13、情報は秘密の香り
わたしの希望通りにラーシュ様は転送してくださったので、目を開けると1周目に見た記憶がある神殿に立っていた。
王国の王都にある太陽神様の神殿だ。この神殿でも言えるけれど、王国にある太陽神ラーシュ様の神殿は角ばった簡素な作りで装飾は少なく、お姿を模倣した石像が置かれていない場合が多い。ここの真四角な神殿の天井は真四角にくり抜かれていて、下には丸い陶器の水瓶が三段に積み上げられた噴水があるだけだったりする。王国に派遣されてくる皇国の神官たちのする掃除の軽減のためなのかなと思ったりもするけど、竜を祀る王国での女神さまの扱いが結構淡白なのも影響している気がする。
水が吹き上がる音に涼しさを感じながら、明るい日差しに目を慣らしていく。エプロンとスカーフをとってまとめて小脇に挟む。清々しい風と陽光に雨の心配を消し去って、わたしは深呼吸をしてから神殿を出た。ちなみに、皇国へ行った師匠ではなく王国内にいるベルムードたちを選んだからここへ来たわけではない。王都に来たのには別に理由がある。
神殿の敷地を出て通りを進み角を曲がると立ち止まり、人目がないのを確認してから日陰に涼むふりをして小指を咥える。時間をかけないように意識して、公国のアリエル様に、太陽神様の管理下でご先祖様に借りた対価を返していたこと、現在はお許しをいただいて自由の身になり王都にいること、市場の花屋に行き明日以降の行動の予定を報告するつもりであることを通信してみる。
角を曲がってくる馬車の音に反射的に小指を口から外して、わたしは歩き出した。
これで、数日間は王都にいる理由ができた。
ほっとする気持ちと興奮する気持ちを押さえて、それでも焦り小走りに通りを進んで、茶金髪に黄緑色の瞳で王国語を話す人々の行き交う間をすり抜けるようにして歩く。神殿のお掃除というある意味孤独と向き合う作業を毎日続けていたので、聞こえてくる音が複雑で目に飛び込んでくる色彩も繊細過ぎる。
ここへ来るのは2周目の世界では初めてだ。
だけど、道なら十分覚えている。
ラーシュ様の太陽神の神殿であればどこでも転送してもらえるとなった時、わたしの脳裏に浮かんだのは、『師匠かベルムードたちと合流するまでの間、わたしがたった一人で旅をするのだとしたら、荷物も旅費もない状態でどうやってそこまで乗り越えるのか』という現実だった。
仮に、師匠を追いかけるとなれば、旅費もなく空腹のまま国境を越えて皇国国内のどこかへと向かうのだから、とても無謀だと思えた。冒険者として治癒師の才覚で移動にかかる費用は稼げばいいとしても、王国の国境の街であるアンシ・シよりはるか離れた場所に師匠がいるのなら、合流したあと戻ってくる日数も計算に入れておかないといけない。皇国という魔法使いに厳しい国では不利益ばかりが見えてきたので、師匠を追いかける案はそうそうに無くなった。
もし、ベルムードたちを追いかけるのだとすると、王都の神殿に転送しようとラーシュ様ご自身が提案してくださった。例え途中で合流できなかったとしても1周目で通った街道を北上していけばいいので、一番アンシ・シへ安全に行ける未来が待っている。何より、わたしの現状をラボや様や師匠に伝える手段として最適な庭園管理員の拠り所である花屋が王都にはあり、伝手を利用できる。1周目でシューレさんとミンクス侯爵領の公邸に行くまでに散策したおかげで花屋は市場の裏通りにあると所在地を把握済みだし、近くの区画に情報の収集を頼んだロディスの商会の王都支店があるのも心強い。
街の中心にあって王国で一番交通量の多い大通りまで出た。
この通りを渡ると待っているだろう現実を意識すると、怖気付きそうになる。
