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56、新しい関係は再構築とはべつもの

 魔法陣の中へ落ちていく中で見えていたのは、リラの花の香の朝日に輝く公園、師匠(ベニー)、師匠と出かけた夜の街、(ラーヴァ)使い(キーパー)と出会った神殿、公国(ヴィエルテ)公都(ワシル)での市場やシロツメクサ、母さんの後ろ姿、水の精霊王様の神殿で見た大きな壺、天翔ける馬(ペガサス)の背にしがみつき空から見た景色、駆け抜けた国境の森、夜の霊廟公園とジャカランダの林、朝靄に煙る街、水を閉じ込めたように光に煌めく水晶(クォーツ)の卵と大神官キーラ様といった映像の断片で、すべてがわたしの見たことがある光景だわと気が付いてしまうと、これはわたしの記憶の中の一部なのでは?と思えてきた。焦点があっていたりなかったりとても詳細でおおまかで具体的で曖昧で記憶とも想像とも実体験とも思えなくて、手を伸ばせば触れられるすべてを捕まえてしまいそうな程なのに、何も触れられないままわたしは感覚として底のないどこかへと『落ちて』いく。


 片手をつないだままの騎士様(ニアキン)を見上げても、けっして目が合わない。ニアキンも何かを見ていて、何かを触ろうとして掴み損ねている。

 わたし達はふたりとも魔法陣の中へと堕ちて、それぞれが自分自身の記憶の中にいるのかもしれないなと思えてきた。わたしに見えているニアキンはわたしの記憶の中のニアキンなのだとしたら、手を放してしまうとわたしの中のニアキンが消えてしまうのかしら。握る手に入れる力を緩めかけて、なんとなくダメな気がして手を握り直す。


 巨大な山猫オリガや万年青な少年シャルーとの映像が見え始めると、ホバッサの守護精霊であるモモンガのヒト型なリコルテさんが、麦わら帽子を水平に被って、首元にタオルを引っかけ草木染の作業着に土色のズボンという農夫姿で、ブリキのバケツと柄杓とを持ち無数の蜘蛛を駆除している様子が見え始めた。同じような格好をしてヒハサミを手にしたラスタが、抱えた籠に小さな灰の山から小さな橄欖石(ペリドット)を探し出しては摘まんで入れている。辺りは霧が出ている訳でもないのにやけに視界が悪い。耳をすませば咳払いや足音が聞こえる。目が慣れてくると空が(しら)みはじめいて、警備の騎士らしき者たちが門を境にして集まっているのが見えた。


 足の下には床や土の感覚がないけれど、視界が固定されてしまっている。底に降りた?


 空を見上げると、小さな暁の星が煌めいている。じきに日が昇るんだ…。ちょっとだけほっとして、おでこの太陽神ラーシュ様の加護の印を触ってみる。よかった。帰ってこれたんだ、きっと。魔力を回復して体の傷を癒したい。師匠も探したいし、ラボア様とも連絡が取りたい。さて、今はいったいいつなのかな。

 屋敷の庭や外や外壁にいる蜘蛛を駆除してまわるリコルテさんとラスタを目で追っていると、デリーラル公爵邸内には誰もいないようだと判ってくる。

 もしかして、夜の続きが今なの? 昨日は昨日のままで、あの神殿で経過した時間はこちらの世界では夜の間の出来事だったってこと? もっと進んでいるのかと思っていたけど、案外そうでもないみたいでほっとする。


「戻ってこれたようだな、」

 呟いた声に驚いて見上げると、ニアキンがわたしに気が付いて「よかった、ビアも無事だ、」と言った。

 無事じゃないわ、お互いに傷だらけ怪我だらけだわ。心の中でこっそり呟いて、自身の血や返り血を浴びたニアキンとわたしの格好を改めて観察する。

 作業をして居るリコルテさんやラスタはわたし達にまだ気が付いていない。

「兄上は、」

 ニアキンはつないでいた手を放して、「兄上は、」ともう一度言った。

「わからないです、」

 老女神官(ロザリンド)様がいない理由は知っている。あの庭で、白い薔薇になってしまわれた。

「兄上、」

 木材の破片や石片や砂といった残骸をじゃりじゃりと踏みつけながら、ニアキンはひと気のない公爵邸の入り口を目指して歩き出した。入り口ホールの扉は半壊していて、中の様子が見える。

