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8、青黒い甲冑の戦士

公国(ヴィエルテ)語…、もしかしてご出身は公国(ヴィエルテ)なんですか、」

 小さく微笑んで「通じてよかった、」と呟いたミルタさんは「ミラ侯爵領のペールジョーの出身なんです。夫とは、魔石の買い付けに私の生まれた街にやってきた時知り合いました、」と照れた表情になった。

「髪の色は、」

 瞳の色は青緑色なミルタさんは明るい焦げ茶髪をしていたので、公国人だと気が付かなかった。

「染め粉を使っています。異国人がこの街で暮らすには、目立つ色なんです。余計な詮索は面倒ですから。」

 国境の街なのに、結婚していてもまだなお異国人だと受け入れられないような雰囲気の街なんだと驚く。思っていた以上に、この国の差別は根深いのかもしれない。その点、地色で頑張るスティーノさんは凄いのかもしれない。

「もしかして、魔法も使えるのですか?」

「ええ、少しだけ。私は火属性の『種火』です。」

「私の母も、火属性の種火ですよ、」と答えて微笑んでおく。あえてわたしは自分の属性を話さなかった。治癒師(ヒーラー)なら水属性か地属性なのだと公国(ヴィエルテ)人なら見当がつくし、言う必要などないなら言いたくない。

 マハトの存在に気が付いたミルタさんは、「このまま公国(ヴィエルテ)語でも大丈夫ですか? この方は皇国(セリオ・トゥエル)人ですよね?」と尋ねてきた。マハトは聞いても判らない話だろうし、興味なさそうな表情をしているから大丈夫だろうと判断して頷いておく。

「皇族に依頼されたと義母(はは)は言ってましたが、皇族が、あんな依頼をされるはずはないのです。」

「具体的には何を、頼まれたのですか?」

「クアンドのライヴェンって、ビアさまは知ってますか? 懐中時計で有名なこの街でも一番の奢侈品です。」

「ええ、確か、この街で有名な時計ですよね?」

「はい、ライヴェンは、この街の偉人です。時の女神さまの神殿から持ち帰った砂を使って数々の名品を作ってきた時計の職人でもあります。ライヴェンには直接指導した弟子がいて、義父は…、そのライヴェンの現存する弟子のひとりであり貴重な修復師の一人です。」

 ミルタさんは頬を伝う涙を拭うと、微笑んだ。

「私の夫は義父の一番弟子でもありうちの工房の現親方でもあります。この街でも、ライヴェンの懐中時計を修復できる職人は少ないんですよ、ビアさま。この街で一番の時計の職人はこの国の一番でもあるんです。」


 その一言で、ミルタさんはクアンドのライヴェンが本当は砂時計を言うのだと知らないのだと、わたしは悟った。この人は、秘密を知る危険から遠ざけられていると、守られている人なのだと、気が付いてしまった。

 ビセンデもミロリさんも、会ったことないファンマさんも、公国(ヴィエルテ)から来たミルタさんを愛して守っている。


「…ビセンデさんは、尊敬すべき人なんですね、」

「はい。その義父が皇族のお姫様に依頼を受けた時、夫はおかしいと言いました。お姫様が、人を呪うような魔道具を望まれるなんて、おかしいと、あの時、口走ったのです。」

 言い終えた後、ミルタさんはキュッと口を噤んで、震えていた。

「義父の受けた依頼は、義父が細かく話さなくても作業する姿を見ていれば理解できたそうです。成人されて間もないお姫様が依頼するような内容ではないと、夫は疑っていました。」