大丈夫だ、怯まないようにやっていけばどうにでもなるって思いなおして、通りの交差する地点で旗を振って歩行者と馬車や馬の混雑を整備する紺色の制服を着た王都の騎士団所属の兵士の合図を待っていると、手の込んだ色鮮やかな花模様の刺繍の入った濃紺色のジャケットに白いレース襟のブラウス、紺色のスカートに編み上げの焦げ茶色の革靴という格好の二つ括りの髪形もよく似合ってかわいらしい女の子が極自然に手をすっと握ってくれた。明るい緑色の瞳がくるっと大きくて、まだ両手で余裕で年が数えられるほどの年齢に見えるあどけない子だ。驚いてこの子の保護者を探すと、仕立てのいい布地に品のいい飾り襟が付いている赤紫色のかっちりとした制服みたいな上着に深い紫色のくるぶし丈のスカート姿の若い女性が、穏やかな表情で傍に寄りそっていた。ふたりとも顔立ちに険がなくて穏やかで、知らない人に話をしてはいけませんって警戒されていてもおかしくなさそうな、平民と言えども良い暮らしをしている部類の出自に見える。さしずめ良家の子女と世話役の乳母な関係みたいだ。
無下に手を払うと好意を否定してしまう気がして、戸惑いながら握り返すと、女の子はにっこり微笑んでかわいい声で「怖くないよ」と明るい声で励ましてくれた。綺麗な発音の王国語だ。乳母らしき女性はますます温かいまなざしになってわたしと女の子を見ている。
「ありがとう、怖くないから大丈夫よ。」
「気にしないで? 一緒に行ってあげるから、安心してね。」
伝わらなかったのかな。
どうしてそんな憐れみを向けられるのだろう。
視線の先を追いかけると、ふたりにやけに注目しているのは、わたしが着ている袖のないワンピースが原因なのかなと思えてきた。ふたりとも厚着で、きちんとした格好だ。しかもわたしが着ているのはリディアさんのお下がりのフォイラート領の太陽神の神殿にかかわる巫女服である先糸染めの綿製でワンピースで、色は淡い黄色や白、かすれたオレンジ色で華やかで柔らかな色合いなので、女の子が着ている落ち着いた格好と引き締まった色合いとは程遠い。
ブロスチの巫女服と言えば聞こえがいいけれど巫女服と知らない者が見れば、かなりの王都から離れた地方から出てきたどこかの民族の伝統衣装だと思われているのかもしれない。悪目立ちしている気がしてきた。用事が済んだら着替えた方がよさそうだ。
この子は温かい小さな手を、見た目への差別も蔑みもなく、わたしを王都に不慣れな旅行者だと判断して手を差し伸べてくれた。何者なのかを知らなくても優しくしてくれるのは、本質的に清らかなのだ。
通りを渡り終える頃にはわたしにできるお礼を考えていて、この子のために何かがしてあげたくなっていた。オルジュがいたなら『清風』の魔法をお願いしたのに、あいにくとここにはわたししかいない。
「私たちはこっちへ行くの。じゃあね、お姉ちゃん、気を付けてね。変な人に騙されたらダメよ?」
通りに面した店と店の間の柱の前に立ち止って道行く人の邪魔にならないように気遣って、去っていくわたしを見送ろうとしている配慮も仕付けが行き届いている。よほどいいご家庭に育ったお嬢さんみたいだ。
「ありがとう、大丈夫よ?」
にっこり笑った女の子に乳母は「お嬢様、いいことをなさいましたから、お父さまが褒めてくださいますね、」と言うから、さらに嬉しそうに照れている。
「なにかお礼をさせてほしいの。いいかしら。」
わたしにできるのは、希望という名の魔法をかけることぐらいだ。
困った表情になった女の子の前に跪いて、わたしは恭しく両手で女の子の手を握った。わたしの行動は予想外だったみたいな乳母など、表情を強張らせて固めている。
「わたしは旅の治癒師なの。お礼に治療をしてあげましょう。」
道の端とはいえ跪いて立ち止っているのに道行く人たちに注目されていないのもあって、堂々と開き直って魔法を使うと決めた。
「あなたは魔法使いなの?」
