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9 私は無情だと思うか、

 フリッツは視線を動かして、キュリスに注目する。

「私は検問所に残る記録を探りました。時間の関係でダクティルの訪問回数ではなく、ティオ博士とキイホ博士の証言の裏を取ることに専念しました。」

 検問所で別行動をとっていたキュリスの姿を思い出して、フリッツはニアキンと目を合わせた。隣の部屋というだけあってどんな資料を見ていたのかまでは知らないけれど、行動に嘘はないと言い切れる。ニアキンはフリッツの意図を察したのか、頷いて同意してくれる。

「ティオ博士はほぼ毎日、朝の同じ時刻に出勤して、夕刻に退勤しています。キイホ博士ですが、5月の終わりの週から出退勤の記録がありません。ティオ博士の話を信じるなら、姿が変わってしまったのが原因と思われます。」


 時期とすると、フリッツたちがライル前将軍の屋敷で狼頭男(ワーウルフ)氷雪の(プロフェッサー)教授(・フロスト)と出会ったあの満月の頃だ。

 しかも、たったひと月ほど前の話だ。


「学術院には休職願いが出ているようです。居合わせた騎士に仕組みを確認しました。キイホ博士は、このままでは研究者として不適当と判断されて、退職勧告されてしまうだろうとの見解でした。」


「どういう意味だ? 詳しく教えてくれ。」

 ティオ博士の『殿下のお慈悲で兄をお守りください』という願いを思い出したフリッツは、自然に疑問を口に出していた。フリッツの権限で退職を回避したいのではないかと邪推してしまいたくなるほどに、話題として間が悪すぎる。


「学術院は9月はじまり6月終わりで講義の時間割を組むそうです。教授職にある者は学期前の長期休暇などで講義の準備をするようですが、キイホ博士のような研究職のみの学者は年間で研究書を報告するそうです。ティオ博士は教授職ですから、授業を行い生徒の指導をすれば責務を果たしたとみなされます。キイホ博士は研究についての報告書を提出しないまま休職願いを出してしまっています。ティオ博士がキイホ博士と入れ替わって書類を提出して周りの目をうまく誤魔化す、といった方法をとっていないようですね。」


 キュリスは軽く首を傾げた。

「しかも、姿を見たという報告もないようです。ん? ちょっと待てよ、あの12号棟にずっといて、外に出ていないと思うべきなのか? おかしな状況だと思えるな。」

 キュリスは動揺して自問自答している。

「他には?」と尋ねながら、ランスはニヤニヤとしている。

「他はないですね。居合わせた騎士や事務官にも手伝ってもらって、ティオ博士とキイホ博士の記録だけを見てもらったのですが大変でした。何しろあそこは学生も関係する業者も訪問しますから、長期休暇中の今日も午前中だけで100人近くの名前がありましたよ。」

