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14 王都にも香りが残ってた

 休養日と言われていたのもあって、散歩中にコルとこっそり面会を終えたフリッツが自室で留守中の書類の整理をしていると、嬉しそうな顔をしたカークが部屋に入ってきた。ドレノに留守番を任せ、各部署に書類の提出も兼ねて情報収集に出かけていたのが、無事に済んだようだ。

「殿下、朗報です、」

「もう休養日は返上していいのか?」

「いえ、違います。そっちではなく、別の件です。」

 カークはフリッツの執務机の前に立つと、机の上の処理済みの書類が未処理の書類よりはるかに高く積み上がっているのを見て、安心したように頷いて神妙な顔つきになった。カークが手にしているトレイには、新たな書類と封書が乗せられている。

「着々と執務をこなされていらっしゃるようですね。感心感心。先ほど、外出の許可が下りました。王都にある学術院から正式に招待状が届いたのを陛下がお許しくださったのです。明日、お出かけ出来ますよ?」

「学術院か。そうか。」

 封書を開封しながら、一番期待していなかった報告に、フリッツは若干気落ちしながら頷く。あの聴聞会での別れ際にティオ博士とした約束が、こんなに早く果たせられようとは思ってもいなかった。 

「クラウザー侯爵は? 国境警備隊のブノワ―は?」

「陛下が、学術院を済ませてから体調を見て考えようと仰っていたので、そっちはまだみたいですね、」

 面会を希望した相手とは違う相手の許可に、父上は自分のお気に入りの学者たちだから許したのだろうな、とフリッツは考える。

(やわ)な体をしていないのだがな。…父上に、直接お尋ねしに伺ってもいいだろうか。」

「困りましたね。殿下は今日は一応表向きは休養日なので、陛下に御面会できないんですよね。だから私が代わりに言付かってきたっていうか。」

「さっきみたいに散歩ではダメなのか?」

「陛下は今日中に謁見や御公務の怠りを解消されるおつもりだそうですから、少し難しいかもしれないですね。」


 公務が予定通り遂行されないと、綿密に計画を立てて地方からやってくる貴族たちやその周りの従者たちの生活にも支障が生じる。国王として国を動かすにはやり遂げる強い意志と対応できる体力とが必要とされ、気難しいながらも父は丁寧にこなし要望に応えていく。そんな父の後姿を思い出して、こんな時に休養を取っている自分はなんて足手まといなんだと情けなくなる。フリッツは小さく唇を噛んだ。子供扱いされたくない。成人したら、何かが変わるのだろうか。


「ラナはどうしている? 母上は?」

「ラナ様は…、よくわかりません。まず、お付きの侍女たちや近衛兵が総入れ替えとなるようです。聞いた話だと、国王陛下は現時点でラナ様には最小限の接近のみを許可されて、許可のない面会を禁じられていますが、王妃様ご自身が面会を希望されていて、近衛兵隊長が説得している状態なようです。かといってラナ様の方は王妃様との面会をお断りされているみたいで、なんだか拗れてますよ。」

「そうか。母上は元気なのだな。…ラナとは会えないままなのか。」

 フリッツは手元にあった書類を整えながら呟いた。

 まずは、王城にいてもできることから始めた方が良さそうだ。自力で調べられることは自分で探して、ランスやキュリスたちの手を借りて、探索の手を広げるのが今できる最善だ。


「会わない方がよろしいのではありませんか?」

「どうしてそう思うのだ?」

「いくら仲がよろしくても、自分を殺そうとしたお相手ですよ?」

 カークの視線が居心地が悪くて、フリッツは窓の外へ視線を向ける。


 ラナを連れて帰ってすぐに父に会い報告をした際、宰相たちもいる前で、秘密の抜け道の件とイーラとの会話も詳しく伝えてあった。報告書には記載できない内容だと判断して、早い段階での秘密の共有を望んだのだ。話を聞いた父は「断定はできないが、」といいながらも、フリッツの魔力を誰かに使われる度にひどく消耗して寝込んでしまうのではないか、という仮定を口にしていた。

