24、夜の湖に秘密は眠っている
どうして、と思ったのはわたしも同じだった。
氷室としか思えない氷柱だらけの冷たい洞窟の中はとても広い部屋と言っても天地のほとんどに氷柱がある印象しかなくて、どうして儀式の最中に関係のないと思われる者がいるのかを考えた時、白い巫女服を着たコルと老女神官様の手にある青色に輝く宝珠で、場違いな存在があるとしたらあの女と少女はこの宝珠を狙った盗賊と考えるのが妥当だ。色味からして宝珠は二つとも蒼玉で、魔力の輝きが濃い方が持ち込まれたほうなのだろうなと見当がついた。
「何をしに来た!」
怒鳴る声に、わたしは答えたくないって思ってしまった。
コルを助けに来たって言ったら、コルが危険になる気がする。
だからと言って、用もなく来ちゃったと言えるような場所でもない。
睨みつけたまま、ゆっくりと近付いていく。
怒鳴るのは威嚇しているからだ。
わたしを怖いと思っているから、怒鳴っているって意識をし直す。
「マズいな、兄ちゃんが言った通りだ。」
そろそろと足を動かさないようににじり寄りながら進むわたしの耳に、ラスタの呟きが聞こえた。
まだ距離からわたし達の話声は聞こえないと判断して、目線を人質に取られているコル達へ向けたまま「教えて、」と小声で頼んでみる。この土地の守護精霊の見えている世界を形作るのは、きっとわたしの知らない事情だ。
「…きっとこの術は失敗する。その時になってみないとわからなくても、必ず大掛かりな術には大きい故に避けられない脆さがあるって兄ちゃんは言ってた。年数を考えればもうじき成るから、特に破綻が無いよう用心しなくちゃいけないなって言ってた。それなのに、兄ちゃん、今更…、行ったらダメだ、街を優先しろって言い出したんだ。」
ラスタの声は震えている。
「術の失敗…、儀式のこと?」
視界の隅には、怯えて震える美しい女性の精霊が見える。眠っている男性の傍を離れないでいるし大人しいから意識されていない。
儀式って、この人たちはいつも立ち会っていたのかな。
ふと思いついた疑問は、答えの確かめようがないので一旦心に保留する。
ラスタが寒くて震えているのだと思いたくても、違うってわかっている。想像してしまえるわたしの中にある答えが、わたしの知っているすべてを否定している。
「この術は崩壊したら、街が沈む。だから兄ちゃんは、魔物の兵団を討てるほどの力がないから、お前は隠れて街を再建させる力を残しておけって、湖には行くなって、」
一族や家族、兄弟で守護精霊となり街を守ると言っても、主格となる存在が中心となって守っているのが常で、残りは補佐となり主格と街を支えている。この街の守護精霊の主格であると思われるラスタの兄が手出しをせずに魔物を討つのを見送る状況であるとすると、この湖の外では魔力を奪う作用が通常よりも活性化しているのかなと思えた。
一晩眠っても魔力が完全に回復しないという冒険者たちの話から推測できるように夜眠っている間に土地に少しずつ魔力を奪われているのなら、儀式の夜には『堪えないといけない程』に魔力は奪われてしまうのかもしれないなと思えてきた。この氷柱が街から魔力を集めている証なのだとすると、うっかり触らないようにするのが賢明だ。
「ここは街の下にある洞窟なのね?」
頭の中で湖の中へ入ってきてから見てきた距離感と規模を、昼間チオクさんに見せてもらった街の地図とざっくりとだけど重ねてみる。水見の館の坂の下の街の下にこの場所があるというのなら、周囲を巻き込んで大陥没が引き起こされてしまいそうだ。そうなってしまった場合、わたし達は押しつぶされて確実に閉じ込められてしまう。
ただ宝珠を交換するためだけの儀式ではなくなってしまっている。悲劇がありえなくなさそうな未来に、つい身震いをしてしまった。
「兄ちゃんは行くなって言ったけど、」
わたしの顔を見て視線を逸らしたラスタの声は震えている。わたし達は同じ未来を予想してしまっているみたいだ。
「…何かあったら何とかするって言って、押しきっちゃったんだ。僕、この街が好きだから。」
水見の館の簡易バリケードの前で見た光景は、ラスタと兄との別れの場だったんだ…!