「その中にはダクティルの名前もあったのか…、」

 フリッツが呟くと、キュリスは肩を竦めた。

「そうです。入るまでに手古摺ってますね。地竜王さまの騒ぎで馬がおびえて、学術院の付近は馬車の渋滞が起こってしまったようです。かなり待たされてますね。」

「ティオ博士もキイホ博士も、偽名を使ったりはなかったのですね?」

「ええ。顔を見知ってますから。出入りの業者は、関係する研究室が発行する身分証で把握するようです。」

「そうなると、ダクティルはメナンドロス博士の研究室発行の身分証を使うのかい? そんな関係の教授が、身分を保証するのかい?」

 ビスターが目を見開いた。

「もちろん、同じように思ったから確認してきた。ダクティルの身分証は言語学の研究室が発行していたよ。」

「言語学…、もしかして、皇国(セリオ・トゥエル)出身の学者がいたりするのかい?」

「ああ、ご明察だ。」

 キュリスとビスターはお互いの顔を見て、軽いノリで笑う。

皇国(セリオ・トゥエル)出身で名をプルポットと言って、女神の言葉(マザー・タン)についての研究をしている博士らしい。妻子は王国人だ。」

「ダクティルは本屋で、言語学の研究室の教授と縁があって、地質学の学者の元へ通ってきているのですか…。」

「一見、おかしな点はないですね。どのつながりも、不自然ではありません。」

 ランスだけが、言葉とは裏腹に腑に落ちない表情をしている。


「ダクティルは王都に拠点などないのでしょうか。」

 ニアキンが小さく手を挙げて口を挟んだ。「本の一冊一冊は軽くても、書籍商と名乗れるほどなら拠点があるはずです。皇国(セリオ・トゥエル)から本を持ち込んでいるのなら、なおのこと、王都か王都の周辺で本を保管する場所を持っていそうな気がします。それに、私の屋敷に来たように、貴族の元へ通うなら身なりを整える場所が必要です。宿屋住まいだと、本が厄介です。ですが、」

 一瞬眉間に皺を寄せ、ニアキンは言葉を詰まらせる。


「どうかしたのか、」

「王都で異国人が部屋を借りるなら、身元を保証してくれるつながりが必要です。」

「皇国人の横の連携か…。」

 キュリスは空中を睨んだ。

「王都に暮らす皇国人や公国人が起こす騒動は、あまり聞かないな。誰しも王国語が得意でもないだろうに。」

「それについても調べる必要がありそうですね。皇国(セリオ・トゥエル)人の横のつながりに詳しい者を探す必要もありそうです。」

 話を締めくくったランスは、次は自分の番だとばかりに姿勢を正している。

「教官殿は、何を掴んできたのでしょうか?」

 にやりと笑ってキュリスが上目遣いにランスを見ると、考え込んでいたビスターも顔を上げた。

「あのトリアスという教授と、何を話したんです?」

「私は近日中に王城に訪問してもらう約束を取り付けてきました。もう少し詳しく話を聞きたいと思ったのです。」

「まさか、それだけですか?」

「まさか。他にも話をしました。12号棟についての違和感もありましたが、学術院の敷地内でティオ博士とキイホ博士について話をするのは危険だと判断したので、関連しているとはいえ、それ以外の話をしてきました。」


「やはり、ランスもそう思ったのか。」

 フリッツは少しだけほっとした。不可解な感覚と、言葉に言い表せない違和感がある気がして、12号棟では即答を避けたのを思い出す。


「話にしろ、環境にしろ、すんなりと受け入れ難い『ひっかかり』がいくつもありましたよね、」

 キュリスも同調すると、ビスターとニアキンも頷いた。


「皆が同じように感じたようで安心しました。あの違和感は、説明しろと言われてできるような感覚ではなかったですからね。」

 ランスはそう言って、少しだけ表情が明るくなる。

「私がトリアス博士に尋ねたのは、『地の精霊王様について、史実は残っているのかどうか』です。もし過去にも地の精霊王様のお戯れで暮らしに何らかの影響のある者が出た者がいたのだとしたら、それはいったいどういった状況で起こったのか、どうやって解決したのかの記述が残っているのかを尋ねたのです。」


 ああ…、と感嘆の声がキュリスとビスターから同じタイミングで聞こえてきた。


「伝承として、あるにはあるそうです。トリアス博士によると、地の精霊王様は基本的にはご自身の神殿に籠られていて、『お使い様』と呼ばれる使者が旅人のような形で姿を現すのだそうです。明るい昼間ではなく暗闇の夜であることが多いことから、はっきりと顔を見た者はないようです。」


「あまり良い印象ではないように聞こえるな。もしかして、『お使い様』は罰を持ってくる存在だったりするのですか。」

 キュリスが尋ねると、ランスは「褒美とするには試練の色合いが濃いので、罰というのはあながち間違いではありませんね」と肯定する。


「トリアス博士によると、地の精霊王様は命を扱われているようです。地の精霊たちは死を迎えようとする時、『お使い様』からこの先についてお声がけを受けるようです。もう一度生き直したい者は、精霊界の最果てにあるといわれる地の精霊王様の神殿にお参りに出かけます。地の精霊王様はやってきた精霊たちの願いをお聞きになってくださり、望む者には()()()()()()()()()()()をお与えになるそうです。そのようにお心の優しい方なのだそうですが、代償として一番大切なものを奪っていかれるのだそうです。奪ってしまわれるのは本人の命ではなく、容姿や外見、肉親や友人、金や名誉など、それぞれによって異なるようです。」


