24、貴い命の器の尊い色。
<ビア、おはよう、>
足元に絡まるように現れた黒猫は、山猫オリガの世を忍ぶ仮の姿だ。夜空に流星がいくつも流れるような体毛の山猫という本来の姿と、野良の黒猫という微妙な差は、あまりオリガは自分の姿を意識して変えるつもりがない無頓着な性格をしているのだと伝わってくる。
<どうかしたんですか、こんなところまで、>
オリガは気まぐれな精霊だと思っているだけに、わたしの元へ呼びもしないのに姿を見せるのって変な気分だ。さっき見かけた吉兆の白鷺の特殊効果だったりするのかな。
触ってほしそうに待っているオリガの態度を、気が付かなかったふりをして先へ行ってしまおうかななんて一瞬思ってやめる。昨日契約したばかりの関係とはいえ、できるなら悪い方向へ印象を変えるのではなく、もっと良い方向へ関係を深めていきたいと思っていたりするからだ。
しゃがんで体を撫でてあげると、<いい子いい子を覚えたのね、偉いわね、ビア、>とオリガは目を細めて喜びながら褒めてくれた。口には出さないけれど急いでいるので、わざと足止めされている実感ばかりして絶妙に嬉しくない。
<ビア、上手よ、>
ゴロゴロと喉まで鳴り始めた。
<もういい? 行くところがあるの。>
手荒く顎を撫でているのに、オリガは嫌じゃないらしい。手を動かすわたしの視線の先には、人の出入りが途絶えた小さな礼拝堂がある。もう中では人が集まっていて任務について説明が始まっていたりするのかな?って不安になる静けさだ。
<ビア。よくわかっているじゃない。誘いに来る前に理解していたなんて、ますます感心ね。>
ん?
何か変な気がする。
<オリガ、わたしはわたしの任務があるって、わかってる?>
<任務っていう言い方をするのね? そうね、攻略しないといけないよね。>
<任務は攻略じゃないよ、オリガ?>
絶対噛み合っていない気がする。
<私を手伝ってくれるんでしょ? 契約しているのだから。>
…。
わたしとしては、契約している主格はわたしで、あくまでも精霊の力を借りる関係でいるのだと思っている。オリガことシオロンが主格でわたしは隷属しているような契約を結んでいるつもりはなかった。
<魔力は、無理のない程度にあげてもいいけど、わたしにはすることがあるわ?>
<だから、行こ? ビア。>
まっすぐにわたしを見つめるオリガの瞳は期待ばかりで、わたしにはわたしの用事があるなんて微塵も想像していない。
オリガが、わたしを迎えに来てまでして何かを手伝ってほしいと思っているのは判る。できるなら手伝いたいし、できるなら、オリガから妖の道の手掛かりを得たい。
突き詰めてしまうと、王都を出るという目的があってここにいる。オリガとも、王都を出るという目的がなければ契約していなかったかもしれない。
<行けないよ、オリガ。わたしは、冒険者として目的があってここにいるんだもの。>
あの小さな礼拝堂へ行かないと、何も始まっていかない。
<ビア、私と契約してくれたでしょ?>
<しているわ。だけど、これはこれそれはそれなの、オリガ。>
<私とは来てくれないの?>
だんだんと殺気立つ口調で、尻尾を立て、黒猫は逆毛立って怒っている。
<オリガがわたしと一緒に来てくれたりするのは無理なのかな。魔力もその方が渡せるから、>
<…私は王都を離れないわ。ビア。>
首を振って、オリガはわたしを睨んだ。
<もうじき月が消えてしまうわ。ビア、次の満月がやってくるの、もう時間がないの、>
オリガの言っている言葉の意味が判らなくて、わたしはつい、<どう時間がないの? わたしだって、時間がないんだよ、オリガ、>と、わたしも苛ついているのがバレてしまう口調で話してしまっていた。
<ね、お願い、ビア。>
オリガの願いは、わたしがこのままオリガの行く先へ同行すること、次の満月までに何かしらを仕上げること、なのだと理解できた。
