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雑魚系ボスクリーチャーLV.1

                                      ☆



 どうも。

 晴れて……というか、半強制的に『スターダスト・オンライン』の住人となった僕だ。


 中型ボスクラスのクリーチャー【モルドレッド】に神経系情報が移されて早数時間が過ぎようとしている。


 そのおかげで身体の操作には慣れてきた。

 ”操作”だなんていうと凄くゲームじみて聞こえるけど、まぁゲームの中だから間違いではない。

 それでも今僕が生きる現実はこの世界だ。



『かいが~んッ!!』



 ヘッドセットと簡易スピーカーを背負ってそう告げる。

 ちなみにこのヘッドセットは、サイロの底で打ち捨てられていたリザルターアーマーの音声入力システムを強引に流用したものだ。

 背中には出力用のスピーカーを背負っている。


 実に面妖だという自覚はある。


 エイリアンじみたバケモノが昔のD.Jやラッパーっぽくラジカセ抱えてるイメージを想像してほしい。まさに今の僕がそれだ。



「わ! スゴイッ。 両肩の目がイチモツさんの言う通り開きましたよ!

 これでまた一歩前進ですね!」



 僕の様子を心配げに見つめていたヴィスカが拍手してくれた。



『いやいや、それほどでもーーあるかなっ!

 ――というか、半日やって瞼を開くことしか出来てないのが億劫……』



「あ……あはは。 あ、赤ちゃんも歩くのには時間がかかりますよっ?」



 まさかの母親目線ですか、そうですか。うん、ぶっちゃけ何も言い返せない。

 だって彼女がいなかったら”開眼”すらできなかった。


 ――現在、僕はこの両肩部に存在した【モルドレッド】の副眼を使えるようにするため、既に数時間をかけている有様だった。


 ”邪魔なプレイヤーをこの世界から追い出す。そのために皆殺しも厭わない。”


 そう大言壮語を吐いてはみたものの、僕は【モルドレッド】という個体を持ちながら、その戦闘能力はあまりにも低い。

 

 理由は簡単だ。 モルドレッドのクリーチャーとしての機能を使いこなしていないからである。

 肉体のパワーは一般プレイヤーに比べ、確かに桁違いだが、敵対した相手のリザルターアーマー性能が優れていれば、すぐに劣勢となってしまう可能性が高い。 


 故に、僕はクリーチャーとして強くならねばならない。 


 というのに……この身体は使い勝手が悪すぎる!

 【モルドレッド】さんの機能解放が音声認識によって行われるって何さ!?


 いや、それだけならまだわかるけど、音声認識が〈クリーチャー語〉になってるってどうしてさ!?




「第二、第三の瞳の調子はいかがですか~♪」



『……ごめん。このパノラマ視界、物ははっきり見えるけど凄く気持ち悪い……。

 ……ヘッドセットの操作……が……』



「エェ! い、いますぐ閉じさせますからお口開いてもらっていいですか!?」



 ヴィスカに言われて、犬のマズルじみた口蓋を開く。

 彼女は躊躇うことなくそこに顔を突っ込むと僕の喉奥へ向かって叫んだ。



「GyyyyyyaaayyyaaaaaZaaaa!!」



 およそヴィスカだとは思えないほどの野性味溢れた雄叫びが、僕の喉元から聞こえた。

 音の振動はまるで自分が発声したかのように認識され、【モルドレッド】に”閉眼”のコマンドとして入力される。


 両肩の”開眼”によって得られていた360度全天球カメラのような視界が消え去った。

 元の視界は相変わらず濁りきっていて、見えるもの全てがぼやけている。



『あぁ、死ぬかと思った。 ライフゲージ減ってないからありえないけど』



「ですねぇ。どんなに元気であってもライフゲージが切れたら、私たちは即消去ですからね。」



『君も?』



「はい。波留さんのおかげで、討伐目標としての〈名無し〉を切り離すことができましたから。

 倒されてもリスポーンするというクリーチャー要素もこの〈ヴィスカ〉にはありません」



『なるほど。〈イチモツしゃぶしゃぶ二世〉も【モルドレッド】(クリーチャー)になったし、リスポーン属性はついてるのかな?』



「残念ですが、その【モルドレッド】はチュートリアルや他の地区で”ボス”として現れる素体ではないんです。

 ”ボス”なら、学習能力の保持としてキャラロストしても中身はそのままで復活します。 

 ですが、今のイチモツさんは、この場所――【月面軍事サイロ基地 ムーンポッド】には普通に量産配置されるクリーチャーですから、ライフゲージがなくなってキャラロストしてしまえば、新しい【モルドレッド】が生れ落ちるだけなんです。」



『あー……RPGでよくあるかつてのボスモンスターが雑魚として出現するアレか』



 なんとはなしに、僕らは自分という存在を俯瞰しながら会話している。

 こんな達観したモノの見方ってあるだろうか。

 空しいとは感じながらも、僕らはすっかりこういう話し方に慣れてしまっていた。


 可愛さアピールで主語を自分の名前にする〈水戸亜夢〉が懐かしく感じる。

 まぁ彼女がどんな姿をしていたかすら、殆ど思い出せないけど。



『よしっ。もう一度、”開眼”を試すよ。 これが使えようになれば死角は皆無になる。

 対複数プレイヤーが予測される戦闘じゃ、めちゃくちゃ便利だしね。』



 閑話休題。【モルドレッド】の音声認識は〈クリーチャー語〉に対応している。

 さきほどヴィスカが叫んでくれた言葉のおかげで”閉眼”コマンドが実行された。


 どうして彼女が〈クリーチャー語〉をマスターしているのか、事情は簡単だ。

 〈名無し〉として『スターダストオンライン』をさ迷っていた彼女は、NPCやクリーチャーに敵として認識されない時期があった。

 その時、モルドレッドを近くで観察していたらしい。


 この緑色のタールがかった気色悪い身体を、マジマジと見つめている女の子がいる光景ってなんだかシュールだ。


 おかげで〈クリーチャー語〉がある程度できる、というわけだ。

 けれど別にクリーチャーと対話ができるファンタジックなものではないらしい。

 あくまで咆哮や絶叫で起動するコマンドがわかるだけ。

 そも、クリーチャーにNPCのような会話のできるAIが搭載されているとは思えない。


 僕が言っても説得力ないな。


 さて、〈クリーチャー語〉ならクリーチャーである僕が使えるのが当然の理というやつだ。

 単刀直入でいうと、ホント無理。

 なんか、アレだ。

 いあいあ ふんぐるいふんぐるい 的な、似たような叫び声はできても認識されない。

 結局ヴィスカに倣いながら発声しても、開眼することはなく、苦し紛れにスピーカーデバイスから”開眼”を命令したところ……普通に、出来てしまった。

 半日の努力が霧散した瞬間だ。


 一度深く溜息をつくと、気づいたヴィスカは改まって問うてくる。



「ライフゲージがなくなったら、今度こそ消えちゃうんですよ?

 ――本当に『スターダスト・オンライン』を乗っ取るのですか?」



『もちろん。 ヴィスカ、キミはこの世界が好きになりたいと願っている。

 なら、僕が叶えて見せる。 

 〈スターダストオンライン〉を他人を傷つける道具としてしか見ていない連中を、一人残らず根絶やしにして。』



 幾度なく交わされた問答だ。

 彼女はあきらめたように顔を俯かせていた。

 それでも、と僕は再びスピーカー越しに「開眼」を叫んだ。


 


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