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14、未来を変えた代償

 市場まで辿り着くと丁度昼営業を終えて休憩の看板を出す店ばかりで、午後のまったりとした昼下がりののんびりとした時が流れていた。

 追手がいたら撒いてやると意気込んでわざと時間をかけて念入りに歩き回ったのですっかりお腹が空いてしまっていて、路地の煙突から漂ってくる素朴なまかない料理の匂いに釣られてついでに寄り道までしたくなる。魔力がいくらあっても匂いに惹かれてしまうし、空腹は誤魔化せなくて辛い。錯覚とか混乱とか麻痺とかの魔法を自分自身に掛けたらどうにかなるかもなんて考え出したあたり、いよいよ食欲に負けそうになってきている。

 あと少しだと自分を励まして市場を通り抜ける。目印のイチイの植木の角を曲がって裏通りへ入って、路地裏の人気のない道を進む。ここは地の精霊王様の神殿に近くて、どちらかというと人間よりも精霊が多く暮らす地区だ。そういう人気のない不気味に静かな場所と知っていて、ロディスは商会を置いている。

 もともとこの王都の南西の付近は旧王城があった地区で、王城が北へと移って旧王城の跡地が離宮となって周辺の開発が進んで街が大きくなっていった。王都が広がっていくのと同時にあった大貴族の公邸の移転や神殿の移築で空いた土地には、庶民の生活がきっちりみっちり入り込んでいった。

 ただ、住まう人が入れ替わることで環境が変わっても引っ越さずに残った公邸や神殿もあって、新しい街並みに昔ながらの建築物が紛れていたりする。街が古いので土地に憑く精霊も確かに棲んでいるけれど、この地区には家に勝手に入り込んで暮らしている精霊もかなりいる。

 そもそも地の精霊王ダール様の神殿は他の精霊王様の神殿に比べると少し特殊で、『人間が作った人間が利用するための神殿』という立ち位置なはずなのに、実際は『人間に作らせた精霊、特に地属性の精霊のための神殿』だ。『精霊王様の拠点である神殿は精霊界にあって、地上にある神殿はお出ましを願い召喚するための場所でありお力を崇め讃えるための場所』というのがどこの精霊王様の神殿でも共通する機能なのだけれど、地の精霊王様の神殿だけは『精霊界にある本殿にたどり着けない精霊が避難所として一時的に難を逃れる場所』という意味合いが強い。経験から言わせてもらえば、こういう概念は公国だけではなく王国でも皇国でも同じだと言えるのだけれど、皇国は精霊の存在を好意的に認めず召喚獣と呼んで権利を否定している国なので問題外として扱っておく。ちなみに完成形は公国、簡易形は王国だ。

 半妖であるわたしや公国民が感覚として認識している地属性の精霊とは、空を飛べなく水に暮らせず火に耐えられない者すべてだ。

 公国にある地の精霊王様の神殿にいる神官はたいてい半妖で、王国の神殿は魔道具や救済の設備がいくつか設置されているだけだったりする。仕組みが判っていても何らかの理由があって精霊界まで辿り着けずそれでも救われたいと願う精霊たちのために、各地の地の精霊王様の神殿に慰めとなる魔道具を設置してくださってもいるのだ。

 王都(ヴァニス)にある地の精霊王様の神殿も、神官はおらず魔道具だけが置かれている。魔力がない人間からすれば高価な魔道具が放置されている無人の神殿と思えるのかもしれないけれど、実際は、神殿内や神殿周辺に精霊がうようよいるので穏やかでも静かでもない危険な場所だ。

 地の精霊王ダール様は眷属をとても大切にしてくださっていて、生きるのに疲れたものや生き直したいものには精霊界の地の精霊王様の神殿まで伺えば分け隔てなく機会を頂けるそうだ。しかも、努力したものや見込みのあるものにはお使い様と呼ばれる者たちが地の精霊王様の代わりに現れて褒美を授けてくれる。