 敷地内の庭にも、馬車寄せにも、わたし達以外に人間はいなかった。いるとしたら邸内のどこかじゃないのかな。思いついた答えを伝えたくても、ニアキンは中へと視線を向けていない。

 屋敷内の惨状がわたし達が知っている以上のものであるのなら、そんな場所にいてほしくないと思っているからこそ、屋外を探しているのかな。

 屋内にいた方が無事だと言えない予感がして、わたしは中を見ようと言い出せない。

「兄上、」

 ニアキンの、すがるように呼びかける声を聞きつけたらしい駆除中のラスタが振り返った。目があって、弾けるような笑顔になったラスタはヒハサミを持つ手を振ってくれて、「兄ちゃん、」と先に進もうとしていたリコルテさんに呼び掛けた。

「ビアだよ、兄ちゃん、ビアが戻ってきた、」


 先にヒハサミと籠を地に置き手放して、駆け出したラスタは飛び上がりモモンガの姿になって、いきなり顔に飛びついてきた。この子、モモンガになったらヒトの顔に抱き着いてもいいっていう間違った認識になっている気がする。


「!!!」

 両手で剥がしてラスタを見ると、モモンガになったラスタはポロポロと涙を流している。

「ビア~、」

「無事だから落ち着いて、」

「兄ちゃん~、ビアが~、」

「ラスタ、落ち着きなさい、聞こえているから、」

 農夫な格好のリコルテさんは呆れた顔になり地面にバケツなどの駆除道具を足元に置くと、手を首にかけていたタオルで拭ってわたし達の方へと歩いてきた。剥がしたラスタは器用に拘束をすり抜けてわたしの頭の上に乗ってしまっていて、降りる気配がない。契約をしたから遠慮が無くなったのかな。