()()()()()()()()()()()は手段ですか? それとも時間なのでしょうか。具体的には何なのかは、トリアス博士は語られたのですか?」


「答えなのかどうかわかりませんが、トリアス博士は『その術には影響の個体差があるので体に馴染むかどうかは判りません。罰となるような変化もあると説明を聞いてみて、実際には()()()()()()()()()()()を頂くのを諦める者もいるそうです』と話していましたから、いい面ばかりではない力なのでしょうね。」


「精霊界の地の精霊王様の神殿って、ティオ博士たちの話で出てきた場所と同じなのですよね? ずいぶんと印象が違いませんか?」

 キュリスが唸るように言った。「これではまるで、キイホ博士たちが地の精霊王様の神殿へ苦労して出かけて行っても、そこで次の審判を下されるかもしれないのですか。キリがありませんね。」


「そうですね。この世界で何らかの理由で姿を変えられてしまったキイホ博士の状態を、『お怒りを買ってしまい大切なものとして人間であるという事実を奪われてしまった結果』とするのなら、精霊界に行って地の精霊王様の神殿で許しを乞い、望みとして()()()()()()()()()()()をいただいたとしても、個体差が悪い方へ働いてしまったとしてさらに何かを失う展開になったとなれば、『遠路はるばる謝罪に来たという姿勢への褒美として望みを聞いてくださりはしたけれど、結果として決して許されてはいないのだ』という結論になりますね。」


「望んだとおりに人間の姿に生まれ変わり生きなおせなければ、徒労に終わるどころか、さらに状況は悪化するのか…、」

 ニアキンは呟いて、空を見上げた。


 つられてフリッツも見上げてみれば、火の竜らしき姿はもうどこにも見当たらない。燦燦と輝く太陽ばかりで、眩しい。


「満月の夜に橋を架ける方法を得たとして、長い年月をかけて地の精霊王様の神殿へと向かい許しを乞うても、結果によっては決して報われないままなのですか…。」

 溜め息とともに、キュリスが肩を竦めた。「ティホ博士も同じような情報を得て同じような筋道で考えたとして同じような結論になっていたのだとしたら、魔力や能力云々は別として、あまり精霊界へ行く気が起きないのは当然だな。」


「ひとつの考えとして聞いてほしいのですが、」ビスターが小さく手を挙げて沈黙を破った。

「人間に…、キイホ博士に罰をお与えになった時点で、『生まれ変わり生き直させている』状態にあるのだと、考えられませんか。」


 敬虔で、信仰心が篤いビスターらしいな。フリッツはビスターの顔を見ながら思う。それが地の精霊王ダールの真意だとすると、キイホ博士は許しを乞うだけでは許されないのだとも思えてくる。