 つまりミルタさんの話から想像すると、皇族の若い姫君、おそらくエネヴァ様の名を騙った別人の依頼をビセンデさんは受けたのだとファンマさんは思ったようだ。


「ご依頼を、義父はひとりでやり遂げました。何度も何度も修復したはずの依頼品が送り返されてきて、何度も何度も指示通りに作り直していました。義母が体を心配するほど根を詰めて取り組んでいたのです。とうとう義父ではダメだと依頼主であるお姫様から言われて夫が後を引き継ぐ事態となった時、夫には直接皇都(カリオ)へ来て仕上げるようにと指示がきました。この土地から出て見知らぬ皇都(カリオ)の魔術工房で力が発揮できるか判らないという不安もあって、夫は断ろうと考えたようです。でも、義父の無念を晴らしたいと、直接申し上げたい気持ちがあると、抗議の意味を兼ねて皇都(カリオ)へと旅立って行きました。」


「その後、ビセンデさんは倒れたんですね、」

「はい。以前はこの地でこの工房を守るのだと義母と私とは夫に誓っていたので職人たちと一緒に意気込んでいましたが、義父は…、老いた者は必要とされなくなったのだと肩を落としてしまい、いつの頃からか工房には足を踏み入れなくなりました。」


 言い難そうに俯いたミルタさんは、暗い目をしていた。嫌な出来事を思い出しているのだ。わたしはそっと、ミルタさんの腕を撫でて励ました。


「ライヴェンの時計は、時の女神さまの砂を使っているので、不思議な力があります。魔道具、ご存知ですか?」

「はい。魔術工房で作る魔道具ですね?」


 竈に4大精霊王を祀るので単なる工房ではなく魔法の効果を伴った品が出来上がる魔術工房は、精霊との血の契約が必要なため公国(ヴィエルテ)でも特殊で、魔力を持っていても魔法が使えない人口が増えている現在、新しい竈を作られる機会がほぼなくなり、稼働している魔術工房の数は知れている。ただミラ侯爵領のペールジョーは特殊で、工房の集積地となっている。もしかすると首都(ワシル)よりもあるかもしれない。

 わたしの火光(ファイヤー)(・マウス)のマントを仕上げてくれたのも魔術工房だ。皇国にもあるんだ、と驚くのと同時に、王国にはなかったと1周目の未来を思い返す。そう考えると、父が無垢の里に移築した魔術工房は、とても貴重な存在だ。


「ライヴェンの残した時計は、時計の形をした魔道具だと思ってもらえればいいです。うちの工房は、表向きは時計作りの工房ですが、代々続く魔術工房でもあります。義父も夫も、精霊と血の契約しています。私の子供も、いずれはその契約を引き継ぐのだと思います。」

「ミルタさん。失礼ですが、あの家に、精霊の存在を感じませんでしたよ?」

「ええ。夫が、皇都(カリオ)へ連れて行ってしまっていますから。今うちの竈はもぬけの殻です。」

 ミルタさんは悲しそうに微笑んだ。「夫は無事で、精霊たちが夫を連れて一緒に帰って来てくれたらいいのにと、毎日女神さまに祈りを捧げに行くのが、義父の日課なのですよ、」

「だから、あの時、広場にビセンデさんはいたんですね、」

「ええ、月の女神さまの神殿の帰りだったのだろうと思います。あの辺は治安が悪いから、何かあったのかもしれません。」


 発作の原因になるほどひどい目にあったのなら、誰か一緒に月の女神さまの神殿に行った方がよかったんじゃないのかな、と言いかけてわたしは黙った。

 言えないような事情があるからひとりで神殿を回ると決めたから、結局、ビセンデさんはひとりで行っているのだ。


「そんなお顔をなさらないでくださいまし。お嬢さまは、私たちにとっては久々の明るい存在なんですよ。お嬢さまを最初にお通ししたあのお部屋は原材料となる魔石や魔獣の毛皮が資料として集めてあります。お嬢さまは大層嬉しそうなお顔をされていたと義母が話しているのを聞いて、うちにいる職人たちは火光(ファイヤー)(・マウス)のマントをお召しになっているし治癒師(ヒーラー)様だし、こんな時期に我々の仕事に理解を下さる奇特なお嬢さまを大親方はお連れくださった、と興奮したのです。我々の仕事に理解してくださる方をお連れになってくださるなんて、とても励みになる。やっぱり親方の目利きは引退されてもすごいのだと、みんな、喜んで、」