「よかった、無事に戻ってこれたのですね、」

 すっと手を差し出してくれるので友好の証なのかなと思ってしまったわたしが手を取ろうとすると、ニアキンが割り込んでリコルテさんと握手をしている。

「なんですか、あなたは、」

「ビアの友人であり、領主家の者だが?」

 がっちりと握りあっていて放さないでいるし睨み合っているし、ふたりは意気投合しているっぽい。

「弟の契約者様と挨拶がしたいのですが?」

「奇遇だな、私も友人の契約者の保護者殿と挨拶がしたいと思っていた。お互いに身内が無事に戻れてよかった。で、あなた達は当家の敷地内に侵入して何をしているのかい?」

 ふたりの声がいくら明るくても嬉しそうでもなくやけに丁寧なので、喧嘩腰に聞こえなくもない。

「見ての通り、守護精霊として最初の仕事ですよ?」

 茶金髪に緑色の瞳のリコルテさんはニアキンの手を掴んだまま、わたしを見てにっこりと微笑んだ。

「守護が途切れた隙に、良くないものまで入り込んでいましてね。」

 駆除しているのは蜘蛛男の手下ばかりではないらしい。

「領主家の屋敷に我々共通の敵である魔物(モンスター)が棲みつくのは、とてもよくないと思いませんか、」

 ラスタがキキと鳴いた。

「それだけですか?」

 手を放した用心深そうな態度のニアキンの警戒心が溢れ出る質問からは、精霊に力を借りると対価を要求されると判っていての確認なのだと伝わってくる。

「そうそう、これを、あなたへ預かってきましてね、」

 自身のズボンのポケットを探ったリコルテさんが見せてくれたのは、手のひらに隠れるほどの小さな鍵だった。

「この一本は、神官様より託されました。私も同じものを持っています。私は両親から託されましてね。」


 見覚えのある鍵が現れたのもあって、思わず声もなく驚いて肩掛け鞄(ショルダーバッグ)の中を慌てて探す。最後に見たのは虚空の闇だったのは覚えている。その先は、いつの間にか視界の中から消えていたのもあって、肩掛け鞄(ショルダーバッグ)の中にいれた気がする、と言う程度にしか記憶にない。突き詰めて言うなら、虚空の闇を出た後からこのホバッサに戻ってくるまでの間、カバンのどこかにあると思う程度にしか気にかけていなくて、鍵の存在を確認するのを忘れていた。

 なにしろリコルテさんが手にしているのは湖底の神殿において水竜王様の仕掛けには必要な鍵で、神事が昇華された現在、使い道がない。事情を知らない騎士様(ニアキン)にはもっと用途が不明だ。


「ビアに、ですか?」

 預かり物が自分へではないのが意外だったようで、ニアキンが聞き返している。ホバッサの先代の守護精霊と花冠の乙女になったホバッサの水竜王様の神殿の神官がお揃いで持つ鍵が託される先が、デリーラル公爵家の身内ではなく部外者なわたしなのが引っ掛かるみたいだ。とはいえ、かくいうわたしも引っ掛かっているのだけれども。

「ええ、神官としてではなく、水竜王の娘として、だそうですよ?」

「ビアに、ですか?」

「正確には、『とある男に託されたが私の身には不釣り合いだからマザリモノのあの娘に施そうと思っているのだけれど、いっそのこと、お前でもよいか、』と言って無理やりに握らされたのですけどね、」

 うんざりするように言って、リコルテさんが肩を竦めた。

「マザリモノのあの娘って侮蔑の言葉、あなたのことではないと思いたかったのですが、どうやらあなたのことですね?」

 老女神官様とわたしとのやり取りを聞いていたから気が付いた、とでも言いたいのだと思う。

 わたしの手に鍵を握らせながら、リコルテさんは<なんでも開くカギだそうです。ただし、一度だけしか使えません。よく考えてお使いなさい、>と女神の言葉(マザー・タン)で囁いてきた。

 小さな鍵という形に圧縮された魔力が重い。湖底の神殿が無くなったから、魔道具としての本来の意味と内容が変わってしまったのかな。託された鍵を見ながらふと思う。

<あなたには、必要ないのですか?>

 必要なら譲りますよ、と続けかけたわたしの言葉を遮ってラスタが今度はケケケケと笑った。

<ええ。ないですね。これからも必要なかったので、ずっとこの先も。>

「確かに、そうですね、」

 口を挟んできたニアキンが、腕を組んで頷きながらわたしとリコルテさんとを見比べた。王国語なのが強引だ。

「仮に当家に託されたとしても、持て余していたと思います。必要な時が来たら使うようにと託されても、この先厄介事が生じると約束されたようなものなので不吉なだけです。これまで必要がなかった鍵ならこの先も必要ないと考えるのが無難です。」

 ニアキンの感想を正直者だと好意的に受け取るかどうかはわたし次第なんだろうなと思いながら、わたしはじっと鍵の重さを感じながら言葉を選ぶ。

 ふたりとも、鍵には厄介事が付いてくると言っているようなものなので、素直にありがとうと言える気はしない。一度しか使えないとはいえなんでも開く鍵なら、奇跡を起こす鍵なのだとは思わないらしい。

 老女神官様は最後の最期に自分の為使えたかもしれないのに使わなかった。あの場に鍵を使える対象がなかったからとも言えるけれど、交渉する材料にだってなりえたはずなのだ。

 ただし、使うことで何らかの対価を払わなくてはいけないのだとしたら。もし、その対価をあえて伝えないままリコルテさんに託したのなら。

 考え始めると良くない想像ばかりしてしまって猜疑心ばかり強くなっていくし、ただでさえひどい目にあったばかりなので、亡くなってしまっていて真相がわからない老女神官様という人物のひととなりについて必要以上に悪い印象を持ってしまう気がしていた。

