42、再会は、秘密を握ったままで
騎士様と領主代行様の関心はわたしが死人なのかどうか、どうやってデリーラル公領にまで戻ってきたのかが解決できて一安心と言った表情だったけれど、わたしはまだ未消化な感情でモヤモヤしていた。
「お聞きしたいことがことがあります。」
目の前に並ぶ貴族の兄弟は、同じような造りの顔をして、同じような目つきで、「何なりと」と声を揃えて言った。途端に騎士様はぶるぶると首を振って、「兄上と揃った、」と落ち込んだ目の色になる。
「わたしが尋ねて行くことを耳にされた神官様は、どのような表情をされていたのでしょうか、」
「なぜ、そんなことを聞く?」
聞き返されて、わたしは戸惑う。
神事で無事だったのは老女神官様とコルとシューレさんで、輪廻の輪に戻ってしまわれたのは前水竜王様と愛し娘様だ。おふたりは老女神官様の御両親でもあるので、最期を見届けたわたしに対して、家族を亡くした老女神官様がどう感じているのかを知りたかった、というのは答えとしておかしいのかどうかと不安になってしまう。
「神官様は、ビアトリーチェ様の面会を聞いて背筋を伸ばしておられたよ。表情は変わらなかった。水見の館の者たちが言うには久しぶりに顔色がよくなられたようだが、私にはわからなかったね。」
領主代行様は小さく苦笑いをした。
馬車の外の空の色は、夕暮れ時というよりはすっかり夜のはじまりな闇の暗さになってしまっている。
「神官様は、あれから、お元気だったのでしょうか、」
「ああ見えてあの方は大層な高齢です。あのような大事になってしまった神事を、良く乗り越えて無事に帰られたとほっとしています。ただし、」
領主代行様が小さく肩を竦めた。
「気を落とされて誰ともお会いになりたくないと仰っていて、まともにお話は伺えなかったですね。今宵も反故にされてしまう気がしています。これまでは面会の約束をしても、水見の館の奥深くに隠れてしまわれて待たされてばかりで、面会時間が十分にとれていなくて、ね。」
「兄上、私も話を伺いに行きましたが、あまり語ってはくださらなかったです。なんなら、挨拶をした後、顔をじっと見つめて、早く王都へお戻り、と言われてしまったくらいでした。」
騎士様も肩を竦める。
「どうやって神事の詳細を知れたのですか?」
「ほとんど聖堂の軍人が語ってくれました。と言っても、あまり状況が説明できず言葉足らずな報告を元に、我が公爵家の持つ情報で補完するより他なかった、というのが正しいですね。」
背景を知らないコルが見たままを語っても、不足とされてしまうのは酷だ。
「兄上たちがおまとめになった情報を元に神官様の元へ確認に行って、神官様が時折思い出したように訂正された通りに文言を修正していったと言った方が正しいと思います。」
虚空の闇という場所を知っていたのは誰なのかが気になる。
「虚空の闇というのは、わたしがいた場所ですよね?」
わたし自身は知っていても、彼らは誰から得た知識なのかと確認したくなる。
「そのようです。太古の昔にすべてが生まれた場所なのだと、学術院で学んだことがあります。」
意外にも騎士様が答えてくれた。領主代行様も当然知っているという顔をしている。
「学術院…、王都のですか?」
公国の公都ではないと思う。となると、王都の学術院だ。良家のご子息様が通う学校なのだとは知っているけれど、通っていた人に出会うのは初めてだったりする。
「そうです。デリーラル公爵家に生まれた者は必ず通う決まりになっていますから。」
貴族な兄弟は、恵まれた育ちを隠そうともしなかった。
虚空の闇については、妖の道の元になった場所という認識だったり、宝が隠されているとされていたり、厄災の地竜を閉じ込めておくための反省部屋だったり、すべてが生まれた場所だったりと、統一感がない印象になってきた。強いて言えるなら、やはりシンが共通している。
「百年近い神事が無事に終わって、街に変化はありましたか?」
