12、匂いに炙り出された訳じゃない
「で、ビア様は何をしにここへ? まさか魚の焼けた匂いにつられてきたってわけじゃないよな?」
焼けた魚のはらわたに齧り付きぺっぺと細やかに流れる清流の小川へと吐き出したルビオさんは肩を竦めて、「まさか本当は人間じゃなくて精霊だったりするのかい?」とニヤニヤしながら付け足した。
「ここへは、偶然来たんです。」
「俺たちは、偶然、なのかな。」
「偶然ですね。」
「偶然だね。」
3人は呼吸を合わせて焼き魚を食み、目配せするようにお互いの顔を見て確認しあっている。
偶然ここで魚を焼いて食べるって、どういう偶然なんだろう。場所がここしかなかったから? この場所が重要だったとか、この近くに用事があるとか? …ああ見えてロディスは商会で働く者にはきっちり賃金も旅費も支払っていそうだし、食事代が出せないほど切羽詰まった懐事情ではないと思う。
どうしてここに彼らがいるのかなぜ野営をしているのかを考える時、出身領との味付けが違いすぎるか何かで王都の食事が口に合わないのか、聞かれたくない話をしていたのか、のどちらかなのかなっても思ったりもする。
ここは、市場に賑わいから少し距離があるし、ブレットの店からも距離がある。何より、公園を探さなくても、ブレットの店で厨房を借りて魚を焼いた方が落ち着いて食べられるんじゃないかなって思えたりもする。
あのリバーラリー商会王都支店では不都合なのだとしたら、理由は何だろう。あそこにあってここにはないもの…、まさかブレット?
「あの、ちなみに今、話しかけても大丈夫なんですか?」
ブレットの店の中ではじめて彼らにあった時、旅装束を解いてもいなかったし話している最中でも解く気配すらなかったのもあって、王都を出るのだと思っていた。
ブレットもしくはロディス商会の何らかの共同の作戦か任務中だからなんだって思い込んでしまっていて、それ以上を考えてもいなかった。
「ビアさんなら許すよ?」
ニヤニヤと笑いながらルビオさんは、食べるのに専念し始めたデルカドさんとファレスさんと入れ替わってしゃがみ、焼いている最中の魚を器用に炙りながら、自身の分の焼けた魚を頬張っている。
「これから王都を出るのでもなくですか?」
あまり涼しいとは言えない気候で日光を遮るもののない公園で魚を焼いているのに、誰もしっかりとマントを着こんでいる。わたしの場合は羽織っている程度でしっかり着込んではいないので、割と涼しいし、いつでも脱げる気楽さがあるし、熱がそれほど籠ったりもしない。
「ビアさんは腹が空いているからよく喋るのか? やっぱり匂いに誘われてきたんだろ? ほら、これ、喰いな?」
ルビオさんは焼き立ての鮎の串を手渡してくれた。よくわからない理屈だ。
「いえ、貰っても、お腹いっぱいですから、食べられないです。大丈夫です。」
「そんなことはないさ。この魚は特別な川から釣ってきた特別な魚なんだから魔力が回復するんだぞ、食べておきなって。」
「そうですよ。下手な丸薬よりも効果覿面なんですよ? ね、ファレスさん?」
「…! …!」
口に魚を頬張りすぎて言葉にならないファレスさんが何か言っている表情になったのを、ルビオさんが「ファレ爺さんは黙って喰えばいいんだよ、」と舌打ちした。
手を後ろ手に隠して受け取るのを拒否した焼鮎は、どう見たって普通に塩をつけて焼いた鮎にしか見えない。
「ほら、よく似合っている!」
揶揄うルビオさんはわたしの顔の傍に焼いた鮎を寄せてきた。
?
誉め言葉?