 虚空の闇から持ち出したであろう『とある男』が誰なのかを知りたいとなると、わたしが持っていた方がよい気もしてくる。

<わたしも使わないまま輪廻の輪に戻りたいですね、>

 肩掛け鞄(ショルダーバッグ)の中にいれてしまうと、わたしは顔を上げた。

「領主代行様を探しています。知っていますか?」


 リコルテさんは小さく唇を噛むと、公爵邸へと視線を動かした。

「気配は、あの中にある。」


「どうして、」

 ニアキンは一瞬迷った表情になり、すぐさま「残党狩りか?」と呟いた。

「屋外の駆除はあらかた終わりましたが、確かに中はまだですね、」

 リコルテさんは首を傾げた。

「気配はあまりしませんが、いるんですか?」

「あの部屋にいるのなら、兄上が心配だ。先に行く、」

 怪訝な顔つきになったニアキンの脳裏には、秘密の鍵があったデリーラル公の執務室にまだ蜘蛛が押し寄せている残像があるのかもしれない。

「わたしも行きます。」

 魔力が足りなくて魔法が使えないのは判っていても、わたしは、ひとりではなくふたりだからこそできることがあると確信していた。

「無理はしなくていい。向こうにいる先に当家の騎士たちと合流して治療を受けなさい、」

「ニアキンと一緒に行きます。」

 しきりに首を振られると、わたしは聞き分けのない子だと言われているような気になってくるから不思議だ。

「ビアを頼む。守護精霊殿、弟君、兄上と改めて例に伺う、失礼する。」

 敬礼をすると、ニアキンは公爵邸へと走って行った。


「失礼。」

 わたしの頭の上にへばりついていたラスタを剥がして、リコルテさんは首根っこを摘まんで持った。ヒト型にはならず、モモンガの姿のままで手足を広げてじたばたする姿がかわいい。

「兄ちゃん、優しくしてよ、」

「お前は手間がかかるコだね。」

「ビアとは契約しているから、くっついていると魔力が回復するんだよ、」

「契約主の魔力を枯渇させるようなやり方はいただけないな、」

 苦笑するリコルテさんは、かなりの常識人な性格なようだ。悪い魔性である父さんを筆頭に、わたしの知っている精霊って誰もが皆結構身勝手なので、久しぶりにまともな感性の精霊に出会えた気がする。

「ラスタ、わたしは、王都へ戻ろうと思っているわ。リコルテさん、ラスタはここにおいて行きます。」

「ああ、そうしてくれると助かります。」

「ラスタ、いつかまた、助けてね、」

 そんな日はもう来なくていいと思っているのは内緒だ。命をつなぐためだけにした契約で、ラスタを縛りたくはない。

「もっと呼んでくれていいから、ビア、」

 もじもじと上目遣いにわたしを見て自分の腹を撫でるモモンガなラスタはとっても可愛すぎて、絶対に呼ばないって言ってしまいそうになって、あわてて口を噤む。

 わたしを見ているリコルテさんは淡々としていた。儀式の際も感情をあらわにしなかったし、もともと感情の起伏が淡白なのかもしれないなと思ってしまった。

「ひとつだけ、聞いてもいいですか?」

 聞きたいことは多くあるけれど、話してくれるかどうかはわからない。ひとつしかないという前提の質問なら、答えてくれるかもしれないと賭けてみる。


<初めから、花冠の乙女が誰なのかをわかっていたんですか?>

 女神の言葉(マザー・タン)で尋ねたのは、細かい感情の機微も話しやすいのではないかなと言う配慮からだ。

<ええ。あの方が生まれた時、(いと)()様が『この子を神官にすればずっと未婚のままでいられると話していた』と父から聞いていましたから。あの様子だと、花冠の乙女にするために生まれたのだと知らなかったのはご本人だけだったようでしたね、>