 涙を拭うミルタさんに驚いて、泣くほどの出来事なの、と、何も言えなくなる。あの部屋を喜んでいた理由は母がレース職人だから実家を思い出していた、なんてうっかり言えない。


「お嬢さま、義父を、大親方を助けて下さってありがとうございました。夫に代わってお礼を申し上げます。」

 ミルタさんは溢れてきた涙を手の甲で拭って、畏まって頭を下げた。

「義母はああいう人ですから、義父も、お嬢さまにはこういった事情をお伝えするつもりはないと思います。お嬢さまのマントを理由に、夫が帰ってくるまで引き留めておくつもりでいると思います。」


 なんとなくは想像していたけれど、改めて言葉にされてしまうと複雑な心境になる。治癒師(ヒーラー)としては騙されたふりをしてでもずっと患者の世話をしたいと思うけど、わたしには聖堂に潜入するという『庭園(グリーン)管理員(・キーパー)』としての任務がある。公国に戻ってイリオスに一言文句も言ってやりたいと思っているし、エドガー師を探したいとも考えている。


「気にしないでください。宿を提供してもらっているのはありがたいですし、治療の時間以外はこうやって自由にさせてもらっていますから、」

「そうですか。お嬢さまにそう言って頂けると、救われます。私たちにとっては、頼もしい味方であるのには変わりませんから。」

「ミルタさんは、優しい人ですね。黙って騙す側にだってなれたでしょうに。教えてくださってありがとう。」

 マハトも、小さく頷いている。話が理解できなくても話に合わせてくれているみたいだ。

「お嬢さまを騙すのが申し訳なくって。でも、こんなところじゃないと話せなくって…、」

「気にしないでください。」


 ふいに、ピュイーっと風の鳴る音がした。


 ミルタさんとわたしたちに向かって大きな鳥が飛んできた。半人魔鳥(ハーピー)だ。橋の袂の階段を駆け下りてきた人たちが何かを叫んでいるのが見えた。

 近付くにつれ人よりも大きいのではないかと思えてきた巨大な鳥は足に何かを掴んで、「キエエエエ!」と奇声をあげながら、わたしとミルタさんの間を飛び抜けた。


 鳥じゃない。

 人の顔をした鳥なんていない。

 魔物(モンスター)だ。

 

 捕まえているのは、幼い子供?


 まっすぐ向こうの川下には、同じような羽の色をした巨大な鳥たちがこちらに向かって集まってきているのが見えた。


<マハト、追おう!>

 わたしは駆け出した。

 

 召喚獣として姿を現しても風の精霊オルジュには同じ風属性のあの魔物は直接倒せない。わたしの使う魔法は基本的に治癒の魔法だ。召喚術をするにしても、わたしが呼び出せそうなのは、地属性の精霊ラフィエータしかいない。でもそれは、できない。

 首を振って頭から振り払って、別の方法を考える。

 泣き叫ぶ子供の声と追ってくる大人たちの怒鳴り声、自分の走る息とで、どんどん興奮してきた。直接攻撃として何かできそうなものを手を翳しかけて、泣き叫ぶ捕まえられている子供が目に入って、言葉を飲み込む。

 追いかけるしかできないの? わたし、何もできないの?


<ビア、>

 マハトが、悔しくてもどかしくて怒りながら追いかけるわたしの傍を駆け抜けていった。勢いよく大きく振りかぶって、何かを投げつけてわたしの行く手を阻むように手を広げて立ち止まる。

 そのまま包み込むようにしてわたしを抱きとめて、マハトはなにが起ころうとしているのを体で隠して遮ろうとする。


 ギャアー!!