 ラナの言う通りクリソベリル・キャッツアイにフリッツの魔力が移動してしまっているのなら、手に握れば魔力は帰るのではないかとも言われ、その通りにしてみたら、むしろ、触れた瞬間石が手に吸い付くような感覚がして体がだるくなり、石は輝きを増した。フリッツには魔力を吸われてしまったのではないかと思えてならなかった。

「この魔石は誰かの魔力を封じたものではなく、一時的に吸収するだけなのかもしれない。聖堂に調査を依頼して、鑑定士(アプレイザ)の派遣を要請してみよう」と父は言ってもくれた。素早い対応を望んでいる以上、聖堂の介入を許すしかない。王家の災難として国内の貴族に知らしめたくもなく、国難として公国(ヴィエルテ)皇国(セリオ・トゥエル)に頼るほどでもない現状では、仕方ないと思えた。

 昼間出会ったコルはその調査のために派遣された聖堂の軍人たちの一人なはずで、コルが言う通りにコルはラナを守る結界を張る役目の退魔師(ジーニー)、見張り役だった女性が魔石の調査を担当する鑑定士(アプレイザ)、コルや見張り役の態度からフリッツが顔を思い出せない男は責任者か指揮官だろう。

 フリッツは、ラナの、魔石にフリッツの魔力が封じ込められている話は間違っていると考えていた。本当にフリッツの魔力がフリッツと別の場所にあるなら、地の精霊王ダールはどこから魔力を使っていたのか判らなくなる。しかも身体の中にないのなら、使用されても疲労感を感じたり寝込んだりする理由がない。身体の中にあるからこその消耗だと思える。

 仮にフリッツの魔力がフリッツの中にありフリッツだけが使えない状態であるなら、フリッツはなんらかの制約を課せられているだけで、やはり魔石に移ったのはフリッツではないラナの魔力だ。

 今回の疲労の原因はイーラがフリッツの魔力を使ったからだろうと考えていた。なんらかの理由で、イーラがフリッツの魔力を使って、白い狼のような犬を呼びラドルフを捕獲したのだ。

 フリッツは、今回の一件でラナが魔法を使ったのは、風の中での会話と霊廟で閉じ込めた時に空間を移動した2回ぐらいだろうと目星をつけていた。どちらも火属性の魔法ではない。

 ただ、ラナは陰火という性質で魔力を持つ者を吸収し続けているので、取り込むついでに魔力も吸収していると思われる。可能なら、これまでに何人取り込んだのか、他にどんな魔法が使えるのか、詳しく知りたい。

 フリッツとしては目撃者であるイーラの言葉にはまだ何か続きがあるような気がしてならないし、どうしても思い出せないラナとの事件の詳細をもう一度しっかり聞いてみたいとも思っていた。事のあらましを知らず魔力が使えない原因が曖昧なままでは、何の手も打てそうにない。


「そんな事は、…小さな過ちだ、」

「そうですか。来月には皇国や公国から使節団がやってくるらしいですから、それまでにはいい方向へ進んでいるとは思いますが、私としては殿下が一番大事ですからね、ラナ様の謹慎には賛成です。」

「カークは無情だな、」


 八つ当たりをしてフリッツは書類に目を落とす。フリッツの元へ運ばれてくる書類は、基本的に(ドラゴン)退治(バスター)同盟に関連する事業のものだ。公国の公女や皇国の皇子と旅に出る当事者として、状況を把握する必要があるのだと判断されているのだと認識していた。承認自体は宰相たちが既にしている書類もあれば、フリッツのために認可待ちとなっている事案もある。

 封書は、クラウザー領で処刑されずにドニが公国(ヴィエルテ)へと移送されると決まった、という報告書だった。他の盗賊や狼藉者と一緒に処刑されないと判断する根拠となったのはドニが公国(ヴィエルテ)の上級貴族の末裔で公国内で貴族として罪科を問う必要があるかららしかった。身柄を公国(ヴィエルテ)へ引き渡すのと交換条件に、オルフェス領へ選りすぐりの魔法使いの小隊が派遣されると決まった、という内容だった。


