10、逃げると捕まるのは不思議
目の前にいるチオクさんはあっけらかんとした笑顔になったので、他領から来た商人としての立場にいるのか、土地に馴染んで暮らしていてすっかり髄までホバッサの住人になってしまった商人の立場にいるのか、一瞬、戸惑ってしまった。
「とりあえずは…、まずは座ろうか。店の外からは見えているのだから、商談をしているように見せた方がいいだろう。」
声を潜めてムラさんが小さく咳払いをして言った。
「我々は荷物の上に座るとするよ。ビア様に椅子を、」
チオクさんには籠を乗せていた木製の踏み台を手渡されたので、これがチオクさんの認識では腰掛け椅子だと割り切って座らせてもらう。ムラさんたちは荷物をまとめた上に座っている。狭い場所だから仕方なく無理やりに椅子にみたてましたって感じが半端ない。背が高いチオクさんも座るので、わたし達は目線の高さが近くなった。
「この土地に暮らして長いのですか?」
わたしの無難な質問に、チオクさんは遠くを見つめて指を折った。
「ああ、かれこれ5年ほどだよ。ここへ出店が決まってから、ずっとここにいるなあ。こんなにたくさんの人と話すのも久しぶりな気がするよ。いつもはロディス様やレオノラさんと話す程度だから。」
5年前まではこの産業会館にリバーラリー商会の店舗はなかったようだ。しかも王国の南方のマスリナ子爵領よりはるかに遠く離れた北の土地でひとりでの赴任だ。心細くなかったのかな。
「ずっとひとりでですか。もしかして、一度赴任してしまうと、任務地の希望はできないのですか?」
「あ、いえ、私はここにいたくてここにいるんだ。気にしないで? もともと派遣されるなら遠く離れた街がいいな、にぎやかな街の数人体制の店よりも個人の力量で切り盛りできる店がいいなとか考えていたから、ここへの異動が決まった時は嬉しかったのを覚えているよ? 確かにここは狭い店であまりいい条件の店構えとは言えないし行商のついでに来てくれる者も少ないけど、この土地での暮らしてみてからはひとりに慣れたし、この土地に慣れるのも苦にならなかったし、とても気に入っているんだ。」
かといってむさ苦しい感じもなく小奇麗な身なりをしているチオクさんは、慌てて取り繕って笑顔を作った。
「そういう理想通りの任務地っていいよな。俺は判らないけど。」
「同じ商会の中に拠点を構えたい者と旅をしている方が楽しい者もいるから、お互いに恨みっこなしでいられるしぶつからないで済んで付き合えて、こういう商売が成り立っているんだろうね。」
「定住に向いている性格ってあるもんなあ…、根無し草が向いている性格があるようにさ。」
笑い合うムラさんたちは3人とも生粋の旅人なようだ。
「そんなだからさ、先入観なくこの領に来て、手探りでここで仕事を始めて少しずつ土地の信仰や習慣を知っていっても、あの神事には慣れていかないって言うか、いまだに全体が見えない不思議な行事だって思っているんだ。」
「他領民のままの感覚で、ですか?」
「この土地が好きだから、余計にだな。言葉が足りてないと思えるかもしれないけど、自領民の感覚になれたとしても、神事だとは思えないと思うよ。根底の部分で理解できないから他領民の視点になってしまうのかもしれないな。あ、間違えないで欲しいんだ、決して悪意を持って貶めるつもりはないと初めに伝えておくよ。ここは竜を崇める者たちの暮らす領で、精霊などいないと考えている者たちが暮らす街なのだと思った方がいいのかもしれない。少し理解ができない感覚もあるだろうから、真に受けない方がいいかもしれないよ?」