 半人魔鳥(ハーピー)の、悲鳴が響いた。


<マハト、>


 急いでマハトの腕の中から頭を出す。

 目の前でマハトは青黒い虫を投げたはずなのに、青黒く大きな甲冑を身につけた戦士が黒剣を手に姿を現していて、魔鳥を仕留めていた。

 

 悠々と両手を掲げて戦士は空から降ってきた子供が地面に転がる前に受け止めて、地に降ろした瞬間、揺らめきながら幻のように消えた。

 ぽとりと青黒い虫が地面に転がったと同時に、子供の泣き声があたりに響いた。


 あっという間に魔物が風に消えていた。

 

 ホッとしたのもつかの間、ざわめく羽ばたきと喧騒がこちらに向かってくるのを聞いてしまった。顔を向けると、大きな鳥に見える半人魔鳥(ハーピー)の群れが見えた。

「どうして街なかに、昼間から魔物(モンスター)がいるの、」

 思わず出た心の声に我に返る。せっかく助かった命を、無駄にはできない。


 集まってこようとしていた魔物(モンスター)たちに向かって慌てて光をぶつけた。

 照明弾のように光るだけのその魔法は、アウルム先生が夜間の患者の治療に編み出した『光花(フラッシュライト)』という魔法だ。閃光が輝いて対象の周りを照らし続ける眩しいだけの魔法だ。


 眩しさに顔を翼で隠し(ひる)み、魔物たちがぶつかり合いながら散って逃げていく。鳥目というくらいだし、目を狙って正解だったかも、と胸を撫で下ろしていると、マハトが<ビアが無事でよかった、>と頭を撫でてくれた。


 救い出された子供は、広場で配給を待っていた女性信者の子供だった。列に並ぶのに飽きて広場の中央へと走ったその子を母親は配給の列から抜け出せなくて見ているだけだったようで、親の手を離れた隙を狙った魔物(モンスター)がさっと舞い降りてすっと子供を連れて行ってしまったのだと、誘拐の現場に居合わせ追いかけてきていた街の者たちが教えてくれた。女性信者はわたしたちの存在など気にならない様子でお礼も言わずに子供を抱きしめると泣きながらまた列へと並びに行ったので、ある意味すごい信仰心だねと感心した。

 そんな女性信者親子に街の人たちも何も言わなかったので、この街はやっぱりどこか歪だ、と実感した。


 マハトは動かなくなった虫の死骸を胸にあてて悼むと、あっさり川に流してしまっていた。お墓は作らないの、と聞いてみたら、<このまま流してやる方が魂は輪廻の輪に戻る>と教えてくれた。

<あれは、魔法?>

<私たち虫使いと契約して、私たちの先祖の力を借りた。>

 魔法とは違うのかな。

<あの虫の願いでもあり、最後の煌めきだ、>とマハトは小さく笑って<生き物は最後に必ず輝く時が来るんだ、>と口を噤んでしまった。


 あの虫は魔物を倒せる力がほしいと願ったって意味? と尋ねかけて戸惑う。マハトの理屈なら、強い敵を倒すためだけに死ぬかもしれない程の強大な力を得る時が来るのを待っているみたいだ。マハトに捕まって壺に入れられ生き残るために自分以外の虫を殺し続けた虫は、最期の瞬間まで戦いを望んだみたいに聞こえる。

 そんなの、終わりがないわ…、と心の中で呟いて、わたしは唇を噛む。治癒師(ヒーラー)のわたしは、死ぬ瞬間まで、シューレさんとコルを助けたいと願っていた。わたしも、同じだ。

 わたしもきっと、最期の瞬間まで、誰かを助けたいと2周目この世界でも願う。シューレさんとコルを助けたいと行動している…。


<…また、虫を捕まえるの?>

 尋ねたわたしに何も言わずに微笑んで、マハトは小さく肩を竦め<ビアにも教えてあげるから安心して、>と笑った。


 ※ ※ ※


 マハトの活躍を聞きつけて聖堂から司教たちが話をしにビセンデさんの家にやってきたのは夕食間近な頃で、ビセンデさんは職人たちを呼んできて玄関に集め、聖堂の者たちを家の中に入れず、マハトと並んで玄関の前に立って話を聞いていた。話し声から聖堂からは司教と司祭、護衛部隊の騎士といった職位の三人が来ているみたいだった。

