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強襲連戦Ⅱ


左腕が崩されたことで一時的に四肢のバーニア制御に乱れが生じる。

脚部が地上に干渉し、無様にも尻餅をついて〈リヴェンサー〉の蹴りを胸部で受け止める形となった。


雪山で横転した際と同じような体勢で地面を削って勢いを殺そうと努めるが、身体は跳ね上がり、僕はトタンで出来た路地裏の壁へ叩きつけられた。



視界のHUDにはノイズが走り、敵対関係になった〈リヴェンサー〉の赤いプレイヤーネームが歪んで表示されている。


その数メートル先に同じく敵対関係が成立した〈プシ猫〉と【ジェル・ラット】の名前も小さなフォントで確認できた。



「…………あれは?」



ーーでは、それとは逆方向の路地裏最奥に見える赤いプレイヤーネームは誰だろうか?

分かり切っている。

リヴェンサーたちを焚きつけた張本人である姉さんーー戸鐘波瑠の使用するキャラクターに違いない。


〈HAL〉と銘打ったミニマムサイズの少女キャラが、未来チックな長銃を不恰好に抱えていた。


なるほど、壁を貫通してきたレーザー光は姉さんの兵装によるものか。


……不味いな。

リヴェンサーめ、僕に追い打ちをかけずに〈プシ猫〉をキルに向かっている。



「はは。ならいっそ、飛車角交換だ。」



【verシグルド】のショックゲイン機能をバーストモードに変更し、今しがた受けたリヴェンサーの蹴りによるエネルギーを推進力に変換する。

地面を深々と抉った一歩を踏み込んで〈HALⅡ〉というプレイヤーへ肉薄する。


リヴェンサーは僕が〈プシ猫〉を守りに入ると判断していたらしく、彼女に接近するために加速した身体を、〈HALⅡ〉の元へ無理やり急速転換させる。



「会長、やっぱりあんたは傲慢だ!

姉さんを見捨てて〈プシ猫〉を殺すべきだったんだ」



かく言う僕も傲慢な選択を選んでいた。


それは、〈HALⅡ〉への進路上に落ち込んでいた交差する剣二つ【オーバーロード・ソルディ】と【コーティング・アッシュ】の確保。


熱を増幅させたソルディにより、コーティング・アッシュの刀身はたった今、熔解して真っ二つに折れたところだった。


右腕にソルディを取る一方で、ひしゃげて一時的に関節部が麻痺している左腕を用いて、折れたコーティング・アッシュの刀身を掴み上げる。



「方向転換によるスラスターの逆噴射は一時的に身体が静止する。」



特に【ver.ヴァルキリー】のように、増設された推進器があればあるほど、静止転換までの動きは正確さを増して、操縦者の負担がより軽減された綺麗なターンが行える。


けれどそれは、裏を返せば敵の狙いを絞らせない不規則性がなくなるということ。



「当てる……!!」



左腕部のバーニアを過噴射させ、推進力の赴くままにコーティング・アッシュの欠けた刃を〈リヴェンサー〉目掛けて投擲する。


まだ真っ赤に光り輝いて燃える刀身は、隕石のように宙を舞って、リヴェンサーの大翼型背部ユニットの片翼を抉り取った。



「たかが羽一つ捥がれたところで、倒れるわけがない!」



リヴェンサーは怯むことなく、所持していたアサルトライフル型の兵装でこちらを射撃する。


だが数発放ったところで彼の兵装は弾切れをおこした。

それどころか、兵装を構えたリヴェンサー自身も膝を落として地上へ墜落した。



「出力低下!?

動力部に破損は無いはず……。

ッーー。

コーティング・アッシュのバッドステータス付与か」



〈リヴェンサー〉の機動力が減少したのを見計らい、そのまま〈プシ猫〉のバックパック強奪へ移行する。


こちらとて、左腕部へのダメージが著しく、さっきの投擲によって関節駆動部にはエラー表示が。

更に刀身の欠片が帯びた高熱が原因で、指先が融解して折れ曲り、兵装をまともに握れない有様になっている。


このチームの司令塔は十中八九、戸鐘波瑠こと〈HALⅡ〉であることは間違いない。

今すぐにでも片付けて、このバトルロイヤルから退場願いたいと思ったが……今優先すべきは、バックパックの中身にある【ver.シグルド】に纏わるアイテムを奪うことだ。

それに、姉さんを早々に消そうと急くこの気持ちは、冷静とは言い難かった。



しかし、目的を遂げて即時離脱。

そう決めた心は、〈HALⅡ〉の傍らで横たわるもう一人の人物を見つけて揺らいでしまった。



「……あれは、なんだ?」



依然としてHUD表示にはノイズが走っていた。

さっきはダメージを受けたことで生じたゲーム上の演出だと思っていたが、それは間違いだ。


HUDに生じた歪みは、〈HALⅡ〉の付近を中心に広がっている。

時たま、データが書き換えられたかのように文字が打ち直され、やがて横たわる何者かのプレイヤーネームらしきワードが現れた。



〈繝エ繧」繧ケ繧ォ#ヴィスカ〉



その名称が生まれた時点で、僕は【オーバーロード・ソルディ】を片手に彼女へ駆けていた。


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