15 たったそれだけのこと
執務室には朝食が本当に用意されていて、フリッツたちが入ったのを確認すると、給仕の執事たちは一礼をして部屋を出て行ってしまった。部屋に残ったのはマルソとオリガ、サーヴァだけで、あとはフリッツたち一行だった。オリガは侍女の役を止めないつもりなのか、自然な振る舞いでポットを手に取ると、席についたランスたちの傍を給仕して回る。ナチョはひとり窓際に隔離されて置かれたソファアに座らされて、まだ袋を被せられていた。同じ部屋にいるだけで、話を聞こえる訳でもなく、気配を感じる訳でもない距離感だ。
「お望み通りに朝食の御用意をいたしました。殿下も、お茶をお召しになってはいかがでしょうか、」
フリッツのことを殿下と言ったマルソは、執務机の傍に佇んでいて暗い表情をしている。オリガは侍女として気配を消していて何も表情も変えず、ドレノを補助役に侍女の仕事を淡々とこなしていた。部屋のドアを塞ぐようにして立つサーヴァは悩ましそうな表情を浮かべていた。
「そうだな、貰おうか、」
お茶と果物の盛り合わせがフリッツの前には提供されて、ランスたちが食事始めると、マルソは窓の外へと視線をずらして腕をしきりと擦りながら黙って立っていた。
「せっかく私たちはあなたの話を聞ける体勢でいるのですから、あなたがすべてと言ったすべてを、話してくださいませんか、」
ランスが提案すると、給仕の手を止めてオリガはマルソの傍へと行ってしまった。ドレノは引き継ぐようにして給仕の続きをこなしている。騎士として、話を座って聞くつもりはないようだ。
「そうですね、どこから、お話しましょうか、」
「オリガ殿の、身元を知りたい、」
単刀直入にキュリスがバゲットを千切りながら尋ねた。ビスターが優雅に微笑んで同意している。
「長くなります。よろしいですか?」
フーッと息を吐いて、マルソはオリガの肩を抱きしめた後、フリッツたちに顔を向けた。
「この方は、信じられないかもしれませんが、本物のクリスティーナ様です。魔法に、かかっておしまいになりました。秋を感じる頃には、お命が尽きてしまうことでしょう。」
淡々と告げられた事実に驚いて、ガチャンとナイフを落とす音が響いた。カークだ。
「嘘でしょう、クリスティーナ様はフリッツのおばあさまなのですよ? どう見たってフリッツのお母さまの妹ですと言えそうなご容姿ではないですか、」
「ですから、申しましたでしょう。魔法にかかっておしまいになりました、と。」
困ったような表情を浮かべて、オリガは胸を張って自己紹介をした。
「マルソ、ありがとう。わたくしが本物のクリスティーナです。オリガは若い頃飼っていた猫の名前なのです。クリスティーナとは名乗れないのでオリガという人生を演じているのだと思ってくれればいいでしょう。あと三月ほどの時間ですから、あなた方にも協力してほしいと願います。」
「オリガさんという役を演じておられると割り切って、私たちもクリスティーナ様にはお仕えしております。年と見かけから一番最適だった私がクリスティーナ様を演じて、あとの者たちはいつも通りの役を演じております。クリスティーナ様の残りのお時間を無駄のないようにお過ごしになるのが、お仕えする私たちの理想でございますから。」
「三月とは、どうして決まっているのでしょうか、」
カークが皆の疑問を口にする。「魔法とは、そんなに長く時間をかけて人の命を奪うものなのでしょうか。」
ドレノが、青い顔をして俯いているのが見えた。何かを知っているのだろうか。
「魔法が、絡み合っているのです。ライヴェンの魔道具の効果と春の女神さまの魔法と月の女神さまの加護と、わたくしの持っていた太陽神様の加護とが魔法を呪いに変えてしまいました。どうしようもない檻の中に命を閉じ込めてしまったと思えばいいでしょうか。そうでしたね、マルソ、」
話す声はどう聞いてみても若い女性で、ゆっくりとした話し方は年齢を感じさせる落ち着きと諦めがあった。