肝心の仕上げる何かをオリガはずっと口にしていなくて、契約するわたしが魔力を使って何かをするのだとしか答えてはいない。
<次の満月までに、何をするつもりなのか今ここで教えてくれたりするの、オリガ。ね、何をするつもりでいるの?>
内容によっては考えてもいいかなと一瞬だけ思って、すぐさま無理だって考え直す。次の新月の頃、1周目の世界では、アンシ・シでエドガー師を王国へ呼ぶような事件が起きている。その後、わたしは王都の迎賓館にいたりしたのだ。満月の頃には、わたしの1周目の世界は幕を下ろしてしまっている。
オリガの望むように新月までにオリガの為に何かをやり遂げるのはできなくはないと思ったけれど、本音を言ってしまうと、すべてが終わった後わたしがまだこの世界に生きていたらにしてほしいと思っていたりもする。
<わかるように話して、オリガ。>
黙ってわたしを上目遣いに睨んでいるオリガに問いかけても、話したくないようだ。
<答えられないようなお手伝いはできないな。>
やんわりとお断りすると、オリガに<それでも、私を助けるのが契約者なんでしょ?>と無理なことを言われてしまった。
<契約者だけど、わたしはオリガに無理をさせないつもりだよ? オリガも、わたしには無理を通さないで欲しいって伝えておくね?>
むすーっと拗ねた顔のオリガは、<ビアだから頼みたいのに?>となおも食い下がってくる。
きりがないやり取りに、わたしはもう諦めようと思い始めていた。王都の守護精霊オリガと契約出来たのは奇跡で、その関係を維持するのもさらなる奇跡なようなものだ。
<それじゃあ、こうしよう、オリガ。必ず新月までに王都に戻ってくる。それなら、いい?>
聖堂の関係者として王都を出て、様子を見つつ王都へ入ってくればいい。それなら、オリガの希望にも近くできるので、できなくはないと思う。
<そんなの…、ダメ。遅いの、ビア。>
<何が遅いのか、具体的に教えて?>
オリガは歯切れが悪いままで、平静を装っているわたしを睨んでもいる。
任務が攻略だってオリガは言っていた。難題を前に協力者が欲しくてわたしと契約したのなら、魔力を提供するだけの役割りを求められていない。
わたしの強みは、王都の守護精霊のオリガが得られない情報だったりする?
ラボア様や閣下、ロディスにブレット…。父さんも、一応信頼できる情報をくれる。
<それまでに攻略法を調べるから、手掛かりを教えて?>
黙ったままのオリガを根気よく待っていても、心は小さな礼拝堂へと向かっている。
オリガが口を開いたのでほっとしたのに、出てきた言葉は想像とは違った。
<ビアの分からず屋。一緒に来てくれないなら、教えない。>
キッパリと言い切ったオリガは<もういい、もういい>と繰り返しながら、建物の影ばかりを集めているようにさっと小走りにかけて行ってしまった。
暗号の応酬みたいなオリガとの会話を思い起こしても、何も思い浮かばない。
空しい気持ちをこっそり心の奥へとしまい込んで、わたしは小さな礼拝堂に向かって歩き始めていた。せめて、一緒に行くなら行先がどこなのかくらい教えてほしかったなって思っていたりもした。
ただ一つはっきりしたのは、今回の任務の最中はオリガは呼び出せないってわかったことぐらいだった。
本当に魔力を吸い上げるだけの関係として契約をしたのかなって考えてしまうと、オリガについて行かなくてかえって良かったかもしれないなとふと思う。
※ ※ ※
小さな礼拝堂の中へと入らないと任務を放棄したのだとみなされると覚悟していたのもあって、わたしはわたしの目的を果たすのだと割り切って中へと入った。足を踏み入れるなり目に見えた光景で記憶が刺激されて何とも言えない緊張感と疎外感とが湧きあがってきた。
