潜地竜(グラボイド) 前編
設定:
渡来人:異世界から緋の本に転生した転生者
奇跡:摂理に干渉して様々な現象を発現させる特殊能力
祝福:渡来人に発現する身体能力等の強化
外来種:異世界から送り込まれる異能生物
外人部隊:渡来人で構成される傭兵部隊。いわゆる冒険者ギルド
国防隊:緋ノ本が擁する常備軍。現在は軍閥化している
旅団:緋ノ本各地に存在する軍閥による自治区域
あらすじ:
緋本原旅団が擁する鉱脈が、外来種、グラボイドによって占拠された。
僕は鉱脈奪還の依頼により機導兵、敷島朝陽少尉とともに鉱脈を進む。
圧倒的な戦闘力で鉱脈内の外来種を撃破していく敷島少尉だったが・・・。
空からだと分からなかったけど、鉱山の内部はどうも面倒なことになってるようだった。
「揚水装置3基破損、落盤と水没で進入できない鉱脈が複数ありますが全容は掴めていません・・・。」
「そうか」
ここの責任者と思しき迷彩服のおっさんの報告をドワーフ顔の少佐が聞く。
「更にまずいことに、先日の光の余波で発電施設も損壊しまして・・・。簡易結界の出力が低下していて現在も複数の外来種の出現が確認されています・・・」
「発電施設の復旧はいつできる?」
「それが・・・鉱脈から出てきた潜地竜が巣を作ってしまい、工兵が近づけない状態です」
ドワーフ顔は困り顔の迷彩服から視線を片目の転生者のおっさんに移す。
「なんだよ!?オレ様が悪いって言いたいのか!?」
「ちょうどそう言おうと思っていたところです。出した損害については今後の労働で返済していただく予定です。つまり拘留期間の延長ですね」
「上等だ、どうせ家に帰っても水も電気も止まってんだ。一生いてやってもいいぜ」
自慢にならん・・・。
「とにかく、対策を練っていきましょう。大先生殿、鉱脈内部の様子はわかりましたか?」
ドワーフ顔の指示で地価の様子を探っていたちんまいおっさんは四つん這いの姿勢からのっそりと立ち上がる。
「水没、落盤がある通路は把握しました」
「ではこちらの地図に記入をお願いします」
ちんまいおっさんは奇跡:制地で把握した情報を地図に書き写していく。
「これから我々がやるべきことは2つ。
一つは発電施設の奪還、これは小職とハーピー殿で行います。潜地竜の排除を確認次第工兵は復旧作業に移ってください。
もう一つは鉱脈内にいる外来種、特に潜地竜は必ず排除してください。
これは大先生殿、犬の糞1号、チビ野良犬殿にお願いします」
僕だけ呼び捨てなのはどういう了見だ?
「しかし、潜地竜に我々の武器は通じるんでしょうか?国防隊の武器で倒せるなら既に発電施設を奪還可能かと思うのですが」
ちんまいおっさんの質問にドワーフ顔が答える。
「火力要員として朝陽をつけます。機導兵装であれば潜地竜を撃破可能なのでみなさんは索敵をお願いします」
ああ、あの子ね。
薙刀の一撃で地面にクレーターを作るのを間近で見たよ。
「うち、教官と一緒がいい」
めっちゃ嫌な顔してるじゃん。
「お前の兵装じゃ発電施設が壊滅するわ」
僕が壊滅するのはいいのか!?