「兄ちゃん、すごいんだ。任せたから行って来いって言ってくれたんだ、」
ラスタは潤んだ瞳となり何度か瞬きをしていて、泣くのを堪えているように唇を噛んだ。
「いっそ二手に別れようって。ここは兄ちゃんに任せろ、何かあったら助けに行くから、ここは任せろって。」
「ラスタ、」
がんばれ、って励ましたくなった。
「兄ちゃん、僕を信じてくれたんだ。」
どっちが大変なのかと比較する時、わたしには、魔力を奪う街に残っているからと言って安全ではないと思えた。死人の残党がいるかもしれないし、魔物の応援だって来るかもしれなかった。
だからと言って、ラスタが安全とも言えない。湖の下という地下である以上、この洞窟は危険でしかない。
「一緒に行こうって言ったら、必ず生きて戻って来いって言ったんだ。兄ちゃん。」
死を覚悟しなくてはいけない場所なの?
守護精霊なのに?
驚きは、ラスタを動揺させてしまいそうで言葉にできない。どっちかが生き残ったら、この街には望みが残る…?
「兄ちゃん、笑ってた。僕、兄ちゃんを助けに戻るんだ。」
嘆いている女性の精霊と眠っている男性と宝珠がこの場所にはあって、月のない新月の夜に、老女神官様が地上から降りてきて、宝珠を交換している…。
いつもの儀式と違う要因なら、コルと、シューレさんと、わたしがいる。
ラスタを湖に行かせたのは、街に残るよりも希望があったからなはずだ。そう考える根拠は何だろうって考える時、関わる人ではなく、儀式なのかなと思えてしまった。
この洞窟は魔力を溜め込む大切な場所らしい。
「ラスタ、あの人たちは誰なのか知ってる?」
盗賊であると思われる女と少女ではなく、怯え震える精霊と眠る男性をそっと顎で差し示す。氷柱が一番育っているのは横たわる彼で、まだ彼は生きて眠っていると判る。
眠る男性は、この儀式が始まった時既にここにいて、とっくに眠っていたと考えた方がいいと思えた。儀式を語ってくれた誰もが、この場所にこの男性と精霊を連れてきた巫女がいたとは語っていなかった。
竜人の寿命は人間よりももっと長い。老齢と言っても、ロザリンド様は若々しい。ロザリンド様がこの儀式にかかわられる前は魔力を持つ人間の娘が巫女となり儀式を行っていたとなると、魔力を持つ人間の乏しいホバッサという街に魔力を持つ人間が暮らしていた頃の話となる。少なくとも最近の話ではない。先の大戦よりも以前の、100年ほど昔と見た方がいいかもしれない。
わたしの勘が正しければ、あの男性の素性は竜で、いわゆるヒト型だ。
美しい女性の精霊はおそらく、あの竜のヒト型の愛し娘だ。元は人間だったのか精霊かだったのかまでは判らないけど、精霊が竜の傍で無事な理由は契約しているからなら、竜や精霊で言うところの番、人間で言うところの結婚相手と同格な、竜の愛し娘と考えるのが一番妥当なのだ。ふたりは長らくこの洞窟に幽閉されていて、あの愛し娘の歌声が地上へ漏れ聞こえてきているのかなって思えてきた。
「兄ちゃんは竜が眠っている場所だって言ってた。精霊は食べられちゃうから近寄るなって。」
得意そうなラスタに、わたしは「大丈夫、」としか言えなかった。
時の女神さまのとの契約には、人間一個人の願いとして母さんが望んだ『千歳の契約』があるように、土地に暮らす者たちとの願いとして『百年の契約』という契約がある。もちろん、古からの大術として百年の術という厄介な魔法もある。どちらも土地に干渉するのを目的にしていて、術者を媒介にして土地の魔力を正常化させる効果を持っている。
