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6 どのような体験をすれば

 朝食を終えたフリッツたちは王都の騎士団の騎士として帯剣し身支度を整え直すと、宿舎からラウルとやってきていたイリオスと合流した。扱うものが貴重なだけに第三者であるクオアーの立会いの元、候補者たちと交渉する作戦に決まったのだった。イリオスはごくありふれた白いシャツに黒い上着に黒いズボンという魔法使いらしさを感じさせない格好をしていてマントは羽織っていなかった。手に杖を持っている訳でも魔石を持っている訳でもない格好をしていると、真面目な領官のひとりのような目立たなさがあった。ラウルは豪奢な刺繍の施された明るい浅黄色の上着を羽織り首元から品のいいシャツを覗かせた貴族と言ったいでたちだった。剣を持つフォートに「今日は頼んだ、」と言うくらいなので、騎士として振る舞うつもりはないという表明だろう。

 聖堂で治癒してもらい宿舎に戻ったエドガーの付き添いはペトロスがしてくれることになったのだとイリオスは話していて、ラウルの口から尋問を受けるドニや竈番の下男に化けていた精霊使いの話を聞く機会ができた。

 ドニも精霊使いも焦点の定まらない目で竜魔王の話やエクスピアを語るけれど、自身の過去についてやしでかした犯行について尋ねても要領を得ない理屈ばかりを話していて埒が明かないとの評価だった。目撃者が多くしでかした結果が大事(おおごと)なだけに、このままいくと、領法に則って魔香特別措置法が解除され次第処刑される運びになるだろうとの話だった。

「王太子であるフリッツやクラウザー候の命を脅かしたのですから、即刻極刑でいいのではありませんか?」

 カークが不満そうに尋ねると、ラウルは肩を竦めた。

「フリッツの存在は新人騎士フリッツ・レオンとして扱われているから、父上に対してだけの反逆行為として扱われている。父上が領法でと判断されている以上、この領ではこれが最良なのだ。申し訳ないね、」

「まずは領都へ護送される、という段取りですか。」

「ああ。我が領内で内々に処理をする。ブノワ―殿に任せるといっていただいたからね。」

「そうですか。国境警備隊は静観するのですね。」

 ランスが考え込みながら確認する。

「それに、雨が降って聖堂が介入してくると、3国間の火種ともなりうる。公国の人間がこの国と皇国との国交に干渉しようとしたのだからね。我が領の領法で領主の命を狙った出身国不明の流れ者が起こした暗殺未遂事件として処理するのが一番無難なんだ。」

 エクスピアに関りがある者が犯人であると公表する処理もしない、という判断なのだろう。

「雨が降るまでの間に聞き出せる情報は聞き出しておかないといけない、という親切でしょうか、」

 空中を見つめたままランスが尋ねると、ラウルは頷いた。

「ああ、何か聞きたい事柄があるのなら、早めに宿舎に来てください。私かフォートと一緒なら、直接話しても構わないとします。」

「判りました、早めに伺うとしましょう。フォート、いいですか?」

「ランスに任せる、」

 フォートはどこか不機嫌そうな表情のまま頷いた。

 フリッツ自身はエクスピアについて聞いてみたいと思ったけれど、限られた時間の中でやらなくてはいけない事柄を考えると、ドニやエクスピアのことはランスに任せて面会した結果を聞いた方がいいような気がしていた。情報は分散して集めた方が効率がいいとも思う。


 クラウザー候の名代(みょうだい)としてラウルも入札に参加したいとの希望だったので、交渉の場にはかなりの人数が挑む事態になった。

 ドレノは参加したがったけれど、今回の入札には聖堂の人間はいない前提になっているから遠慮してほしいとランスにやんわりと断られてしまっていた。財をひけらかす行為を慎むようにと説く聖堂は、公式には声明を出してはいないけれど、魔石の売買をあまり良しとしていない。皇国は聖堂と親密で、皇国出身者ばかりの入札会で聖堂関係者がいるのは入札し辛いだろうとする配慮だろうとフリッツは思う。