「それは私も考えました。人間が精霊になるのは、魔法で一時的に状態を変えているのならともかく、こんなにしっかりと変質しないと思いましたから。」

 ランスは手のひらを顔の前に広げ、握ったり広げたりを繰り返して見せた。

「あの時、ティオ博士を捕まえた時、実体がありました。ティオ博士は人間です。すぐ近くにいたキイホ博士は、私の見る限り実体があり、ニアキンの剣の前に体毛が震えていたのも見ています。人間というよりは獣人、獣人というよりは精霊そのもので、『触れることができるのだから実体化できるほど魔力があり、精霊としてヒト型をとれるのだ』と想定もしました。ですが、竜穴(スポット)という場所の影響で魔力の満ちた環境であるのなら、実体化していた理由は、キイホ博士の魔力ではなく、12号棟という建物にかけられている魔法の結果です。精霊の姿を見る『精霊の(グノーシス)(ズ・アイ)』という魔法を覚えていますか? あの魔法の上級の魔法に、空間全体に掛け、精霊の姿を炙り出す効果のある『精霊の(グノシェ)(ンヌ)』という魔法があるそうです。その魔法と同じようなものが12号棟にかかっているのではないかと考えてみると、キイホ博士は『魔力の少ない精霊』であるため人に変化するには魔力が足りないので、『ヒト型にはなれない程度の魔力を持つ野に棲む精霊である』という結論になります。」


「ああ、わかったぞ。」

 キュリスが目を見開いて明るい表情になった。

「獣人の姿は先祖返りと言ったのは、獣人なら半妖として人間扱いされるからだ。獣人の姿は人間ではなく精霊の本来の姿であるとするなら、半妖ではなく野に棲む精霊、つまり精霊だ。キイホ博士は人として扱われたいんだ。いざとなった時、人として扱われないのは受け入れたくないからだ。」


「キュリス、その言い方だと、キイホ博士は精霊なのに人間として学術院で雇われたいと願っているとでも?」

 おかしそうにビスターが首を傾げた。「魔力のない者には見えないのが精霊なんだよ? 精霊が学者として雇われていたって、見えるのは魔力を持つ者だけじゃないか。」


「だから12号棟なんだろ?」

 すっきりとした笑顔で、キュリスはフリッツの顔をまっすぐに見た。

「あくまで推測の範囲であるが、キイホ博士が魔物(モンスター)として扱われて屈辱なのは、人ではない存在として扱われることで人としての尊厳が失われるからなのではないかな。キイホ博士は人間として学術院に残りたいと思っているのだと思う。だから、私たちを前に芝居を打って、先祖返りの半妖として獣人である姿を見せた。獣人なら人間と精霊の子だから半妖の扱いとなる。輪廻の輪に帰る時にも肉体があるから、半妖の扱いは人間となる。少ない魔力しか持たない精霊であるキイホ博士は、竜穴(スポット)である12号棟の作用を利用して、あの場所で芝居を打ったのではないのかな?」


「理由は、学術院に学者としてい続けたいからか?」

 フリッツとしては、そこまでして学術院に拘る理由がわからなかった。

「ティオ博士を巻き込んで打った芝居が成功したとして、キイホ博士が得るものはいったいなんだ?」

 半妖だから魔物(モンスター)ではない人間として保護するようにとフリッツが存在を認めたとしても、数学者として学術院にい続けられるかどうかは別の話ではないかと思えていた。契約更新前に休職届を出して免職が近い状況となっているのを、フリッツの権威でキイホ博士の都合よく覆してほしいと言われてもできそうにないし、フリッツにするつもりもない。

「先祖返りの半妖だと主張するキイホ博士が、姿を実体化させるのを維持できなくて12号棟から出られないのだとしたら、結局はいないのと同じなのではないのか?」 

 フリッツの疑問に誰も答えてはくれない。


 沈黙の中、通りの向こうからやってきた馬車が、太陽神の神殿の前を通り過ぎず、近くで停まる音が聞こえてくる。


 ランスが、小さく咳払いをした。

「それが狙いなのだと思います。12号棟で、魔石の研究者としてティオ博士の研究室に入るつもりなのかもしれません。学術院に残るのが目的なのであるのなら、数学者にこだわる必要はないのです。『半妖の獣人であるからしてこれまで通りの勤務はできなくなったけれども、王太子殿下のお墨付きを得た王国人であるので、これまで通りの身分の保証をしていただきたい。魔物ではないのだから、待遇と報酬は人間として同等に丁重に扱っていただきたい』というのが本当の狙いなのかもしれません。」