上り坂になったようで、馬車の動きが少し遅くなる。窓の外は随分と暗く、夜を迎える街の灯りが煌々と輝いている。
騎士様と領主代行様は顔を見合わせた。
「目に見える変化と言えば、湖が消えたぐらいですね。」
領主代行様が首を傾げた。
「お前は気が付いたか?」
「特には。何しろ王都からこちらに来たばかりです。今朝も早くから調査に出かけていましたから、気にしていません。」
「わたしが死人かどうかを気にされていましたが、」
あの夜にも見た大量の死人と死人だった肉塊も、通説通りなら朝日を浴びて消えてしまっているはずだ。
「夜が明けると、湖が消えたのと神殿の出現と、街から大勢の人間が消えてしまっているのが判りました。屍食鬼や死人が目撃されていた場所と行方不明者の最後に目撃された場所とが一致したので、消えた者たちは文字通り消されたのだろうと結論付けられます。」
ちらり、と領主代行様はわたしを見た。
「ほとんどが旅行者で、大部分が聖堂の信者でした。聖堂に高名な治癒師がやってくるという噂を信じて待っていた者たちもいたそうです。」
情報を集めるために馬車で押しかけていた信者たちを治癒してまわったのを思い出して、その中に屍食鬼が混じっていた悔しさも思い出し、そっと唇を噛んで気持ちを切り替える。
「神殿は、湖底の神殿が地上に現れたんですか?」
領主代行様と騎士様は困った顔になる。
「私たちは湖面から見下ろしていたばかりなので、中の作りを知らないのですよ。ただ、神殿が現れた後、太陽が十分に上がってから騎士団が内部を調査して無事だと判明しましたから、神官様にも同行をお願いして確認は済ませてあります。神官様は間違いないとの仰せでしたので、その通りなのでしょう。」
湖底の底の街の深部に広がる洞窟がすべて再現されていたならこんなに軽く話せるとは思えなかったので、せいぜい言って祭壇のある広間程度なのだろうなと検討をつける。
「他に気になることはありませんか?」
一番気になるのはどうしてわたしがあの場所に転送されてしまったのかなのだけれど、水竜王様の神殿の神官の秘密をこの人たちが知っているとは思えない。
「今日、これまでに、公国人の探し人や迷い人などの届け出はされていませんか、」
もちろん師匠は道に迷ったりはしないと思う。予定通りに目的地に転送されていてほしいけれど、わたしがあの遺跡群の近くの湖に転送されてしまった影響でデリーラル公領のどこかに転送されていてもおかしくはない。
「ないですね。ここ最近、あのような事件があったばかりなので、騎士団による巡回を強化しています。領内の移動に関しては検問を徹底していますから、冒険者と言えども自由な行き来は難しくしてあります。もちろん当家に関係のある者は別格に扱っていますがね。」
領主代行様は意味ありげにニヤッと笑った。
「ついでに言うと、身元不明な死者も届け出がありません。行方不明者が出たのはあの夜以降ありません。」
言い切られてしまったのもあって、師匠はこの領内にはいないと考えてよさそうだと思えてきた。
「ビアを探している人がいるのかい?」
騎士様がわたしの目を覗き込んできた。
わたしとしては自分の発言をそういうふうに解釈されるとは思っていなかったので面喰ってしまっていて、数秒反応が遅れてしまった。
「安心しなさい。聖堂には当家で保護していると連絡してありますから、」
領主代行様が当然のような面持ちで答えてくれたので、騎士様がムッとした表情になった。
「兄上、私の大親友を聖堂に差し出すつもりですか?」
「いけませんか? もともとこの方は聖堂の所属の治癒師でしょうに、」
わたしの中ではあの夜にホバッサに戻る前先輩たちに別れを告げていたのと任務も放棄していたし命令に背いての行動だったので、もしかすると聖堂側から謀反人として排除されるのではないかなと思っていたのもあって、引き渡されても引き受けてもらえるのかどうか怪しいなと感じていた。
これから先の庭園管理員の任務を考える上で、聖堂に潜入し続けるのは都合がいい。