「秘密にしてね。」
わざともったいぶってニヤリと笑って、上目遣いに女の子と乳母らしき女性を見上げた。こう言っておけば、わたしの名前は名乗らなくてもいい。
「あなたの一日がよい一日となりますように。」
感謝を込めて呪文を唱えた。慣れた魔法なので声に出す必要などないけれど、師匠の名を織り込めばわたしはひとりではないのだと伝わるし、わたしがここにいると師匠にも伝わる。
<願わくば、あるべき姿に修復し持てる力が満たされ回復となる治癒を、我が師バンジャマン・マルルカ・ランベールとともに、我が父の名において願わん、>
一見するとどこも悪いところはないように見えていても、内部で異常があれば魔法なら治療し修復できる。治癒師だと名乗っている以上、医者を騙って癒しの手として『診察』や『診断』をする必要はない。いきなり全身を治してしまえばいいのだ。
呪文とともに現れた静電気を帯びたように青白く光る光の帯は、包帯のように患部を包み込むように緩急をつけて流れて回って、特に念入りに女の子の頭から首にかけてに繰り返して、回転が速くなるたびに細やかな金色の光の粉が飛び散って消えた。
太陽神ラーシュ様の加護をいただいたおかげなのか、魔力の輝きが一層強く黄金色にはっきりと輝いている。
光が止むと、女の子は何度か目を瞬かせて止めていた息をゆっくり吸いなおした後、驚いたように耳の後ろを撫でた。
「熱さが無くなったわ…。」
「お嬢様、お薬でも効かなかったのに、良くなられたのですか?」
乳母はかがんで、女の子の顔を覗き込んだ。
「すごいわ。魔法で治してくれたの、あなたが?」
「ええ。よかったですね。」
水属性の魔法が苦手になっていなかった証拠を見つけた気がして、わたしとしても気分がいい。
「ありがとうございます。お嬢様はつい先日まで、熱病で別宅に隔離されていらっしゃったのです。今日は聖堂に、病を引き摺っていないか喜捨するついでに見て頂こうと思いまして出てきたのです。」
「あ…、」
もしかして、聖堂の収入の妨害をしてしまったりする?
「治癒の予約をしてました?」
1周目で働かされていたので仕組みはわかる。
「これからお願いするつもりで、今日伺うところだったんですよ?」
苦笑いするわたしに乳母らしき若い女性は「気になさらないでくださいな」と笑って手を貸してくれ、女の子と嬉しそうに笑顔になって立ち上がらせてくれた。
「すごいわ、お姉ちゃん、すごい、」
「ありがとうございます。いくら聖堂で治してもらえると言っても何度か通わなくてはいけないと聞いていたので、こんな風に容易く治していただけるとは…、」
「もう行かなくてもいいのね。ね、帰ろ、かえってお父さまにご報告しないと!」
治癒師としてのわたしの魔法は、もともと属性を二つ持っていたので水属性と地属性の二人分の治癒師の魔法の効果を一人で出せ、その上風属性の師匠の力を借りているし、ラーシュ様の加護の効果もあるのだから、何人かの治癒師が何回かに分けてする治療を一度でできてしまうのは当然な気がしなくもないけど、通りすがりの関係で言うべき説明ではないとも思う。
他の悪い部分も回復しているだろうから救いの手が唱える回復の呪文並みの効果はあったのだろうな、と想像がついたけれど黙っておく。
「たまたま、ですよ、」
それ以上言いようがないので、わたしは「お元気で、」と手を振って立ち去ろうとした。
女の子も、「じゃあね」と言ってきた道を戻ろうとしている。はしゃぐ後ろ姿が可愛らしい。
「これを、」
女の子が上機嫌で通りを渡って帰ろうとしているのを追いかけようとして、立ち止まり、乳母らしき女性が急いでハンカチに何かを包んでわたしの手に握らせた。
「これは…?」
