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【セイクリッド・ロイヤル】


                ☆



 〈ヴィスカ〉が手助けしてくれている……?

 いや違う。わざわざプレイヤーを傷つけるために〈古崎徹〉を操ったりするもんか。

 

 でも彼女以外に、〈古崎徹〉を妨害できるプレイヤーはいるだろうか?

 あの表情、〈ロク〉も僕と同じ結論に至っているのかもしれない。

 けどそれは間違いに決まっている。


 彼女はスターダスト・オンラインのためにNPCもプレイヤーも助けようと努めていた。

 ……”プレイヤーを生かす”という一点では、ヴィスカも古崎徹も目的は一致している。

 なら、今青年が行った非道に説明がつかない。

 単なる乱心……なのか?



「〈イチモツ〉! 今がチャンスだ! 足止め代わりに使う必要なんてない!

 釧路七重に砲撃させろ! 【ジェネシス・アーサー】に畳みかける!」



〈ロク〉が自分に向けてそう告げてくる。

 僕が〈プシ猫〉への命令権を持っているとわかって伝えてくるのだ。

 一方でヤツ自身は、先んじて【グラム・ストーカー】と呼ばれる専用デバイスを【ジェネシス・アーサー】付近へ射出し、囲むようにホバリングさせる。


 その考えはすぐに把握できた。

 砲撃から逃れようとする〈古崎徹〉の退路を先んじて塞ごうというのだ。



『〈プシ猫〉、第一射目を開始してくれ。 撃ち尽くす必要はない。

 様子を見るための砲撃だ』



「っ――!! 全力でやれ! 彼女がつくってくれた隙なんだろ!?

 それを逃すのか!?」



 こちらに怒声を浴びせてくる〈ロク〉に思わず言い返しそうになった。

 彼が初めて〈ヴィスカ〉の言葉を代弁しようとしたのが腹立たしい。

 けど……もしかしたら、僕なんかよりずっと……。

 そういう疑念も生まれてくる。



『了解したです。 3秒のカウント後、一射目を開始します。

 砲撃範囲に注意してください』



 〈プシ猫〉は僕の指示に従うことを伝えると、そのまま通信を切る。

 それを見た〈ロク〉は歪めた表情をフェイスガードで隠しながら、こちらから顔をそむけた。


 数秒後、飛来物の雨が【ジェネシス・アーサー】の頭上へと降り注ぐ。

 物体に接触したと同時に大爆破を引き起こし、打ち上げ花火のスターマインがごとく次々とアーサーの巨躯を中心に火炎が舞う。


 十分すぎる火力だ。

 それは一度砲撃の雨に曝されたことのある僕が一番よく理解している。

 どんなクリーチャーであっても、この支援砲撃が与えるダメージの合計数値でライフゲージは一瞬で削られる。

 

 言わずもがな、その足元で苦しんでいた青年もキャラロストは免れない。


 だが、それは僕の油断だった。



「させるか!!」



 黒煙と火炎が渦巻く砲撃地帯へ〈ロク〉は叫び声をあげる。

 同時に推進器を使わない高高度の跳躍を行って自身も砲撃の中に突っ込んでいく。


 その先には、砲撃に曝されながらも無理やりその場から離れようとする【ジェネシス・アーサー】が黒煙を退かしながら現れた。


 〈ロク〉は【グラム・ストーカー】の飛行端末を一か所に集約させて、空中で再度跳躍して加速を行う。

 弾丸のようなスピードと化した彼は、その巨躯が砲撃範囲から出られないように全身全霊ともいうべき勢いで膝蹴りを叩きこむ。


 【ジェネシス・アーサー】は先んじて進行方向から受けた衝撃に、身体を仰け反らせた。

 いくら超高速による突貫といっても、巨大な敵には致命打にならない。



「今からでもいい! 釧路に追加で命令をだせ!

 ジェネシス・アーサーだけはこの砲撃で削り切るべきなんだ! 

 僕じゃない。ヴィスカを、ヴィスカを信じろ!」



 またっ!



『黙れ! 黙れ黙れ黙れ!

 彼女を信じた上で僕は行動している。今もずっと!

 自分のくだらない復讐心に彼女を使おうとするな!』



「なんだと? それは僕だけの侮辱にならないぞ!

 ――こいつを倒したら、次はお前だ!

 このゲームが無くなるなら、元々がゲームのNPCであるお前も消滅する!

 ならせめて僕が殺してやるのが義務かもしれないな!」



『っ……やれるもんならやってみろ!!』



 売り言葉に買い言葉だ。こんな会話、どちらも今すべきことではないと分かっていたが、この時、僕の心の内には【スティングライフル・オルフェウス】という選択肢が生まれてしまった。


 やがて支援砲撃が終わる。

 ……【ジェネシス・アーサー】は〈ロク〉が言った通りまだ消滅していなかった。

 けれどその身体は爆破によって焼け爛れ、タールを纏った外皮は真っ白に生皮を晒している。

 ところどころ真っ赤な血も流れており、一見しただけでも瀕死とわかる。

 ただ一つの懸念は、その巨体がうつ伏せになって倒れていたことだった。


 まるで何かを守るかのように。


 巨躯が鉄板へと倒れ込み、鈍い金属音を一帯に響かせる。

 その刹那、タール液が付近に舞い散ったかと思うと、こちらへと突っ込んでくる敵影があった。



「どうして邪魔ばかりする……ァアァアァアア!」



 黒いタールのコーティングが剥げ、敵影はやがて金色の装甲を露わにした。

 それは僕も〈ロク〉もよく知っているタイプの次世代アーマーだった。


 【セイクリッド・ロイヤル】。


 かつて古崎徹がテストプレイ時に使った唯一無二のチート級装備。

 その一式を青年は装備していた。

 彼のプレイヤーネームは当然、あの時と同じ〈トール〉だった。

  

 

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