わたしは精霊を親に持つ者で、王国人で魔法を使う者は竜よりも精霊の血が混じる者が多い。
自分の立ち位置を守るためにも話を鵜呑みにしてはいけないのだろうなとは推測が付いたので、黙って頷いて『了解した』と態度で示すわたしに、チオクさんは「そうか、」と呟いて顎を撫でた。
「ビア様はどこまでこの領の神事と呼ばれている儀式の内容をご存知なのかわからないから、私が知っていることを話そうと思う。皆、その方がいいだろ?」
同意を求められて、ムラさんたちも黙って頷いた。
「この領での神事は、毎年でも決まった日程でもない。はっきり言って、変則的に新月の夜に西の丘陵地にある湖で行われているような気配がする、としか言えない。湖のすぐ傍の水見の館という建物も名前のない湖自体も領主家の管轄で、普段は立ち入りが禁じられている。周辺を警備兵が巡回していて、西の丘自体が特別な場所として扱われている。」
「暮らす人もいますよね?」
わたしは水見の館の周辺の集落を思い出しながら尋ねていた。
「ええ。昔からその場所に住んでいたと思われる人たちは引っ越しを禁じられているようで、継続してそこで暮らさせられているという印象があるのだけどね。」
下手に移動させて変な噂話が広がっても困るから移動させないという理由なのかなと連想してしまった。
「実際に儀式で具体的に何が行われているのかをはっきり知る者は少ないんだ。基本的にあの湖の周辺一帯は日中でも警備兵がうろついているし、一般の、この街に暮らす者たちですら立ち入りは原則として禁止されている。水見の館への配達なんてもってのほかだ。しかも、新月の夜が近付くといっそう警備が厳しくなり、当日は西の丘の下の辺りまでも立ち入りは制限されてしまうんだ。あの地区に暮らす者たちは家から出ない様にと命令されているし、特に子供を持つ家族は子供たちから決して目を離さない様にと言われている。宿屋では口うるさいまでに旅行者に警戒するよう教えるんだ。なにしろ、例え冒険者だろうと湖に近付けば投獄されてしまうんだからね。公爵家の権限だから、抗議しようものならしばらく出てこれなくなる。」
「かなり厳戒な態勢で守っているんだね。」
エイトさんがしみじみと呟いた。
「噂には聞いていたけど、改めて聞くと、物々しいまでの警戒っぷりだなあ…!」
険しい表情のムラさんが感嘆する声は、どことなく小馬鹿にしている含みがあった。
「私は一応、ここで暮らし始めるにあたって調べたりしたんだ。自分に害があるのならあらかじめ避けておきたいだろ?」
「この街が気に入って暮らしているのなら、調べてみたら警戒する程ではなかったんですね? 何か見つけたんですか?」
尋ねたわたしに、メークスさんは「気になりますね!」と明るく言った。すかさずムラさんが「落ち着けよ、」と肘で突いていた。
「夜は特に外出を制限しているようだったから、試しに満月の夜に行ってみたんだ。誰もいないはずの西の山の周辺では、女の優しく歌う声が聞こえてきたんだ。最初は風の鳴る音なんだと思ったよ。ただ、風の音にしては言葉にも聞こえなくなかったから、気になって昼間にも行ってみたら、やっぱり女の歌声だと思われるものが聞こえてきた。風の精霊の気配はしなかったけど、あれは、人の声なんかじゃないな。」
チオクさんの言葉に、ムラさんたちは「オオオ…!」とどよめいた。
子守歌を謳う声?
