2、春の嵐に託して
「少し、暗いよね、ビアの顔が見えないよ。」
「ああ、ちょっと待って、」
わたしはサイドテーブルの灯りをつけた。月のない夜は星がいくら見えても暗いのには変わらない。
「あれ? オルジュって灯りがないとわたしの顔が見えないの?」
ちょっとした違和感に首を傾げると、「ああ、ビアと目が合わないよね、暗いと、」と訂正されてしまった。夜目が利かなくて見えないのは、わたしだけだ。
明かりがついたおかげで、はっきりとオルジュの顔かたちが見える。なんとなくじゃなく、視線が動くのも追える。
「どこから話したらいいのか迷ってしまう部分があるから、気になることが出来たらその都度聞いて欲しい。」
「オルジュは、マハトには標的があって、その誰かを探しているって言ったじゃない? それって、マハトのお父さんじゃないの?」
いつか、師匠は、皇国から王国へ出た後マハトが消えたのは婚約者であるわたしではなく肉親を優先したからではないかと考えているようだった。
実際に山の民のマハトの暮らしていた村に行った経験があるわたしとしては、肉親がマハトのお父さんならそっちを優先して当然だよねと思ってしまっていた。あの村には、どの家も父親の姿はなかった。出稼ぎに出ている間、母親が子供と家に残されていた。
特にマハトの場合隠し事が多かったから、父親に関して何か含む感情があるのだとして、家を出たまま帰ってこない父親を偶然見かけたら気になって追いかけるだろうなと納得していたのもある。
「最初のきっかけは父親だったみたいだけど、だんだんと、マハトの中でも『父親だけ見つけたって駄目だ』って判ったんじゃないかなと思うよ。探るうち、父親を縛る契約か何かが反古にならない限りは父親は自由にしても自由にはならないんだってわかったから、探す相手が父親一人ではなく父親の属する集団の長に変わったんじゃない?」
頭の中に、マハトの背景とふたりの人物を思い描く。ひとりはマハトのお父さんと説明を書き、もうひとりの相手の特徴を書き足そうとして、とりあえず頭の部分に『標的』と書き足してみる。
「それが集団の代表である『標的だと思える誰か』なのね?」
アンシ・シの地竜王様の神殿の近くにいたはずのマハトは、意外にも王都にてオルジュに発見されている。
次に向かった先は公国であるなら、聖堂に所属する一部の公国出身の狂信者な魔法使いの集団であるエクスピアの拠点は公国にあるのだと思えてきた。
公国人が皇国の山奥に暮らす少数民族である山の民の虫使いたちとどうやって接点を持ったのか不思議に思ってしまうけど、健脚の山の民はどこにでも現れるので誰と手を組もうとおかしなことではないよねと考え直す。
「そうだよ。エクスピアの構成員のひとりだと思うよ。公都で接触するうちにこの計画には集団のすべての人物は関わっていないと判断したようで、『今回の計画の発起人』って人物を探しているみたいだった。途中から、虫使いの男を探しているという言葉が聞こえなくなっているから。」
発起人って、自分で名乗ったりするのかしら。
具体的な名前もなく見つかるのかな不安だ。
『標的』はさらに『長?』と変わる。
「オルジュ、人を探す時に『今回の計画の発起人』とは例えないと思うわ。発起人と目星をつけた誰かを名指しで探すのではなくて?」
「見ている限り、誰なのかを特定していて、だからこそ、あえて名前を出さないで交渉していた様子だったよ。質問された側が今回の計画の発起人という言葉で連想した人物がマハトの想定している人物と違った場合に、この計画に関係しているのかどうかを判断しているという印象だった。」
「かなり慎重に人を探していたのね。」
「そのようだね。マハトはあくまでも一人で行動していたから、信じられるのも頼れるのも自分だけしかいないからだろ?」
「オルジュは、手助けしたの?」
口に出した何気ない一言に、自分でも無理を言っていると気付く。得意な季節じゃないオルジュが魔力を温存しつつ異国で頑張ってくれていたのに、理解が無さすぎる。
「出来るような状況じゃなかったよ。」
「そうね。言い過ぎたね、ごめん。無茶を口に出したりして悪かったわ、オルジュ。」
「いいんだ。気にしないで、ビア。」
サラリと躱してくれたオルジュは優しい。
「オルジュはよくやってくれているわ。」