 だけど、救われたいと願ってここまでやってきたものの、この世界に未練があって神殿内まで行けないという精霊たちが一定数いて、迷う気持ちを抱えたまま元居た場所へと戻るきっかけを見失いこの周辺の人家にいついてしまっている、というのが、この地の精霊王様の神殿付近の現状だったりする。

 集まってくる者たちは地属性の精霊なので、住み着くとなるとひとりでは微々たる魔法しか使えなくても、同じ属性なのでお互いに馴染みやすく力を同調して草木の生育に干渉したり土地に魔力を溜めたりした。年月をかけて土地も暮らしやすく変化させていき、人間が建てた家から人間を追い出すようにして生活している精霊たちすらもいるくらいだ。

 そんないわくつきの場所に支店を作ったロディスは王都で儲けを出したいと本気で思っているようには思えなかったので、1周目の未来でのわたしは「どうしてこんな場所にあるの」と面白半分に聞いてみたことがある。わたしのような半妖には快適な場所ということはつまり、『人間には不快な場所であったりするのに』と思ったのだ。

「魔力のない人間には、精霊たちの悪戯は得体が知れないお化けのする怪異のようなものらしいのですよ。見えないのなら気にしなくていいのに、と思いませんか?」

 子爵家の公務で王都を訪れていたロディスは嗤って、「私たちの商会のはじまりは旅が基本の行商です。商品を保管しておく倉庫さえあればいいのです。倉庫は宝の山ですから、安全である必要があります。こういう場所なおかげで難癖をつけて(たか)りに来る人間もありません。私としては、王都にしては実に有意義な優良物件が安価で借りられたと満足していますよ」と付け加えて、得意そうに微笑んでいたのも思い出す。

「この店の仕事は基本的には中継基地を維持する努力が必要なだけですから、店番は生粋な人間ではなくてもいいのです。半妖だろうとなんだろうと、忠誠を誓ってくれてお互いに尊敬と信頼がしあえる者なら出自なんて構いませんよ」とも言って、先祖が公国に暮らす精霊だったというブレットという青年を店番に雇っていた。彼はマスリナ子爵領の出身ではなく、ウィーネ辺境伯領の山里の出身らしかった。


 記憶にある住所の家は一見すると二階建ての庶民な民家で、ドアは少しだけ開いていて中の様子は判らない。奥から退魔(モンスター・)シールドの練り香が微かに漂ってきていた。

 ドアの横の柱には表面がつるつると輝く木の板が打ち付けられていてるばかりで看板も屋号も何もなく、傍には細い紐で木槌が吊るされていた。ここを叩けばいいのね。小さく深呼吸して、わたしは教わった通りに「トン、」と叩いた後2秒置いて「トントントン」と木槌で木の板を叩いた。

「どうぞ。」

 家屋の奥の方から聞こえた声は小さいけれど、周囲が静かなのできちんと聞こえる。

 ドアを押すと、ギーっと軋んだ音がした。ドアの先は、細い廊下がかなり先まで続いている。突き当りに退魔(モンスター・)シールドの練り香を入れた麻袋が吊るされたドアがあるのを無視して暗がりを曲がって進むと、さらに先に退魔(モンスター・)シールドの練り香を入れた麻袋が吊るされたドアが見える。引っかからないように曲がり暗闇の中に飛び込むと、少し行った先に壁が見える。目が慣れてくると鏡だとわかる。床は、歩くと木が乾いた音で鳴る。鏡張りの壁に沿って曲がると入り口だ。やっと広々としている部屋へと辿り着く。間取りを想像するに、この家は部屋がひとつしかないのにやたらと長い廊下がある家だ。

「こんにちわ。」

 2階の窓が道路に面して大きく取られていて、中央螺旋階段がある逆さ凹型で居住部分である2階なおかげで部屋は明るい。1階は、螺旋階段の傍に受付用のカウンターがあって、部屋全体にカウンターの椅子から見渡せるような配置で何列も商材を詰めた棚がいくつも並べられている。