 水見の館で再会した時、神殿で再会した時、老女神官様の態度は違って見えた。

<わたしがあの儀式の場にいなかったら、あの方は、>

<この子を花冠の乙女にしたでしょうね。>

 事情を知っていたのはリコルテさんと老女神官様だけだったとしなくても、ありえたかもしれないなと思う。なにしろ領主代行(ウォルキン)様は、自分以外なら花冠の乙女になるのは誰でもいいとでもよさそうな無神経ぶりだった。

<守護精霊の魔力で言動を支配しようとは思わなかったんですか?>

 洗脳だって拘束だってできたはずなのに、リコルテさんはしようとはしなかった。

<相手は神官ですよ? 再契約の儀式をして守護精霊になる前に、神官に駆逐されても困りますからね。>

<魔力は持っていなかったのですか?>

<見たでしょう、蜘蛛男との戦闘で消耗していたのもあって、残り一回分、簡単な魔法が使える程度しか残っていませんでした。>

 リコルテさんの発言はいちいち納得できてしまって、わたしを花冠の乙女にしようとした老女神官様の暴走を止められなかったのは仕方なかったんだって、理解し始めていたりもする。

<ちなみに、その一回分はうまく使えたんですか?>

 好奇心で軽い気持ちで聞いた質問に答える前に、リコルテさんはわたしの顔をじっと見て、<ええ、>とだけ言った。何に使ったのかまでは教えてはくれないみたいだ。

<兄ちゃん、もういいかい?>

 モモンガのラスタが体を捻った。<ビアに感謝だよ、兄ちゃん、ビア、ありがとー、>

 クスッと笑ったリコルテさんに、もう少しだけ尋ねてみたくなる。

<もうちょっとだけ、わからないことがあるんです。>

 答え次第では聞き流そうとでも言いたそうな張り付いたままの笑顔のリコルテさんに、わたしは答えが聞けない覚悟で尋ねてみた。

<神官様から、カギを持って現れた男ってどんな男だったのか聞いていますか。名前とか、知り合いだとか。それに、力のある精霊がこの土地に訪れたのなら、優秀なリコルテさんは気が付いたんじゃないですか?>

 前水竜王様のお子様であり竜人でもある老女神官様は、厄災の地竜であるシンを知っている。おそらく、邪神と呼ばれる悪い魔性である父さんとは面識がない。

<さあ、聞いていないな。>

 わたしの目を見て逸らさないリコルテさんは、明らかに何かを知っているようなそぶりだった。

<知らなくてもいいことだってある。特に、あなたは、>

 ラスタは本当に知らないらしく、首を傾げたまま黙って聞いていた。


 父さんが来たんだ。老女神官様やリコルテさんに、何かを囁いたんだ。


 ここ、ホバッサという街は、シンが儀式を終わらせてしまったから竜の気配が消えてしまった。

 シンと親しい父さんなら虚空の闇への行き方だって判るはずだ。父さんは時々、わたしが呼ばなくとも、わたしの気配を追いかけてこれる存在だったりする。


 何のために、鍵が必要になるんだろう。

「この鍵の使い道が判るなら、どこの鍵かも知っていたりしますか?」

 答えてもらえるとは思っていないけど、聞いてみたくなる。

「さあ、聞いていません。ただ、」

 リコルテさんは公爵邸の中へと指をさした。

「あの屋敷の中に、神事に使っていた宝珠があります。」


 消えたはずの宝珠が?

 とある男につながる手掛かりな気がして、わたしはお辞儀をして走り出していた。

 誰が何の目的で持ち出しているのか、外からではわからない。瓦礫の山を踏まない様に公爵邸の入り口ホールの扉から中に入っってみる。 


 何もなければいいのだけれど。

 呟きかけた言葉を音にできないまま、わたしは立ち尽くすニアキンの後ろ姿を見た後、入り口ホールの真ん中で両手を天に向かって掲げて何かを唱えている領主代行様の姿を見つけた。

ありがとうございました。

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