ルビオさんは明るく言うので、ファレスさんが咽て咳き込み、デルカドさんが「笑いすぎですよ」と背を撫でてあげている。
「そういうビアさんは任務の最中かい?」
「いえ、違います。」
貴重な休日を消化中です、とまでは告げない。
「なら、ビアさんはどこかに行ってきた帰りなのかい?」
ニヤニヤしながらルビオさんはさりげなく『ビアさん』呼びに変えてきた。しかも、藁の籠と屁糞葛の実の話題を突いてくる。
「そう言えばそれ、ブレットのところでお会いした時に持っていた包みとは違いますよね?」
デルカドさんは知っていて確認しているような口ぶりだ。「まさか、誰かとソレをアレとを交換したんですか?」
黙って焼き魚を食べるファレスさんは微妙に楽しそうだ。
「また咽ますよ、」とデルカドさんに背中を叩かれていても、クツクツと肩を揺らして笑っている。
「ちょっとした用事です。」
「ふうん? 用事って、誰かに会ったりしたのか、ビアさん。さっきまで持っていたあの籠を持ってか?」
「え、アレを、その人にあげたんですか?」
「…何のことですか?」
ニヤニヤするルビオさんやデルカドさん、ファレスさんは、藁の籠とその中身である屁糞葛の実の行方を知りたいらしい。
「アレだよ、アレ。潰すとすごい臭い、アレ。」
ファレスさんがやけに高い声で楽しそうに話す姿は意外だ。
「特製の、強烈なアレです。アレの扱いは面倒ですから、仕掛ける場所も厳選してるんですよ。」
案外デルカドさんは冷静だ。
「臭いを落とすのに水が大量にいるしな。」
ルビオさんの声には身に染みたような深みがある。
そんなに詳しいと、僕たちが仕掛けましたって自白しているようなもんだよね、とこっそり心の中で呟く。楽しそうな様子から、彼らがよく使う悪戯なんだろうなって思ってしまったのも内緒だ。
話を変えようと考えを巡らせているうちに、ブレットの顔が思い浮かぶ。あの顔色、あの魂の鈍い光に、この人たちは気が付いていてこうも楽しそうなのかと聞いてみたくなってくる。
「ブレットとは、付き合いが長いんですか?」
「いや…? つい昨日…? 最近知り合ったばかりだ。」
「そうですね。これまでそういう者がいるというぐらいの知り合いでしたね。」
「私たちは旅が長いから、仕方ないですよ。」
距離があるから付き合いがないなら理解できる。親しそうな印象がしたのは大人な建て前だったのかな。
意外と彼らとブレットは、仕事以外での個人的な付き合いはないようだ。
「王都にはよく来るんですか?」
ブレット以外に王都で出会うリバーラリー商会の関係者っていたりするのかな、と閃いたので尋ねてみる。
「俺たちはあちこちを旅をするのが仕事だからなあ…。」
「王都に来るのも珍しいですね。」
うんうんと、ファレスさんは頷くばかりだ。
この3人は固定の商圏を持つ行商人じゃないんだって改めて気が付かされた。
王都の店を任されているブレットと任務に就いていたという言葉から、商人というよりは特殊な立場にいるんだろうなとは思っていた。見かけだけで判断するなら、3人とも腕力や剣の技術に自信があるように見えない。もしかしたら商会の裏の部分を担う諜報活動専門の魔法使いなんだろうなって思えてきた。ここは王都という国の中で一番情報が集まってくる街だ。この街でしかできないような任務だとすると、複雑な諜報活動をするのか、もしくは地元を離れられないロディスの代理として各地の領主や商会との交渉役となるか、だと見当をつける。
「皆さんの定宿は、この近くなんですか?」
踏み込んだことを聞いてみる。想像通りに顔から表情が消えた。居場所の特定を嫌がるのは、諜報活動専門の裏方だ。
「こんなところで食事をしているなんて、道具の始末もあるでしょうから、この近くに宿があるのかなって思ったんです。ブレットの店に泊まっているのなら、ここまで持ってきたのかなって思いました。」
関連付けて誤魔化して言い訳をして、首も傾げてみる。
「俺たちは王都に定宿はないな。あそこには、しばらく寄る理由もないな。」