 ドレノは気の毒がったロレッタとともに、フェムールと三人で部屋でお茶会をして待つ計画になった。


 イリオスは部屋を出る前にフリッツたちひとりひとりに『精霊の(グノーシス)(ズ・アイ)』と呼ばれる魔法をかけてくれた。かけながら、「人間が知覚できない事象を一時的に可視化できる魔法で、あのお茶会の場で魔香を可視化したものと同じです、」と説明してくれる。

「お茶会の時は、あのバルコニーにいた者のすべてが知覚できたようですが、違う魔法なのですか?」

 早速魔法の効果を実感しようとあちこちを見て精霊を探しているカークたちを見ながら、ランスが尋ねる。

「はい。この魔法の上級魔法、『精霊の(グノシェ)(ンヌ)』があの時はかけられていたと思われます。空間を支配する魔法なので上級の精霊や竜でないと使えない大技です。人であの魔法を使えるのはエドガー師ぐらいでしょう。」

「それは、流石ですね、」

 ほう…、と誰となく感嘆の吐息が漏れる。フリッツがそれほどの大物の精霊と交渉していたのかと納得したのか、カークが「改めて、ご無事で何よりでした、」と腕を擦ってくれた。


「魔法をかけてもらったのは嬉しいですが、実際に何かを見てみないとかかっているのかどうかよく判りません、」と廊下を歩きながら窓の外を見上げて、カークが呟いた。相変わらずの晴天で、空を飛ぶ鳥の影すらない。

「もう一度ナチョの持ってきた宝石を見れば、価値が判りますかね、」

「あいつにもかけてやれれば良かったな、」

 そうすれば、騙されて紛い物を買わされたと気が付くだろうに。

「いけませんよ、フリッツ。同情しては。」

「カークは厳しいな、」

 フリッツたちのすぐ後ろを歩くキュリスが「見えても魔法で騙しただろうと言って怒りそうだよな、」と笑う。


 先頭を行くランスとフォートの後ろを歩くイリオスが、廊下から窓を見上げて公国の言葉で「空の底には何がある、」と呟いた。すぐ後ろを歩いていて聞こえてしまい、フリッツは公国の夏の言い回しだと気が付いた。


 海の底には城がある。

 空の底には畑がある。


 どちらも夏の風景を例えているのだと、語学の教師に教えてもらった経験があったのを思い出す。公国では子供のうちに倣う童謡なのだと四季の他の季節の言い回しも教えてもらった。花の底には川がある。山の底には橋がある。…。

 フローラやラケェルの顔を連想してしまう。夏になると私は旅立つのだと、空を見ながらフリッツは無意識に公国語で答えていた。

「畑だろうな、」

 しまった、と思うよりも先に、振り返りニヤリと笑ったイリオスと目が合ってしまった。試したのか。尋ねようとしたフリッツを躱して、イリオスはさっと前を向いて何事もなかったかのように歩いていく。

 公国の言葉が理解できると確認されたのだと判ると同時に、この場ではもしかすると公国の言葉が理解できるのは私だけではないのか。フリッツは考える。これから会う商人たちは出身が誰も皇国なのだと聞いている。公用語は皇国でも使う機会があっても、この国のこの宿に長く滞在して王国の商人と取引がある商人なら、公国語よりも王国語に長けている可能性がある。

 イリオスの声には注意する対応をしよう、と心に決めておく。


 ※ ※ ※


 部屋の中には既に正装したクオアーとイダが待っていた。ふたりとも緊張しているのか、背筋を伸ばしてこれから起こることを待ち構えている、と言った方が良さそうな態度に見えた。

「これはこれは、ラウル坊ちゃま。ご機嫌麗しゅう。御足労ありがとうございます。」

 平伏さんばかりに頭を下げて、クオアーはラウルを歓迎した。

「父上から交渉が正しく行われるか見てまいれと仰せつかった。名代だからといって気を使わなくていい。」

「左様でございますか。ラウル坊ちゃま、フォート坊ちゃま、昨晩のうちに目ぼしい者には話を付けてまいりました。どの者たちもとても乗り気で…、この宿からは3人、他の宿から2人入札にいらっしゃっています。すでに皆さん、隣室にお待ちです。」

