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ペントハウス



 【ビームコーティングナイフ】は、高レベル帯のビームソード系近接兵装よりもランクが低い。

 ビームソードのように高エネルギー塊を剣状に保つような機能はついておらず、刃部分に備わった光線反射機構が幾重にもビームを反射させ、剣にビームを纏わせているにすぎない。

 要は、実体があるということだ。

 高熱を帯びる物体をぶつけるという意味では、笹川がついさきほど「かっこ悪い」と称した【延長はんだこてブレード】と似ている。

 つか、かっこ悪いとはなんだ、かっこ悪いとは。

 工業用製品を無理やり武器に転用するってロボットモノなら凄く燃える要素の一つじゃないか。

 工事用ロボ、祭典・式典用ロボがゲリラ部隊の戦闘用ロボを迎え撃つってシチュエーションは、パイロットの腕前はもちろん、自由な発想の戦い方が見れて僕は大好きだ。


 ……とはいいつつ、笹川が選んだ【ビームコーティングナイフ】は振るだけでも爽快感がある。

 ナイフを振り回すたびにビームの残像が鮮やかな白光を残しては消えていく。

 ライブ会場で使われるペンライトよりも、残光が持続するため、まるで虚空に絵を描いているような気分になれる。

 

 ダメージ量とか使い勝手とかどうでもよくなるくらいにカッコいい。


 あははは! 凄い凄い!(小並感。

 

 語彙力がお暇した僕を笹川はやはり可哀そうな人を見る目で眺めていた。

 


