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上空に影は差す。


 先輩と同じ境遇……。

 そうかもしれない。

 古崎徹ではないクリーチャー化したこのプレイヤーが攻撃を受ければ、本物の痛みを再現したかのような感覚がプレイヤーを襲う。

 プレイヤーは痛みを受けた記憶が”V.B.W.”――バーチャル・ブレイン・ウーンズとして、ログアウト後に脳および神経系に反映される。

 

 身体に深刻な障害をもたらす可能性も大いにある。

 

 先輩の場合は3年間の間、ゲーム内の戸鐘路久と現実世界の戸鐘路久を分離させることで、痛みの記憶だけを除き、V.B.W.による影響を軽減して生還させることができた。

 でも、あれは波留さんが土壇場でやった奇跡のような行為だ。



『波留や俺を迎え入れたアンチグループは、古崎グループに関係する問題以外じゃ暴力に訴えたことはなかった!

 毛嫌いしていたからじゃなかったか?

 自分の目的に権力や武力で他人を従わせようとする”古崎”と同じになりたくなかったんだろ?

 だが今からやるのは同じことだ。

 その【ヴィジランテ】の引き金は現実のソレと同じくらい重いってわかってるのか!』



「黙って!! サイトー、そいつを黙らせなさい! 

 【フォビドゥン・マン】のプレイヤーは、〈ヴィスカ〉――”お姉ちゃん”を傷つけた罪だってある!

 彼ら〈学院会〉は彼女をいたぶることでスキルポイントを得ていた! そうでしょう!?

 無関係じゃない! 

 私は! 月谷唯花の敵だって許したくない!」



 【軽量型対空砲 ヴィジランテ】の銃口が、古崎徹を覆う樹皮の壁を捉える。

 こちらの動きに呼応して、アサルター隊もそれぞれが持つ主兵装を構えはじめた。

 


『っ。 そっちがそういうなら、こっちだって暴力に訴えてやるよ!

 端末引っこ抜いてでもあんただけスターダスト・オンラインからログアウトさせてやる!』



 そんな捨て台詞の数秒後に坂城諸の呻く声が聞こえてきた。

 サイトーが阻止してくれたらしい。



「――集中砲火、開始!!」 



 すかさず、亡霊部隊の全員へと集中砲火の合図を出す。

 一斉射撃による雷鳴のような轟きがキャリバー・タウン一面に駆け巡った。

 マズルフラッシュが閃光煌めかせる。



「……、あれ?」



 しかし、私が聞くべき[河辺正人]というプレイヤーの断末魔は聞こえてこない。

 それどころか、視界が徐々に下を向いていく。

 ヘッドマウントディスプレイ上には、簡易人体図が右隅に表示されており、目ざわりな赤色を使ってダメージを受けたことを知らせてくる。


 やがて地面に突っ伏すような形で、私は【ヴィジランテ】のバレルに支えられながら膝をついていた。

 緩慢な関節部を無理やり動かして、辺りを見回すと、他の仲間も同じように態勢を崩されている。


 反撃された……?


 【フォビドゥン・マン】の裏に隠れた〈古崎徹〉の姿を確認する。

 けれど彼自身が浮かべていたのは得意げな嘲笑ではなく、口元を間抜けに開けた驚愕の表情だった。

 


『〈古崎徹〉の……マーから射出された八つの飛翔体……から攻撃を受けました。

 現……、アーマーの全部位に一時的な……を感知して……。』



 アサルター隊の一人からノイズだらけの通信が入る。

 飛翔体、やはり〈古崎徹〉からの攻撃?

 でも、当の本人は〈ヴィスカ〉のキャラクターへ頻りに触れて、何かを必死に確認しているようだった。



「俺は操作していないぞ。

 どうして【アリアドネ】の兵装が起動している?」



 取り乱す理由はわからなかったが、彼の背部ユニットから一瞬だけ私たちが前線を敷いている方へ稲妻が走ったが見えた。

 

 その方向を見ると、アサルター隊が報告した通り、楔のような装置がわずかな推進剤と稲妻を纏って地面に突き刺さっていた。

 よく見ると、他にも同じ装置が点々と私たちを取り囲むようにして配置されている。



「――っ!!」



 硬直から復帰したアサルター隊の一人が再び、私の命令通りに射撃を開始しようとした。

 が、その瞬間、距離を開けて楔から楔へと電撃が走り、銃撃を行われる前にアサルターを貫いた。



「っざけるな! 何俺の命令無視して使ってやがる。」



 正体不明の雷撃で追い込まれているのは私たちのほうなのに、〈古崎徹〉は余計に取り乱している様子だった。

 演技をしているようにも思えない。 なら――。 



「アサルター隊、全隊員へ。 【フォビドゥン・マン】への攻撃は中止。

 代わりに、私たちの付近に着弾している装置の破壊に努めて。」



 仲間に命令を出しつつ、自身はスラスターを全開に始動させて、楔装置が取り囲んでいる範囲へと移動する。

 私を包囲網へ閉じ込めるかのように、今まさにその脇を抜けた楔が急激に電気を纏い始めた。

 

 ほぼ直感のみを信じて【展開型ニー・ライオットシールド】をかざし、稲妻の一閃を受け止める。

 紙をやぶくような連続した音とともに、こちらの身体は弾き出され、【フォビドゥン・マン】を介さずに〈古崎徹〉へ射線が通ずる地点まで到達する。



 私の迂回に気づいた〈古崎徹〉は、【スレイプニーラビット】と呼ばれたアーマーに赤黒い推進剤の光を灯す。

 


「当たって!!」



 【ヴィジランテ】によるフルオート射撃が開始される。



「どいつもこいつも! そんなに死にたいのなら叶えてやる!!」



 しかし、それと同時に上空へ影がさしたのがわかった。

 見上げた視線の先には、巨躯の左腕を今まさに私へと振り下ろした【ジェネシス・アーサー】の姿があった。



 

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