「ええ、左様でございます。クリスティーナ様がこの国にお越しになる際にお受けになった婚礼道具のひとつとも言える太陽神ラーシュ様のご加護が、まさかこんな形で発揮されてしまうとは思いもよりませんでした。」
テーブルの上に並ぶ食器をぼんやりと見ているような表情のクリスティーナは、話していてもフリッツを見ようとはしなかった。祖母だと判っても、違和感がする。どうして、私を見ないのだろう。私だと判らないのだろうか。
「そのご様子だと、記憶も術の弊害が出てしまっていらっしゃるのでしょうか。」
「ええ、その通りでしょうね。何しろわたくしは、おそらく20年の時を無くしてしまっていると思いますから。」
再びガチャンという音が響いて、キュリスが乱暴にナイフを皿の上に置いていた。ランスが軽く咳払いして、質問をする。
「20年という時を無くす魔法がかけられてしまったのですか。」
「どうしてそんな具体的な時間が判断できるのですか?」
カークも冷ややかな表情で尋ねている。信じていないんだな、とフリッツは思い、黙って様子を窺った。
マルソとクリスティーナは予想していたとでも言わんばかりに見つめ合って、小さく頷いた。
「あれは、昼食会が行われた5月の頃だったでしょうか、奥様、」
「そうでしたね。皇国から、第一皇女からとの手紙を携えた使者が宰相とともにやってきました。王城での三国と聖堂の顔合わせの昼食会に出席したついでに尋ねてきたと言っておりました。」
「手紙は何の変哲もない挨拶とご機嫌伺いの文言だけの、ありきたりの内容でした。奥様はその使者に、どうぞ皇国へ一度お戻りください、としつこく懇願されていらっしゃいました。私たちはこの部屋で、お困りになる奥様をどのタイミングでお助けするのが最良なのかと時を見計らっておりました。使者があんまり食い下がるので、引き合わせた宰相殿も『またの機会に、』と提案したほどでした。その言葉に、使者は一応は納得した様子でした。」
「宰相たちはこの離宮にはお泊りになっておりません。使者たちの数人は急遽旅の一行に加えられた特別な者たちなようで、王都で皇国の言葉を通じる宿を見つけることができなかったと言って困っておりましたから、同情された奥様がこの離宮に泊まる許可をお与えになっていました。マルソも私もそんな出来事があったので今からでもお断りをと申し上げたのですが、約束を違えるのは可哀そうと奥様は仰いました。とても、お優しい、慈悲深い方なのです。あの日、奥様はおひとりで執務室でお過ごしになっておられました。私たちはいつも通りの仕事に加えて突然のお客様に宿を提供するための準備に忙しくしていました。」
「あの時、わたくしは執務机で手紙を書いておりました。祖国の、もう見知った顔などいない皇室に帰れない旨を伝える手紙を書いていたのです。兄はすでに亡くなっておりますし、兄の子供たちも、その子の子たちも、これと言って親しいわけでもありませんし、親しみもありません。わたくしはこの国で生きている時間の方が、祖国にいた時間よりもとっくに長く、ここが自分の国であると思えるほどとなっています。もはや祖国に帰る理由などないのです。手紙をどう書けばいいのか悩みながら祖国の懐かしい文字を綴っていると、せっかく書いた手紙が急に強く吹いた風に飛ばされそうになりました。慌てて手を伸ばそうとした瞬間、机の上にあったインク壺のひとつをひっくり返してしまいました。ノックをしてあの者たちがやってきた時も、わたくしは少しなら、と言って面会を許しました。インクを掃除することの方が重要に思えて、早く終わらせてしまえばいいのだわと、特に警戒はしておりませんでした。」
手についたインクを思い出したのか、オリガは自分の手をそっと見る。