キーラたちを含めた数名の冒険者と、品のいい紫色のローブのフードを被り俯く治癒師たち、どこかの領の官僚らしき男性たち、領兵、白い格好の司教や司祭といった聖堂の関係者たちが集まって祭壇を囲んでいた。司教や司祭は1周目の世界でも任務についての指令を出す役割で、引き受けるシューレさんの肩越しに見かけたことがある。中でも、とりわけ小麦色の腕を見せる袖のない簡素な光沢のある黄色のドレス姿のキーラは際立って目立っている。親しげに微笑み合う彼らの話す華やかな声の調子から、とても親密そうだという印象がある。
控えめに壁際の棚の前に距離を置いて立ったのは心の距離感からもあるけど、ジェーニャもモリスもない状況であまり近寄って彼らに顔色を読まれたくないという本音もある。ここに味方はいない。彼らが敵にならなければいい。『北の海の聖女』というあだ名を持つキーラが半妖狩りを容認する人物である以上、味方の少ない場に置いて逃げ道を確保しておいた方がいい。些細なことでも、身を守る方法はいくつでも確保しておきたい。
「遅くなった、」
ツカツカと軍靴の足音を立てて入ってきた背の高い軍人たちが外套を翻しながら颯爽と歩いて祭壇までの通路をまっすぐに進んでいくと、司祭がお辞儀しながら、恭しく「お待ちしておりました」と告げた。軍人たちは一応同じ聖堂に所属している仲間なはずで、遅れてきた割には会釈もしないので、ちっとも腰は低くない。立て襟で隠れた横顔も皇国人に多い焦げ茶髪の少し見える軍帽も汚れひとつない上質な新品に見えて、余程の上級幹部なんだろうなって思えてしまった。
司祭の傍に控えていた司教が黙って手を振ると、扉の外で待機していたらしい軍人がひょっこりと顔を出し、おじぎして扉を閉めてしまった。音を立てないようにして閉めていても軋む音が低く響いた後鎮まると、一気に場の空気に重みが増して緊張が高まる。こんな場所に、わたしはひとりだ。
「それでは始めようか、」
辺りを見回し司祭が呼びかけ、2度見されて、わたしの方を向き直した。
「離れていては声を拾えない。もっとこっちに集まりなさい。」
手招きをされてしまったわたしを見てキーラがニヤニヤと笑ったのが意味がありそうな笑いに思えてちょっと気分が悪くなるけど、あの人はもともとああいう性格なのだからと納得して、気にしないでおこうと思ったりもする。
集まる輪の最後列の、こちらを振り向かない軍人たちとは距離を置いて輪の外側に近付いてみる。完全によそ者扱いをされている気がしなくもないけど、わたしは聖堂に所属したばかりの冒険者だ。親密だとかえってこれからわたしがこなそうとしている庭園管理員としての任務に支障が出てくる。むしろ淡白な関係で、居たのかいないのかわからないくらいの存在感な方が、引き留められない分、あと腐れなく脱会しやすい。このまま期待されない存在なままな方がいいと割り切里、顔を上げる。
「今日は聖なる志士の皆々様にお集まりいただいたのは、これより皆様の任務についてご説明をさせていただくためです。皆様方には、各地の聖堂の支部の信者の皆様方に支援物資を届けるという任務にあたってもらいます。任務の内容としては、魔物の襲撃により荒廃した地方の聖堂を守る非戦闘員を励ますのが目的ですから、難しい任務ではありません。ここにお集まりの方々から個性を生かした小隊の構成をいたしまして、二組に分かれて任地へと向かっていただきたいと考えています。」
司教と司祭を除けば、キーラとラザロス、わたしたちと、王国人な治癒師が4名、皇国人な軍人が3名だ。5人ずつならどういう班分けにするつもりがあるのか興味がある。聖堂は基本的に4人で一組の小隊とするので、1周目の世界では、竜騎士のシューレさん、魔法使いのコル、治癒師のわたし、わたしの指導役の女性の先輩治癒師、小隊の隊長格でリーダーと呼んでいた男性がいた気がする。ただ、その男性に関してはリーダーと呼んでいたのは覚えているけれど、顔や名前、どういう職位だったかは思い出せない。