「騎士様、」
悪い魔性な子供のわたしは、1周目の未来の世界での『わたし』の立場を考える。
「聖堂では、後ろ盾になる者がいるのといないのとでは与えられる任務が違います。」
閃いたように目を見開いた領主代行様は、わたしの言葉で、竜人ではないのに任務としてこの街に呼ばれたわたしの立場を理解したようだ。
「わたしはおそらく、このまま聖堂に戻れば、罰が与えられると思います。いくら上官や神官様を救いたくて単独の行動になってしまったと説明しても、わたしの声を聴いてもらえるとは思えません。」
目を細めたままの領主代行様は、ニヤニヤニヤと楽しそうだ。
「いくら優秀であっても、出自がものを言うのだな?」
「そうです。わたしは公国人で半妖ですから。」
実情は、チュリパちゃんの御実家がいくら頑張ってくれていたとしても、1周目のような厚待遇ではない。
「わかった。」
騎士様がひとつ膝を打った。
「騎士として、ビアの後見人になろう。」
「ニアキン、公爵家として後見人になってもよいと、領主代行として誓ってもよいぞ?」
「兄上、」
意外とすんなり申し出てもらえたので、かえって疑わしく思えるのはどうしてだろう。
「これで貸し借り無しですから、わかっていますね、ニアキン、」
「もちろんです。兄上、感謝します。」
騎士様は体をずらして姿勢を正し、隣に座る兄である領主代行様に頭を下げた。
上手くいきすぎて不気味で戸惑っているのは、提案したわたしだったりする。
「領主代行様、本当に、よいのですか?」
「信じられませんか? 弟が王都で世話になっているのも事実ですからね。聞いていますよ? ニアキン。王城の騎士団への移動前に最期の大捕り物をして旅立ちに花を添えたのだと。ビアトリーチェ様を大親友というからには、この一件の補佐役を買って出てくれたからですね?」
いくらわたしの情報が手掛かりになったとはいえ、竜の名を持つ盗賊団ギルドのひとつを壊滅に追いやり、ブロスチで攫われた公国人を王都で救出したのだから、騎士様の実力が潜在的に高かっただけな気がしてくる。
「兄上、その通りです。」
騎士様は照れるので、わたしは話を合わせて「お役に立てて何よりでした、」と頭を下げてみた。
「交渉成立です。これで、こちらとしても、当家とビアトリーチェ様との契約が成立したようなものですから、お互いに満足できるのではないでしょうか。」
「そうあってほしいですね、」
庶民なわたしは、軽く返事をして聞き流しておいた。
「そろそろ到着します。」
「ビア、もういいかい?」
交差する通りには見覚えがあって、あの夜、揺らめく少年の姿を見かけたのを思い出す。
ラスタ、元気にしているのかな。
この街の守護精霊は、ちゃんとお兄さんに再会できているのかな。
窓越しに暗い街並みを見て、どこかでラスタのヒト型だと思われる少年の姿が見えないかと目を凝らした。
※ ※ ※
数日ぶりで訪れた水見の館では、領主家のご子息とお付きの侍女という扱いで出迎えられた。執事や侍女といった従者たちはわたしの顔を見ても何の反応もなく、下手をすると数日前にわたしが一晩お世話になった時と同じかそれ以上にそっけない対応なままだった。少しは覚えていてくれるのかなと思っていただけに、予想以上の塩対応っぷりだ。期待したわたしの認識が甘かったのだと思い知る。
領主代行様と騎士様について向かった先は灯りとなるランタンを床の観葉植物の影に置いた小さな温室で、ひとつしかない白色の簡素な長椅子に虚ろな目をして座っているのは、あの夜に別れた老女神官様だ。最後に見た時の方が肌艶もよく精気もあったし、覇気のある表情だった気がする。今はただ、固く握った手だけが、強い意志が感じられる。
前水竜王様との術が終わった後虚空の闇でひとりになったのを思い出して、体が震える。自分を抱きしめると、街の為に命を懸けた偉大な存在の最期を最愛の娘であるこの人に伝えるのが怖くなって、逃げたくなって、わたしも俯きそうになる。
逃げ出すんだ?