一晩寝泊まりしたわたしにはそんなものは聞こえてこない気がする。
湖まで行ったのに聞こえなかったのもあって戸惑うわたしの顔を見て、何か言いたそうに黙って小さく首を捻った後チオクさんは話を続けた。
「実を言うと、住めば住むほど、神事が行われている状況がよくわからなくなってしまっているんだ。ここに暮らせば暮らすほど、神事と呼ばれている所以が、神聖な儀式をするのが竜人の神官で、必ず滞りなく行われないとこの街、いやこの領全体に害が及ぶからなのだと判ってきた。街の噂をまとめると、水を清めるために神事が新月の闇夜にこっそりと行われているらしい。少なくとも私が考えたような、湖の底に暮らす女を鎮めに竜人の女の神官が神事を行うのではないようなんだ。」
わたしが老女神官様から聞いたのは、新月の夜に湖の底の神殿の宝珠が目印となって光るのを頼りに潜り宝珠の交換を行うという儀式だ。
「歌声は聞こえているんですよね? 近寄れないから知らない街の人たちには『水を清める為』という偽りの名目で話しているわけではないのですか?」
メークスさんが尋ねたのを聞いて「違うと思います、」とわたしはつい口を挟んでしまっていた。
「ビア様?」
「詳しくは話せませんが、常人では耐えられない水なので竜人の神官様が湖に潜って儀式を行っておられるそうです。水に耐えられる体質の人間を探した結果、今回聖堂に派遣を依頼してきているみたいなんです。」
「あ…、」
誰もの視線がわたしへと集まる。
「そうです。今回、ここへ呼ばれたのは、聖堂にいる候補者を呼びたかったからみたいです。わたしは、その人の代役としてここにきています。」
「ビア様が、そのお役を代わるんですか。」
ムラさんの震えた声に「…代替案を探しています、」とだけ答えておく。
斎火のコルと共にこのままこの地から逃げられるといいなとは思っていても、思っているだけでは何も変わらない。
現段階で、代役としては竜人ではないわたしは不十分だと老女神官様にも領主代行様にもみなされていて、この地に留まり続けると竜との対話のためにやってくるはずのシューレさんと接触してしまいかねない。
なんとしてでも情報を集めてうまく利用して、小隊としてこの街を出る方向で条件を整え、計画が成るようにしむけていかなくてはいけないのだ。
「…まずいな、これは早急に代替案を探す必要がありそうだな。」
さらっとエイトさんが呟いた声が聞こえた気がしたけど、チオクさんは話を再開する。
「仮に、水見の館に暮らす竜人の神官様の歌声だとしたら、そういう話として伝わるだろう。かといって、女の歌声が湖の底から聞こえて来ているのなら、人間の所業だとは思えない。調べていくうち、湖周辺で聞こえる歌声は聞こえる者と聞こえない者とがいるらしくて、聞こえる者はあの水見の館では働かせてもらえないそうだ。なんでも、『マザリモノ』と呼ばれて跳ねられてしまうそうだよ。聞こえると、不都合なようだね。竜人の神官様の歌声ではないというのは、クビになって跳ねられた者の証言もあるから、これは間違いないのだろうな。」
マザリモノという言葉を使うのは、老女神官様がきっかけだろうなと思えた。
わたしをマザリモノと呼んだ理由は精霊の血が混じっているからで、その規則に沿ったままであるのなら、水見の館で働けないのは『半妖』で、湖からの歌声が聞こえる者だから働かせてもらえないという理屈になる。
「通常、神事とは女神さまが関わってくるものだ。だけどこの街で『神事』と呼ばれている儀式に携わる者は神官だけど竜人で、かといってその竜人の神官はどの竜王様の神殿にも関係がない。神官なのに、どこにも属していない神官って不思議な存在だと思わないか?」
「ちょっと待って。その竜人の神官という人物は、流れの巫女や冒険者ではないよな?」
「もちろんだよ。かなりの御高齢の老婦人だよ。なんでもこの領の出身だそうだ。あ、竜人だから長寿は当然か。」
メークスさんの質問にも、チオクさんは顔色も変えずに答える。
「姿かたちを確認したのかい?」
「よく晴れた満月の昼間に、水見の館で散策されている御姿を、ね。天気のいい日だったから、警備兵が警戒する近くまで近寄った時、視力を強化する程度で見れたよ?」