「朝陽を頼むぞ」
僕の心の叫びは届かず、半強制的に大量破壊兵器を押し付けられた。
「では作戦にかかりましょう」
ホームセンターで暴れたのが嘘みたいに朝陽ちゃんはおとなしかった。
自分の体より大きい薙刀を抱くようにして僕らの後ろを一言も発さず付いてきている。
たまに後ろを見ると一瞬怯えたような目をして、何も言わずに後ろを付いてくる。
ほんとに暗い子だな。明るいのは名前だけだ。
「ここは右です。左は水没しています」
ちんまいおっさんの能力は極めて優秀だ。通れる道、通れない道が見なくてもわかる。
おかげで迷うことなく鉱脈を進む事ができる。
「あ、前からなんか来てる」
発電施設が壊れたということで、内部の電灯は消えてしまっていて鉱脈の中は真っ暗だったけど僕のタカの目は目の前の状況がよく見えていた。
目の前の通路を這うようにでかいムカデが接近してくる。
表示は、赤、敵だ。それもこっちにもう気づいてる。
「おいチビ、手伝え!」
「わ、わかった!」
ビクビクしながらライト付きの小銃を構えていたDQNを呼びつけ、目標に向かって撃つ。
重い音と赤い火と肩に響く反動でこの銃には十分な威力があるのがわかる。
わかるけど。
「おい、全然効いてないぞ!どうなってんだ!」
「効いてないんじゃない!安全装置が入ったままだバカ野郎!効いてないのは僕の弾だ!」
僕の弾は何発か当たったけど弾かれてしまってる。
ムカデには傷一つついてない、ていうか弾が当たったことに気づいてもいない。
もっと強い武器はなかったのかあのホムセン。
「ひいい!」
パッシブスキル:自己防衛
スライディングのように仰向けに倒れた僕の頭上をでかいムカデが通過、その先にいるのは、
「朝陽ちゃん!?」
やばいぞ、あの子のお守りはあのドワーフ顔から頼まれてるんだ。
置いて帰ってきたら列車砲に詰めて成層圏まで飛ばすと言って釘刺されてるから地上に戻ったら殺される。
「兵装起動」
という心配は杞憂だった。
何かの装置を起動した朝陽ちゃんは緑の鎧の姿に変身し、そのまま薙刀を振り抜いてムカデを縦に真っ二つに叩き斬ってしまった。
「爆炎!」
さらにムカデにめり込んだ薙刀の先端が爆発してムカデを木端微塵に吹き飛ばすおまけ付き。
つ、強すぎる・・・。
「まだなんか来る・・・・」
朝陽ちゃんは勝利に酔うことは一切なく、薙刀を構え直すと嫌な予言をする。
「みなさん、いまので潜地竜がこっちに気づいたようです」
「ま、まじかよ・・・」
DQNは早くも逃げ腰だ。
正直僕も逃げたい。
「じゃあ早うやっつけて早う帰ろ?」
しかし朝陽ちゃんはやる気満々だぞ。
呼応するように地面がグラグラ揺れだした。
「敵はどこおるん?」
朝陽ちゃんは薙刀を構えつつ周囲を警戒する。
ちんまいおっさんが再び制地を発動する。
「後ろです!」
{!?}
同時、朝陽ちゃんの背後の壁をぶち破って現れたでかいチョココロネの怪物が口から飛び出した触手で朝陽ちゃんを拘束した。
チョココロネは触手を引いて朝陽ちゃんを丸呑みにしようとする。
「こんにゃろー!」
女の子らしからぬ掛け声とともに薙刀の逆側を地面に突き立てて朝陽ちゃんが踏みとどまった。
思わぬ抵抗にチョココロネの動きが止まる。
一拍おいて再びチョココロネが動き出した。
「うりゃあああああ!」
拘束されてるはずの朝陽ちゃんがワイルドな掛け声とともにチョココロネを穴から引きずり出していく。
すごい力だ。
チョココロネはなおも抵抗したけど朝陽ちゃんの怪力に勝てないと判断して触手を放した。
そこからすぐに逃げを打とうとしたけど朝陽ちゃんのほうが次の動きが早かった。
地面に刺していた薙刀を引き抜いて槍投げよろしくチョココロネの尻にぶっ刺した。
「爆炎!」
そしてチョココロネが爆発した。
ちなみに、ドイツでは年間平均十人が尻に高圧の空気を入れて命を落とすらしい。