治癒師のわたしとわたしの指導役の女性の先輩治癒師とで一人前扱いをされていた状況と比較すると、指導役のいなそうなキーラは、キーラひとりで一人前の扱いをしてもらえる実力者なようだ。
「どちらの地域も現在は魔物を駆逐が完了していて、比較的安全な地域です。最前線ではありませんし既に先陣である救援部隊は到着していますから、皆様方に置かれましては『疲弊した部隊への鼓舞と慰問』が主な任務です。週をまたいでの任務となる予定ではありませんから、さっそく出発するつもりでいてください。」
どちらかというと実戦的ではなく、救援物資を持って応援が来たと華々しく宣伝をするだけの任務に思えた。その人選に北方での有名人であるキーラがいるとなると、任地のひとつは北の地区なんだろうなって思えてきて、南方は縁があるとするなら、もしかしてわたしなのかなと思えてきた。ただ、わたしがシクストおじさんと無医村を渡った話は聖堂の関係者にも聖堂でもしていない筈なので、それが理由ではないはずと思い直す。
この程度の任務なら説明などなくいきなり任務地へ移動し馬車の中で説明を受けるというやり方でもよかっただろうにそうしなかったのは、おそらくこの説明は当事者であるわたしたちではなく、キーラの傍にいるどこかの領の官僚たちに聞かせるためにしているのだ。官僚たちはよほど大金を献金している領の関係者なようで、聖堂は彼らの機嫌を損ねないよう簡単でありつつ注目度の高い任務へとキーラを優遇しているのだ。
仮に、わたしの任務がわたしではない誰かが向かうことになっても差はない数合わせでしかないのなら、堂々と聖堂を辞められる口実のひとつになりそうだ。
「この段階で、何か質問はありますか?」
肝心などこへ行くのかを教えてもらっていない気がする。
胸を張るキーラはなぜか妙に得意そうだった。にこやかな明るい表情のラザロスは表情が変わらないので感情が読みにくい。官僚や領官たちは何度か相づちを打っていたりする。
「それでは、先へ進みます。」
司祭が手にしていた巻紙を開いた。
「北西のデリーラル公領の方面には『北の海の聖女』キーラとラザロス、北東のピフルール方面には太陽神様の御加護を頂く治癒師ビアトリーチェを配置します。本来どちらの領からもキーラの御指名をいただいていたのですが、キーラの身はひとつです。代わりにビアトリーチェが代役となります。」
「ビアトリーチェは惜しくも敗れたものの、『北の海の聖女』キーラと試合をして、その実力は十分に証明されています。」
ぺこりとお辞儀をすると意外にもキーラの支援者たちが拍手をくれて、初めてわたしの方へと顔を向けた。意外だとでも言いたそうな顔つきに、わたしもわたしにまで拍手をしてくれるなんて意外ですねと言い返したくなってくる。
「なお、治癒師ビアトリーチェの指導役のジェーニャはこの任務にはつきません。代わりにアメリアが指導役をいたします。」
聖堂の治癒師のひとりがローブを脱いで、ぺこりとお辞儀をした。顔の周りを編み込みでスッキリと見せておでこを出すのも、俯きがちな視線も同じな、1周目と同じに慎まやかなわたしの先輩治癒師だ。1周目の世界で、わたしにはこの人が付き添ってくれていたのを思い出す。コルやシューレさんと親しむわたしから一歩距離を置いて接していた治癒師で、名前を呼ぶ前にそばに来てくれた人だった。おかげで名前を知らなくても覚えなくてもいい存在として甘えさせてもらって、いつも「先輩」と呼んでいた。
2周目のこの世界ではわたしは未分化ではないので出会わないだろうと思っていたのに、こんな形で出会ってしまった。
「北東の組にはアメリア、北西の組には、護衛部隊から副隊長ニコールが入ります。よろしいですね?」
アメリア、コル…。
懐かしい名前に、わたしは何も考えられなくなってしまいそうな程衝撃を受けていて、言葉にならない程に満足と安堵感とで心が満たされていた。なにしろ、北東の方面に行く任務なら、ピフルール領の近くであるクラウザー領までは街道を進めばかなり近い。領都ガルースは近いし、アンシ・シへも向かえる。大切な日がやってくるまでの間、コルは任務として北西へと向かう。