マハトがガルースから王都まで徒歩で移動し続けたのだとしたら、オルジュが王都で出会ったという時期もおかしいと思わない。
公国へ向かったマハトと接触した時期を考えると、王国の固有種である春の風の精霊のオルジュが夏に季節の変わったという困難な条件で他国である公国へと移動してくれたのだから、最良の条件下より日数がかかるのは否めない。
オルジュはわたしの為に全力を尽くしてくれていると考えるのが真っ当な評価なのだ。
ふいに、頭の中でマハトが魔法使いの弟子の誰かと握手している図を思い描いてみて、いったい何の話をするのだろうかと不思議に思ってしまった。
あなたは計画の発起人ですかと、この場面でも尋ねたりするのだろうか。
1周目の未来で一番被害にあっているのは、夕凪の隠者であるエドガー師だ。その弟子に、あなたの師匠はもうじき竜化させられますと言えるのは、わたしの1周目の未来を知る人物とわたしの1周目の世界での聖堂の関係者だけだ。どちらもマハトは該当しないので、エクスピア絡みのことを尋ねていると見た方がいい。
あれ、そういえばエドガー師の弟子って、確かイリオスじゃなかったかな。
イリオスは偏見でわたしを国境の密林に強引に転送した結果、貴族である師匠であるバンジャマン卿の一応婚約者であるわたしへの殺人未遂の罰として、ラボア様より『落花様の烙印』という呪術を受けている。
そんなイリオスがマハトと接触したとして、彼らに共通する人物とはわたしくらいしか想像できない。
まさか話す話題ってわたしのこと?
いや、それはあり得ない。
わたしはマハトにマライゾ公爵家の転送の罠やイリオスの話をしていないし、イリオスは罰を受けたからと言って偏見が容易く改善されているとは思えない。
「ね、オルジュ、ちなみに夕凪の隠者であるエドガー師の弟子と接触した時、マハトは何を話したの?」
イリオスだとして、オルジュはイリオスがやったことも知っているはずだ。そういう人物だと知っている上で何を注目して聞いていたのかが気になる。
「ビア、ごめん、接触したのは知っているけど、交渉した話の内容までは聞こえなかった。交渉したと判断したのは、その後のマハトが割り切ったような…、何かを決意した表情をしていたからだよ。その接触の後、迷いなく王国へと移動しているからね。」
「その言い方だと、弟子はオルジュの知らない人なのね?」
わたしは頭の中で思い描いた想像の図をいったん白紙にする。
「イリオスじゃないなら、弟子って、誰? オルジュは判る?」
オルジュは困った顔になった。
「場所は公都の酒場? エドガー師のお屋敷?」
エドガー師のお屋敷で弟子と会ったのなら、マハトの用件にエドガー師も関係している。
弟子は、もしかするとエクスピアの関係者かもしれない。
「エドガー師のお屋敷の近くの街の宿屋。公国は王国と違って魔法を使える者が多いから、精霊除けにしっかりと結界が施されていた部屋だったよ。おかげで中も覗けなかった。マントのフードを目深に被っていたよ。わかるのは体格や声色からして男だろうなってくらいだ。街の酒場で待ち合わせて密会していたから人ごみに紛れて会話するのだろうと考えていたのに、その先に移動した一室にはあいにくと結界を張られてしまったんだ。ごめんね、ビア、それ以上は判らないんだ。」
弟子とエドガー師がつながっているのなら、エドガー師にマハトとの接触を隠す必要はない。
マハトに弟子がエドガー師とつながっているのを隠す必要があるとしたら、そもそもマハトは弟子ではなくエドガー師と接触した方が効率よく情報を得られる気がする。
弟子とエドガー師とがつながっているという疑いはないと見た方がよさそうだ。
「そう…、弟子が気になるわ…。」
想像の中でマハトと並んだ想像の人物は『長?』のままだ。隣にさらに『エドガー師の弟子』という人物を描いてみて、彼は『長?』の居場所を最終的に知っている人物なのではないかなと思えてきた。
何しろマハトは決意した顔でどこかへ移動している。最終目的である標的のいる場所を目指して移動を決めたのなら、エドガー師の弟子は発起人について重要な情報を握っている人物だ。
「日を改めて、エドガー師のお屋敷には様子を見に行ったりした?」
念の為に聞いてみて、オルジュの困った顔を見つけてしまう。
「いいや、マハトを優先したよ。抜け目ないマハトを見失う方が怖かったから。」
本当にギリギリの魔力と厳しい環境で頑張ってくれたんだ…!
