じゃないのかもな。
そうこうしているうちに肉を食い終わった。
「おやすみ朝陽ちゃん」
「おやすみ」
食い終わると再び眠気が襲ってきたので僕は詰め所に戻ってまた深い眠りに落ちた。
「東城、あそこに置いてる肉は食わんのか?」
「ああ、あれは無理っす。脂に問題があって食ったらとんでもないことになるっす」
「意外!お前も食えんもんがあるとは」
「そりゃありますって。まあ、食用とはいかんでも脂は他に使い道はある思うんでこれはこれで使わせてもらうっす」
「ああ、そう」
翌朝、僕の下半身はとんでもないことになっていた。
「うわ、くっせ!何やってんだよいい歳してよお!」
チビDQNめ、露骨なこと言いやがって。
そうしている間も僕の尻穴からは冷たいものが流れ落ちていた。
「とりあえず便所に・・・」
「動くな!周りに撒き散らす気か!」
「まず距離を取ってください!ソーシャルディスタンスが重要です」
うるせえ僕のソーシャルは現在進行系で無限の彼方に吹っ飛び中だ。
「おいどうした!」
騒ぎを聞きつけたドワーフ顔が僕らの詰め所に乗り込んできた。
その後ろには一番今の僕を見てほしくない人が。
「ハーピーさん、これには訳が」
「動かないでください!」
そんな鼻つまんで露骨に嫌な顔しないでくださいよセシリアさん・・・。
くそ、終わった。僕の社会的生命はここに幕を閉じてしまった。
「あの肉食ったんはお前か・・・」
ドワーフ顔はこの事態に心当たりがあるようだった。
「地龍の肉でとりわけ脂が多い部分があってな・・・。しかもワックスのような組成で人間の消化液で消化できん代物じゃけえ脇にのけとったんがのうなっとって何事か思うたら・・・」
あの肉、脂。
そうか、昨日晩食った肉、アレのせいでいまの僕の惨状があるわけか。
「しかし、俺も食えんかった肉を迷わず食うとは、やるのう」
嬉しくねえよ、ついでに好きで食ったわけじゃんねよ。食わせたやつがいるんだよあんたの後ろに。
ケラケラ笑うドワーフ野郎の後ろ、朝陽ちゃんが気まずそうに視線を反らした。
「君のせいで・・僕はっ、僕は普通だったのに・・君のせいで今、大変なんだから」
昨日見直したと思ったらこれだ。やっぱあの子気が利かねえ。
余談ではあるけど、このことが後に外人部隊に知れ渡ったことで、一方的につけられた『犬の糞一合』の名前が不動のものになったことはここに記しておかねばなるまい。
僕の『緋ノ本』での異世界生活はこうして始まり、ソッコーで社会的に終わったのだった。
To_be_Continued.