薄い桃色のハンカチには、ごつごつとした何かが包まれている。手に伝わるのは硬質な質感で中を改めるのは躊躇われてさりげなくポケットに入れると、乳母らしき女性は満足そうに頷いていた。
「少ないですがお礼です。私の主人は春の女神様の神殿の近くに店を持つ者です。どうか、ご縁をつなげてくださるのなら、そのハンカチの刺繍を目印に尋ねてきてくださいませ。おもてなしをさせていただきます。」
ぺこりと頭を下げた乳母らしき若い女性を真似て女の子も満面に笑みを浮かべて頭を下げている。お互いに名乗らないからこのままここでおしまいとなってしまってもこの先縁が続いていくとなってもどちらを選ぶのかはわたしの自由で、どちらを選んでも受け入れるという懐の広さに、こういう出会いに慣れているのだろうなと感心してしまった。ハンカチに包まれているのは聖堂に支払うはずだった輝石か銀貨で、それなりの額があるのだろうなと思えた。
ずうずうしいと思われたくない見栄もあって、「ご縁があれば」と遠まわしに『行かない』という意思表示をしておいた。「そうですか」と答えた乳母らしき女性の声は意外に暗かった。
「お姉ちゃん、またね、」
「またね、」
手を振って、ふたりが無事に元居た側へと渡って戻っていくのを見届けると、わたしも目的の場所へと向かって歩き出した。
角を曲がって立ち止ってもらったハンカチの中を見ると、黒い線だけの正方形が4つ等間隔に刺繍され真ん中にかなり小さい正方形が配置された線で描いた花のような図案が刺繍され、真ん中には鶉卵ほどの大きさの黄水晶や琥珀がいくつか入っていた。十分すぎる報酬だ。下手に接触してお替りを貰うわけにはいかない。わたしは絶対この子の店は頼らないと心に決めた。
※ ※ ※
父さんを頼れないのは、ラーシュ様の水晶に映し出された時、戸惑うような場所を歩いていたからだ。あれは、1周目の世界であまりに見慣れ過ぎた王都の大聖堂へ向かう道だった。
わたしが今、大通りから何回か角を曲がって向かっている道そのものの景色が映し出されていたのだ。
時間の経過具合から見て、父さんは現在、聖堂の中で面会が終わった頃合いかまだ誰かと会っている最中だと思われる。
王都にある大聖堂は聖堂の王国内で最大の拠点で、各機関の最高の機密を扱っているので敷地内には特殊な結界をいくつも張っているし、人的な守りとして選りすぐりの剣士や魔法使い、治癒師達も常駐している。父さんの交友関係に口を挟むつもりはないし、わたしは自分の父親が何を生業とする精霊なのかを知っているので、いくら邪神と呼ばれるような悪しき魔性とはいえ危険を冒してまでして何かの計画のために誰かを唆している最中なのだなということぐらいは察しが付く。誰に会いに行ったのかまでは判らないけれど、わたしのカバンをわざわざ持って歩いているのを考えると冒険者のふりをしているのかもしれないし、潜入中にわたしの呼び出しを優先してもらえるとも思えない。早くても夜の誰もが寝静まるような時間まで待たなくてはいけない。長居をしても父さんの魔法はたやすく綻ばないと言い切れるので、いつ戻ってくるのかもわからない。下手に期待しない方がいい。
水晶の中の父さんの周囲に見えた街並みと重なる区画までついた。あと少し行けば聖堂の竜を祀る国での本拠地である大聖堂の正面が見えてくる。
近付きながら観察していると、お昼時の炊き出しの時間は終わってしまっているようで敷地内に信者の列はなかった。王城のお膝元の街なので、そもそも食事に困っている人たちがいないのかもしれない。ここにまだ一人空腹な善良な市民がいるのですよと名乗りを上げて、わたしの分だけでも昼食を用意してもらおうかななんて考えていると、大聖堂の正面の車寄せに止まっていた馬車が動き出した。馬車には王城の紋章が入っていて、王族か直接直筆の手紙を届ける立場にある者が乗っているのだと判る。午後の礼拝堂に祈りをささげるために門の近くで並んで待っていた信者たちの列に何食わぬ顔をして並んで、さらに観察を続けてみる。