後ろ半分が消し飛んだチョココロネは大きな口をモゴモゴして何かをしようとして、そのまま年間十人のドイツ人の仲間入りを果たした。
「これはあとどんだけ居るん?」
「残りは2体ですね、一体は地上で国防隊と戦闘中のようです」
薙刀を拾った朝陽ちゃんの問いにちんまいおっさんが答える。
「じゃあ早う案内して。モタモタしょったらうちの教官がトリ女に何されるか分からん」
それは適切じゃない。正確には僕のハーピーさんがドワーフ顔のおっさんに手篭めにされる。が正解だ。
言葉は正しく使おう。
まあ声には出さないでおくけどな。また地面に穴あけられたらかなわない。
とはいえ、急いだほうがいいのは僕も同感だ。
「おいチビ行くぞ、ハーピーさんのために動け」
「ま、待てって・・・」
ちんまいおっさんは朝陽ちゃんを引っ張って鉱脈の奥へ進んでいく。
僕らだけになったらチョココロネどころかさっきのムカデでも勝ち目がない。
僕は腰を抜かしてへたり込んでいたDQNを立たせるとケツを蹴飛ばして歩かせながら朝陽ちゃんのお尻についていく。
ハーピーが空中から見た発電施設はすでに生態系ができつつあった。
今、その頂点にいるのが潜地竜。
手足も目もないこの外来種は出現した獲物を地面に引きずり込んでいく。
ハーピーは潜地竜の位置情報を司令部の東城少佐に連絡する。
「目標はなおも活動中、近辺に他の外来種はいません」
生き残った他の外来種は既に誰が王者かを理解しているようで、発電施設から逃げるように散ってしまっていた。
「それならやりやすくなりますね。ハーピー殿、始めてください」
「了解しました」
ハーピーは高度を下げ右手に理力を込める。
「風鎚!」
右手から放たれた空気の塊が地面を叩き、けたたましい音を立てる。
その音に誘われて潜地竜が地上に姿を表した。
「かかりました!」
「そのままKPに誘導してください」
「了解!」
ハーピーは潜地竜の前に空気の塊をぶつける。
4発を1セット。陸生の外来種を装う。
潜地竜は見えない獲物の音を頼りに地上を走る。
そして、自然には存在しない金属の擦れる音が聞こえたとき、違和感に気づいた。
「撃ち方はじめ!」
東城少佐の号令とともに、潜地竜を扇形に取り囲んだ国防隊の火砲が一斉に火を吹いた。
地下を移動する潜地竜に火力を投射するのは困難、おまけに発電施設の近くにいたせいで攻撃の機会を得られなかった。そこでハーピーの奇跡で誘い出す作戦に出たが、これは成功と言って良さそうだ。
「この零式機動山砲は聖和元年に配備が始まった山砲でその名の通り山岳地帯での運用を前提としており分解、組み立てが容易で迅速に展開できる優秀砲として評価が高く後に勃発した『大征伐』でも多数が運用されその生産数は100000門以上に登る以上といった理由は民間や現地部隊が現地の設備でノックダウン生産したものが多く存在しているため『軍』の資料からでは正確な数を追うことが不可能という理由があるわけだがこの事実は本砲が設計、製造、運用全てにおいて優秀だという証左に他ならず本砲の特色としては開発開始と同時期に戦車が運用され始めたことから対装甲目標への貫徹能力を重視した高初速の弾体を使用するため当時としては異例の小口径長砲身となっていることが大きな特徴となっているがこれにより砲身の肉厚を従来より薄くすることが可能になり軽量化されたことも高評価の要因となっているしかし『大征伐』後期に大量配備された軽便、高火力な無反動砲の台頭によりその後大量に払い下げられたものを各地の旅団が安価に調達しその多くが現在も稼働している確かに一名で運用可能な無反動砲に対し分解組み立てが必要で四名の人員が必要な本砲は機動力では劣るがその貫徹能力は現在も健在であり硬質な外殻を持つ外来種には未だ有効な攻撃手段となりうることが証明されているぞ」
「少佐!目標、まだ動いてます!」
砲兵の報告の通り、零式機動山砲の斉射を浴びてもなお潜地竜は死滅していなかった。