 そのカウンターの椅子に腰かけている青年が、店主であるブレットだ。生成り色のくたびれたシャツは大きめで、黒いズボンに収まりきれずに垂れ下がっている。

 目の下にクマを作った顔をして猫背で本を読んでいる彼は、暗い茶髪で深緑色の瞳で小さくてかわいい顔立ちで、成人男性と比較すると華奢で可憐な見かけを裏切ってなかなかに癖が強い。

 1周目の未来での初対面でも美麗な(ドラゴン)騎士(・ナイト)であるシューレさんには目礼してわたしには顔を見るなり「ふーん」とだけ呟いただけだったので、シューレさんに「客にその態度はどういうつもりなのか」と滾々とお説教をされて黙って不貞腐れていたのを思い出す。そんなシューレさんとブレットのやり取りに怖気付いて何も言えなかったわたしを気遣って、シューレさんはそれ以降のブレットとの交渉を買って出てくれた。

 シューレさんのいない2周目の世界ではどんな態度なのかなと期待していると、ちらりと目線だけわたしへ向けて「ふーん」とだけ言うので、何周目に会おうとこの子はこういう性格なんだねと妙に感心してしまう。

「ビアと言います。初めまして。秘書のレオノラさんとお話がしたくて来ました。」

 一応初対面なので、きちんと挨拶だけはしておく。ブレットは少しだけ顔をわたしに向けて「わかった」と言って、そのまま本を読み続けている。あまり歓迎されていない気がする。一応わたし、この商会の取引相手でもあるんだけどな~。

 1周目の未来で勝手知ったる店内なので、ブレットが取り次ぐ気がないのなら、準備をわたしがやらせてもらうことにする。

 スカーフで縛った丸めてまとめたエプロンをカウンターに置いて、そのまま通り過ぎて商材を詰めた棚まで行って、奥に置かれた盥を探し出す。立てかけてあるのを見つけた盥は1周目で使っていたのよりは少し大きい。ないのだから仕方ないなと割り切って、棚の中にある箱から何枚かの乾燥させた薬草の葉をそれぞれ選ぶ。確かこれで良かったはずだ。

 盥と一緒にカウンターの上に並べると、ページを捲る手を止めてブレットは目を丸くした。あんまりにも間抜けな表情をするので、笑い出したいのを我慢してわたしはわざとらしく首を傾げて見せた。

「ブレット、用意したわよ? これでもまだ本の続きを読む?」

「驚いたな。有言実行型か。」

「あなたが使うのは、花びらじゃなくて葉っぱだったわよね?」

 水鏡の魔法に使う触媒は花びらや果実であることが多い。

 通信する相手がいないのでわたしはやらないけれど、水属性の精霊や半妖は仲間と水を通して通信をする。『水鏡』はロディスの商会の重要な通信手段の一つだったりする。

「ああ、そうだよ。葉の香りの方が好きなんだ。それにしても…、本当に魔法使い(ウィザード)なんだな?」

「ええ。だからこうやって、『水鏡』の準備だってできるわよ?」

 1周目ではわたしとは口もきいてくれなかったのに、と思うと、なんだかちょっと気分がいい。

「レオノラと、話がしたいの。早くして?」

「わかった。…悪かったな。」

 ブレットは本を閉じると、カウンターの引き出しから魔石をいくつか取り出した。青い石ばかりなのは、水属性の魔法の効果を強化するためだ。

「ねえ、悪いと判っててあんな態度だったの?」

 カウンターの影に置かれた水瓶から水を柄杓で汲んで盥に注いでいるブレットを見ていると、ふと尋ねてみたくなった。

「初対面の人間を怒らせた方が、どんな性格の人間か理解しやすいだろ?」

 意外な答えに怯んでしまう。

「ここは精霊がよく揶揄いに来る。人間なら怒るようなあしらいも、精霊は気が付かないからな。」

「怒らせて、判別したの?」

 にやっと笑ってブレットは盥の水に魔石を沈めると、薬草の葉を浮かべた。

「こちとら商売なんでね。精霊相手に時間を無駄にしたくないんだ。」

 1周目でブレットは交渉をシューレさんとだけしていた。わたしの代わりにシューレさんがやってくれていたと思っていたけど、ブレットがシューレさんを選んでいたんだなって思い知る。2周目にして初めて、ブレットという人間が判った気がした。

