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最終決戦Ⅹ


                  ☆


「……。」



 サブアームによる決死の一撃が失敗した。

 〈ロク〉はこの土壇場で、僕が彼をキャラロストさせないことに賭けたのだ。

 わざと急所――自身の頭部――がサブアームの攻撃に巻き込まれるように【グラム・ストーカー】による加速を行なった。

 僕は反応するのが遅れ、微細な軌道修正することができず、〈ロク〉の身体ごと避けるよう、強引にサブアームを遠ざけてしまった。

 ヴィスカの声が聞こえたことで、気をとられたせいだろうか?

 

 ……わからないし、もう考えたところで意味はない。


 〈ロク〉は超重量の【クラレント】をスラスターの推進力を利用して振り切った。

 同時に、僕の手にあった【スティングライフル・オルフェウス】が弧を描いて宙を舞う。


 視界の隅で僕の”魂”を見たであろう〈リス・ミストレイ〉が構えを解いて膝をつく。

 そして、泣きそうな顔で首を横に振ったのが見えた。

 〈リヴェンサー〉から彼女を庇うように兵装を構えていた〈レン・ミストレイ〉も僕を見て唇を噛み締めていた。



『(そうか、もう神経系情報が――。

 僕は戸鐘路久じゃなくなったんだ……)』



 【オルフェウス】が装甲版の床へ落ち込んで乾いた音を立てた。 

 落下の衝撃によって僕から逃げるように遠ざかっていく。

 ……惜しむ気持ちがないといえば嘘になる。

 けれど今は、安堵感のほうが勝っている気がする。

 これでようやくゲームオーバーを迎えたのだ。


 考えてみれば呆気ない終わり方だったし、得た者は何もないように思えた。

 それでも納得はできる。

 自分の気持ちに終止符を打てたことが僕は嬉しいのかもしれない。


 〈ロク〉は僕の喉元へ【クラレント】の切っ先を突きつけてくる。

 


「ごめん。 ……ありがとう。」



 彼の一言は簡素なものだったが、僕にはその意味がすぐにわかった。

 僕は人間の体裁を保っていない顔面で思わず苦笑した。


 ――それもそうだ。

 僕はこいつに感謝の言葉を述べられていない。

 誰のおかげで〈戸鐘路久〉は今も生き延びられているというのか。

 僕という”ダミー”がオマエの痛覚ダメージやら何やらを受け止めたからだぞ?

 大いに感謝しろ! 盛大に感謝しろ! 根強く感謝して呪いのように心に刻み付けろ。 

 そしてそして……。



『……月谷唯花を頼むよ』



 ちゃんとした言葉で話せていたかどうかは、僕には判別できなかった。

 けれど目の前の〈ロク〉は頷いてくれたので、多分、伝わったのだと思う。

 急激に体が重くなる。

 無茶な肉体の改造により身体には大きな負荷がかかったようだった。

 僕は自ら【クラレント】の刃を受け入れるように倒れ込みそうになった。


 その時だ。



「――嫌。 ダメだよ。 こんなの、絶対、嫌……!!」



 駆けつけた〈ヴィスカ〉は僕が落とした【スティングライフル・オルフェウス】を構えていた。



「”隣にいて欲しい人”……そんなの、私だってわかってるよ……」



 その銃口はあろうことか、僕ではなく〈ロク〉へと向けられていた。

 〈ロク〉のほうも満身創痍の出で立ちだ。攻撃を避けることは難しいかもしれない。



『――――!!!!』



 残されたわずかな膂力で、クラレントの刃を自分の喉元へ迎え入れる。

 ライフゲージが尽きるよりも先に、僕は〈ロク〉の身体を押しこんだ。


 ヴィスカの放った【オルフェウス】の弾丸は僕の肩をかすめて、〈ロク〉には命中しなかった。


 ロクを庇うとは思わなかったのか、〈ヴィスカ〉は膝をつくと、そのままオルフェウスも手から滑らせた。

 その瞳は見開かれ、眉間には険しさが伺える。

 口元が震え、か細い彼女の声がこちらに届いた。



「…………どうして?」



 その答えはすぐレンやリスの口から聞かされるはずだ。

 彼女が〈ロク〉へ銃口を向けたことは、多分僕と〈ロク〉以外知られてはいない。

 遠目にみれば彼女が僕にとどめを刺したように見えるだろう。



「なんでっ? イチモツさん!?」



 相も変わらずまともに言葉が発せられない。

 ヴィスカには悪いが僕は最高に嬉しくて仕方がなかった。

 僕の身体を抱える体勢となった〈ロク〉は、死に際の僕の表情を見て神妙な顔つきをこちらへ向けている。

 理由はおそらく、僕が勝ち誇った顔をしていたせいだろう。

 

 ――どうだ? ヴィスカは僕を選んでくれた。おまえじゃないぞ。


 気持ち悪い思考回路極まりないが、その一点だけで僕は有頂天に昇るかのような――いや現に”あの世行き”じみた状態になってるわけだが――、そんな幸福感があった。

 だからこそ、このキャラロストの今際で彼女へ向けるべき〈イチモツしゃぶしゃぶ〉の顔は、笑みの方がいいのではないかと僕は考えたわけだ。


 決して、残された刹那のひと時で、悲しい表情を向けるべきではない。


 やはり上手く笑顔をつくれたか否かは定かじゃないが……、あとは〈ロク〉に丸投げしようと思う。


 ――月谷唯花のことを、どうか頼む。



 そう祈った瞬間、僕は仰向けになった視界の端っこで【ジェネシス・アーサー】の眼光が煌めいたのを見た。


 見えてしまった。

 あれは、〈名無し〉が操ってる【ジェネシス・アーサー】じゃない。

 プレイヤーたちを睥睨するもっと邪悪な……。


 ――気づいたのに!! 

 僕の意識はそこで途絶え



               ☆





 


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