なんという幸運がやってきたのだろうって思い始めると、感激して嬉しくなってしまった。
ただ、官僚たちが拍手しているのに、話題の主役である当のキーラは不満顔だった。
「ここまでで、何か質問はありますでしょうか。」
司祭がにこやかに尋ねると、当然のように官僚たちは「結構結構。十分なご配慮だ、」と手を叩いて褒めている。
この任務はどっちの領へ行くことになってもキーラにとっては都合のいい『キーラの為の』任務であるので、わたしは何をやろうと引き立て役でしかないのだろうなって思えてきていた。もっとも、わたしにとって重要なのは自分の評価でも聖堂内での立場の向上でもないので、かえってキーラに話題が集中して都合がいいとこっそり思っていたりする。
「…当初にご説明されたように、私が、どちらの領も慰問してはいけないのでしょうか?」
キーラが腰に手を当て、冷ややかな低い声で問いかけた。
「私は人間です。私の代わりを半妖が引き受けられるとは思いません。こちらでは、半妖と人間とが同格なのですか?」
言い切ったキーラの態度や表情、声の質感から半妖であるわたしを侮蔑しているのだけは判る。
「キーラ、よくお聞きなさい。」
堪りかねた様子で、司祭は口を開いた。
「聖堂では、多くの信者がこの世界にはいたわりの心が満たされているのだと信じています。半妖といえども、人の姿をしている者は人間の扱いをしています。ビアも人間です。太陽神様の御加護をいただいた治癒師がキーラの不足を埋めてくれるのは、素晴らしい関係だと思われます。あなた方は聖堂に所属する冒険者として聖堂に貢献してくれています。人間として同格です。」
「お言葉ですが、精霊の穢れた血が混じる者が太陽神様の御加護をいただいたからと言って、魂が崇高になるとは思えません。生粋な王国人である親から生まれた私とは別格です。どうか、再考をお願いします。」
キーラの口から言葉が淡々と発せられる度、小さな礼拝堂には沸々と嫌悪の感情が満ちていった。司祭や司教たちの顔色も次第に悪くなる。
ツンと澄ましたキーラだけが、不穏な空気を読めていない。いったい何人の軍の関係者が半妖や公国人なのかを、キーラは知らないからそんなことを口にするのだとしか思えない。
「聞いていますか、半妖は、」
声色が、厳しくなる。キーラは何を期待しているのかわからない。答えが欲しいのではなくて、半妖は劣っていると言いたいだけな気もするから、言葉に詰まってしまう。
「君は面白いことを言うんだね?」
黙って聞いていたコルが、熱り立つ軍服の軍人たちを手で制して、代表として話し始めた。
「生まれながらにできることとできないことが、世の中にはどうしてもある。半妖でしかできないことをしているから評価されるんだよ? この者は、お前とは住む世界が違うのだから。」
「どういう意味ですか、どうして私ではいけないのですか? 馬車さえあれば移動など容易いわ。」
呆れた表情を引き締め直し、コルは小さく咳払いをしてから告げる。
「明確な差だよ。戦場では生きるか死ぬかが重要で、細かな決め事に従って同僚を労わることがあっても、足りない弱さを貶したりはしないね。半妖だろうと人間だろうと、差は些末なものだ。」
「些末ではありません…!」
キーラは唇を噛んで、組んだ二の腕を自分を宥めるように撫でている。
司祭が軽く咳払いをした。
「今回の任務に関して、ニコール卿のお言葉の通りです。では、この後、組ごとに分かれて自己紹介と出発の儀式を済ませてください。よろしいですね?」
わたしも含めた「はい」という声が重なって、小さな礼拝堂に響いた。司祭に分けられるままの右と左とに移動して集まり直し、わたし達はお互いに名乗りあった。
ありがとうございました