「父上がもしもの事態を考えて騎士を何名か派遣してくださっている。この宿の表には騎士団から一個小隊を連れてきて警備させているし、裏通りにも警邏の者たちを巡回させている。この部屋には私とフォートもいるから、妙な言動を考える者はいないと思う。」

「宿の下男や女中たちには、警備も兼ねてそれとなく廊下を行き来するように伝えてあります。何かあれば『火事だ』と叫ぶように教えてありますから、ご安心ください。」

 事前の取り決めでは、交渉にはランスとフォートとイリオス、室内のドアの警護にはキュリスとビスター、両壁にフリッツとカークが向かい合わせに待機する計画になっていた。フリッツたちはお互いに示し合わせて持ち場へと移動する。

「ランス殿とフォート坊ちゃま、席にお付き下さい。では、私とラウル坊ちゃまは判定役で、イダは案内係でよろしいでしょうか。イダが客人たちを連れてまいります。」

 ラウルは壇上の台のすぐ傍の、この部屋の中で一番豪華な装飾を施され細工の美しい天鵞絨(ビロード)張りの豪奢な椅子に優雅に足を組んで座ると、壇上に立つクオアーに頷いて見せた。

「では、王城の騎士ランス殿、ご用意よろしいかな。」

「頼みましたよ、クオアー殿。」

 指定された席にランスとフォートが並んで座ると、イダがお辞儀をして、入札者を呼びに部屋を出ていった。


 ※ ※ ※


 イダが案内してきた古物商、仲買商、宝石商、自称公爵領一の素封家、熱心な地竜王の信者の貿易商の5人は、事前に聞いていた通り、いずれも皇国(セリオ・トゥエル)の人間ばかりだった。誰もが皇国では一般的な暗い焦げ茶色の髪色で青く澄んだ瞳をしていて、仕立てのいい衣服を品よく着こなしていて見るからに裕福そうだった。フリッツたち王都の騎士団の騎士の制服を見ても怯む表情も怖気付く態度もなくて、貴族階級に物怖じしない気構えや場慣れ感があった。それぞれに知己な様子でにこやかにクオアーと握手を交わし、この国(スヴィルカーリャ)の言葉を流暢に使って、丁寧に自己紹介してくれた。

 進行役のクオアーと鑑定役のイリオスが並んで立つ壇上の台の前に5列に革張りのゆったりとした椅子が並べられ、座席に座る左端から順番に、ふっくらとした壮年の古物商のアダン、中肉中背で真面目そうな印象の書籍の仲買商の中年のダクティル、品よく微笑み一番女性にモテそうな細身の中年なセサル、一番年が若く一番ダルそうな顔つきの若者のベルムード、一番年長で背が高く骨太な体格の老人のトマスが案内されて座ると、その後ろの簡素な椅子席にはそれぞれの執事や従者たちが座った。

 ランスとフォートは立会人のラウルと反対側の部屋の左手奥の入札者の顔を見渡せる位置に用意された椅子に座り、傍には帳簿を手にイダが立って控えている。新人騎士として室内を警護するカークは左手の壁を背に立ち、フリッツは右側の壁を背に立つ配置になった。部屋の外ではキュリスとビスターがドアを守っていてくれている。応接室には結構な数の人間が集まっている計算になった。


 入札者たちの持ち物の点検はラウルとイダが行う担当になり、彼らが同行した執事に持たせたカバンの中身を確認して回る役割となった。ラウルは『精霊の(グノーシス)(ズ・アイ)』の効果の中にいるのか、目を輝かせて覗き込んでいる。


 ふいに、フリッツは背中に逆毛立つような悪寒を感じた。

 ゾワゾワとする感覚にさりげなく意識を向けると、ラウルたちの確認の終わった古物商の後ろに座る執事の抱えている丸いカバンがぱっくりと口を開き、中から足がにょきっと出てきた。

 何が起こっているのだ? 