あの竜のヒト型は、この土地を守って術を成している最中なんだって気が付いてしまうと、絶対に盗賊たちに存在を知られてはいけないと思えてしまった。宝珠が交換されていない現段階でどこまで悪影響が出ているのかなんてわからないけど、これ以上悪影響を色濃くしたくない。魔力が結晶化して全身に氷柱となり視覚化できるようなほどになっているのは、ヒト型が長い眠りの中で自身の魔力を制御できなくなってしまっているからという可能性が出てきた。制御できない魔力はやがて暴走するし、想定外に早く枯渇してしまうことだってありうる。
不安定な状態の竜を巻き込んだって良い影響はあるとは思えない。どうにかして、竜や精霊に注意を向けさせない様にこちらへ引き付けたままでいないといけない。
「大丈夫って何だい?」
ゴクリ、と息を飲む。
あと何年経てば、約束の100年なのかな。
残りの年月と魔力の必要量を知る術はないけど、今回の儀式も以降も宝珠がないと困るっていうのだけははっきりと判っている。
大丈夫って言葉が嘘にならないように、顔を上げて深く息を吐いて吸う。魔法がある限り、いつだって、希望はわたしの傍にある。
わたしにだって何とかできるはず。
「大丈夫、ひとりじゃないもの、きっと、大丈夫。」
近付くわたし達に、シューレさんはじりじりと近寄ってこようとしていて、コルへと目を向け、動きを止めた。
コルとわたしに深いつながりはなくとも、筋骨隆々なたくましい分厚い体に髭面のシューレさんとはほぼ初対面な関係でも、わたし達はお互い、何ができるのかを知っている。わたしが1周目の未来でシューレさんに出会ったようにシューレさんも1周目の未来でわたしとコルに出会っているのなら、わたし達はお互いの記憶の中で仲間であった時の行動の癖や作戦の立て方も知っている。
旅の資金集めに魔物狩りをして移動していた時、シューレさんが中心になって剣で戦い、わたしは後方で治癒師として支え、合流したコルが剣と炎の魔法してくれていた。
わたし達の1周目の未来が穏やかな終わり方でなかったからこそ、1周目の未来での自分の不甲斐なさを恥じてあれこれと足りないものを満たそうと行動し、現在は同じかそれ以上になっていたいと努力している最中だ。見る限り、シューレさんも思うところがあるからこそ行動を起こし、あんなに体を鍛えて能力をより良く変えている。忘れたくない理由があるからこそ、本来関わりがないはずのわたしの名前を知っているし憶えてくれている。
ちらりと、わたしもコルへと目を向け、救出したいと願いを込めて左手の冒険者の証である鉅の指輪が判るように額を触り、シューレさんを見つめる。
どんな格好をしていたって、わたしだって気が付いてくれた。
わたしが、治癒師だって、あなたは知っている。
何かを考えたような間があって、シューレさんはわたしに向かって小さく頷いて、そっとコルへと視線を映した。
わたしを信じてくれたの、シューレさん。
「行こう、大丈夫。あの人を信じて。わたしは信じる。」
大きく目を見開いてラスタがわたしを見て、「僕はこう見えて風の魔法も使える。囁いてくれたら聞き取れる。できることがあったら言って、」と躊躇いがちにだったけど言ってくれた。
「わたしは治癒師。半妖だから、あなたの気持ちはわかるつもり。」
誰かを守りたい気持ちは、わたしも同じだ。
「あいつ、知り合い?」
「この世界では、まだ、」
「変なの、」
なんでも正直に口にすればいいわけじゃないのに。咎めそうになって、ラスタはこんな時でもラスタの素のままなのだと思った。
「いいの、信じているから。」
怖いし、緊張している。だからって偽るのは、いつものわたしらしくない。
「いい加減、何をしに来たのか言え!」
怒鳴る女の声に対して、なんと言って欲しいのだろうって一瞬考えて、「その手を離して、」と告げてみる。「そんなことをしなくても、話し合いましょう、」と生ぬるいことも言ってみる。記憶が違っていなければ、この女はわたしを知っていて、わたしが誰かも知っている。
たった一度とはいえ、治癒を受けた恩を感じているのなら、多少は譲歩してくれるかもしれないと期待してみる。