「こう見えて、忙しいですからね。ビア様にお会いできてよかったです。」
「そうそう。いや、違うだろ、」
「あ…、」
デルカドさんが目を見開いて絶句しているのを、ルビオさんがニヤニヤと笑いながら、「ビアさんの近くでうろうろしているかもしれないから、そん時は気が付かなかったふりをしてくれると助かるよ、」と呟いた。
「王都でうろうろするんですか?」
宿も取らず、さすらうつもりなのかな。
「いや、こっちの話。」
デルカドさんが誤魔化し笑いをするのを、ルビオさんとファレスさんが突いて責めている。何か失言があったみたいなのに楽しそうなので、仲いいのだと思える。
幸いというべきなのか、任務中ではない魔法使いが3人も目の前にいる。
力を借りたら、一気にことは進む。
だけど、言葉にしかけてみて、巻き込むべきじゃないと咄嗟に判断して黙る。理由をあげるとすると、さっと閃いただけでもみっつ。
彼らは公国人じゃないから、憶測で判断して行動することだから、逆恨みを買うかもしれないことだから。
わたしはどれも心配ない。公国人で、冒険者で、庭園管理員だから。2周目の未来で一番大事なのはシューレさんとコルの未来を変えることで、関係ないことには目を逸らしてみなかったことにすればいいって考えも思い浮かぶけど、わたしの中にある、シューレさんとの思い出が、この件は別だって言っている気がする。
ただ、3人は楽しそうでいても、ルビオさんの眼だけは笑っていない。
「ビアさんは、ブレットとは長いのかい?」
1周目の未来での関係を省くと、わたしも王都に来てから構築中の関係だったりする。
「あまり変わらないと思います。数日、わたしの方が王都へ早く到着した、という程度だと思います。」
「定宿は?」
「これと言ってないです。」
聖堂は定宿ではないので数に入れない。コボルダも、現段階では未来の選択肢の一つでしかない。
「ところで、念のために確認させてもらうけど、まさか、ビアさん、俺たちを追跡したりしたのかい?」
彼らはよほどわたしがここにいる理由が気になるようだ。
「違います。偶然です。」
ルビオさんは、魚の匂いを消す風の魔法を使っているひと気ない公園にわたしがやってきた理由がどうしても気になるようだ。
ブレットの店で会ったのは完全に偶然だけど、こんな状況でこんな場所で再会したとなると、もちろんわたしは偶然だと知っているけど、彼らからすると追いかけられていたような居心地の悪さがあるのかなと思えてきた。
「そうかい?」
「ここへ来る前に用事って、どんな用事だったんですか?」
デルカドさんが何気なく尋ねてきたので、一瞬戸惑う。この流れでの質問に違和感はなくて、むしろ黙っている方が不自然だと思えたので、単なる好奇心なんだろうなって判断して、素直に「昼食会に招いてもらったんです、」と曖昧かつ無難に伝えておく。
「へえ、」
「荷物を交換してまでですか?」
違和感のある答えになってしまったみたいで、ルビオさんとデルカドさんの声色からはさらに不審がられている気配がする。
コボルダのオーダさんやミミさんやおばあちゃんとの時間は、わたし個人の記憶に留めておくべき秘密に近くて、容易く口外していい内容だとは思えなかった。古銭についても、どういう謂れがあるものなのかはわかっても誰が持ち込んだのかがわからない以上、この人たちに伝える前に依頼先であるブレットに相談してからの方がいいと思えた。
「ちょっと見てもらっていいですか?」
わたしは借り物の服の包みを小脇に抱えなおして、肩掛け鞄の中から、白く濁る方解石の鳥を取り出した。
事実を言葉で語るより、また新たな謎を提示した方が、目くらましになりそうな予感があった。
ルビオさんに卵大の丸い鳥に似た方解石を手渡すと、ルビオさんの手の上にある魔石の鳥に皆の視線が集中する。
「これは?」
「お食事をして、預かってもらっていた荷物を交換して、これを貰って、お礼に対価の銀貨をお渡ししてきたんです。透明度の高い方解石に魔力を内包した魔石、ですよね?」
