笹川宗次に関係のない修羅場Ⅱ
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結論から言って、武力で納めるのが一番手っ取り早い方法だったりする。
「笹川、お前ならわかるだろ!? この女はさっさと置いてくべきだ!」
憤慨するノリくんは、どうやら俺の知り合いだったらしい。
手あたり次第、声をかける学校生活を送っていたせいで、知人だけは沢山いる。
その中で友人といえる存在は一握りしかいなくて、友人だと思っていた人たちからは、つい2日前に裏切られたばかりだ。
いつもなら俺の方も馴れ馴れしい雰囲気で調子の良い言葉を返すところだが、状況が状況だ。
「余計なこと言わないで! 宗次くんっ、私、ノリくんが頼ってほしいって言ったから頼っただけなの!」
近い……。鈴木さん、パーソナルエリアをことごとく侵犯してらっしゃる。
俺が細かいだけかもしれないが、彼氏がいるのならボディタッチとか遠慮して欲しい。
勘違いしてしまう。
「どっちも避難させるから安心しろって。でもどっちかが手を出したら、俺も躊躇わず撃つからな。
ちなみに俺に撃つのもNG。
撃ったところでそっちの兵装じゃ、このアーマーにダメージは通らないし、銃声でクリーチャーとのエンカウントが高くなる。
俺はロストされないけど、そっちを守れる保証はない。」
鈴木さんは渋々黙ってくれたが、どちらかといえば意見があるのはノリくんとやらのほうだろう。
口調は落ち着いていたがギスギスとした威圧感だけは伝わってくる。
「いいよ、オレの事情は。
でもプレイヤーに銃を向けたんだ。〈学院会〉の規約じゃ、他プレイヤーへの攻撃は厳罰だ。 鈴木はもう”強化屋”に入ることはできないし、風紀隊に守られることもない。
だろ? 笹川、オマエも風紀隊じゃんか。」
「いや知らんわ。
俺〈学院会〉退会したし」
そんな「マジかよ、こいつ」って顔されても困るし、鈴木さんも素早く距離とりすぎじゃない?
「昼間のアレ、本気で言ってたんだな。
V.B.W.がなくても成績は維持できる、とか。
ありえねぇよ。 そりゃあ、一回とか二回なら死ぬ気でやりゃ、どうにかなるかもしれない。
でも、時間足りねえよ。笹川、オマエ目の下にクマつくってただろ。
鳴無学院の修学過程はまともに課題もこなしてたら、それこそ学生生活返上で勉強しなきゃ追いつけねぇ。」
その追いつけない波をつくっているのは、何を隠そう、俺も含んだ〈学院会〉のプレイヤーたちだ。
スターダスト・オンラインをプレイしていない生徒と〈学院会〉所属生徒では、成績にはもう天と地ほどの差が生まれている。
だからこそ、鳴無学院は”天”の生徒用の修学過程を用意するし、一方で”地”の生徒用のコースだって用意されている。
釧路七重や戸鐘路久は、腐らず、放課後なども利用しながら勉学に務めている。
学院会のプレイヤーは周りが見えていない。
自分たちが作った”エリート”の急流ばかり見て、スターダスト・オンラインを手放すのが困難になっている。
やむを得ずキャラロストした俺は、案外幸運だったのかもしれない。
「俺から言えるのは、相応に生きろってことしかないわ。
ポジティブにいえば、自分らしく生きよう、だ。」
「んな後ろ向きな『自分らしく生きよう』初めて聞いたぞ。」
納得していない様子だったが、ノリくんは鈴木さんに突っかかることなくこちらに追従してくれた。
そして、ようやく【キャリバー・タウン】の内部に通じている西口ゲートへとたどり着く。
そこには既に8人の〈学院会〉プレイヤーが集まっている。
鈴木・ノリの二人を助ける前に、3グループほどこの場所に避難させておいたのだ。
消費アイテムである【即席簡易シールド】を4つ使用して彼らを囲むようにして並べ、その前方へ更に【設置式有刺鉄線リール】を配置して簡単なバリケードをつくった。
簡単に兵装の使い方も教えてあるので、雑魚敵であれば彼らでも対処が可能になっている。
しかしながら、今俺たちがいる【月面露出地区】は絶えず、クリーチャーの生態が変化するギミックがあるらしく、下手すればチュートリアルで戦ったボスクリーチャー【モルドレッド】と出くわすこともあるそうだ。
そうなれば、対抗できるのは次世代アーマーを装着している俺だけ。
普通に考えて、勝てない可能性のほうが高い。
最悪、ここにいる12人全員が全滅ということもあり得……あれ?
保護したのは10人で、俺も含めて11人。
「12人って……。」
「あぁ、12人目はあたしかな?」
何の前触れもなく声をかけてきたのは、紛れもなく〈北見灯子〉だった。