しかし、山砲は少佐の説明通りの性能を発揮していることは明らかで、砲弾は潜地竜の外殻を貫いて内部に入り込みその炸薬の力で内側から肉ごと外殻を抉り取っていた。
倒しきれなかったのはその巨体が原因だった。
零式機動山砲の『本来の』仮想敵は人間が作った装甲目標であり、それらは通常は輸送性と秘匿性のために小型になるように設計されるが、外来種はそうではない。
仮想的を人間や渡来人、もしくは別種の外来種として適応した外来種は体格で優位を取るため大型化する傾向が強い。
それでも計算上は倒しきれる火力を用意したつもりだったが、この個体は他の外来種を捕食したことで、捕食した個体が持つ祝福を一時的に得ていたらしく平均的な個体より頑丈になったと考えられる。
「おい若造!反撃が来るぞ!」
「総員防御姿勢!」
砲兵の護衛についていたサイクロプスの警告に、二撃目の指示を出す直前で指示を切り替え、砲兵は迅速に山砲に取り付けた防盾に退避する。
遅れて潜地竜が巨体を持ち上げ、空中に大量の粉塵をぶちまけた。
「おいまずいぞ」
サイクロプスはこのやり口を知っている。鉱脈内でやられた手だ。このあと潜地竜は歯をこすり合わせて火花を起こして炭塵爆発で周囲を一掃する気だ。
これは遮蔽物に隠れてもどうにもならない。
自分だけなら身を守ることはできるが砲兵とこの少佐は助かるまい。
「ハーピー殿!」
少佐は動じることなく上空に待機していたハーピーに指示を出す。
ハーピーの動きは迅速だ。
一瞬にも満たない間に上空から潜地竜の正面に降下すると同時に風を操るスキルを発動。
「天翔(キュリオス(!」
一瞬にしてハーピーのもとに集まった大量の空気が弾けて上昇気流へと変化し、周囲の炭塵を吹き飛ばした。
遅れて潜地竜が起こした火花によって炭塵が連鎖燃焼するが、炎ははるか上空で潜地竜が期待する効果はなかったようだ。
しかしそれでも山砲の二撃目が遅れたことは潜地竜に次の手をうつ猶予を与える結果となった。
体表から分泌していた体液でほぐしていた地面に向かって潜航を始めた。
「逃がすか!」
「発電所に当たる。撃つな!」
光波斬を撃とうとしたサイクロプスは東城少佐に制止された。
「風刃!」
一方でハーピーも次の動きに入っていた。
国防隊支給の緋本刀を抜き放つと刀身に収束した理力で圧縮空気の刃を放つ。
放たれた刃は潜地竜の外殻を削り取ったが、致命傷を与えるには至らない。
「はっ!」
だがハーピーの攻撃もこれで終わりではなかった。
右手が刀身を振り抜くと同時に左手の鞘に理力を込めて振り抜く。
放たれた風刃が先程削った外殻と同じ場所に命中し、更に殻を破壊していく。
上体を振り抜いた勢いをそのままに三撃、更に四撃で外殻は完全に破壊された。
しかしそこまでだった。
五撃目を放つべく理力を集めたところで支給品の緋本刀の刀身が砕け散ってしまった。
「くっ・・・」
あと一歩、わずか一撃の差で潜地竜は地下へと脱出を果たす。
パッシブスキル:先制
その一瞬前に東城少佐が六連発の拳銃を抜いてハーピーが穿った場所に六発の弾丸を撃ち込んだ。
少佐の使った銃は比較的大口径だが、対人用の弾丸では止めをさすには至らず、潜地竜は地面の中へ姿を消してしまった。
「申し訳ありません・・・」
あと一歩で獲物を逃したハーピーは悔しげに潜地竜が掘った地面の跡を見ていた。
「いえ、十分です」
東城少佐はそこまで落胆はないようで、無線機で地下と連絡を取る。
「朝陽、一体そっちへ行った。相手は手負いで発信機で追える。頼むぞ」
少佐はそれだけ言うとハーピーへと向き直った。
「さて、後は朝陽に任せておけばいいでしょう。小職の兵装は朝陽が使えば『神器』にも遅れは取りません。ハーピー殿は地上の外来種の駆除と工兵の護衛を引き続きおねがいします」
少佐の平坦な指示に、ハーピーは少佐の『緑の悪魔』への信頼と、自身の『成果物』への絶対の自信を感じていた。
「なあ、もう全部あいつ一人でいいんじゃないか?」
