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13 罰を与えなくてはいけません

 崩れ落ちるようにして両手を手について頭を下げた自称クリスティーナことマルソの前に、すいっとランスは歩み寄った。

「おい、あんた、俺のオバちゃんに何をする気だ。そりゃ約束を破ってオモテから入らずに塀を乗り越えようとした俺が悪いけど、オバちゃんは何も悪くないんだ。驚かそうと思った俺が間違ってたんだ。許してくれ、な、オバちゃんは悪くないんだ。俺が責めを負うから、」

「黙れ。」

 キュリスが静かに剣を抜いて、ナチョの首元に剣先を向けた。

「また魔法をかけるか、本当に声を出無くしたほうがいいか、自分で選ばせてやる。どうしたい?」

「…、袋で。」


 苦笑いをするペトロスが袋をナチョの頭にかぶせて指で弾くようにして魔法をかけた。袋を縄で縛る様に水色の光が3重の輪を生んで、6辺の花弁を描くようにして回って消える。麻袋の表面には青く光る魔法陣が描かれて残った。

 ナチョは何かを言っているようだけれど、「うっ、うっ」という呻き声しか漏れ聞こえない。


「袋の内と外と、どちらの世界とも音を遮断したので、この者には聞こえません。」

「判りました。ペトロス殿、感謝する、」

 今度は剣をナチョではなくマルソに向けたキュリスを見て、マルソが震えながらも顔をあげてフリッツを見た。目の前にいるランスでもなく剣を持って威嚇するキュリスでも様子を窺っているビスターでも一番使用人たちと懇意にしていたカークでもなく、他の誰でもなく、フリッツを選んだ時点で、マルソはフリッツが誰なのかを知っていると思えた。

「お許しください、これには訳があるのです。」

「訳とは何でしょうか? 言って下さらないと判断のしようがありません。お力になれるやもしれませんからね、」

 心を開きかけた隙をついて畳み込もうとしているランスを、ペトロスが邪魔をする。

「待ってください。」

 ちっと、キュリスが舌打ちをする。警戒するようにマルソの顔つきが変わったのに、ペトロスは、それでも、止めようとしない。

「私には、この男の言う言葉をどうして誰も否定しないのか不思議でなりません。この者が嘘をついているとは思われないのですか?」

 ナチョが嘘をつく?

 きょとんとした顔になったキュリスは、ビスターと顔を見合わせた後、笑い始めた。ランスは悟ったような顔になって、ゆっくりとペトロスを見た。

「あなたは御存知ないのですから仕方ありませんね。この者と私たちはアンシ・シで出会っています。話をしていますし、どういう人間なのかは彼の行動から推測できます。この男は、人を謀ったり欺いたりできるような器用な男ではありません。正直者ですが、かといって味方にするには期待もできないと私は評価しています。残念な正直者なのです。」

「でも、それでは、どうしてマルソさん、あなたまで否定なさらないのですか。この男は嘘をついていると否定して、自分の正当性を押し通そうとは思わなかったのですか?」


 確かにナチョが言い出したマルソの()()()()()を知る者は、マルソと執事とナチョ以外、この場にはいない。ナチョ一人が嘘をついていることにしてしまえば、マルソが偽物である現実はまた曖昧な可能性に戻り、しばらくはマルソがクリスティーナであると演技を続けられたのではないか。フリッツはそう考えながらも、でも、そういう行動をとると、真実を明かしにくくなるのも事実だなと思う。

 今この機会に言ってしまえば同情されるかもしれない可能性があるとでもマルソは考えたのだろうか?