「ビア様は人間みたいでよかったよ。」

 ブレットは肩を竦めると、水面に円を描くように爪の先で何回かかき混ぜて「王都(ヴァニス)のブレットです。聞こえていますか、レオノラさん、」と水に顔を映すようにして話しかけた。


 ※ ※ ※


 盥の水面は鏡のように鮮明に遠い遠いマスリナ子爵領にいるはずのレオノラを映し出し、ついでにその背後でのぞき込むロディスまでも映し込んだ。

「ロディス様、レオノラさん。王都にビア様がいらっしゃいました。」

「見えています。ビア様、お元気そうで安心しました。このまま行方知れずとなるのではと心配していたのです。」

「ありがとう。お久しぶりです。見ての通り、わたしは王都にいます。ひとりです。」

 レオノラと位置を変わったロディスは、嬉しそうに微笑んでくれた。

「ビア様はブロスチで行方不明になられた頃とお変わりのない恰好をされていますね。差し障りなければ、どのように過ごされていたのかお聞きしてもいいですか?」

 きっとこの先、この質問は繰り返されると覚悟する。変に疑われず妙に距離を置かれずにいられる答えとなると、なるべく真実だけを告げた方がよさそうだ。

「太陽神ラーシュ様の元で修業をしていました。魔法の使えない場所にいたので無事だと連絡が取れなかったのです。」

「ビア様のお召しになっている服は、ブロスチの巫女に選ばれた娘が祭で着る服らしいですからね。そうですか、神隠しではないかと噂されていたようですが、その通りでしたね。」

 遠からず近からず、といった噂は絶妙な匙加減だ。

「早速ですが、ここに寄ったのはわたしが今一人だからです。いろいろ聞きたいことがあります。」

「何なりとお申し付けください。退魔(モンスター・)シールドの練り香はものすごい勢いで売れていますから、ビア様には感謝してもしきれません。お力になりますよ?」

 ロディスに合わせてあまり愛想のないレオノラまでもにっこりと笑うので、相当儲かっているのだなと察しがつく。

「ひとつ目は、わたしがいなくなった後のブロスチの様子を知りたいです。ふたつ目は頼んでいたこと、あとは、3つ目は、この近くに宿屋があるのか知りたいのと、服を手に入れる方法です。」

「判りました。3つ目はそこにいるブレットが詳しいでしょう。王都は長いですから、通信の後で案内させましょう。では、まずはひとつ目から行きましょうか。」

 ブレットは自分の鼻を指さしてびっくりした顔を作るけど、まんざらでもなさそうだ。

「ビア様が馬車に乗り込んだところまではビア様の旅のお仲間やその場にいた騎士や兵士たちも見ていますから、誘拐ではないかという話はすぐに消えました。ブロスチでは、騎士団の『客同士のいざこざではないか』という捜索に消極的な声と、街の『無医村を渡るお医者様が姿を消したのは、悪い精霊が連れ去ったのではなく、太陽神様が崇高な志を気に入られてお召しになったのだ』という信仰心からくる声とがあり、いつの間にか市民の間に『善行を行ったお医者様を神様がお連れになった』という見方が浸透しました。その時点で『神隠しなのだから行方は追えない』と双方の意見がまとまって、捜索が打ち切られたのです。」