余計に怪しい答えになった説明になってしまったけれど、もう仕方ないと思えてきた。
「見たところ魔石だな。いや、待てよ、これは…?」
「ルビオさん、どうかしたんですか?」
ファレスさんに石を持たせると、ルビオさんはデルカドさんの言葉に何かを言いかけて、顎を撫でながら首を傾げた。
「ああ、ちょっと気になる石だな。」
「デルカドさんや、ファレスさんも、気になるんですか?」
「私は、魔石にしては重いなと思います。」
デルカドさんは実際に方解石を持ってみて、顰め面をしながら教えてくれた。
一方、ファレスさんは黙ってうんうんと頷いていて自分の考えを話してくれない。
「ますます謎が謎を呼びましたね。古銭も不思議でしたが、これも気になります。」
デルカドさんがそう言って苦笑いをするのを聞きながら、ルビオさんは心の奥底を覗き込むように上目遣いにわたしを見た。
「ビアさんは冒険者だから謎だらけで、謎を見つけると首を突っ込んでくるのかい?」
嫌な沈黙が起こった。
誤解を解くためにも、立ち寄った理由だけを伝えてみてもいいなと考え直す。
「ここへ来たのは、風の精霊を召喚しようとして人気のない場所を探していたからなんです。通りがかって、後姿が気になったので様子を見に来てしまいました。」
「へえ、風の精霊、」
ルビオさんは興味深そうに目を見開いた。
「お困りごとかい?」
「はい。人探しを頼もうと思ったんです。」
「もしかして、誰かに取られたりしたんですか、アレを、」
悪臭の実を盗るもの好きがいたんだ、とでも言いたそうな顔つきだ。
アレとは具体的に何かを言わないあたり、なかなかに意地悪だ。
頷いて肯定もしていないのし黙っていて否定もしなかったのもあって、デルカドさんの言葉にファレスさんもさらにニヤニヤと嬉しそうな顔つきになる。
「取られてはいませんが、似たようなものです。」
「匂いって、あの匂いを探すのかい?」
驚いたような顔になったルビオさんは、食べかけの魚を手にしたまますっかり呆れている。
「あんなに強い匂いなら、精霊に頼まなくたって見つかるだろう?」
「ルビオさん、ここは王都ですよ? 糞便臭なんて人が多ければ多いほど絞り込めなくなりますよ?」
「秘境の山の中じゃないからなあ。洗濯してしまえばもっとわからなくなるな。」
ファレスさんは細やかなせせらぎを指さして、「この程度でも水は水ですからね、」と肩を竦めた。
「匂いねえ…、」
ルビオさんは眉を一度顰めて何か言いたそうな顔つきになって、焼き魚を頬張るデルカドさんとファレスさんを見た。
「ビアさんは魔法、使えないのかい?」
「『探査』を使えても、使えないと思うんです。対象が広すぎて、」
『探査』の魔法も『追跡』の魔法も、突き詰めてしまうと視覚に頼った魔法だ。
着替えていたり髪の色を変えられていると想定すると、姿かたちを識別の条件にするのではなく屁糞葛の実の悪臭と吐瀉物の混じった臭いが手掛かりになるので、今必要なのは嗅覚に頼る風の魔法なのだ。
その点、風の精霊オルジュに頼めば、可視化できないけれど存在している条件に限定して特定することが可能だし、わたしの伝える細やかな条件にも対応してくれそうだ。
片手を何度か開いたり閉じたりした後、もう一度、わたしの顔を見て、ルビオさんはファレスさんを見た。ファレスさんは黙って小さく首を振っていた。
焼き魚を食べ終えたデルカドさんは、金網に残っていた最後の一本をファレスさんに勧めて断られたのを、わたしに「どうぞ」と無理やり押し付けてきた。
首を振って手も振って無理だって伝えたのに、デルカドさんはわたしに静かに冷めていく焼けた魚の串を押し付けて握らせた。
「ルビオさんなら、あの臭いなら、すぐわかるんじゃないですか?」
「無理だ。」
言葉少なにルビオさんは立ち上がると少し距離をとって腕を組み、下唇を突き出して黙った。
沈黙しながら何度か眉間に皺を寄せるので、何かを考えているのだろうなって想像がついた。