 ニヤニヤとしているランスは、「確かに、どういう筋道でそうお考えになっての行動だったのか、聞いてみたいものですね、」と意地悪く言った。

 マルソは俯いて考えこんでいたけれど、やがて、顔をあげた。意志の強い瞳が、年相応以上に思慮深く澄んでいる。

「それは…、あなた様が首実験と仰ったからです。執事のリロイは心配して付いてきてくれましたが、本来、ここに来るようにと言われたのは私だけです。ここに到着した時、あなた様方は、袋を頭に袋を被せた男を捕まえていらっしゃいました。仮に、頭に袋を被せた男が誰なのかわからずに私に顔を見させてその者が誰なのかを判断するのであれば、首実験をするのは私一人ではないはずです。屋敷にこの男を連れてきて、屋敷で働く使用人すべてにこの男が何者であるのかを問うたのではないかと思いました。案の定、この袋を取った男は私の知っている子でした。あなた様方も、この子を御存知な様子でした。ここには殿下もいらっしゃいます。その瞬間、私が誰なのかをここにいる方々のすべてが疑っていらっしゃるのだと気が付いたのです。首実験をされるのはこの子ではなく私なのだと気が付きました。」

 身分社会の常として、騎士たちによって捕まえられた侵入者が主である貴族に面通しをさせられることはまずない。使用人たち、とくに執事が代わりに判断して秘密裏に処理してしまう。支配者階級として恨みを買いやすい貴族である自分の主の顔を危険に晒すような真似はしないし、どこの馬の骨ともわからないような不審者においそれと接触できるようなきっかけを与えたりはしない。

 でも、ランスは主であるはずの自称クリスティーナのマルソを呼んだ。その意味を知っていてマルソはここへ来たのだろう。

 詰まることなくはっきりとした口調で理由を述べたマルソに、ペトロスは言葉を選びながら尋ねた。

「マルソさん、あなたは、とても賢い人だと思います。なのに何故、国母様の本当の血縁であらせられる殿下までも欺こうとされたのでしょうか。味方とされた方が、得策だったのではありませんか?」

「ペトロス殿、それは無理だと思います。この者が何度か王城の使いとして離宮に訪問した際、この方は先代国王妃様として面会しています。」

 ランスが溜め息をつきながらカークを紹介して答えた。気まずそうな顔つきで、カークは唇を噛んで俯いた。

 一番の被害者はカークだと思えた。フリッツたちよりも長く騙されていた計算になるからだ。

「だからってそんな…! そんなに長く偽ってきた身分を、一瞬にして捨ててしまうのですか? あなたは何を考えているのです?」

 ペトロスがありえないとばかりに質問を投げかけているのに、マルソは黙ったままだ。長い沈黙の間も、空気を読めないナチョの「うっ、うっ、」という呻き声だけが聞こえてくる。

「黙っていては判りません。罪を認めるのなら、説明してください!」

「ペトロス殿、落ち着いてください。」

 ランスはいなすような言葉の印象とは裏腹に、じっと、マルソの顔を睨みつけている。キュリスもビスターも、息を飲んで表情を読もうとしている。

 空中を見つめたまま、マルソが口を、何度か開けたり閉じたりしていた。呪文を唱えるような動きとは違った。声にならない思いを確認しているように見えた。

「説明、できますか?」

「…申し上げます。殿下を(たばか)ったのには避けようもない事情があるのです。すべてを申し上げますので、どうか、夜までお時間を頂けないでしょうか。大変図々しい願いを口にしている自覚はございます。ですが、何卒、私に、いえ、わたくしどもにお時間を割いていただけないでしょうか。」

 フリッツが視線を感じて顔をあげると、ランスと目が合った。何か策があるのか、目が、強い意志の光を放っている。任せよう。問うような眼差しに答えるように頷くと、ランスは剣を抜いた。

 剣を、乗せるようにしてマルソの肩を軽く叩く。

「あなたが逃げない保証はあるのでしょうか。すべてを打ち明けてくれるというのは、どこからでしょうか。」

 ぐっとこぶしを握ると、様子を見守っていた執事のリロイが、マルソとランスの間に踏み出そうとした。マルソを、庇って行動しようとしている。やはり、離宮に住む者すべてで芝居をしているのか。

「すべてとは、すべてです。すべてをお伝えします。」

 強い言葉はフリッツたちに対して縋る気持ちよりも開き直って諦めたような響きがあって、悲しくもある。おばあさまはもうこの世にいないのではないかとフリッツには思えてしまった。

