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ブリッツ


『話を戻す。 あんたはリアルでの運動スキルはそれなりで、機転も利く。』



 諸の言葉に多少頬がひくついた。

 脚が健在だった中学生の頃は、陸上界の神童と謳われたこともある。

 でも今じゃ”それなり”と称されてしまうのか。


 「だが」と坂城諸は続ける。



『あんたはその義足のおかげで、感覚がかなりスターダスト・オンラインの架空の兵器であるリザルターアーマーに近しい動きが現実で行えてしまう。

 ……高所から飛び降りたり、平気で複数の男を膝蹴りでぶっ飛ばしたり。

 反応速度と旋回性なら、リザルターアーマーの機動力も上回ってる時だってある。


 普通なら、VR世界でパワードスーツ着て超常的な動きをプレイヤーは楽しむはずなんだが、一方であんたのほうは、既に現実で超常的な動きをしてるから、リザルターアーマーのほうがあんたの感覚についていけてないんだ。』



「――いい加減にして。 今はだらだらと説明を聞いている暇はないの。」



『これでも開発者なもんでね。

 もう大体の選別は出来ている。 

 早い話が、高火力兵装と機動力を兼ね備えたカスタマイズにすればいいってことさ。

 ……こんなシチュエーションじゃなきゃ、もっと楽しめるハズなんだがねェ!?』



 彼の恫喝じみた声音を無視して、話を進めるよう促し、読み上げた兵装・カスタムパーツの類をメニュー画面から選び取って、初期型アーマー・通称【バニラアーマー】の姿形を変更させていく。

 クラフトと呼ばれるシステム画面を開いて、そこも坂城諸の指示に全て従った。


 そうして出来上がったアーマーを見て、思わず絶句してしまった。

 これは、なんて面妖だろう。



『バックパックのキャパシティは全て推進系増強用のプロペラントストック――まぁ、とりあえず脚を早くするためのものだと思ってもらっていい――に費やしたため、さっきまで装備していた背部装着型砲塔は使えない。

 代わりに主兵装には手持ちタイプの【軽量型対空砲 ヴィジランテ】を用意した。』



「対空砲……?」



『元は戦闘機の機銃という設定でつくられたのが【ヴィジランテ】だ。

 アーマー装着者が持てるよう、バレルや発射機構を弄ってあって、火力は少なくとも無視できない威力がある。

 まぁ、次世代アーマーの【Ver.ファフニール】は対空砲どころか戦車砲一つを右腕に装着しているんだがね。

 これがまたとんでもない代物でさ。

 砲身に熱が溜まれば溜まるほど――』



「サイトー……。」



 通信口から殴打の音が聞こえてくる。



『聞かれたから答えたんだろうが!? オマエらやっぱり嫌いだわ!

 くそっ、話を戻しゃあいいんだろ?

 【軽量型対空砲 ヴィジランテ】はバニラアーマーじゃ、リコイルが強すぎて駆動系に過剰な負担がかかる。

 だが、今持っている兵装の中で唯一、手に所持して放つことが可能な高火力兵器だ。

 これを使わないとなると、背部装着型砲塔を使わなくちゃならなくなるが、こうするとバックパックのキャパシティを割くことになってしまい、推進力の強化はできなくなってしまう。

 だからこそ、【ヴィジランテ】が最適解なんだ。』



「使ったらイチイチ壊れる兵装じゃ何の意味もないっ」



『わかってるよ。 あんたが面妖だと言葉を漏らしたそいつが、リコイル制御を行うこのカスタマイズの”肝”だ。』



 坂城諸が肝といったそれは、アーマーの脚部、左ひざの箇所から伸びている”盾”のことだ。

 私の正面を丁度覆い隠す形で展開された盾には、【ヴィジランテ】の砲身を突き出す穴が備わっており、反対方向には野球で使う靴のようなスパイクが突き出ている。

 


『機動力を最大限にまで高めるなら、バックパックに推進強化パーツを詰むだけじゃだめだ。アーマーの装甲も薄くする必要があった。

 でもそうなると、アーマー自体の耐久力は低くなりすぎる。

 その弱点を補うのが、カスタムパーツ【格納式ニー・ライオットシールド】ってことさ。

 簡易銃座替わりにすることも可能な優れもの。 


 あんたには、持前の運動神経でこいつを上手く使ってもらう。

 ――無理なら、敵の流れ弾ですら致命傷になる。』



 ……なるほど。

 坂城諸は私の注文通りにアーマーを組んでくれた。

 けれどその一方で、注文をより極端なものに替えて突っ返してきたわけだ。



「わかった。これで構わないわ。

 このアーマーの名前は?」



『名前? あー……カスタイマイズしたアーマーは次世代アーマーと違って、自由に名付けることはできるが……そうだな。 名づけるなら、【ブリッツ】か。

 雷撃のごとく、素早く攻撃して、的を絞らせないように敵を攪乱し、再び雷鳴轟かせる銃弾の雨をお見舞いする。』



「【ブリッツ】、ね。」



『大事なのは重要なのはヘイト管理だ。ヘイトってのはオンラインゲームでいうところの注目度って意味で、対峙する相手の敵対心を煽ればヘイトは高まる。

 高すぎれば、相手はあんたに注目し、不意打ちは狙えなくなる。

 だが、もし相手のヘイトを自由に操ることができれば、極端な話、不意打ちはし放題ってわけだ。 【ブリッツ】はそれがしやすい性能にチューンされている。

 ――まさに、湯本紗矢にはうってつけなんじゃないか?

 ヒトの弱みに付け込んで、ヒトの信頼を得て、ヒトを脅迫して従わせる。』



「調子に乗らないで。

 先輩のことを言ってるのでしょうが、貴方も、戸鐘波留も、その仲間も、VR世界から帰還した先輩を慮ることができなかったのは事実です。

 自身に責がなかったと他人を糾弾するのは身勝手ね。」



『何を――!! もう用件は済んだな? 試運転なりなんなりやればいい。

 こっちはもう付き合わん。』



 通信が切れる。

 正直にいえば、まともにアーマーをセッティングしてくれるとは思っていなかった。

 かといって、義弟のためにやったともあまり思えない。

 坂城諸がアーマーの説明をする声音はあまりにも無邪気だった。


 戸鐘波留も含めて、『スターダスト・オンライン』の開発者はこのゲームを心底愛しているらしい。

 


『どうしますか? 殴ってでも通信させましょうか?』



 話者がサイトーに切り替わる。



「好きにさせなさい。

 ――もう、試運転する時間もないらしいから」



 【ブリッツ】をカスタイマイズしている最中、ラピッド隊の一人から、敵が急速に進路を変更し、中央区こちらへ向かっているという報せを聞いていた。

 


「付近を警護しているアサルター隊は全て私のもとに。 

 アーティラリー隊は即時撤退。可能ならスカウト隊と合流して。」



 一通りの命令を済ませて、来るであろう”古崎徹”に備える。



「サイトー、私の射撃と同時に、古崎徹の痛覚効果をONにして。」



『抜かりなく。』


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