「そうよね、ありがとう。オルジュ。」
胸が熱くなりながらも、わたしは考える。
弟子には確実に二つの可能性がある。全く関係なく発起人について知らなかった場合と、関係があり知っている場合だ。
仮に1周目の未来のアンシ・シでは、エドガー師を竜化させたい集団と黒い甲虫を使って地竜を攻撃したい集団とが存在していたとして、エクスピアがもう一方の集団の動静を把握していたのだとしたら、この2周目の未来でもエドガー師の周辺に間者を潜り込ませていたっておかしくはない。
ただ、その場合、間者は発起人を探すマハトと面会するのだろうかと疑問が生まれる。
マハトが面会を要請して素直に応じるのだろうかと考える時、見逃せない切り札でもマハトが持っていない限り、わたしなら見捨ててしまう。
「相手はあの夕凪の隠者の弟子なのだから、情報が得られなかったのは諦めるしかないわ。ねえ、オルジュ、虫使いのマハトのお父さんを探してエクスピアに接触していたら、どういう理由で夕凪の隠者が絡んでくるのかしら。マハトのお父さんがまさか、夕凪の隠者のお弟子さんだったりお屋敷の従者だったりはしないよね?」
ありえないって判っていても、他に思いつける可能性は潰しておく必要がある。
「それはなかった。王国へ来る前に最後に接触したのがその弟子だったから。その後、マハトは公国を出て、王国へ向かっている。」
「だから、オルジュはわたしの元へすぐに戻ってきてくれたのね。」
「そうだよ、マハトは公国の山から皇国へ抜けて、その後、険しい獣道を抜けて王国へ入っている。ビアの声が聞こえてすぐにこっちへこれたのは、王国側に入っていたからだよ?」
王国の固有種である春の嵐の精霊のオルジュは、嬉しそうに目を細めている。
「そう…、マハトは何か有益な情報をその弟子から聞いて王国へと向かったのかもしれないわ。弟子はマハトに王国にお父さんがいるって伝えたのかもしれないよね。」
マハトは王国のクラウザー領からわざわざ南下して移動して公国まで行ったのに完全に無駄足だった、という状況なのかな。
でも、どこか違和感がして、何かが違うような気がしてきて、首を傾げてしまった。
「ガルースの月の女神さまの神殿で、先に何人か転送されているのでしょう? そこで誰に何を聞いたのか気になるよね。何を聞いたら公国へ行く理由になるのかな。ねえ、オルジュ、公都に行ったんだよね? 公都で他のエクスピアと接触して、質問を繰り返して振るい分けをしていたとして、どうして夕凪の隠者の弟子に辿り着くのかな。」
単純に考えてしまうと、クアンドの夜にマハトは消えていた父親の姿を見つけ、追いかけてガルースの神殿へと転送され、他の者たちと出会った。なにしろクアンドの神殿からは、王国のガルースか公国のカペラの神殿に転送されてしまう。マハトの追いかけたかった者たちは公国へ逃げている。エクスピアは公国人が多いから、公国にいる限り、見た目が周囲に馴染んでいて潜伏しやすい。
王国には彼らはいないと判る簡単な方法は、そこに転送されてしまった者たちと話をすることだ。
話をしてみて、縄を解いた他の者たちを逃がした時、逃がした者たちはそのままそこに留まったりしたのだろうか。
逃がしたあと、マハトには父親の行方を探すという目的があったからそこを離れている。
王国を南下した時点で、公国に何らかの手掛かりがあると知っているからだとわかる。
公国で何かを見つけたから、マハトは弟子と接触して、確信したから次の行動を起こした。
現に、マハトは王国へきている。
2周目の未来となったこの世界でのわたしは分化し、アンシ・シにはいない。
イリオスを嗾けてあるので、エドガー師はひとりで行動していないはずだ。