「お褒めにあずかりありがとうございます。あなた様のためならどんな非情にだってなれますからね。」

 火の精霊王リハマの怒りを買ったのではなかったか、と言いかけて言葉を飲み込む。カークが得意そうに胸を張るのが悔しいけれど、嬉しくもなる。いつも味方でいてくれるのはありがたい。

「殿下、そう言えば、さっき、聖堂の魔法使い(ウィザード)と会われたんですよね?」

「ああ。」

「何人いましたか?」

「何人?」

 目をぱちくりと瞬いて、フリッツは記憶の中のコルと、顔の印象の曖昧な男の二人と見張り役の女性を思い浮かべた。

「男女合わせて3人だった。」

「じゃあ、やっぱりおかしいですね。ちょっとした騒ぎになってるんですよね。入城と退城の出入場記録に人数の差があるって。」

「どういう意味だ?」

「入城の記録では聖堂からは5人だそうです。殿下がお会いになった3人とは別の1人は治癒師(ヒーラー)で、別の場所に居たそうです。門を出る時4人だったらしいですから、やっぱりひとり足りませんね。」

「気のせいではないのか?」


 王城の門をくぐるとまず騎士団の騎士による手荷物の検査がある。その後、夏宮の入口にある検問所で、近衛兵による身元の確認と王城への登城目的を聞き取る仕組みとなっている。

 今回の場合なら聖堂への要請による派遣だと本人たちは訪問理由を告げているだろうし、人数も5名と記録されている。数名での検査なので、記録を付けながら人間の数を数え間違えるなんてありそうでないのだろうな、と思いながらも聞いてみる。


「検問所では5名の訪問と申請したのなら、彼らには聞いてみたのか、」

「もちろんです。聖堂から初めから4人で来た、と主張されたので、ではあの従者は誰だったのか、という話になったそうです。聖堂の者たちが言うには、前後する貴族たちの従者が紛れ込んでいるのだと思い、一日の終わりの集計時に数があっていれば大差ないと判断し気にも留めなかったそうです。」

「そう言われてみればそうだが…、」

「聖堂の者が言うにはこれまでも何度か登城した際、地方貴族の従者を気の毒がって一緒に申請して入場した経験があるそうです。その際なんのお咎めもなかったので今回も大丈夫だとふんだようです。その件も調査中です。」

「これまでも杜撰だった、と発覚したのだな?」

 寄りによってこんな時機に。小さく溜め息をついて、フリッツは眉を顰めた。

「馬を飛ばして確認にも行ったようです。聖堂からはやはり4人であっていました。」

「だが、5人通ったのだな?」

「そうなんです。記録に残る前後する貴族の王都の公邸にも連絡を取りましたが、そのような者は知らぬ、という話でした。」

「完全に不審者が紛れ込んでいるのか…、」

「困っているから助けた、と言われては責めようがありませんね。聖堂も困ったものです、」

「それでも、規則を守らなくては検問の意味がないだろう。」

「ですよね。聖堂へは厳重注意となるみたいですが、責めは確認を怠った近衛兵が負うようです。騎士団を巻き込んでの失態ですからね。ただ、見つかると話は変わってきますから、皆、躍起です。」


 時計を見ると夕方の4時で、謁見の時間は基本的に3時までと決まっているので、門が閉まる5時までのこの時間で城内をうろついているのは書類の手続き上退出が遅れている者か、騎士や王城の関係者のみとなる。恐らく今日の訪問者の漏れがないかという照会中に発覚したのだろう。