 悲壮感を感じ取ったのはカークも同じだったようで、「女性にこの仕打ちは気の毒です。せめて、椅子に座らせてあげませんか、」と同情までしている。

「今日という日が終わるまでにすべて話せるつもりがあるのなら、話せる話もあるのではないですか? 」

 ぐっと顎を引いて考えてしまったマルソを待って、ランスはペトロスに尋ねた。

「ペトロス殿。あなたはどうされますか。」

 視線が、ペトロスに集まる。びっくりしたように目を見開いているペトロスは唯一の部外者とも言えた。ナイニール伯爵家から王命でこの任務に就くために出向してきているだけで、王城の騎士でも専属の魔法使いでもない。強いていうなら、この国(スヴィルカーリャ)の人間である、という事実だけが、この場にいる根拠だった。

「陛下へと報告をされた後、ここにはもう戻られないつもりですか。」

 戻って来てほしいとは言わないランスは、戻ってくるなとも言わない。

 エドガー達と王城へ向かってしまうと、そのまま自分の故郷の領へと戻るのなら、マルソの言うすべてを知ることはできなくなる。

 マルソの言うすべてとは、身分を偽っている理由から侵入者についてまでも含まれているのだろうと、フリッツにも見当はつく。

 それは、興味本位で知っていい情報とは思えない。

「陛下には、ここでの話は致しません。」

 紅潮させていた頬を鎮めるように撫でた後、目を見開いて空中を見つめながらペトロスは小さく首を振った。

「私は、ここで見たこと、聞いたことのすべてを忘れます。決して口外しません。ここには戻りませんし、すべてを知りたいとも思いません。」

「…それで、よいのですか?」

 試すようなランスは、かといって、知りたいと言えば剣を向きをペトロスに向けてしまいそうな冷酷な微笑みで静かに尋ねている。王国に忠誠を誓った騎士だからこそ秘密を守れる覚悟のあるランスたちは、自分と同じ覚悟をペトロスにも要求しようとしている。

「はい。私には知っても知らなくても大きすぎる秘密です。請け負った仕事の範疇を越えています。」

「そうですか。よろしいでしょう。では、いつの日か、あなたが永遠の闇に眠りにつくその日まで、必ず清い世界に身を置いていてください。いいですね?」


 魔法使いであるペトロスの経歴に風水師という職業がある以上、豪商や王侯貴族の相談役として居住地を訪れる機会が単なる魔法使いよりもあると思われた。相手によっては守秘義務のある仕事も請け負う機会がある。

 ランスの言う清い世界とは、誰かに尋問を受けたり拷問を受けたりして問われるすべてを白状しなくてもいい生活を差しているのだとフリッツは思った。王城にとって不都合な怪しい噂の発信源とならないようにしてくれ、と慎重なランスは言いたいのだろうと思えた。粛清する力がこちらにはあるのだと、死を連想させる言葉まで伝えている。


「はい。胸を張って、私の仕事を誇れるようにいたします。」

 意図を汲み取ったのか、ぐっと表情を強張らせてペトロスは深々とお辞儀をすると、「短い間でしたが、皆さんと知り合えてとても勉強になりました。目標を、人生の糧を頂けたと思います。殿下、お気をつけて、」と振り返らずに屋敷の方へと先に去って行ってしまった。


 ※ ※ ※


「よかったのですか?」

 ビスターがランスに尋ねる。

「ええ。彼はもともと私たちと接触した仕事の内容は口外しないと王城に誓っての旅だったでしょうから。それ以上のことを知ってしまうのは彼にとっても酷ですからね。ところで、マルソ。あなたもからくり使いなのですよね? あなたの人形はどこにいるのです?」