「なんか少し気の毒に思えてきたよ。風紀隊の一員はある程度希望の兵装がもらえたりするからな」



「よし、僕も入ろう」



「変わり身早っ。 まぁ、武器があっても使う相手がいないから、誰も関心を示さなくなったけど。」



「よしやめよう。くたばれ学院会」



「華麗な360度ターンどうも。 それもネームレス――お前の登場で変わった。

 V.B.W.による自己強化に励む一方で、風紀隊はリヴェンサー・元生徒会長の指示で戦闘訓練に励み、俺たちはネームレスとの戦いに日々挑んだわけだ」



「……街から出ずに何が訓練だ。結局は安全地帯でやってただけのこと。そんなオマエらに僕は負けてなんてやるもんか」



「何回かはキャラロストさせた覚えあるが」



「レベル差、物量、人海戦術」



 初期兵装しかないアーマーで数十のマシンガン撃たれたら誰だって死ぬわ。


 特に当時は【Result OS】が外せることを知らなかった。避け方が大雑把すぎて回避ごとに1,2発被弾してしまっては逃走の糸口すら見いだせない。



「言い訳乙。――って、と。 今カウンターに並べたのが使えそうな兵装だ。

 要求が高レベル帯の兵装は除外しておいた。全部、3レベルのお前でも使える武器さ」



 ハンドガンからランチャー、拳型ミサイルらしきものからプロペラ付きの用途不明品まで、バーカウンターにずらりと黒光りする鉄塊が並べられる。



「……意外に少なくないか? 全部チュートリアルの初回ガチャで入手したものだろ」



 けれど僕の第一印象はそれだった。

 笹川が呆れた風に首を振ると、持前の演技臭い話し方でしゃべり始める。



「ヒント1.学院会にはほとんどキャラロストした人間はいない。ヒント2.このサーバーの定員は?」



「……あぁ、そっか。忘れてた」



 僕はキャラリセを繰り返している僕は、幾度もガチャを引いた記憶がある。

 けれど、キャラロストせず、ずっと同じキャラを使い続けているプレイヤーは、当然、チュートリアル以外、ガチャをひける機会がない。

 したくても、『スターダストオンライン』には既に”運営者”がいないのだから課金することもできない。

 ……死んだらキャラロストというシステムも、案外課金でどうにかなる要素の一つだったのかもしれないな。


 僕のプレイスタイルに問題があるのかもしれないけど、わりとすぐ死ぬし……。



「ほら、早く選べ。 全部は流石にバレる可能性があるから無理だが、2,3個くらいなら持って行ってもバレやしない。」



「わかった。助かるよ。」



「選びながら聞け。 さっきの話の続きになる。

 ――風紀隊のメンバー全員かどうかは知らないが、ネームレスと戦ううちに”あてられた”人間は少なくないと思う。」



「あてられた? なんのこと?」



「えっと、……少しはこの『スターダストオンライン』が楽しいと思ったってことさ。」



 思わず武装を選ぶ手が止まってしまった。

 僕はこちらから視線を外す笹川をみた。



「敵同士だったのになんで?」



「そっちが楽しそうにやってたからだ。 昨日、俺とやったときにみせた空中機動、正直にいってかっこよかったよ」



 …………笹川に褒められてもまるでいい気はしない。

 そういえば、ヴィスカも同じようなことを言っていた。

 そんなに顔に出ているんだろうか。

 いや、戦闘中はリザルターアーマーのヘッドパーツが顔全体を覆うわけだし、表情は見えないと思うんだが。

 仕草が楽しそうってこと?



「あくまで”かもしれない”って話だ。

 『スターダストオンライン』を使って俺や学院会の人間は、全員優秀な生徒の仲間入りをした。

 世間の評価はうなぎ上りで称賛だってもらえたけど、結局勉学でもなんでも、目標がある奴とそうでない奴じゃ、続ける熱意がないんだ。

 意識と能力にギャップがあるというか……。勉強時間が短くなったおかげでやれたことなんて、キョロ充癖を悪化させただけというか。

 ……風紀隊に入ったのも、他人からもっと必要とされたいって願ったからだし。

 結局、俺はこういうVRゲームの世界が好きな人種なんだよ。」



「……ふーん」



 別段、興味がある話ではない。

 けれどもまぁ、『スターダストオンライン』をクソゲーだと言っていた人間の口から”楽しい”という言葉を聞けただけでも良しとするべきだ。


 笹川も特に何か答えを求めていたわけではないらしく、再びメニュー画面を見ているようだった。

 

 

 バーカウンターに並べられた銃火器のうち、ピストル状の兵装を手に取る。

 昨夜、笹川が使っていたのと同じ【Q04G ビームピストル】だ。

 チュートリアルでビームライフルを使ったわけだし、手に入れた感動はそこまででもなかったが、やはり使いやすさでいえば、この中で一番のウェポンだろう。

 これを手に僕と対峙した笹川の判断は間違っていない。



 けれど、これだととりあえずの脅威であるリヴェンサーには火力不足だ。



「そういえば、リヴェンサーこと元会長は? 今日ログインしているのか?」



「それも一番に確認したけど、特に異変はなかったよ。古崎はついさっき、お前と一緒に会ったときに今日初めてログインしたみたいだし、古崎の仲間はまだログインすらしていない」



「共倒れしてくれるならありがたいけど」



「それはダメだ。委員長――リヴェンサーさんは絶対に助ける。 武装は渡すんだから、俺に協力しろよな!」



「……仮に助けたとしても、僕が狙われることには変わりないじゃないか」



「う。 そ、それはそうだが……。 でも、古崎たちよりは信頼できる人だ」



 まぁ、ヴィスカとの件もあるし、奴に何かとてつもない危機が迫っているなら助けてやることもやぶさかじゃない。


 ……それに諸々の事情を差っ引いても、あの次世代アーマーに負けっぱなしという現状はいただけない。

 バトル漫画のライバルキャラみたく”僕が倒すまで他のやつに負けることは許さない”的なノリでいこう。


 そのためにも、この兵装やカスタムパーツを使って奴に負けないようなアーマーをつくってやる。


 こちらが息まいてるところで、突如笹川が声をあげた。



「”風紀隊のリヴェンサーがネームレスとともにプレイヤーを襲っている……”!?」



 危機迫るの早すぎやしませんかね?

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