「わたくしはあいにくとインクで手が汚れていたので、ハンカチで手を隠しておりました。ですが、『これは、現皇后様からのお気持ちでございます、』と言ってあの者たちは、断るわたくしに紺色の小さな贈り物を押し付け、中をその場で開けてみてほしいと懇願したのです。手に広げたハンカチの上に置かれた箱を、私は直接触りませんでした。あとで、と言って断ったのですが、『開けて下さって中身を確認されるまでは、お使いは終わらないのです、』と拘られてしまいました。わたくしは、『でしたらこれは受け取れない』と、つい、強い口調で断ってしまいました。」
「あんまりしつこいご様子でしたので、奥様が声を荒げられたご様子が廊下にも伝わってきて、私めが執務室に参りました。」
サーヴァが小さく手をあげて自分を主張する。
「サーヴァの姿を見た使者たちは慌てて部屋を出ていきました。物腰が柔らかくなったと言ってもサーヴァはもともと皇国では近衛兵をしていた男です。押し付けられた贈り物は、ハンカチに包まれたまま執務机の上にありました。あの者たちは本当に押し付けていったのです。マルソが入ってきて…、マルソは暖かい湯に浸した布巾を何枚も用意してくれて、わたくしの手を清めてくれました。あたたかくておいしいお茶も入れてくれて、話を聞いてくれて、とても不快だった気持ちも理解してくれました。机の上の紺色の箱は皇国の皇室からの贈り物だと伝えると、せっかくのお気持ちなのですから中を見てはいかがですかと促されてしまいました。包み紙を開けると、見ていたマルソが、『これはライヴェンではありませんか、』と言い出したのです。」
「ライヴェンは私たちがこの国にいても価値が聞こえてきた皇国の名品です。私たちにはそんな高額なものをたかが帰国を促すためだけの贈答品としようとする現皇后さまの真意が掴めませんでした。奥様にはお返しになるようにお勧めしたのですが、一度貰ったものを返すのは無礼ではないかしらと仰いました。とても胸騒ぎがして、私は奥様の傍を離れられませんでした。奥様は蓋を開けて中に入っていたものを見て、とても魅了されていらっしゃいました。中には美しい白銀の作りの白銀の砂の砂時計が入っておりました。奥様は何気なしに手に取って、光に変わる色を眺めていらっしゃいました。」
フリッツはなんとなく脱衣所にあった砂時計を思い出して、頭の中で比べて、違うな、と思った。あれは上部は砂ではなく珠だった。いぶし銀の色味は白銀とは程遠い。珠だとも言っていない。
「砂時計を贈答品とするのですか? 変じゃないですか?」
意外そうな顔でカークが尋ねた。
「生活の中で使う砂時計はとても簡素な作りで味気ないものだと知っておりますから、わたくしも最初のうちはびっくりしましたが、あれはとても、美しい出来栄えだったのです。砂が光に反射して、虹をかけるように七色に輝いていたのです。」
「砂時計を、もしかしてひっくりかえされたのですか?」
コクンと、オリガは頷いた。
「とても美しかったので、落ちていく様を見たいと思ったのです。ひっくり返した瞬間、砂から光が乱反射したかのように見えて、部屋の中が真っ白に光りました。」
「魔法が、何かの術式が発動したのだと思いました。しかし、奥様もわたしも、何も変化はありませんでした。光が消えてしまうと、突然、自分たちの客室に戻ったはずの皇国の使者たちがこの執務室に入ってきました。奥様のお姿やお顔をしっかりと見た後、『クリスティーナ様のご帰国のお話はなくなったとお伝えします。皇国の使者として役目を果たしたのだから帰ることにしようと思います、』と一方的に宣言して、挨拶もそこそこにこの離宮から出て行くと言い出しました。」
「わたくしたちは戸惑いながらも、引き留める必要も感じなかったこともあって、玄関ホールまで見送りについて行きました。まるで逃げ出すかのような慌ただしい出立を見送ってこの執務室に戻って見ると、あの砂時計は消えておりました。」
オリガは、マルソとサーヴァの顔を見て、ゆっくりと、頷いて、何度か小さく首を振った。
「夢だったのではないかと思ったのです。あの美しい輝きも、白い光も、疲れていたからこその勘違いだったのではないかと思いました。気の進まない帰国の話も立ち消えて、何もかも夢だったのではないかと思えたのです。」