「精霊を獣人として扱って人間として報酬を払うのか…、前代未聞の要求だな。」

 キュリスが溜め息をついてランスを見た。

「獣人であるという証明を第一線の研究者や学者にするのは難しくても、王国の統治者である国王陛下や王太子殿下にできてしまえば、あとはどうとでもできると高を括っているのですか。しかし考えましたね。そんなに学術院の学者の椅子は便利なのでしょうか。」


「権威が重要なのではなくて、あの場所なのでしょうね。」

「12号棟ですか?」


「例えいつかティオ博士が輪廻の輪に帰る日が来たとしても、キイホ博士は学術院の学者の立場さえあれば、あの12号棟にい続けられます。半妖なら人間より長生きだといってごまかせば、いつまででもいられるのです。魔物ではないから守るようにと殿下のお言葉と後ろ盾さえあれば、学術院を守る騎士たちは使命を果たします。まさか魔力の低い、いわゆる下等な野に棲む精霊が人のふりをして暮らし続けているとは誰も思わないでしょう。いつ許されるかわからない地の精霊王様のお怒りが解ける日まで、人間としてあの場所で守られながら待ち続けられるのですから、安全に身を隠す場所として最高なのではありませんか?」


 フリッツはランスの言葉の意味を考えているうちに、不快に思い始めていた。立場を利用されようとした悔しさすらある。

「私は、学術院の判断を尊重する。ティオ博士たちの話は、話として心に留めておくだけとする。」


「殿下?」

 キュリスやビスターはフリッツの声色の変化に、本来の王子としてのフリッツに対する態度に戻って様子を伺っている。


「キイホ博士が精霊であると断言はしないが、学術院で働けない者を半妖の学者として雇用しなおすようにと、無理を働きかけるつもりもない。学者を学者たらしめるのは学術院で知の研鑽に励む者たちだ。部外者の私が王族の権威で彼らの自治に介入すると、公平性はなくなり、知は知でなくなる。」


 ランスは、そっと視線を外した。状況を見守るニアキンが手を握りしめているのが見えた。

 相手が魔力を持ち魔法を使う精霊だろうと、脅迫に屈するつもりはない、とフリッツの心は決まってしまっていた。それは同時に、キイホ博士は精霊と確定したと言ってしまうようなものなので、口に出すのは躊躇われる。


 沈黙に、キュリスが取り繕うように明るい声を出した。

「王城へ戻られる前に、気分転換に市場に行きましょう。答えはそのあと考えてもよいのではありませんか。」

 ビスターは早速ニアキンの背中を押して、キュリスと神殿を出ようとしている。


「ランス、私は無情だと思うか、」

 フリッツには、きっとランスは初めから勘付いていたのだろうなと思えていた。

 あの時即答を避けたフリッツの判断を、だからこそ、それでいいと言ってくれたのだと感じられた。


「お心のままに。」

 そう言って頭を垂れたランスに、フリッツは「そうか」としか答えられなかった。


 ※ ※ ※


 太陽神の神殿を出たフリッツたちは黙って石畳を進んで、通りの少し先で待っていた馬車がゆっくりと引き返し近付いてきたのを出迎えた。

 休憩を終えたはずの馭者は、空腹を満たして幸せそうな様子ではなく、どちらかというと満足に昼食も取れなかったといった類の徒労感と疲労感とに疲れた表情をしていた。

「何かあったのですか?」

 怪訝そうな表情でランスが尋ねると、馭者は「先程の地竜王さまの儀式の影響もあってどこもかしこも渋滞で、すっかり遅くなってしまいました」と申し訳無さそうに言った。

「大丈夫だ。時間は丁度いい。ところで、この付近にも食堂があるだろう? 近くで入れなかったのか?」

 王都の食事情に詳しいキュリスが目を丸くした。

 馭者は一瞬ムッと怒りを抑えた表情になり、「時間がありませんでした。何しろ昼食どころではない忙しさでしたから、」と抑えたように答えた。


 そして、フリッツたち一行を見て人数を確認するように一人一人の顔を見た後、「お言いつけどおりにお届けしましたから、ご安心ください」と言った。

ありがとうございました

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