「その時も、歌声が聞こえたのかい?」
「ああ。もちろん。湖から聞こえてくる歌声があった。私はここでは働けないマザリモノだと自覚できてしまったよ。」
チオクさんは言いながらわたしを見て、一瞬だけ眉を顰めた。きっとわたしが彼の期待した表情をしていないからだ。
「これまでの間、どういう謂れがある行事なのかを詳しく知りたくて、休みの日を利用してこの地方に纏わる伝承や民話を調べてもみたんだ。わかったのは、突然儀式が始まっているらしいってことぐらいなんだ。地図を確認してもある年代からいきなり湖が記されていて、ある時期から水害の記録が無くなっている。それまでは湖に溜まった水が原因で水害があったのではなくて、水量の増したそれぞれの川が合流するこの街の東側で、流されて溜まった木材や草木が合流地点でダムをつくり、水を堰き止めてしまって街の中へと溢れたのが原因なようだった。ずっと治水事業を繰り返していたとも言える。だけど西の丘に湖が出来てからはそれまでとがらりと変わって、『水を清める』神事の記録ばかり出てくる。まるで湖自体が災害であるかのように注目されているんだ。」
「水害の意味が変わってきているみたいだな?」
「そうだよ。神事が行われるようになって川の整備も進んでいるから、理論上、堰き止められて溢れるという水害はなくなっている。」
道路と歩道と建物との段差のある街並みを思い出す。水害の捉え方が変わったから、家の建て方も変わったのか。
「変わったのは、人もだ。水を清める神事なのに、関わっていた巫女たちはこの神事の前に突然巫女として現れて、唐突に巫女の座を失っていたりもする。誰も『マザリモノ』らしく、歌声の話をする者ばかりで、歌声を頼りに湖に潜っていたようなのに、突然、竜人の神官様ひとりが交代もなく神事を担っているんだ。恐らくこの神官様も歌声を聞いている。現在水見の館で働く者たちが口を噤んでいても、記録として事実は残っているんだ。」
「まさか、歌声を聞こえる従者や侍女は『マザリモノ』と言って避けるのに、巫女や神官は歌声が聞こえる者を選んでいるのかい?」
「そのようだよ。」
「待っておくれ、なあ、ビア様も聞こえているのかい?」
メークスさんが震える声でわたしに尋ねた。聞こえていてほしくないとばかりに、訝しげだ。
聞こえていなかったけど、聞こえなかった理由は知っている。
「わたしは、この指輪をしていたので、聞いていないのです。」
黄色く輝く石の指輪を嵌めた手を翳して、驚くチオクさん達を見回す。
「これは、精霊の声を遮断する効果を持つ石です。この服にポケットがなくて、魔石の代わりに身に着けていたんです。」
効果など何も考えておらず、単純に、群青色の石のイヤリングと同じ扱いで、黄色く輝く石の指輪も魔力を溜めておく魔石の扱いしかしていなかった。
「ああ…、そんな偶然があるんだ…!」
「確かめに行きたいですが、あまりそのつもりはないのです。」
「どうしてですか、」
単純に純粋な好奇心で尋ねたのだと察せられても、それまでにこの街を出ようとしている計画を共有するにはまだであったばかりの間柄だと思うと早いと思えて、このまま秘密にしておきたいとも咄嗟に思ってしまった。
答えず、わたしは曖昧に微笑んでおいた。
「ビア様が代役で呼ばれて、今夜は月がない新月の闇夜であるとなると、そうそうに神事が行われそうですね。」
思案顔のエイトさんが、首を傾げた。
「他領の神事に、公国人のビア様が巻き込まれるのは、おかしな気がします。」
「わたしは今、冒険者という身分で聖堂に所属しているので、公国人だからってのは関係ないのだと思います。」
「仮に、この街にいる間に聖堂を脱会できたら、巻き込まれなくて済むのではないですか?」
メークスさんが得意そうに言ったのを、ムラさんが「よく考えてみろ、後ろ盾が無くなるんだぞ。もっと危険になるかもしれないだろ、」と不機嫌そうに否定する。
心配そうな表情になったチオクさんは、だからと言って何の助言もないようだ。この街に住む限り神事がないと水が使えないという結果を知っているからこそ、誰かが神事を担わなくてはいけないと心の中では考えていそうだとふと思ってしまった。わたしもきっとここに暮らす立場なら、あまり面識もない自分じゃない誰かが頑張ってくれるならお任せしてしまった方がいいと思うかもしれない。