マルソが、俯くオリガの肩を撫でる。
「その夜の事でした。その夜は、月は見えませんでした。わたくしはバルコニーに出て空を見上げて、新月か、と呟いたのを覚えています。その後は…、」
言葉を区切ったオリガが、俯いて唇を噛んでいた。
「悲鳴が聞こえて駆けつけると、奥様のお姿が、変わっておりました。若返られたお声も、仕草も、懐かしい奥様でした。一年や二年ほどの昔のお姿ではありません。奥様は動揺されて、加護を受けた者が避ける太陽神様のお名前を珍しく口にされて、祈りを捧げられました。」
「わたくしは、この国に嫁いできた時、太陽神様のご加護を頂いています。名をお呼びするとつながってしまうと知っております。太陽神様は、成長し健康であることを美徳とされて正常であることを好まれる方です。わざとではないとはいえ、魔法で自分の体を改造させ二度人生を歩み直すという不正を冒してしまいました。正常であるという道を外れてしまったのです。加護を受ける身でありながら、太陽神様の正義に反する行いをしてしまった我が身を悔いました。」
「お姿を現しになった太陽神様は、奥様を立ち上がらせて、その大きな胸に抱きしめてくださいました。まるで子供をあやすかのように優しく頭を撫でて、奥様をお慰めくださったのです。『加護を受けた者が作った魔道具に、何人もの術者が重ねて魔法をかけたようね。私の加護を受けたあなたは、正しく術がかからなかった。かわいそうに。私のクリスティーナ。あなたの時間はこれから満月が来る度に減ってしまうわ。』」
悲しそうな顔をして、マルソは言葉を区切った。
「『時の女神の加護を受けた男が作った砂時計は、もともと砂が落ちている間だけ時間は戻り、砂が再び落ちている間、新しい時間の流れとなり進むという仕掛けだったのよ。たった3分ほどの時間の悪戯だから時の女神も許したのね。あなたが手にした頃には、その砂時計にはいくつもの魔法が追加して仕掛けられていたの。時の女神の加護の効果に、再生を促す春の女神の魔法と、永遠を繰り返す月の女神の魔法が重ねられているわ。そのうちの一人は加護も貰っているの。本来なら50年という時を遡り10年分進ませるつもりだったようね。土地を改良する百年の術と記憶の探査をする十年の術とをよくもまあこんな風に改悪したものねエ…! 術式が展開した瞬間、幸か不幸か私の加護もあなたを守るために発動したの。あなたは信心深い性格で私を慕ってくれていたから私の加護の方が勝っていたみたい。でもその時は抑えられていた魔法も、夜になって月の女神の加護の効果が出てしまったようね。これから、あなたは満月の度に10年時が若返る。本来減るはずだった50年分が若返った時、やっと時は止まるわ。』」
オリガは美しい詩でも詠むかのように淀みなくとうとうと語る。うっすらと涙を浮かべているマルソとサーヴァが、目尻を拭う。
「やっと時が止まるというお言葉は、どういう意味なのですか、」
雰囲気に呑まれずに、物怖じせずカークは慎重に尋ねた。
「太陽神様は、『器が滅びる前に、私が迎えに来るから一緒に行きましょう。それまでの間に、新しい器を完成させておくからね、』と約束されていました。新しい器とは何のことでしょうか、と奥様がお尋ねされたら、奥様の体が消えた後に奥様の魂が本来お持ちになっている時間を過ごす間の器とする人形のことだと仰いました。私の顔を見て太陽神様は、『お前はちょうどいい人形を持っているね、』とお声をおかけになりました。からくり人形をお見せすると、『この人形は器とするにはちょうどいい、』と仰って、私の人形をお持ちになりました。」
オリガはマルソの話を他人事のような顔で聞いている。
「私のからくり人形は…、ヒメカはこの王国に来てから奥様をお守りするために作り上げました。お顔立ちはクララお嬢さまにお似せしてあります。奥様の器に使って頂けるなんて、なんと光栄なことと思いましたが、それならばもっと奥様に似せて作ればよかったと悔やまれました。」