これだけ変わっていても、まだアンシ・シの神殿には地竜王と大勢の地竜たちがいる状況だけは変わっていない。
暗黒騎士となったアレハンドロや、宝石商のセサルさんがアンシ・シに間に合っていたとしても、黒い甲虫が使われる可能性だけは残っている。
王国で何かが起こる時マハトの父親である虫使いがそこにいると判ったからマハトもそこへ向かったのだとしたら、遅かれ早かれ何かが起こる。
わたしは1周目の未来という経験があるからこそ、この先王国で何が起こるのかを知っている。
「…わたしの1周目の未来の話、オルジュは知っているよね?」
まっすぐにオルジュの瞳を覗き込むと、オルジュは「知ってる、」と小さな声で答えてくれた。
「わたしの1周目の世界では、新月の頃、クラウザー領に夕凪の隠者がいるわ。」
先ほど見た窓の外の、暗い空には月が見えなかった。
「その未来ではわたしは未分化で、すぐ近くにいた。ここにはいなかったの。世界は違う流れだといいなって願っているけど、もしかしてもう…、王国では何かが起こっているの?」
即答しないのは、言葉を選んでいるからだ。
胸騒ぎがする。
オルジュはわたしの顔を見て、わたしの手を取り、そっと温めるように握ってくれた。
「ビア、山の民であるマハトは、正攻法で国境を越えられなかったから密入国している。王国側のオルフェス領内で魔香が焚かれたから、公国側の国境の街ウェマからの検問所は封鎖されていたんだ。」
「え…、」
想像していたのよりもひどい答えが返ってくる。
「ブロスチから持ち出された魔香が、使われた…?」
最悪な状況だ。
「魔物が襲撃して、街が破壊されている。雨が降りにくい街だから、当分混乱は続くだろうな。」
「ラボア様は、魔香を探すよう御命令なさっていたのに、どうして。」
オルジュはわたしの顔を見て一度目を伏せた後、「アンシ・シでも魔香が焚かれているみたいだよ。ビアの話していた世界とちょっと違う結果になったけど、今、アンシ・シも封鎖されているんだ、」と瞳を見つめ直して言った。
「そんな…! マハトは、マハトのお父さんは、アンシ・シに、いるの?」
何も言わないオルジュの態度で、わかってしまった。
「そうなのね?」
オルジュは、もしかしなくてもマハトのお父さんの姿を知っていたりしそうだ。
「マハトは、追いかけようとしているのね? オルジュは、マハトのお父さんのこと、知っているのね?」
「マハトが追いかけている男たちの中にマハトと近い匂いを持つ者がいたから、おそらくあの男が父親だ。マハトが追いかけている先にいるのかどうかまでは判らないけど、マハトは手がかりを得て、信じて、王国へ戻ったんだと思うよ。」
1周目の手がかりなら、わたしだってあったのに。
「ね、アンシ・シには、誰がいるのかわかる? オルジュ、師匠もいたりする?」
わたしが、行かせてしまった。
あの街に、わたしはいないのに。
「ビア、マハトの傍から離れなかったんだよ? ビアに呼ばれてここへまっすぐ来たんだ。アンシ・シに誰がいるのかまでは判らないよ。」
当然と言えば当然の答えなのに、わたしはどうしても落胆せずにはいられなかった。
感情が揺れる。
「マハトはまだアンシ・シにはいないのね?」
声も、震える。
「まだ王国に入ったばかりだからね。」
「エドガー師も、公国にいるのね? 国境が封鎖されているのなら、出られないものね。」
「いるだろうねとしか言えないな。だいいち、公国を出た後なら、弟子は堂々とマハトと接触していてもおかしくないんじゃないかな。」
「普通なら弟子は師匠と行動を共にする立場にあるものね。」