「アハハ、聖堂の治癒師様らしい戯言ね。」
聖堂の敷地内の馬車で治癒した時とは違うはじけた印象の笑いだ。
「盗賊の仕事だからだよ、お嬢ちゃん、」
やっぱり、と思ったのは内緒だ。
「怖いかい、そうだろうね、盗賊は怖いよね。」
「だからそこをおどきよ、お嬢ちゃん。手を離すのはここを出てからだよ、」
ニヤニヤと笑った女や少女の顔の半分は赤く爛れていた肌へと再び戻りつつあった。
「その顔の怪我、」
「これかい?」
女は少女の表情を見てにやっと笑ってからわたしを見て言った。
「治ったと思ったかい? そんなの、芝居に決まっているだろ、」
少女のケラケラと笑う声は、とても楽しそうだ。
「穢れに触れたのさ。屍食鬼っていう穢れにね!」
「屍食鬼だって…!」
老女神官様が呻いた。
「狼頭男もいるのかい、こんな夜なのに、」
「そんなわけないじゃない、おばあちゃん。」
屍食鬼な少女はケラケラと笑った。
「あいつら、月のない夜は出てこれないわ。だからこそ、私たち屍食鬼の足元に跪くの、ね、いい夜でしょ、」
上機嫌そうな雰囲気に、ここぞとばかりに尋ねてみる。
「どうして、こんなことをするのですか、」
軍人のコルは屍食鬼なだけの女に腕で首を絞められてナイフで脅されている。竜人の老女神官様など、屍食鬼である少女の怪力に屈している。
死人を操るのが屍食鬼で、屍食鬼が噛んでしまうと闇落ちし死人になってしまうと都合がいいはずなのにどうして噛み殺さないのだろうって考えてみて、まだ利用できる価値があるから?と閃いた。ここを出るため? そんなの、入ってこれた逆をしてしまえばいいはずだ。
コルと老女神官様を噛んでも死人にできないとか?
「屍食鬼だからと言って、盗賊にならなくたっていいでしょうに、」
あえて本音が聞きたくて、挑発してみたりもする。
「黙れ! お前に何が判る!」
女は叫んで、コルの首にあてていたナイフを強く押した。つつーっと音もなく一筋の血が流れて、コルは唇を噛み眉間に皺を寄せた。
「リズ、すぐ頭に血が上る〜、」
少女がケラケラと笑った。
「止めて!」
痛いのを我慢しているコルを見るのが腹立たしい。どうしてわたしはコルをまだ助けられていないのだろうって、悔しくなってくる。
駆け寄ろうとしたわたしに、「とまれ、来るな!」とコルが叫んだ。「逃げて!」
音がするようにコルの頭が揺れて、女がコルを殴っていた。
「黙れ! 勝手に動くな! おい、お前! この娘を助けたければそのふたりを捕まえろ!」
響く女の怒鳴り声が部屋中に反響して、キーンと氷柱が鳴る。
耳を押さえることもできないコルが顔を顰めたのと目が合った。目を合わせたまま、コルはわたしとラスタを見て首を振っている。こんな時なのに、逃げて、とでも伝えたいのだ。強く光る瞳は、屈してなんかいない。どう考えたって、そんな目をするコルは次こそわたしを助けるために無茶をしそうで、そんなことはさせてはいけないし選ばせてもいけないと思えた。
絶対逃げるもんかって心の中で気持ちを強くして、わたしは、首を振り返す。
「早くしろ、」
命令されても動かない、わたしを見つめたままのシューレさんの頑なな表情からは、演技だとしても言いなりになんてなりたくないのだという心情が見て取れた。
「どうなってもいいの?」
少女は笑っている。脅迫する女の声のままに、本音を言うと従いたくない。だけど、コルを無事なままでいさせたい。
ラスタがわたしの手首を握って引き留めようとしたのをそっと外して、わたしはシューレさんと見つめ合ったまま、両手をあげて降伏の姿勢を見せながらゆっくりとシューレさんの傍へと近付いていった。命令に従うふりをして、一緒に戦うためにシューレさんへと近付いていく。
「聖堂で、お会いした人ですよね?」
シューレさんに近付きながら女に問いかける。
