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オフィサーの苦悩


 ――――――キャリバータウン・強化屋のプライベートルームにて。



 どうしてこんなことになっている……?


 私こと、木馬太一もくばたいちはいたって普通のルートセールスマン兼訪問アドバイザーでしかなかったはずだ。

 アメリカ・カリフォルニア州サンフランシスコ、多くの有名企業がそこから名をはせたと言われる地、シリコンバレーに本社を構えた一流企業『エンドテック』。 


 そんな超が付くスーパー企業の製品、”M.N.C.――マス・ナーヴ・コンバータ”を医療関係機関に売りつけ、時には当社の別製品を勧めたり、時にはトラブルに対応したりするのが木馬太一のお仕事だ。


 ……もっとも、私が籍を置いているのは『エンドテック』の末端も末端の子会社だが。


 それでも、お上が超一流ならその傘下たる私だって超一流のサラリーマンといえる!


 絶対いえる。異論は認めない。


 さてトラブルといっても大抵は、わが社のマニュアルをロクに読まず、テキトーな操作をした連中が『御宅の商品、動かないんですけど』とかイチャモンをつけてくるレベルだ。


 今やM.N.C.は医療業界内において、徐々に浸透し始めている。

 バーチャル空間内でのリハビリテーションはもちろん、精神的なセラピーにも効果を発揮するこの製品はすでに、日本国内であっても密にM.N.C.の導入は医療機関のステータスにもなり始めていた。


 おかげで、時代に乗り遅れた熟練の医者先生らは、導入しても使わせない、という奇妙な状態が生まれるに至る。

 そういった方々が、機具メンテナンスの際にあーだこーだと文句をいうために、不良を訴えて私を呼ぶのだ。


 クレーマー処理とそう変わらない。

 私は本来、精密機械の技術職につける逸材だったが、今やスーツに皺を作って社用軽自動車を動かす営業じみたことを行っている。


 人生というのはどう転ぶか分からない。

 

 だからこそ、どうしてこんなことになっている!?



 私は今や、ひと昔前のスペースオペラ映画に出てくる悪役のような真っ黒なヘルメットとマントを身に纏い、私を「”オフィサー”」と呼んで尋ねてくる人間に武器を渡している。 


 私が今いるのは真っ暗な個室だ。

 やってくる人間――プレイヤーとは「話すな」とクライアント様に言われている。

 だから私は止む無く、訪れたプレイヤーに武器を渡す。

 近未来感のあるコンデンサーが備わったライフル銃をプレイヤーが恐る恐る手にすると、私もまた自身の両腕にミニガトリングを用意する。


 そして、精一杯の威圧感を出してこういうのだ。



「そこの少女を撃て」


 

 真っ暗な個室に一つだけ存在する吊るし電球の灯りに照らされて、一人の少女が脱力気味に突っ立ている。

 当たり前だ。


 私がそうなるようにM.N.C.の設定をいじったのだから。

 おそらく目の前の少女は、自分の身体を動かしたくても動かせない状態にあるはずだ。


 しかし、私たちのことはしっかり見えている。

 それに、クライアント様の仰せのままに、”痛覚に関する神経ステータスもオン”にしてある。


 ――。


 独特の銃声音が鳴り響いた。

 武器を渡したプレイヤーが戸惑いながらも撃ってくれたのだ。


 いくらVRゲーム内であっても、無抵抗の人間を撃つなんて、やはり最近の若者は歪んでいるのかもしれない。


 私もまた、プレイヤーの射撃にあわせて、ミニガンの引き金をひいた。



「――――――――――――!!!!!!!!」



 撃ち尽くされんと発射されるミニガンの銃声、その甲高い銃声に負けじと少女が喉を枯らして苦悶の悲鳴をあげる。



「ひぃ、バケモノ……」



 ミニガンの衝撃にされるがまま身体を揺らし、悲鳴をあげる少女。

 それをみて初弾を撃った張本人は目を逸らしながら彼女をそう評した。


 やはり昨今のゲーマーというのは想像力に欠けているな。

 現実だったらとっくに気を失っているはずの痛みを、ライフゲージが切れるまで彼女は耐えなきゃならない。

 そりゃ人離れした叫びもするし、ひしゃげた身体はバケモノじみた角度にも曲がるってものさ。


 やがてライフゲージが削り尽きた少女が消えていく。

 そのプレイヤーはレベルアップの表示が出たことを私に報告すると、個室から出ていく。



「プレイヤーレベルアップ、完了しました。 次のクリーチャーを確保にいきます。

 アーマーを借りても?」


 

 ヘルメットに備わった通信器でクライアントに連絡をとる。

 彼もVRゲーム内にいるらしく、すぐに応答がきた。



『あぁ、ありがとう。もちろんだよ、”オフィサー”。 彼女は苦しんで死んだ?』



「ええ。まぁ」



『そっかそっか。じゃあ、また頼むよ。

 それとさー、V.B.W.の影響値、また上げといてもらえる?

 皆次の試験に躍起になってるみたいでさ。 勉強時間に青春を捧げるなんてかわいそうじゃない。』



「……これ以上、神経系へ干渉するのは、現実の身体とギャップが生まれて危険が――」



『そういうの、いいから。頼りにしてるよ』



 有無を言わさず通信が切れてしまう。

  

 私は一度大きく溜息をついた。


 本当に若者は歪んでいる。

 大人を脅して、こんな凶行を画策するなんて。


 けれども私とて生活がある。そのためにどんな愚行でもこなす覚悟はできている。


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