チビのDQNが耳打ちしてきたがその意見にはまったくもって賛成だ。
あいつというのは、朝陽ちゃんのことだ。
そして、朝陽ちゃんは、強かった。
どう強いのかと言われると、とにかく強いという言葉しか出てこない。
チョココロネのお化け(グラボイドとか言われてるやつ)を倒したあと僕らは何度もいろんな外来種に襲われた。
そして朝陽ちゃんはそれを全部やっつけた。
「うりゃああああああ!!!!!」
訂正、今もやっつけてる。
岩みたいな肌の岩に擬態したでかいサイみたいな外来種を自慢の薙刀で一方的に殴り殺してミンチにしてるところだった。
あの薙刀の威力に恐ろしい破壊力があるのはわかったけど、朝陽ちゃんの強さはそれだけではなかった。
ついで襲いかかってきたでかいコウモリの大群、これは大ぶりの薙刀では不利かと僕が思う前にスカートの中から飛び出した大量のミサイルがコウモリの前で一斉に炸裂して全部撃ち落とした。
「ギッ!?」
「朝陽ちゃん、あそこ」
僕がタカの目で暗がりを見ればなんか小さい人型の外来種がいて岩陰からこっちに石を投げてきた。
そのうちのひとつが朝陽ちゃんの頭に当たった。
しかし朝陽ちゃんは痛がる素振りもまったく見せず、薙刀を持ってない左手をかざして奇跡を放った。
「火炎弾」
聞き間違いでなければそれは僕も使える奇跡のはずだ。
はず、といったのは朝陽ちゃんの手から出た火の玉は僕がいつも出してるものとだいぶ違うからだ。
どのくらい違うかと言われると野球ボールと大玉転がしの玉ぐらい違う。
大きいほうが朝陽ちゃんだ。
放たれた炎の大玉は進路上の全てを焼き払い、洞窟の奥に消えていった。
「目標は撃破、奥で待ち伏せしていた小鬼も殲滅完了です」
制地の奇跡で洞窟内の敵を探していたジークフリートのおっさんが近くには敵がいないことを教えてくれた。
「あの奥に20体ばかり潜んでいたようです」
さっきのちっこいのが誘い出して囲んで一網打尽にしようとしてたのだとおっさんは言う。
しかし、その程度の小細工は朝陽ちゃんという絶対的な理不尽の前にはなんの意味もなかったということだ。
朝陽ちゃんは脅威がなくなったことを喜ぶでもなく自分の鎧と薙刀をチェックするとつかつかと近づいてきた。
「やあ、おかげで助かったよ」
近づいてくる朝陽ちゃんに感謝の言葉を言っておく。
朝陽ちゃんはさっきの外来種をあっさり倒していたけど、僕らの武器と奇跡ではムカデにもサイにもコウモリにも手も足も出ないことがこれまでの道程でわかっているからこれは本心だった。
唯一勝てそうだったのはちっこい小鬼くらいのものだけど、あいつらはほぼ集団で動き、集団に囲まれたら勝ち目がないから僕とおっさんとDQNはこの穴の中では最弱と言わざるを得ない。
だから朝陽ちゃんがいることで僕らは脅威から守られているということだ。
まあ、朝陽ちゃんにとってはあのぐらいは脅威のうちにも入ってなそうだけど。
「潜地竜がおらん!」
朝陽ちゃんは僕の感謝の言葉に返事もせずおっさんに詰め寄るとおっさんを片手で吊り上げて恫喝を始めた。
「ここにおるいうたやん!なんでおらんの!!!」
「ぐ、ぐるじい・・・」
おっさんは何かを言おうとしてるが気道が圧迫されてるのか声が出せないようだ。
「ちょっと、落ち着けって」
「よせって」
朝陽ちゃんを抑えようとしたDQNを制止する。
僕らが止めに行ったところで死体が増えるだけだ。
「あ、潜地竜だ!」
できるだけ朝陽ちゃんに近づかずに朝陽ちゃんを止めなければ今度は朝陽ちゃんに殺されてしまう。
おっさんとDQNが死ぬのは感情的にはなんの問題もないけどおっさんしか洞窟の構造がわからないから今は生きていてもらわないと困る。
パッシブスキル:自己防衛
朝陽ちゃんが鎧の中にあった手槍を抜き取って僕に投げてきた。
飛んできた手槍は僕の頭の位置を通って進路上の石柱を粉砕しながら洞窟の奥に消えていった。
なんでこの子はいちいち攻撃を仕掛けてくるんだ?