「どうして、宝珠が必要なんですか、聖堂にだっていくつもあったはずです。」
「いくつだって手に入れておくさ。まずはこっちの方が先だね、」
女の言葉に少女は目を細めた。「そうだよね、あの聖堂には大した石なんて扱っていなかったわ? ほとんどが偽物。あの悪い司祭どもが換金していそうだよね…!」
刃を立てるように持ち直して、女はコルに「アンタが持っている魔石は本物みたいだよね、特にこれ、丁度いい魔石だ、」と宝珠をナイフの先で突いた。
「これ、アンタが手放しさえすればあのお嬢ちゃんも助かるのに。頑固者め、」
「止めてください、その人には手を出さないで!」
「黙れ! 早く拘束しろ、」
女はわたしの言葉など聞いてくれないようだ。
首を振るシューレさんに、わたしは自分からシューレさんの腕を持ち上げて、首にかけて捕まってみる。手指や腕につく乾いた血が死人のものだけではないのだと、こう間近に見ればわかってしまう。
「怪我はないか、」
囁く声が懐かしい。シューレさんは、わたしをわたしだと知っていて、気遣ってくれている。
「平気です。」
「シューレさんこそ、」
そっと、腕に触れて、シューレさんの手に治癒の魔法をかける。
「大したことはない、」
「さっきは名を呼んで悪かった。不用意だった。」
「大丈夫です、気にしないで。」
嬉しかったと言いたいのに、言葉にならない。記憶の中ではないシューレさんが記憶の中のシューレさんと違いすぎて、まだ実感がないのもある。
「もしかして、」
「わたしも、1周目であなたに出会っています。」
「よし、お前たちはそこにそのまま居な、」
コルを拘束した女と、老女神官様の腕をねじり上げて拘束している少女とが、わたし達にコルや老女神官様を見せつけるようにして歩き出した。人質を盾にして、ここを出て行くつもりなのだ。
「どこへ行くんです、儀式は終わっていないのに、」
宝珠の交換をしないと、この儀式の意味が無くなってしまう。
「ふたつもなんて…、その宝珠を何のために使うつもりなんですか、」
無視していこうとする女たちに、ラスタが軽く太い氷柱を折って投げつけた。女の頬のすぐ傍をすり抜けてコーンとすぐ近くの氷柱に当たる音が響いていても、そ知らぬふりまでしている。
「答えてください、」
振り向きわたしを睨む女と少女は、わたしが投げたのだと勘違いしてくれたようだ。
「必要だからに決まっているじゃない。ひとり一個でも足りないわ、」
コルの腕をねじ上げて、女は指の隙間から宝珠を奪い取ってしまった。
「この宝珠は魔石の中でも極上のもの。こんなに大きな極上の輝石は滅多に見つけられないねぇ、」
一番輝く角度から見ようと、女は指で摘んで光に透かした。
「綺麗だねぇ。まず一個は金に換えて、もう一個は私が使おうか、」
「あなたはこの土地の人ですよね? これが神事だって知っているのなら、何のために、そんなことをするんですか、」
「見ての通り、私は非力だからさ。私の軍隊を作るんだよ、」
軍人のコルを捕まえれるなら十分に非力じゃない。
「私はね、人間の頃、ちょっと名の知れた盗賊団ギルドを持っていたんだよ。『竜の翼』っていう名、知ってるかい? だけどさ、つまんない男に関わったばっかりに捕まってしまってね。助けに来てくれるはずの仲間もどういうわけかアジトが見つかって無くなっちゃったのよ。どっかの冒険者が手を貸してくれていた者たちまで巻き込んでしまったって話さ。」
驚いて声をあげそうになるのを飲み込む。
1周目の世界で、わたしはシューレさんと『竜の翼』という盗賊団の残党を追い詰めて、ミンクス侯爵家の騎士団に通報していた。
この世界でも残党を通報したはずなのに、どうして。
首への腕が苦しい。
シューレさんは力み、険しい表情になっていた。
ありがとうございました