キーラに似た顔立ちをした大神官様にそう揶揄われた気がして、そんなことを言うのは大神官様じゃなくてきっとキーラだわと思い直す。
大神官様は同じ顔で、誇りを持ちなさいと励ましてくれた。顔を上げて、気持ちを割り切ってみる。
「神官様、」
わたしの声にハッと目を見開いた顔を上げた老女神官様は、領主代行様と騎士様の影にわたしを見つけるなり立ち上がり、片手を伸ばし、よろよろと後退りをするように歩き出した。
どこへ行こうというの。
心に浮かんだ疑問の答えは、足元がおぼつかない老女神官様のもともと青白いのがさらに血の気の引いた表情で、わたしへと向けられた手は、払い除けるような、掴むような手つきだったりする。どうして。
踵が植木鉢に当たってよろけたのを、騎士様が素早く腕を掴んで引き上げる。
「神官様、」
「ああ…、」
「この者が、何かしたのでしょうか、」
険しい声の領主代行様の問いかけに、目をわたしに向けたままブルブルと震えている老女神官様からは、良い感情など見えてこない。
どうして、そんなに怯えているの。声に出すと問い詰めてしまいそうで、唇を噛んで我慢する。わたしを見て怯えた顔をするなんて。
「ニアキン、」
「兄上、」
老女神官様を守るような騎士様とふたりへの壁になるように立つ領主代行様との敵は、どう考えたって『わたし』だ。
どうしてそんな態度を取られてしまうのか、納得がいくまでじっくり聞きたいと思えてきた。
「神官様、この者は死人ではないと言い張っていましたが、やはり、」
騎士様は老女神官様を支えながら状況を見極めようと必死の形相で、領主代行様は今にも武装した従者たちを呼びそうな勢いだ。
「違います、」
思わずはっきりと意志を声に出したわたしを見て、老女神官様は騎士様の手を振り払った。
「違います、違います、ああ、」
手を床についてへたりこみ、額を床に付けるようにして深々と身を丸め、老女神官様様は「違うのよ…、」と唸るように声を上げた。
「今日のところはお帰りなさって、お願いだから、」
「神官様、」
「もうお父さまの最期など聞きたくありません。あなたは…、」
ああ、と悲鳴のような声の後、肩を震わせて泣いている老女神官様を見ていると、わたしはどうしても背中を擦ってあげたくなっていた。
わたしは治癒師で、半妖で、マザリモノでしかないけれど、泣いている人を見捨ててしまえる強さなんて持っていない。
領主代行様と騎士様というヒトの盾をそっと押しのけて近付いて、わたしも、床に膝をつけた。
握る手が、震えている。
「どうか、顔を上げてください、」
そっと撫でた老女神官様の背中は痩せていて、生命の力強さなど到底感じられる温かさなどなかった。
この人、もしかしてずっと何も食べていないのではないかな、と思えてきた。
『治癒』と呟きかけた魔法は、すんなり老女神官様に馴染んで消えた。『回復』の魔法も、染み込むように消えていく。
「神官様、」
「何も言ってはなりません、」
老女神官様の声は苦しんでいる。この人のやっていることの意味が、少しだけわたしにはわかる気がしてきた。
悔いているのだ。あの場を離れたことを。
「あなたのお父さまは、わたしを守ってくださいました。だからこそ、ここまで戻ってこれたんです。」
わかる気がしていても、命を懸けてまでして我が子である老女神官様たちの乗ったクレイドルを逃がし、わたしを巻き込まないようにして輪廻の輪に消えたと思われる前水竜王様や、最愛の我が子に生きてほしいと願って無理をして消えていった愛し娘様の思いを考えると、この人のやっていることが理解できないとも思う。