「…ありません。私の人形は、動きません。」

「からくり人形を使うから人形遣いなのではないですのか、」

 ぐっと唇を噛んだマルソは、視線を逸らして地を睨んだ。

「お許しください。私の人形はここにはないのです。私の代わりに旅に出た、とでも思って頂けないでしょうか。」

「旅ですか。そのような複雑な作業ができるのなら、まさかオリガさんが人形ではないのですか?」

 カークが突然言い出した突拍子もない質問に、キュリスが「何を言っているんだ?」と眉間に皺を寄せた。

「いいえ。違います。オリガは、人間です。私の人形はオリガの代わりに黄泉の国に行ったのです。私の代わりに、旅に出たのです。」

「判りました。では、あなたが誤魔化したり逃げたりするのなら、オリガさんを捕まえることにしましょう。」

「駄目です! それだけはお許しください!」

 必死の形相でマルソはランスを仰ぎ見た。

「あの方には絶対に手を出してはいけません。たとえどんなことがあっても、あの方はお守りせねばならぬのです。」

「判りました。では、今夜のいつ、話してくれるというのですか?」

 ちらりと執事と目を合わせた小さく頷くと、マルソは「真夜中に、玄関ホールに来てください、」と小さな声で言った。

「それまでの間、あなたはまだ演技し続けるのですか?」

「はい。これは、決めたことなのです。どうかお許しください。決してあなた方に不自由をさせたり不利益を生じさせたりは致しません。どうか、何卒、このままのクリスティーナと名乗る愚行を見逃していただきたいのです。」

「それは無理です。私たちがあなたの芝居を見逃しても、この男がいるでしょう。この男は嘘がつけない愚かしいまでに馬鹿正直な愚直な男です。あなたに不都合な真実を告げたように、この男はこの先も厄介な存在になると思いますよ、」


 唇を噛むマルソを見て、フリッツはこの者は意外と悪人ではないのだなと思った。

 黙らせるなら口を封じてしまえばいいと、言わなかった。

 事情を話せないけれど協力させるために魔法をかけてしまう、と言わなかった。

 マルソは伯母としてナチョが裏表のない性格をしているのを知っているようで、風変りというより自己中心的な発想になってしまう幼さも知っているようだ。

 何より、自分が嘘偽りの偽物として演技をしている最中に、結果として邪魔をしにやってきた甥っ子を、彼女は責めたりしていない。


「では、話してくださいますね。」

「判りました。私の、いえ、クリスティーナ様の執務室へ行きましょう。あそこは、防音がしっかりしていますから。リロイ、支度を。オリガとドレノさんを、お二人をお連れしてください。」

「すぐに。奥様もお着替えをなさいませ。クリスティーナ様の名誉をお守りください。」

「判っています。」

 そっとランスの剣を握るかのように手を伸ばすマルソに、条件反射に触れさせないよう動かしてランスは剣を収めた。

 優雅に立ち上がると、濡れて汚れたドレスを摘まんで見るマルソは、さっきまでの動揺はどこかに消えてしまったかのように冷静な表情で顎を引いた。

「この子は、言いつけを守らず表の門からではなく塀を乗り越えようとしました。せっかく魔法をかけて下さったのに、人形を使ってまでして突破しようとしました。よって、罰を与えなくてはいけません。その袋を被せたまま、王都の騎士団に引き渡してください。」

「話を誇張して噂話にされてしまうかもしれないですが、それでも良いと思われるのですか?」

「はい。あの子は皇国(セリオ・トゥエル)の出身といっても辺境の離れ小島のひとつが故郷ですから、皇族や王族という上位の支配者階級の人間と接触が少なく生きてきました。どういう態度を取るのが正解なのかをよく判っていないのだと思います。この子が言い逃れをするためにこの離宮についての根拠のない話を申し上げたとしても、この子に会ったのはあなた様方と私だけです。特に問題はありません。」


 マルソはナチョがオリガと接触するのを嫌がっている。そういう印象を受けてしまう。ナチョが辺境出身者故に皇族や王族という上位の支配者階級の人間と接触が少ない、と言ってしまうのなら、この離宮に住む主が誰なのかを知っていない可能性もある。でも、自分の伯母が誰に仕えていてどうして皇国(セリオ・トゥエル)ではなく王国にいるのかを考える時、主のことも当然把握済みだろう。

