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エピローグⅠ

                ★★★★


 ドイツ語講義のガイダンス中。


 ヴィクター教授のドイツ語A科目は基本的にやる気がなく、他の講義に比べて楽に単位が取れる、と笹川宗次はエナジードリンクを片手に振りながら得意げに笑みを浮かべる。

 専門科目の試験や研究に忙しい学部ほど、こういったストレスフリーな科目を探し出すことは重要であり、ともすれば英文学部に籍を置く私こと――〈釧路七重〉には大変ありがたい情報である。

 といっても、その情報源は〈笹川宗次〉との付き合いがあってこその賜物だ。


 2年が経った。



 ――今から2年前、スターダスト・オンラインの一件に巻き込まれたプレイヤー……私、〈笹川宗次〉、〈湯本紗矢〉〈戸鐘路久〉〈月谷唯花〉、以上の5名は現在、鳴無学院を卒業して国立XXX大学に通っている。

 XXX大学は国立ながらそこまでレベルが高いというわけじゃなかった。

 けれど、それなりの努力があって入学したという自負はしっかり持てる――そんなレベルの大学だ。少なくとも私には、だが。


 ちなみに、私の親友・ユニこと〈瀬川遊丹〉だけは入試に落ちてしまい、今は浪人生として死に物狂いで勉強している。

 


「あ、ゴールデンウイーク前に新歓コンパあるらしいけど、参加するか?

 釧路と同じ学科の生徒もくるし、話すきっかけになるんじゃね?」



「……いく。 行くけど、そっちはそっちで楽しんでいいから。」



 私とて入学初期にできる限り知人をつくっておくことの重要性は理解している。

 特に不愛想でぼっち気質な私は、一度そういうキャラクターが定着してしまったら二度と抜け出せなくなる未来がありありと見えている。

 第一印象というのは大事だ。


 それに……。



「”そっちは”って……一緒に参加して別々に会話するってことか?

 それはそれでおかしくね?」



「勘弁して。 宗次、貴方は私に気を使いすぎるから気まずいの。

 私含む複数人で話すとき、会話に混じらない私にめちゃくちゃ話題振ってくるし。

 ああいうの惨めになるから嫌」


 

 唯花曰く、まるで笹川が私の通訳を勤めているように見えるらしい。

 情けないったらないし、私は私で唯花に指摘されるまでそんな有様をまったく気にしてなかったのだ。

 昔から遊丹や路久に他人との会話を任せ過ぎていたフシはあった。

 けれどまさか、他人から異常に見えるくらい常態化してしまっていたとは。


 大学に入った今ですら笹川宗次に助けてもらおうとしている。

 このままだとマズいことになる。



「――……。」



 笹川宗次がエナジードリンクの缶を落とした。

 指先が若干震えている。



「いや! あれは、どちらかといえば釧路さんのことが聞きたいから他のヤツをクッションとして置いてるだけで――」



 しどろもどろに要領を得ない言葉を並べ立てる彼を横目に、私は自分のスマホにかかってきた電話に出る。

 ディスプレイに表示されている名前は〈月谷・兄〉――月谷芥だった。 



『……急に電話してすまない。唯花は……講義にしっかり出ているだろうか?』



「毎日電話かけてくるのに、急もクソもないでしょう?

 多分今日も寝落ちしてますね。 連動アプリ見る限り、”ログイン中”のままですし」



『ほ、本当に寝落ちしているだけなんだな!?』



 電話口にノイズが走りそうな大声で月谷芥は念押ししてくる。

 鳴無学院が誇る元天才生徒会長も今じゃただのブラコンになりつつある。 



「今、唯花が夢中になってるゲームは、スターダスト・オンラインみたいなVRゲームじゃないって何度もいってるでしょう。

 ヘッドマウントディスプレイで360度の視界でゲームが楽しめるだけ。

 心配しすぎなの」



『だ、だが。この前『UNIVERSE』とかいうスターダスト・オンラインの後釜ゲームが発売されたと聞いたぞ? 

 また唯花が閉じ込められたなんてことがあれば……』



「今日は路久と紗矢が様子見に行ってくれてるから安心して――というか、そっちに連絡してよ。

 私今講義中なんですけど、月谷先輩!?」



『うっ……戸鐘単体ならともかく、俺はあの湯本とかいうのが苦手で――ってぬぉ!?』



 突如月谷芥の話が途切れる。一瞬通話が切れたのかと勘違いしたが、どうやら相手方がスマホを落としたらしい。

 電話口から、わずかだが遊丹の声が聞こえてくる。



『明日の模試で人がナイーブになってるというのに、何故あたしの親友に手をだしおるか!?

 教えろー! 勉強教えろー! あたしを愛せー!』

『わ、わかった。わかったから脱ぐのはやめ――』


 

 そこで通話は途切れる。

 脱ぐって……昼間から何やってるんだろ。

 


「釧路、顔真っ赤になってるぞ? 大丈夫か?」



 通話が終わったのを見計らい笹川宗次が話しかけてくる。



「な、なってない。 ――そういえば、『UNIVERSE』ってゲーム知ってる?」



 私が振った話題に笹川宗次はわずかに表情を渋らせた。



「もちろん。 2週間前にサービス開始されたVRゲーだろ?

 ”スターダスト・オンラインの正統続編”、ゾッとするキャッチフレーズだ。

 世間体でいえスターダスト・オンライン自体よく思われてないってのに、『UNIVERSE』の開発者がインタビューでそう答えたんだと。

 ――ああ、だから月谷会長、あんなに取り乱してたのか。

 月谷さんが真っ先に飛びつきそうなゲームだもんな」



「そういうこと。 

 ……ま、今日の”唯花係”はあの二人だし、私たちは後で話きいてみましょう。」



「ただの引きこもりゲーマーってわけじゃないから質が悪いんだよな。 月谷さん」



 私と宗次は二人そろって溜息をついた。

 後に、私語が原因でヴィクター教授にやんわり叱られたのは言うまでもない。


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