 直接(おもて)からわたしの姿が見えないように、でも話は聞こえる程度な家の奥でミルタさんとミロリさんが庇ってくれていたのが不思議だった。ミルタさんの幼い子供のキリノくんとアマルナちゃんがわたしの足に抱き着いて真剣な表情をしているので、この家では聖堂はあまりいい印象はないのだと感じた。幼い子供たちはふたりとも明るい焦げ茶髪で青い瞳をしていた。ただ、上気したキリノ君たちの頭から流れる汗は黒く色がついていた。まさかこんな小さな子供でも髪の色を染めているんだ! ここで育つにはそこまでやるんだ!

 気の毒に思えてくる。異国民との子供の髪の色まで干渉するし精霊を召喚獣と呼んだりするし、皇国はかなり住みにくい国なのかもしれない。国境を越えた公国(ヴィエルテ)は実に自由なのに。怖い。この街の人たちは、怖い…。

「大丈夫だよ、」とキリノくんがわたしを見て言った。

「おじいちゃん、強いんだ。お姉ちゃんたち、守ってくれるよ、」

「おばあちゃんも怖いよ、」と真顔で言うアマルナちゃんに、ミルタさんが気まずそうに「シー!」と黙らせたのが面白くて、わたしは笑顔になっていた。


 外からは、話し声だけしか聞こえなかった。一通りマハトに感謝を述べた後、聖堂の司教が「ところで、」と言い出した。

「この家に、公国(ヴィエルテ)から治癒師(ヒーラー)様もいらっしゃっていると聞きましたが、(まこと)ですかな、」

「気のせいではありませんか、」

 ビセンデさんが丁寧だけど険しい声で問い返している。病人なんだからあんまり無理はしないで欲しいなと、聞いていてハラハラしてくる。

「この国で治癒師(ヒーラー)は独占してはいけない存在の者です。領主さまにお引き渡しになるのが賢明ですぞ。」

「この家は家長が皇都(カリオ)へ出かけているのでしたな? 領主さまにお目通りもかないますまい、」

「聖堂が代わりにお預かりしませんといけませんな、」

「この青年も山の民(プリアーカ)の希少な虫使い(アカツチ)だ。おふたりとも是非とも聖堂にお迎えしたいものですな、」

 ニヤニヤと笑みを浮かべている様子なのが声から伝わってきて、治癒師(ヒーラー)のわたしと虫使い(アカツチ)のマハトを聖堂のためという名目で自身の栄誉のために使うつもりなのだと勘繰れてしまって、強欲な悪意に思わず身震いしてしまう。

「このお人は大切な客人です。そのような扱いは受けさせません。お帰りください。」

 ビセンデさんが大きな声で言いきって断った。

「何を、」

「聖堂に逆らうのか、」

「お前、」

 (いき)り立つ気配に空気が変わる。

「皆、お客様のお帰りだ。表通りまでお送りしてお上げ、」


 手を打って合図すると、職人たちが手を空に突き上げて「オー!」と気合を入れて叫んだ。

 近所の人たちも見守っていたのか、「帰れ」、「帰れ!」とあちこちから怒鳴り声も聞こえてくる。皇国は聖堂との共依存関係にある国で一番癒着が激しい国なはずだった。

 ここまで住民に嫌われるなんて聖堂、いったい何をやってるんだろ、と疑問が湧いてくる。王国での聖堂はここまで反感を買っていなかった。


「不敬な!」

治癒師(ヒーラー)様、必ず聖堂がお救いいたしますぞ、」

 家の奥に向かって大声を張り上げた聖堂の者たちに向かって、「黙れ」という声が被さっていく。

「何を見当違いな世迷言を抜かしているんだ、帰れ帰れ!」

 ビセンデさんが怒鳴ってこぶしを握った腕をあげると、悲鳴を上げて司教たちは走り出した。笑い声が大きく響いて、やがて静かになった頃、「親方!」と駆け寄る声が集まってきた。

ありがとうございました

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