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進行阻止。


『……てっきり、手順が間違っているのかと思ったけど、まさかパーツ自体殆ど全部忘れてくるなんて。』



 僕のほうもびっくりだよ。

 重量軽減のためとは言え、カスタムパーツ一式を忘れてくるんだから。

 

 多分、この子機だけは奇跡的に、僕のアーマーに引っかかっていたのだろう。

 引っかかっていた場所が背中ってのはやはり不吉を感じるけど。

 

 思わず叫び出してしまったが、【ジェネシス・アーサー】の身体に取り付けた今、逃した鯛を惜しむのは時間の無駄だ。



「面目ない……ってなんで僕はキミに謝ってるんだ。

 そんなことより、〈名無し〉。

 さっきの話に戻すけど、キミは何者なんだ?

 月谷唯花であって、【ジェネシス・アーサー】でもあって……その流れなら〈ヴィスカ〉はどうなる?」



『そのあたりは、私自身も説明するの面倒くさいんだよね。

 〈ヴィスカ〉が私ってのも間違いではないけど、言うにはちょっと抵抗がある。


 まぁともかく、〈ロク〉である貴方に〈ヴィスカ〉のことを教える義理はないね。』



「また〈イチモツしゃぶしゃぶ〉のことか。

 あいつがヴィスカの姿をしていたのと関係がある?」



 確認はできずじまいだったが、路地裏にて僕はヤツと対峙した。

 あまりにも似すぎているバトルスタイルと直感的にわかってしまった同族嫌悪の気配で、ヤツが〈ヴィスカ〉の姿をしていても、〈イチモツしゃぶしゃぶ〉――僕の3年間を生きたダミーだということは分かった。



『会ったの?

 〈ヴィスカ〉の話だと彼はキャラロストされたかもしれないって悲しんでたけど、……そっかぁ! やっぱりしぶとく生きてるんだね、イチモツさんは』



 声音だけでも〈名無し〉が殊更喜んでいることが分かる。

 一方で、僕はじりじりと焼け付くような胸の痛みがあった。



「また、あいつが必要とされてるのか。」



 聞こえないように呟いたが、〈名無し〉は声だけで長く溜息をついた。



『なんでもかんでも欲しがるのは良くないよ。

 貴方は貴方のやらなきゃいけないことがあるでしょ?』



「う……、聞こえないフリしてくれよ。」



 2,3手ほど先周りした回答が返される。

 あまりに不甲斐ない自分に、頭に昇りかけた憤りがおさまり、引きあがっていた両肩が下がる。

 どうしても、アイツに対する感情だけは一人だと収まりが利かなくなってしまっている。 



『気持ちは分からないでもないからこうやって反応したんだよ。

 私も出来の良すぎる兄さんと比べられて、自分だけの縋るものが欲しかったから。

 でも今それで憤慨してる場合じゃない。

 って、【ジェネシス・アーサー】の私が言うことじゃないけどね。』



「…………。」

 

 彼女の言ってることはもちろん承知している。

 既に中央区は目の前であり、僕はこれからこの怪物の侵攻を阻止しなければならない。


 【ジェネシス・アーサー】の側面に回り込み、片腕で身体を支えながら、もう一方で【オーバーロード・ソルティ】を冷却ケースから引き抜く。 



「ありがとう。

 で、ありがとうついでに、足斬っていい?」



『言われなくても湯本紗矢のほうを優先するんでしょう?

 取りついた貴方を【ジェネシス・アーサー】の意識から外すことはできても、私が身体の主導権を持ってないってことは忘れないでね。』



「ごめんっ。 

 〈名無し〉、キミと話せてよかった。……3年前のテストプレイの時、”スターダスト・オンラインに人が溢れる”なんて嘘をついて、本当にごめん!」



『――ぁ。』



 特殊緩衝材に残されたリザーブ分のエネルギーを全て解放し、〈ショック・ゲイン〉機能を用いて【ジェネシス・アーサー】の巨躯を一気に駆け抜ける。

 

 前足の背部、破損した装甲すらない箇所へとソルディを突き刺した。

 【ジェネシス・アーサー】はすぐさまこちらに応戦する形で、前足を折り畳み、身体の重量を利用したスタンピングを仕掛けてくる。


 だが、思いのほか【ジェネシス・アーサー】は手負いだったらしく、スタンピング攻撃というより、重心が崩れて側面へと大きくよろける。



「っ――とまらない!!」



 中央区にて横たわる巨大人型兵器【NX09】の腹部装甲及び、そこに付随する形で備え付けられていた足場の数々にこすりつけながら、巨躯の怪物は態勢を崩されてもなお、無理やり中央区の中心、”強化屋”の存在する広間まで進行していく。


 前足ではだけではダメだった。

 この【ジェネシス・アーサー】は彼女自身が言っていたように、〈名無し〉だけでなく、〈古崎徹〉も操っている。

 奴は前足を使わず、さも人間のように後ろ脚だけで丘陵の天辺まで跳躍した。


 脚に【オーバーロード・ソルティ】を突き立てたままで、僕の身体もヤツと同じように風圧を受けながら急上昇していく。



 そして跳躍した先には、湯本紗矢の姿があった。


 あろうことか彼女は、アサルター部隊が築く前線から大きく突出した位置で銃火器を構えていた。



「彼女を殺る権利なんてお前にはないんだよ! 凡人こざき!!」 

 


 【ジェネシス・アーサー】は跳躍後の降下の勢いに合わせて、彼女のいる一帯を薙ぎ払おうとしていた。


 その一撃が放たれる前に、前足から離脱してヤツの肩を伝い、そのまま振り上げられた左前脚へと移動する。 

 【オーバーロード・ソルティ】を両手で握り込み、下腹部付近をスラスター噴射で無理やり固定して剣を振り下ろす。



「出力限界っ!? 冷却のペースが間に合ってないのか」



 時間経過によって出力が肥大化しているソルディは、烈火のごとき光の柱を上空に立てて、【ジェネシス・アーサー】の左腕を両断した。


 同時に無茶な使い方をさせすぎたソルディの刀身が熔解し、切り落とした左腕ととも紗矢の横へと落ち込んだ。



 

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