この国の王城にいる王族は国王夫妻と息子である王太子と娘である王女の4人しかいないはずだ。彼らが聖堂と仲がいいとは1周目の未来では見聞きしたことがなかったのでなんだかちょっと違和感がするけれど、単に事務的な手紙を届けただけなのかもしれない。それにしても、王都の市民に好感を強調するような慈善事業である炊き出しの時間に王城から人がやってくるなんて、むやみに印象に残ってしまうとは思わないのかな。乗っているのが誰なのか興味があって、通り過ぎていく馬車の窓を見つめてもカーテンがひかれていて中は見えない。
諦めて聖堂の敷地内へと顔を向けると、列の先頭では門番により信者たちの識別が始まっていた。あまり知られていないけれど、大聖堂の礼拝堂には礼拝室が3つあって、聖堂への貢献度によって信者が振り分けられている。貢献度が高ければ高いほど設備の整った一人一人の間隔を広く取ったゆったりとした礼拝室へと行けて、たいていの信者や入信したての者は一番一般的な装飾と間隔の大礼拝室へと案内される。最後の3つ目の小さな礼拝室へと案内されるのは、聖堂が勧誘している最中の治癒師や、自らを推薦して才能を売りに来た者が案内される。
このまま並んで中の様子を見ていこうかな、なんて考えながら列に並んでいたら、通りがかった門番に腕を掴まれてしまった。裏には、いやらしく笑うもう一人の門番もいた。
「おい、お前は何者だ?」
この顔は知ってる。1周目でも門番だった男だ。シューレさんが話す王国語にはミンクス領の訛りがあって、とっても小さな誤差なのにしつこく揶揄っていた嫌な奴だ。
「生意気だな、おい、痛い目にあいたいのか、」
反発心から知らず知らずのうちに睨んでいたのを意識して緩めて、「なんでしょうか」と尋ねてみる。
「荷物も持たずに並ぶのなら炊き出しの列だろう? ここは身なりの整った信者様のための列だ。お前の来るようなところじゃない。」
ヒヒヒヒと口を隠して笑う男たちは、荷物を持たないわたしを見て、喜捨という献金をする財産を持たない者と判断したようだ。
丁度馬車も去ってしまっているし、特に用事はない。見落としがないか確認するために改めて視線を大聖堂の敷地内へと向けると、黒いマントを羽織った父さんが何人かの深い紫色の聖堂の騎士団の制服を着た騎士たちに囲まれて門へ向かって歩いてくるのが見えた!
向こうからは距離があるし信者の列があるから、魔力で察知できる父さんはともかく、あの騎士たちはわたしの存在にはまだ気が付いていないはずだ。
ここにいるのは見つけられたくない。
まだわたし達は、会ってはいけない。
「…すみません、出直します。」
「おい、待て、」
いい足りない門番のしつこい手を振り払って、わたしはそそくさと列から離れて通りを引き返した。
後をつけてこられないように、1周目の世界でシューレさんと探検して裏道を把握した勝手知ったる王都の街を、南西の市場を目指して路地を何度も曲がって細い道を縫うようにしてひたすら早足で進む。
…すみません、出直します。」
「おい、待て、」
しつこい門番の手を振り払って、わたしはそそくさと列から離れて通りを引き返した。
後をつけてこられないように、1周目の世界でシューレさんと探検して裏道を把握した勝手知ったる王都の街を、南西の市場を目指して路地を何度も曲がって細い道を縫うようにしてひたすら早足で進む。
聖堂の騎士たちは、所属する部隊によって制服の腕章が違う。
あの制服は護衛部隊の制服だ。
コルも、護衛部隊の所属だった。
同じ時間帯に、王城からお忍びで馬車まで来ていた。
いったい父さんは、誰と会っていたのだろう。
ありがとうございました