「ルビオはああ見えて昔から、考えてから行動する性格なんですよ。」
ファレスさんがそっと教えてくれる。
「付き合い、長いんですか?」
「子供の頃からずっと一緒にいます。」
「デルカドさんもですか?」
少し彼らよりデルカドさんは若く見る。
「この子とは大人になってからの付き合いですが、知り合いではありました。ロディス様の配下なのには変わりないですから。」
ファレスさんはうっすらと目を細めてほんのりと微笑んでいる。何も心配ないのだと伝えたいようだ。
「ルビオさん、気になるんなら受けませんか。ロディス様に後で連絡しておけばよくないですか?」
そういうわけにはいかないんだろうなって、黙るルビオさんの苦しそうな表情から伝わってくる。デルカドさんに説明しないのは、同時に、この場にいて聞いてしまうわたしには聞かせたくない事情だったり大人な算段があったりしているからだと思えてきた。
任務中じゃないという状況だからここにいても、これから任務に就く予定があるのなら、余計な騒動に巻き込まれて任務に付けなくなるのを避けて防御の姿勢になっている状況にあるからなんだとも推測できる。
だいたい、いくらわたしがロディスと取引をしていたって、ロディスの命令に背いてまで彼らに取引相手であるわたしの事情を優先させるよう仕向けてはいけないってことぐらい、わたしにだってわかる。
「大丈夫です。召喚術ができるから場所を探しているんです。お邪魔しました。会えてよかったです。これ、御馳走様です。」
ここへ来た収穫は全くないわけではない。気分転換になったし、少なくともブレットの店の罠を仕掛けたのが彼らなんだと判った。
お辞儀をして立ち去ろうとすると、最後まで食べていたファレスさんは急いで魚を食べて終えて、立ち上がってまっすぐにわたしを見た。
「おいしい魚ですから、それ、帰り道にでも食べてください。また今度お会いした時には、もっとたくさんご馳走します。」
隊長格であると思われるファレスさんがそう答えたので、黙ってデルカドさんは立ち上がり、壺の上にあった金網を小川で漱いだ。もうこの隊としては対応を終わった話なのだと、理解したようだ。
散らばる串を集めて、竈のような小さな壺の中にあった木炭や灰と一緒に呪文を唱えながら魔法で細かく砕いて粉にすると、ファレスさんが粉に向かって息を吹きかけた。
どこからか現れた水の中に粉は溶けて、薄まって、小川のせせらぎへと流れ出て行ってしまった。
残ったのは竈のような小さな壺だけで、デルカドさんは指を鳴らしてから軽々と摘まんで手に持った。
壺の密度を軽くできるのもデルカドさんが地属性のある程度実力を持つ魔法使いだから、水がなくても水が呼べるのもファレスさんが相当水を使いなれている魔法使いだからなんだって、改めてわかってしまう。
石畳の表面に魔力で描いた召喚の魔法陣の上に竈のような小さな壺をそっと置くと、召喚術でつながったどこかから現れた精霊と覚しき無数の手が、風に揺れる草原の穂先のように幾重にもさざなみ伸びて、瞬く間に地面の向こうへと持って行ってしまった。
ある意味、収納の魔法だわ、とこっそり思った。
「驚かないんだな、ビアさんは、」
「わたしも、一応地属性の魔法使いですから。」
最近まで水と地とどちらも属性があったから、ファレスさんとデルカドさんのやっている魔法も見覚えがあるのだとは言えない。
「じゃあ、これはどうだ?」
手の上にあった方解石に、ルビオさんは金平糖のようなイガイガだらけの形をした砂のように小さな粒を降りかけて、ふっと息を吹きかける。
ゆらゆらと芽のような金色の産毛のようなものが生え、白く濁る方解石の鳥は、キラキラと内側から輝き始めた。
「何をしたんです?」
わたしの手の上に戻ってきた鳥の方解石の石を見ながら、ルビオさんは「魔法をかけた。ビアさん、その石の謎がじきに判るはずだよ、」と言ってニヤリと笑った。
ありがとうございました