「領主代行様、騎士さま、」
背中をさすりながら、わたしは険しい表情の領主代行様と困惑顔の騎士様とを見上げた。
「いつから、老女神官様はここにいらっしゃるのでしょうか、」
「止めなさい、余計なことは告げてはなりません、」
悲鳴にも似た声が合図となって、温室へと集まってくる足音が聞こえてきた。
「いかがなさいましたか、」
室内へは入らず様子を窺う従者たちは、領主代行様や騎士様がヒトの壁となって立っていて何が行われているのかが見えていない筈だった。
「どうされましたか、」
「待機していなさい、」
感情をこめない様に命ずる領主代行様の視線は、わたしへと向いている。「どういうことなのか、説明はできそうですか、」
老女神官様の背を擦っていると伝わってくるのは、後悔や懺悔の感情だった。わたしを置いて行ったから?と考えてみて、すぐに違うのだろうなと思ったりする。
食を断つ理由は後悔や懺悔なのだとしたら、両親を死なせてしまったことなのかもしれないなと思いついたりはする。
この人が、言葉足らずなのは変わらない。
「…治癒師として魔法で体を治せても、限界があります。」
生きる意志のない者につかの間の魔法の効果が生かしても、生きてはいない。生きたまま死んでいるようなものだ。
「ここへ戻られてから、ずっと、何も食べられていないのではないですか?」
わたしの問いかけに、誰も答えてはくれない。
「食を、絶つ…?」
領主代行様は絶句してしまった。
騎士様は一度天を仰ぐと、しゃがみ込み、「失礼します」と言いながら老女神官様を横抱きに軽々と抱きかかえた。
ギュッと片手を握ったままの老女神官様は、祈るようにもう片方の手で覆う。騎士様に抱えられるのが嫌みたいな、頑なさだ。
「ずっと、まともに眠られてもいないのではないですか、」
「そんなはずは、」
言いかけた領主代行様は、聞こえてきた啜り泣く声に振り返る。
部屋の入口から数歩入った状態で止まっている集まってきていた従者たちが、身を寄せ合い、お互いに顔を隠して泣いていた。
「それは、本当なのか、」
「兄上、」
騎士様が抱えた背が高いはずの神官様は、枯れた体をさらに小さくして顔を隠している。
「どうか、お部屋に運んであげてください。ゆっくりと眠れるように。」
老女神官様の乱れた髪を撫でて直して、わたしはもう一度『治癒』と『回復』をかけてみる。体の奥で始まった死をどこまで食い止められるのかわからなくても、希望の力と変わることを夢見てみる。
食を絶つのが自身への罰なら、もう十分じゃないのかな。
「また来ます。どうか、その時にまた、」
わたしとの約束が明日へとつながるとはわからなくても、願わずにはいられなかった。
「止めて、来てはなりません、」
喚き声は、悲痛な声に似ている。
「お願いだから…、」
わたしを見て黙って首を振って、老女神官様を抱えて歩き始めた騎士様が行ってしまうと、領主代行様は倒れた鉢やランタンを直すわたしを見て、「すまなかったね、」とだけ言った。
聞いていた話以上に深刻に、老女神官様は混乱が続いている気がする。
明日会えたとして、話せる精神状態なのかはわからない。だいたい、会わせてもらえるのかもわからない。
何も言葉を交わさないまま馬車に乗せられて水見の館を出て、会話のないまま馬車は進み、わたしは領主家のお屋敷に連れて行かれた。
こんなはずではなかった、と兄弟のどちらかが呟いた声が聞こえた気がした。
屋敷に入る前、領主代行様は何も語らずわたしの肩を叩いて、何も言わずに頷いた。
ありがとうございました。




