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錯乱するガイド


 自室を抜けて二階バルコニーに出た頃には既に、湯本は姿をくらませていた。


 付近を確認しながら階下を手すりから覗くと、今まさに華麗なる着地を決めた湯本の背がみえた。


 本当、その義足マジでかっこいいな。

 そんなこと思って感慨にふける頃には完全に逃げられてしまっていた。


 スマホで確認すると、時刻は既に午後8時を回り始めている。思ったよりも彼女との会話で時間をとられたらしかった。



「言及はまた今度だな。 それよりも、今日のログインをどうするか考えないと。」



 昨夜の一件でおそらく僕はキャラロストしている。

 サーバーの稼働時間である12時を回ってしまって強制ログアウトされたようにも見えたが、ライフゲージは切れていたのを覚えている。


 一方で釧路七重――プシ猫はリヴェンサーの強襲にあったそうだが、キャラロストはされていない。

 アーマーも無事だと言っていたが、主兵装【電磁式長距離カスタムライフル】は出会いがしらに破壊されてしまったそうだ。

 しばらくはログインしないよう、言っておいたが、言うことをきいてくれるかどうか。

 

 ……くそ、もし奴らの邪魔が入らなければ、遊丹をプレイヤーキルした者の存在や、V.B.W.の脅威を知らせることができたかもしれないのに。

 V.B.W.による影響、そしてそれを知りながら遊丹をキャラロストさせた者がいること、それらさえ伝われば、『スターダストオンライン』へログインする学院生徒は減るかもしれない。


 減れば、僕が自由にゲームをプレイすることだってできる。

 そして、心のどこかでひっかかっていた何かを掴めそうな気がする。



 バルコニーから見えた星空に片手を掲げる。

 夢の中では【シルベの糸】を掴んでいた手のひらには、いまは何もないのだ。



 まさか夢が現実になるなんて、想ってはいなかったが――【サウスオーバー地区 月面軍事サイロ基地 ムーンポッド】……この場所だけは気がかりだった。


 サウスオーバー地区。

 名称からして十中八九、キャリバータウンの右腕部・サウスゲートからアクセスできるフィールドだろう。

 【サウスゲート】は『スターダストオンライン』におけるエンドコンテンツの一つだとこれまで集めた情報が言っている。

 ゲートへアクセスしようとすると、空襲警報のようなおどろおどろしい警告音が流れ、


《サウスゲートの向こうは熟達したリザルターアーマー使いに向けられたフィールドです。貴方にはまだその資格がありません》



 というメッセージが表示される。

 つまり、出直してこいと言われているようなものだ。


 故に諦めていたが……、果たして本当にくぐれないのだろうか。

 僕は警告音とメッセージに恐れて、サウスゲートを抜けられないと勝手に思い込んでいたが、案外いけるのではないだろうか。


 そう思わせてくれたのは夢の中で見た姉さんの行動だ。

 テストプレイヤーにエンドコンテンツのフィールドを用意するような蛮行を、彼女はやってのけてしまうバカである。


 やってみる価値はある。



 ……………時刻、午後10時前。

 サーバーが開放される直前に、僕は『スターダストオンライン』用の端末に電源をいれた。




 ウェアラブル端末を装着したままで、部屋に横たわるとすぐに意識は途絶えていく。

 眠りに落ちる感覚と似ているが、キャラロストから始まるログインはその感覚に加えて、些か頭が痒くなるような刺激があった。



 しばらく身をゆだねていると、次に目をあけたときには僕は真っ暗な空間に幾何学模様の正座が光り輝くシステムルームにいた。



「《『スターダストオンライン』へようこそ。

 これからゲームを遊ぶ上で貴方の分身となるキャラクターを作成していきます。

 プリセットによるサンプルをダウンロードしますか?

 または、貴方自身の容姿を読み込むこともできます》」



 何十回と聞きなれた加工音声。

 テレビとかでこの音声と同じ声優さんが喋っているのを聞くと思わず身構えてしまうのは、最早刷り込みに近い。


 プリセットを選択し、音声ガイドが告げる言葉を待たずに容姿サンプルAを選択する。

 青年タイプで”素朴”の一言が似合う外見。


 以前はまじめに設定していたが、容姿なんてリザルターアーマーを終始着込んでいれば見えないし、そもそもいちいち設定している時間がもったいない。



「見た目はこれでいいとして、名前、か。」



 プレイヤー名でネームレスだと即バレるのは若干、かっこ悪い気もする。


 ……ならいっそ。


 手元に表示されたキーボードのスペースキーを二度ほど押す。

 何もない空欄が2文字分空いたのを確認してエンターキーを押した。

 けれどすぐに拒否の効果音が鳴る。



「流石に空欄だけじゃ名前と認識されないか。 ……?」



《このプレイヤー名は既に使われています。》



 使用不可というわけではない。誰かがこの名前を使用しているってことか?

 全てのプレイヤーを把握しているわけじゃないが、こんな特徴的な名前を忘れるわけがない。

 

 そこまで考えて、夢の中の”名無し”を連想してしまった。


 いや、まさか……。

 誰かが使っているだけに違いない。


 気になってもう一つの名前を入力する。

 ――プレイヤー名・ロク。


《このプレイヤー名は既に使われています。》



 …………。

 まぁ、ロクなんて誰かが真っ先に使っていそうな名前だしな。


 ナンセンスな考え事をやめて、僕は今まで通りテキトーなプレイヤー名をつける。

 イチモツしゃぶしゃぶ2世、っと。


 入力した瞬間、彼方で誰かが吹き込んだような声が聞こえた。

 


「誰かいるのか!?」



 ――反応はない。

 付近を調べるも、僕の目の前にいるのは、これから自分の分身となるキャラクターだけだ。

 


「《本当にその名前にするの? 後悔しない?》」


 

 YES、NOの選択肢が現れる。

 え、これってガイド音声……か?

 なんかいきなり言い回しがフランクになったんだけど。


 困惑しながらもYESを選択する。



「《NPCに名前言われるシステムなのに~?》」

 

 

 ……YESを押す。



「《あーやだやだ。あたしはウケ狙いよりもゴリッゴリの中二病ネームのほうが好きだなー。矜持がみえるじゃん? ゲームくらい気取ろうよ》」


《YES or  NO》


 一体何の二択なんだ……バグか何か?

 こんなガイド音声、このゲームをプレイして初めて聞いたんだけど。

 

 止む無くYESを押す。



「《へぇ……あとで後悔しても知らないよ。》」



 そう言い残して音声が途切れる。

 チュートリアル開始を宣言する音声ガイドも、通常のものに戻っていた。



 

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