「王城のどこかで迷子になっているのかもしれませんが、どこの誰なのか身分も特徴も判らないので、人を増やして徹底して捜索する他ないようです。」

 フリッツは腕を組んだ。考えれば考えるほど小さな差異が大いに気になり始め、腑に落ちないと思えてくる。

「聖堂の、別の場所にいた治癒師(ヒーラー)とは、何をしていたのだ?」

「もともとは魔法使いたちの魔力や体力の消耗を回復させるために同行していたそうですが、秋宮で火傷を負った者が出たらしくて治療に当たったそうです。なんでも王宮お抱えの医師や治癒師(ヒーラー)はたまたまお昼休みを頂いていたそうで、居合わせた聖堂の治癒師(ヒーラー)が対応したのだとか。」

「聖堂の治癒師(ヒーラー)は何故秋宮に? あの城は関係者以外は入れないのではないのか?」

 炊事洗濯といった生活を支える秋宮に王城に登城しただけの部外者が足を踏み入れるのは、どう考えても不自然だった。


「それもそうですね。聞いてきます。」

「頼む。」

「廊下に騎士を待たせているので、ひとまず報告に行ってきます。」


 コル以外の聖堂の軍人は、男女ひとりずつだった、とは思い出せる。

 女性と、あとひとりは男性だったと思い出せても、特徴が思い浮かばない。あの顔の印象の無い者の人相を教えて欲しいと言われても、フリッツは言葉にできない気がしていた。思い出そうとすればするほど、顔の目鼻立ちすら消えていく。

 フリッツは眉を顰めながら考えた。

「…顔の特徴が無い者を、本当に会ったことのある者だったかを尋ねられても、顔が思い出せないのだから断言はできないな」

 一人呟きぼんやりと空中を見つめていると、猫のような何か(ジーブル)がフリッツの目の前までやってきて、首を傾げながら目の前で手を振って揶揄ってきた。

<何か知ってるのか?>

 くねくねと体を揺らしてもじもじとしながら、猫のような何か(ジーブル)は<フリッツはジーブルが守るから大丈夫、>と言った。

<守る、とは?>

 白銀色の猫(ジーブル)の髭が剣に括りつけられていたので、フリッツは人ではないものの存在を見えているのだと思っていた。持っていないと見えないのだと思いかけて、イーラはそう言えば剣も何もないのに見えていたな、と気付く。

<ジーブルはイーラを知っているのか?>

<あいつ、人間と精霊の子供。精霊に分岐した。だけど精霊より弱い。>

<あんなに魔法が得意なのに?>

<あいつ、加護一杯。精霊王のマント、作った。>

 精霊王のマント! 

 意外なところで意外な宝物の名を聞いた。

<イーラが、持っているのか?>

 霊廟にイーラに会いに行かなくてはいけないという衝動を抑えるようにして、フリッツはジーブルを改めて見た。


 金色に光る眼を大きく見開いて空中を見つめて、猫のような何か(ジーブル)は何かを探しているように目玉をぐるぐると動かした。フリッツには見えない地図を空中に広げて、隅から隅まで探しているような目の動かし方だった。


<ここにはない…、お城にもない…、王都にも…ない…、>

 猫のような何か(ジーブル)の能力はいったい何だろう。探索できる力があるのだろうか。フリッツが息を飲んで見守っていると、猫のような何か(ジーブル)はやがて、空気が弾けるように煙になって姿を消した。

<ジーブル?>

 部屋の中には、猫のような何か(ジーブル)の気配があるのに姿が見えない。こんなことは初めてだ。フリッツは無理をさせてしまったのだなと思う。

<ちょっと力を使い過ぎた。フリッツ、ごめん。見つけられなかった。>

<ありがとう、ジーブル。大丈夫なのか?>

 姿を見せない猫の精霊にフリッツは感謝の気持ちを伝える。この部屋のどこかにいて、フリッツを見ているのだと思うと、部屋の隅々にまで視線を走らせ、影を探してみたくなる。

<ちょっとだけ休む。精霊王のマントはこの国にある。ちょっとだけ、王都にも香りが残ってた。>

 香りとは何だ?