 実際はご先祖様に借りた魔力を返すために神殿の清掃を行っていたので、誇らしいと自慢できるような扱いは受けていない。

「ビア様のお連れの方たちはそのあとすぐにブロスチを発たれています。王都に行くと伝えてほしいと仰っていたそうですから、もしかしたらお会いできるかもしれません。」

 お会いできないと知っているので、ロディスの慰めの言葉に曖昧に微笑んで頷いておく。

「次のふたつ目は、お探しの方々です。おひとり目は、(ドラゴン)騎士(・ナイト)になられていますね。ククルールの街の周辺で冒険者としてではなく日雇いの傭兵として過ごされているようです。仕事で街を離れることがあっても、せいぜいミンクス領内での移動と言った具合です。とても健康なご様子で、体を鍛えるのがお好きな方なようですね。」

 ロディスは手元にあった資料をめくって、レオノラに手招きして別の資料を持ってこさせている。シューレさんは、範囲は小さいけれど傭兵として仕事をして旅をしているようだ。元気に暮らしているのだと判ってホッとする。

「おふたり目は、王都にいらっしゃいます。現在、護衛部隊の副隊長をされています。」

 コルは、王都にいるんだ…!

 聖堂で父さんを見たさっき見た光景を思い出して、わたしは息を呑んだ。

「どちらかというと王族と聖堂の橋渡しのような任務に着かれているようですね。頻繁に王族の…、スヴェトラーナ王女殿下と面会されているようです。聖堂周辺の神殿での目撃情報がありますから、面会は王女殿下と一対一で、というわけでもないようです。」

「と、言うと…?」

「聖堂の三本刀も同席しているようですから、どうやら公国の貴族なようですね。詳しい情報は少々お待ちください。かなりの人物なようで、なかなか尻尾を掴ませてくれないのです。」

「公国の貴族…、」

 父さんじゃない…?

 意外な情報に、戸惑いながら唇を撫でた。接点が思い浮かばないのもあって奇妙な話だとしか思えない。

 三本刀と言っても、アレハンドロはいない。今月王国にいるのだとしたらサディアスとバルードのどちらかだけど、接点が想像できない。果たして王女殿下に何の用事があるのだろう。

「真偽を精査中ですから、次回ビア様に報告できる時はより詳しくお伝えできるかと思います。他に、何かお知りになりたいことはありますか?」

「あとは…。今日王都へ来たばかりなので、思いつかないのです。」

「もしかして、今日こちらの世界へ戻られたばかりなのですか?」

「そうです。着替えも、食事もまだなのです。」

 まあ、とレオノラが声を上げる。

「それは大変でしたね。ビア様のご依頼の件に当てさせてもらっても報酬はあまりあるので、ブレットに用意させましょう。宿代も衣服代も食事代も、ビア様の復帰祝いとさせていただきますよ?」

「ずいぶんと気前がいいですね。せっかくですからありがたくいただきます。」

「それぐらい大したことありません。労働力としてブレットを使ってくださって構いませんよ?」

 ブレットが心底嫌そうな顔をして眉間を潜めたのを見て、わたしはつい笑いそうになる。

「ありがとうございます。それは遠慮しておきます。」

「ビア様、この後の行く先のご予定は?」

「次の街はクラウザー領のガルースかアンシ・シに行こうと思っています。」

「お気をつけてください。王都では狼頭男(ワーウルフ)が昼間でも出没しているそうです。」

「え…、」

 狼頭男(ワーウルフ)は、1周目の世界では王都で遭遇していない。わたしが、いないはずの場所にいるから、未来が変わっている…?

「昼間は人に化けるそうですから、ご用心ください。」

「判りました。今日はありがとうございました。」

 ぺこりと頭を下げたロディスの顔が映っていた水面が揺れて、通信が終わった。

 知ってしまった情報の重さに放心していたわたしは、ブレットの視線に気を取り直した。何も知らないよりは、知っていた方が対策だって立てられるし、反撃だってできるのだ。

「腹減って動けない? 何か食べに行くのが先? それとも着替え?」

 ブレットは愉快そうに体を揺らして、「なんなら武器でも買いに行く?」と親指を立てて歯を見せて笑った。

ありがとうございました

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