クリスティーナの代わりに黄泉の国に行ったというのはそういう意味だったのかと納得して、フリッツはマルソを見つめた。
「マルソは、わたくしのためにクリスティーナという役を演じてくれると言ってくれました。離宮には王城から人が来る機会など滅多にありません。残り少ない日々を、奥様のご自由にお過ごしくださいと涙ながらに約束してくれました。サーヴァも、守ってくれると言ってくれました。他の使用人たちも同じです。わたくしに時間が残されていないことを知っても、まだここにいて暮らしを支えてくれています。わたくしは、迷惑をかけてばかりで苦しくて、働かせてほしいと頼みました。わたくしを支えてくれている者たちに、出来るうちに感謝を返したいと思いました。」
嘘をついているように思えない。フリッツをオリガが騙す理由がない。ああ、やはり、この人はクリスティーナおばあさまご本人だ。20年分の記憶が抜けているのなら、まだ生まれていない孫のフリッツを知らないのも無理はない。
「事情はわかりました。ですが、あなたが本物のクリスティーナ様かどうか、そう仰る証拠も根拠も具体的には何もありません。今宵は満月なのですよね? 見せて頂けませんか、その変化を。」
言葉を区切ったつかの間の静寂で、ランスの声が鋭く響いた。
「な…!」
「無礼ではありませんか、女性の変身を見たいだなんて!」
「いいのです、マルソ、サーヴァ。わたくしも信じてもらいたいのにどう伝えれば信じてもらえるのかと困っていたのですから。あなたたちはもう2度もわたくしの変化を見てくれていますから、信じるのは当たり前です。」
寂しそうに笑ったクリスティーナは、やっと、フリッツを見てくれた。
「お前を、わたくしは知らないのです。許しておくれ。わたくしの中では、まだクララは結婚などしていないのです。」
「あなたは、私の本当の祖母の、クリスティーナおばあさまご本人だから魔法も使えるし、公国語も話せるのですね?」
フリッツがそうあるようにと言われて育ったように、この大陸で使われている言語はすべて、支配者の義務として学んできているのだろう。
「たったそれだけのことで、お前はわたくしを信じてくれるのですか。」
「いけませんか?」
そう考える根拠は他にもある。マルソがナチョを会わせたがらなかった理由だ。50年若返り10年進むという魔法も、フリッツの考えが正しければ意味がある。
皇国からの侵入者が、無理矢理にでも暴露したかった秘密は、やはりオリガとしてのクリスティーナの存在だ。
「その者の頭に被せた袋を、そろそろとってもいいでしょうか。」
「殿下、」
動こうとしないマルソもサーヴァも、同じ理由からなのだろう。
フリッツは席を立つと、ナチョの座るソファアの前に立った。
「おばあさま。私はこの者が嘘をつくような性格の男とはやはり思えないのです。」
うっうっと漏れ聞こえてくるナチョの声は、フリッツが肩に手を置くと、静かになった。
ガバっと勢いよくナチョの頭から袋を取り除く。
眩しそうに目を細めて息を止めたナチョは、次第に明るさに目を鳴らして部屋の中を見回した。
「オバちゃん、無事だったんだ。あ? あれ、ここ、王国だろ、あなたはエネヴァ様? いや、違うか、でもよく似てるな。親戚のうちか何かなのか?」
息を飲むフリッツたちの反応に、ナチョは首を傾げて、「やっぱここ、王国だよな?」と呟いた。
席に戻らずフリッツはオリガとマルソの前に立った。
「だから、あの者をこの屋敷に入れたくなかったのだな?」
クリスティーナが約40年ほど若返れば10代の姿になるのだと予測した魔法使いたちは、きっと、若かりし頃のクリスティーナの姿が皇国の現第一皇女であるエネヴァの姿と似ていると気が付いていたのだろう。
否定もせずに頷いたマルソは、小さく溜め息をついて、「皇国の皇女様のお姿は皇国に暮らす者なら誰でも知っています。特に若い男は誰でも一度はお姫様に憧れるものです、」と呟いた。
ありがとうございました。