<最近、王都に、持ち込まれたという意味か?>

 フリッツの呟きに誰も答えてくれなくて、でも、残り香が消えないほど最近に持ち込まれたのだと悟れた。

 それがフリッツがアンシ・シへ出かけている間の事なら、ここひと月の間に王都では様々な重要な出来事が起こっていたのだと思えてくる。

 絡み合った糸を解すには根気よく向き合うしかない、とフリッツは考えてみて、まだ何かが足りない気がした。


 部屋に戻ってきたカークは、机の上で腕組みをして考え込んでいるフリッツを見て、執務が滞っているのに目を止めた。

「治癒師の件は、確認次第、報告してもらえることになりました。待つ間、気分転換にでもお茶でも入れましょうか、」

「そうか。キュリスやビスターがいれば、詳しい話が聞けただろうにな。」

「捜索に駆り出されています。入退場者の数が合わないなんて、前代未聞の醜聞ですからね。過去を遡るのも手間ですし。」


 フリッツはふと考える。不審者が王城に入り込んだとして、一番探索されない場所はどこか。

 一番、安全とされる場所はどこか。

 王城に暮らすフリッツからすると、一番安全なのは本城にある国王の執務室だろうなと思う。周囲の部屋には近衛兵隊長の部屋や将軍の部屋があり、廊下を警戒する近衛兵や騎士たちの数も他の宮よりも圧倒的に多い。

 ある意味呪術的に安全な部屋はイーラが降臨する聴聞会室で、結界が張られ防御の魔法が機能している部屋と言えば、今日コルが完璧に仕上げたという、ラナの部屋だ…。


「…ラナの様子を見に行く。」

「殿下?」

「カーク、ついてこなくてもいい。兄として妹の顔を見に向かうのだからな、」

「そんなわけにはいきません、少々お待ちを。」

 カークが部屋を出るのを確認するとフリッツは立ち上がり、上着の内ポケットに本翡翠を忍ばせ、剣を腰のベルトに絡ませ整える。旧城では剣の使用は基本的には禁止されているけれど、非常時だと自分に言い訳をし仕度した。


 ※ ※ ※


「殿下、お待たせしました。」

 振り返るとカークは執事服姿のままだった。ドレノも、さりげなく同行するつもりなようだ。

「何かさっきと変わったのか?」

「変わりましたよ、ほら!」

 カークはジャケットの内側を捲ってみせた。シャツの上から装着した革製のホルダーには、ダガーやナイフなどが何本か見えた。腰のベルトにも短剣が忍ばせてある。

「どうしてそんなものを?」

「さっきの話の流れなら侵入者がいそうじゃないですか、」

「考え過ぎではないのか、」

 言い当てられた動揺を誤魔化してみる。

「念の為です。ご安心を。アンシ・シに行って私も学んだんです。トンカチでも武器になるなら、短剣はもっと役に立つってね!」

「短刀術は得意だったか?」

 得手不得手から連想して、いつかの日の頬を赤らめたフローラを思い出して、フリッツはニヤッと笑った。

「得意ではありませんが、得意になってみせます。重要なのは気合いです。気合い!」

「そうか、」

 鼻で笑うと、ドレノも小さく笑っている。メイド服姿だろうとドレノはいつも通り戦うのだろうなとこっそり思う。


 カークとドレノを連れて部屋を出たフリッツは案の定、見張りの近衛の兵士に「どちらまで?」と尋ねられてしまった。

「ラナの見舞いに行く、」

「少々お待ちを。」

 ラナには面会も許されないのか、とフリッツは悲しく思いギュッと手を握った。誰にも会わないで謹慎するのが、ラナへ与えられた罰なのだろう。

 精霊と接触もできず、人間とも接触できないのか…。

 そこまでのことをしたのか、と口に出そうになり、廊下の向こうからやってきた人物に目を見張る。

 近衛兵であるキュリスやビスターではなく、騎士のニアキンだった。相変わらず不機嫌そうな表情で、相変わらず、人を寄せ付けないような険しい目つきをしている。

「私がお見送りする。安心されよ、」

 でも、と引き留めようとする兵士たちを手で制して、ニアキンは一礼するとフリッツに「参りましょうか、」と不機嫌そうな顔のままで言った。

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