自虐気味にそう言って笑って、わたしはちょっとだけほっとしていた。エドガー師が公国に向けて出発していないのなら、アンシ・シに確実にある危機は魔香だけで、あとは黒い甲虫が使われているかもしれないという確実ではない危機だけだ。
みんな、待ってくれているのに。
泣いて喚いても無駄なのに、叫んで全て否定したい。
駄目だ、負けたくない。
悔しくて泣きそうになる。2周目は同じじゃないのに、違うはずなのに。
オルジュが、わたしを見ている。
そうだ。オルジュがいる…。
「オルジュ、わたしの今いる状況は、わたしで何とかするわ。」
例え何とかできなくても、王都ではない場所にいる現在、聖堂を脱会して堂々とアンシ・シへと向かう方法なら見つけられるかもしれないし、見つけてみせる。
契約しているからと言って、精霊はわたしの奴隷じゃない。契約していても、わたしと対等かそれ以上の存在だ。
頭を下げたからって、願いを聞いてくれる者ばかりじゃないって知っている。精霊だって命には終わりがあるから、輪廻の輪は回り続ける。
「お願い、頼れるのはオルジュだけなの。」
本音だけど、無理を願っているのもわかっている。
「マハトを追ってアンシ・シまで行って、わたしの代わりに見てきてほしいの。アレハンドロやレゼダさんやベルムード、セサルさん、師匠が、アンシ・シにはいるはずなの。みんなの助けになってほしい。」
季節も違い、万全ではないのも知っている。
魔香が使われた街は魔物の襲撃を受ける。風の精霊だからと言ってまったく無事であるとは限らないのに、わたしはオルジュしか頼れない。
「オルジュ、」
顔が、見れない。申し訳なくて、見えない。
「ビア、頭をあげて、」
オルジュの手が、わたしの肩を掴んだ。
「ビア、」
「お願いします、オルジュ、わたしを助けて。助けが必要なの。わたしがこの街を出るまで、アンシ・シまで行ける時まで、わたしの代わりに行って欲しい…、わたしを助けて。」
「ああ、参ったな、」
オルジュは笑って、わたしの顔を手で掬うようにして掴んで、上を向けさせた。
「見縊ってない? たいしたことないよ。誰だと思ってるの?」
オルジュの瞳にあるのは勝気な光で、眼差しは揺るがない。
「ここは王国だよ? なんだって任せておいて?」
でも、春じゃないよ?
言いかけて止める。
不安が吹き飛ぶ明るさがオルジュの瞳には光っている。
「オルジュ、」
「行ってくるから。先に行って待ってる。」
力強い言葉は、迷いがない。
「わかった。先に行って待ってて。必ず追いつくから。」
無理かもしれないって思っても、そんなはずないって思い直す。
信頼して任せた方がいいことだってあるって知っている。
「ミンクス侯爵領には妖の道があったわ。王都にもある。だったら、この街にだってあるはず。必ず、見つけるわ。」
わたしは、冒険者だ。何だってできる。
「そう、その調子、ビア。悲しい顔して俯いてちゃだめだよ。ひとりが怖いならいつだって呼んで? かならず会いに来るから。」
「オルジュ、」
立ち上がって、オルジュはわたしの頭を抱きしめて、「会えてよかった、」と言うなり、窓へ向かって走り出した。
「オルジュ、待ってて、」
「またね、ビア、」
いつしか風になって消えてしまったオルジュへと手を伸ばしたままでいたわたしは、ひとつ大きく深呼吸して、手をぎゅっと握った。
まず、できることをしよう。わたしは無事だって、伝えよう。
わたし自身に向かって『回復』の呪文を唱える。
師匠の名を織り込めば、師匠に位置が判るはずだ。
きっとすべてはうまくいく。
信じたら、未来は変わる。
わたしは希望という魔法を使う冒険者だ。
灯りを消してベッドへと戻り明日からできることやできそうなことを考えているうちに、わたしは眠ってしまっていた。
ありがとうございました