 フリッツが驚きながら見つめているうちに、まるで小さな卵から体をひねり出すように人が飛び出てきた。フリッツよりも少し背が低いくらいだろうか。子供、と言うよりは少年、と言うくらいに思える。あの大きさのカバンにありえないほど大きな人が入っていた計算になる。


 生き物ではないのか、その者の手や足の向きは関節ごとに折れて異様な方向を向いていて、首の角度もあり得ないほど曲がっている。髪の色も長さも判らないようにぴったりとした丸く黒い帽子を被り、白い光沢のあるナイトウェアのような服を着て、青色のベストを羽織り、足は踊り子の履くようなピンク色の布製の靴を履いている。見開いたままの瞳が空中を見つめていて、白く塗りたくった顔に真っ赤な丸い頬と切り込みのように細く長い線を描いた口で笑顔を無理やり作っている。瞬きもない笑ったままの顔は不気味な印象しかない。しかも、手首を何度か振ると、床に飛びつくように四つん這いになり、ギーっと嫌な音をさせて、首を天井に向かせている。

 コキ、コキ、と螺子が回転するかのように頭や腕、足や手首を回し、体の調子を整えているその者と視線が思わず合いそうになって、フリッツは自然な素振りを装って窓の外へと視線を動かす。

 人間ではない。妖精でもない。あれは生き物じゃない。道化に似た人形だ。人間じゃない。

 どうか、気が付かれていませんように、と願ってやっと、自分が異質な存在に対して不快感より恐怖心を抱いているのだと気が付いた。

 衣服も妙な格好だし音を立てていて存在感がとてもあるのにフリッツ以外に誰も気が付いていないのか、四つん這いになり首を逆に回転させた不気味な態勢で人形が部屋の中を前後に行き来する異様な光景を誰もまったく意識していない。

 他の者は『精霊の(グノーシス)(ズ・アイ)』の魔法でも認知できないのか、と不安になってくる。それとも、私だけが見ている幻覚なのだろうか。

 フリッツは視線を合わせないようにして、人形の動きを観察する。

 往復をしているうちに体の各部位が正しい方向に整ったようで、やがて、人形は風に揺れるように立ち上がり、ふらふらとアダンの傍へと歩き出した。じっと佇んだままの人形に、ほっとして、でも、何とも言えない恐怖を感じてしまう。フリッツは人形を意識しないようにして、壇上に視線を動かした。


 席に戻ったラウルは『精霊(グノーシス)の目(ズ・アイ)』の力を使って何かを見た様子で顔を紅潮させ興奮した表情になっている。

「よし、全員不穏なものは入れていない。交渉を始めようか。」

 あの人形は? 不穏ではないのか?

 どういうことだ? あの人形は誰も気にしないのか?

 フリッツは人形の存在を口にしようとしたけれど、誰も気が付いていない様子なので黙っておいた。第一、古物商も動じている気配がない。念のためイリオスを見てみたけれど、イリオスは人形が見えていない様子で、顔色一つ変えていなかった。

 

 小さく頷いたクオアーが挨拶をして手を打ち鳴らした。

「これより、入札会を始めたいと思います。」

 歓迎の拍手とともに、場の空気が変わった。


 イダの口から公用語で改めて入札参加者の簡単な紹介がされる。最後に、王都の騎士ランスフィールド様とフォート様、とクオアーが公用語でランスたちを紹介して、入札会が始まった。クオアーはフリッツたちの身分はランスの同僚、イリオスは公国の鑑定人だと紹介してくれた。

「さて、皆様。一斉に金額を言うのは無粋と存じます。対象物はひとつしかございません。お互いに納得していい取引をいたしましょう。最低限の金額から入札を開始して、一番高値を付けた方と最終的に交渉する規則(ルール)に致しましょう。ランスフィールド様、まずは白い蛇の抜け殻を拝見できますかな?」