責めるつもりはないので、わたしはわたしの道を進むと決める。
「ちなみに、チオクさんは、本店の…、レオノラさんと通信するには、いつもどうされているんですか?」
退魔煙の練り香の対価を貰うには、この店はあまり売り上げを持っていそうにないので躊躇われる。魔香についての情報があるのなら聞いてみたいとも思っていたので、できたらロディスとつないでほしいと考えてたりもする。
「非常階段から屋上を上ってすぐの場所にビオトープが置いてあるので、いつも朝早くに連絡を取っていますよ。使われますか?」
是非にと言いかけて、非常階段を行き来する移動時間を考え、悔しいけど諦めると決める。
そろそろ戻らないといけない。あと少しなら大丈夫と思っていても、そんな時に限って時間がかかり過ぎだと言われて、立場がますますまずくなる気がする。
「長居をしてしまいました。聖堂に戻ります。お話、聞かせてもらえてよかったです。」
立ち上がってお辞儀をすると、チオクさんは慌てて立ち上がった。
「いえいえ、結論もなく現状ばかりの情報でかえって混乱させてしまいました、悪かったです。」
「そんなことはないです。謎に満ちているとわたしも思いました。」
湖の近くで領主代行様の話を聞いていた時、精霊の歌声が聞こえるなんて、コルも先輩もレイヴンも口に出していなかった。わたしが聞こえていなかったのがバレていないのと同じように、わたしも、仲間に聞こえている素振りを感じなかった。
「そうですか、」
「では、行きます、皆さん、ありがとうございました。お元気で、」
あちこちにあるリバーラリー商会をその土地土地で利用する機会はあっても、ずっと同じ人が店主を務めてくれているはずは無い。
「ビア様、その態度、今生の別れみたいな言い方ですね。」
会う約束もないのに和えるつもりでいて別れの挨拶をしないままでいるのは、今のわたしにはとても無責任な行為に思えていた。
コルとだけ接触している現在が平穏でも、この先コルとシューレさんとで出会ってしまった時何も起こらずに離れていけるとは限らないと知っているからだ。
だからと言って『そうですよ』と認めるのも嫌で、わたしは曖昧に微笑んでおいた。
「じゃあ…、次にお会い出来たら、永遠の別れにならずに済みますね。」
メークスさんが軽く返してくれると、「違いない!」とエイトさんに大笑いされてしまった。
※ ※ ※
最低限は欲しかった情報の十分な成果を感じながらわたしは結界を出て、商会の敷地も出る。
霧が晴れたと同時に見通せたスカッと広い通路は相変わらずに閑散としていて、お昼時とは思えない静けさの中を急いで移動する。
地図を見た限りでは、地竜王様の神殿へと向かいたいなと思っても、そう近い場所ではない。午後からは自由に抜け出してしまうと、コル達とこの街やこの領自体を脱出するという計画にまで悪い影響がありそうだ。
空腹のまま階段を駆け降りて、急いで産業会館を出た。向かうのはここから離れた地竜王様の神殿だ。
地図の中で、妖の道となりそうな三叉路は見つけてあった。
通りを横切ろうとして、南の方角から馬を操る騎士たちの小隊が恐ろしい勢いと賑やかさでやってくるのが見えた。
身なりや服装からして、どこかの領の騎士が早馬で駆けつけてきているのだと判る。
まさかミンクス侯爵領へと向かっていた、竜使いか竜の調伏師と思われる人物を探し出してきた人たちだったりするのかな。
自分の思いつきに身震いして、わたしはくるりと背を向けた。
地竜王様の神殿は諦めよう。
急いで聖堂へと向かいながら、駆け抜けていく早馬の集団から見えないよう人混みへと滑り込み、顔を背けて背を丸めて歩いてやり過ごし、聖堂へとすごすごと戻る。
敷地内に入るなり集まってきた司教たちに嫌味を言われても、約束を守ったのだと胸を張る。
わたしの宛てがわれた応接室の前で待ってくれていたのはコルとレイブンで、ふたりは揃って「もういつでも大丈夫たから、」と爽やかに言って握った親指を立てた。
ありがとうございました