 ナチョは、約束を破ってオモテから入らなかった、と言った。驚かそうと思って壁を乗り越えようとした、とも言い訳した。約束がどんなものだったのかはわからないけれど、ある程度話が通るように外周を守る騎士たちには伝えてあったはずだ。来るはずだった者が門からではなく塀から現れたのだと言えば、侵入者を見逃すことになってしまった騎士たちも体面が整う。

 マルソの言う通りにすんなりと話を進めてしまうなら、ある程度前情報のある離宮付きの騎士たちにナチョを渡してしまえば、ナチョは約束を守らなかった罰として牢屋に入る程度で放免されるだろう。離宮の中で直接処理する手間はなくなる。


 でも、本当は、門から入ってきたとしても、ナチョをこの離宮に入れるつもりがなかったのだとしたら。


 思いついた想像を、否定できる気がしなかった。

 本当のクリスティーナがいない為に、マルソがクリスティーナという王族を演じ誤魔化している使用人たちの暮らす離宮の状態は、とっくに異常だ。

 公国(ヴィエルテ)からの王賓と騎士たちの一行を緊急時だったからとはいえ受け入れてしまっている離宮は、さらに緊張した空間に陥っている。

 侵入者騒ぎがあり、その侵入者が自害してしまったが故に、外部から人の介入が起きようとしている最中に、呑気に甥っ子の訪問を受け入れるのだろうか。

 とても、受け入れられないだろうと思う。

 マルソは今夜までは、と時間の区切りを提案した。今夜何かあったとしても、フリッツたちは明日の朝には予定通りこの離宮から送り出してしまえばいい。それまでの数時間を絶えればいいだけの事なのに、新たな火種(ナチョ)を受け入れたりできるのだろうか。


 約束を破ってまで敷地内に入ろうとした甥っ子は魔法で話せない状態になっている。どんなにでも理由を付けてこのまま距離を取ってしまうのが最適だと思えた。会わせたくない人物がいるのなら、会わさずに追い出してしまう最後の機会だとも言えた。


 ナチョは辺境出身者故に皇族や王族という上位の支配者階級の人間と接触が少ないからこそ、滅多に会う機会のない皇族の顔を覚えているのだとしたら。


 ちらり、とランスと目が合った。ランスも気が付いたようだ。

「そうですか。では、この者も連れて行きましょう。」

「は? 何を仰っているのです? 引き渡してよいと、私はお伝えしましたでしょう?」

 語気を強めたマルソを見て、ランスは優雅に微笑んだ。

「袋を被っていて何を言っても気にならないのなら、どこにいても同じでしょう。幸い、()()()()()()()()()()()()()()()のですね?」

「いいえ、私の思い違いやも知れません。それほど防音はしておりません。この子はこの離宮においてはいけません。どうか、お連れになってください。」

「マルソさん、この者がいてはマズいのですね?」

 ランスがニヤリと微笑んでマルソを見た。

「マルソさん、先に行って身支度をしてください。そうそう、私たちは空腹です。朝食の用意もお願いします。支度があるでしょうから、私たちは少し時間をかけて向かうことにします。」

 怯えたような表情になったマルソは、ギュッと手を握りして何かを言いたそうにしたけれどぐっと飲みこんで、会釈すると去ってしまった。


「やり過ぎではないのですか?」

 カークが不安そうに尋ねても、ランスは動じずニヤニヤとしたままだった。

「キュリス、ナチョを連れて歩いてください。ビスターはその人形の少女を、」

「私が他の荷物を持ちます。この者がいくら愚かだからと言っても、荷物くらいは運んでやります。」

 カークがナチョの大きな木の箱を担いでいる。フリッツも、他のカバンを手に取って手伝うことにする。


 フリッツやカークの背を押して屋敷へと戻ろうと促したランスは深く教えてはくれなかった。

 私の知っていない何かを掴んでいるのか? フリッツは何か釈然としない気持ちばかりが募った。

ありがとうございました

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