 壇上に上がりランスが丁寧に白い蛇の抜け殻を両端を摘まんで広げると、客の5人が感嘆の声を上げた。

「こんなに立派なものを無傷で…!」

「ここまで状態がいいものを見るのは何年ぶりだろう、」

 食い入るように見つめている者がいる中、淡々とした表情で中肉中背のダクティルが小さく手を上げた。

「…お待ち下さい、」

 話す言葉はこの国(スヴィルカーリャ)の言葉だった。入札者の誰もがこの国の言葉を理解できるのか、感嘆の吐息を漏らしていた者たちが一斉に静かになった。

「なんでしょう、ダクティル様、」

 公用語ではなく、クオアーは男に合わせてこの国の言葉で尋ねた。

 このダクティルという中年の男は、5人の中で一番眼光が鋭くて、一番神経質そうに見えた。

「この白い蛇は本物のように見受けられます。」

「でしょうね。そうでなければこのようなお話はお取次ぎいたしません。」

「私もクオアー様にはいつもこの国の面白いものを教えていただいているから、きっと今回も面白いだろうと判断してこの話に乗らせていただいた。」

「それはありがとうございます。では入札を再開してもよろしいでしょうか。」

「だからこそ、提案があります。」

「なんでしょう?」

 ややこしそうな男だ、と思いながらフリッツはダクティルをじっと見つめた。

 視界の隅にはあの不気味な人形が白い蛇の抜け殻を食い入るように見つめていて、じっと動いていない気配が判る。

「この白い蛇の抜け殻をどうやって手に入れられたのか、お教え願えないでしょうか。お話を進めていくたびに、続きを聞くために値を釣り上げていきましょう。」

「ダクティル様?」

 クオアーは呆れたようにダクティルを見つめた。「値を釣り上げるとは、どういったお考えなのでしょう。もう少しお聞かせいただいてもよろしいでしょうか。」

「私は書籍の仲買業をしております。面白そうな書物を見つければ、皇国に持ち帰り翻訳家を探し、皇国で出版するのです。白い蛇の抜け殻は久しぶりに行われた秘術の成果だと思います。本物なら、秘められた世界があるはず。どのような体験をすればこのような貴重な代物が市場に出回るのか、私はとても興味深いのです。お話願えないでしょうか。」


 ダクティルという男は、王都の騎士団の制服を着ているランスを見て、騎士階級に所属する者なのか貴族階級にある者なのかを確かめているな、とフリッツは思った。他国と同じように、貴族階級出身の騎士なら、母国語の他に公用語を教養として話せると知っているのだろう。公用語で尋ねなかったのは身分の低い騎士階級の場合言葉が理解できない可能性を想定したからだろう。

 収入の安定した王都の騎士団の騎士なのに、白い蛇の抜け殻を競争入札にかけて金を欲している事情を知りたい、と思っているのかもしれない。

 白い蛇の抜け殻は精霊憑きの魔石と書き換え(リライト)と呼ばれる魔法を使ってではないと手に入れられないという事実を知っているのかもしれない。

 手に入れるだけなら誰かのものを奪えばいいと言う暴論も知っているからこそ、出自を確かめたくて手に入れた時の状況も知りたいと思っているのだろう。

 クオアーの顔を立てて入札には参加したけれどまだ半信半疑なのかもしれない。騙される覚悟で見ず知らずの騎士の持ち込んだ戯言と愉しむか、価値のある取引だと真剣で望むかの立ち位置を決めかねているのだろう。

 本物だと知っているのは私だけか。

 フリッツは小さく唇を噛んだ。金を払う根拠を、こんな形で求められてくるなんて。


「私も、ダクティル様に賛成でございます。」

 品の良さそうな笑みを浮かべて、セサルもこの国の言葉で同意した。「公国(ヴィエルテ)の鑑定人がいらっしゃるのなら、なおのこと、お話を伺いたい。」

「他の皆様は、いかがでしょうか、」

 公用語で尋ねたクオアーに、他の3人は「同意いたします、」とこの国の言葉で答えていた。皇国語も公用語もこの国の言葉も使える、というアピールなのだろう。

「判りました。ランスフィールド様、よろしいでしょうか、」

 このような事態も想定していたのか不敵な笑みを浮かべて、ランスは「畏まりました、お話いたしましょう、」と美しい所作でお辞儀して、流暢な公用語でフリッツが話した物語を話し始めた。

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