「おらんやん!うちをおちょくっとるんね!?」
やばい、ヘイトがこっちに向いてる。
「待て!落ち着け!」
「潜地竜は我々の接近を知って逃走したんです!どうやってか我々の位置を知って逃げ回ってるんです!」
解放されたおっさんが朝陽ちゃんを説得にかかる。
おっさんが言うには、
潜地竜は視覚が退化している分他の感覚器が鋭敏、特に振動を感知する能力が高いのでおっさんが潜地竜を見つけても、移動するときに発生する振動でこっちの位置がバレて逃げられてしまう、ということらしい。
さらにあのチョココロネは見た目以上に知能が高いらしく、最初の一体を倒された時点で朝陽ちゃんが自分より強いと学習し、逃げを選択する知能を発揮しているということだ。
「さらに、あちらは穴を掘って逃げるので順路の縛りがありません。待ち伏せや挟み撃ちも難しいでしょうね」
「じゃあどうするん」
「わからない、お手上げだね・・・」
「っ・・!?」
実のところ、僕にはチョココロネを捕まえるための策は持っている。
それは、チョココロネより弱いエサを囮にして誘い出し、エサを食べに出てきたところを待ち伏せして朝陽ちゃんが倒すというものだ。
でもそれを朝陽ちゃんに教えるつもりは『一切』ない。
なぜならさっきの大暴れでチョココロネより弱い生き物は三匹しか残っていないことと、そのうちの一匹は僕だということが理由だ。
おっさんとDQNも同じアイデアを持っていることはさっき目があったときに理解した。そして思いついたことを絶対に口に出さないことを互いに合図し合う。
ついでにいうと、チョココロネが出てくるまで待つということが短気な朝陽ちゃんにできるとは思えない。
それどころか作戦が失敗したら八つ当たりで殺される確率が極めて高い。
「どうしよう・・・」
再び朝陽ちゃんを見ると真っ赤にしていた顔が青くなっていた。
腹痛にでもなったかと思ったけどそうではない。
「もし失敗したら教官に捨てられる・・・」
この洞窟の絶対王者の朝陽ちゃんはひどく怯えていた。
「教官がトリ女に取られる・・・」
ああなるほど、教官、ドワーフ野郎が美人でスタイルも気立てもいい男が思う理想の女性であるハーピーさんに夢中だから根暗で短気で太っちょの自分は捨てられると思っているのか。
「いやそんなことはないと思うよ?出来が悪い子ほどかわいいって昔から言うし。知らんけど」
僕らは朝陽ちゃんの護衛(必要があるとは全く思わないが)も依頼に含まれている。そして朝陽ちゃんなしで僕らだけで洞窟から出たら列車砲に詰めて殺すと念を押されてる。
もし地上のドワーフ野郎が朝陽ちゃんを捨てるつもりなら冗談でもそんなことは言うまい。少なくとも僕は言わない。
パッシブスキル:自己防衛
一瞬前に僕の頭があった場所を手甲に覆われた朝陽ちゃんの拳が通過、そのまま肘まで岩壁にめり込んだ。
「ひいぃっ!」
「うちは教官の役に立つ・・・トリ女なんかよりっ!!!」
逃げる間もなく朝陽ちゃんに壁際まで押し込めれれてしまった。
体が密着しているのに僕の体が感じるのは鎧の感触、鉄板の硬さ。
朝陽ちゃん、胸は結構あっただけにこれはかなり残念だ。
僕を見上げる朝陽ちゃんと見つめ合うこと数秒、なんの喜びもない壁ドンは朝陽ちゃんに入った通信で終了した。
「教官!?え、うん大丈夫よ?一体もう倒したしあと一体は追い詰めたけえ、もう少しだけ待って」
朝陽ちゃんは喜び半分、恐れが半分と言った感じで地上のドワーフ野郎の通信に受け答えしている。
それはまるで授業参観で父親の姿を見つけた父子家庭の息子のようでもあり、0点のテストを見られた劣等生のようでもある。
朝陽ちゃんにとってあのドワーフ顔のおっさんはそういう存在なんだろう。
「あ、うん、そうなん?大丈夫よ。うちならやれるもん!」
何かいいことでもあったのか、朝陽ちゃんは上機嫌で通信を切る。
真っ青だった顔は血の気が戻り、頬には赤みがさしていた。
この子、笑ったらそれなりに可愛いんだな。ハーピーさんには遠く及ばないけど。
「あのトリ女しくじったって。やっぱりうちの方が教官の役に立つんよ。うちらでトリ女がしくじった潜地竜を仕留めるで!」
ああなるほど、ハーピーさんが倒せなかったチョココロネを倒してドワーフ顔に褒めてもらおうって魂胆か。
「ちょっとお待ちを」
僕が朝陽ちゃんに迫られてる時ずっと気配を消していたおっさんが声をかけてきた。
「残りの潜地竜も移動を開始したようです。このまま行くと2体が合流します」
どうして今移動するんだろう?
「おそらく、手負いの同族なら勝てると踏んでいるか・・・」
「二人がかりなら勝てると思ったんじゃねえの?」
おっさんとDQNが推測するが、答え合わせする手段は一つだ。
「行こう朝陽ちゃん!いまならまとめて倒せる!え、あ、ちょっとまって速い速い!」
気を良くした朝陽ちゃんは僕らそっちのけでチョココロネの逃げる先へ、鎧の重さも薙刀の重さも吹き飛ばす勢いですっ飛んでいった。
「僕らも行くぞ!朝陽ちゃんから離れたら僕らだけじゃ生きてここから出られないからな!」
To_be_Continued.




