表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
202/328

惑う刃片


 ブースターの推進力と遠心力に耐え切れず、【フォトンアーム・クラレント】は襲撃者目掛けて回転しながら向かっていく。 



「確かに投げる気で振ったけど!」



 アーマーのパワーアシストですらすっぽ抜ける……?

 〈リヴェンサー〉くんの持つ【コーティング・アッシュ】よりも重いかもしれないってことじゃんか。



 円を描きながら重質量の物体が襲撃者の腹部へと食い込む。

 刃に触れたわけではないようだったが、衝撃よってその身体はくの字に曲がった。

 追撃を仕掛けるならグッドタイミングである。



「うーん、致命打にはならないかー…………ヤバい。」



 ……しかし、悲しいことに〈HALⅡ〉には攻撃手段が残されていなかった。

 今しがた放った剣で敵を突き刺し、そのまま勢いに任せて攻撃しようとした。けれど、まさか【フォトンアーム・クラレント】があそこまで重いとは思わなんだ。



 ――あの剣は多分、”クリーチャー”専用の特殊兵装だ。

 

 HALⅡは襲撃者の足元にズシリと沈む剣を見た。

 『スターダスト・オンライン』の開発者である自分が把握しきれていない兵装となると、それは”オーダーメイド品”、つまりゲーム内のクラフト機能によって自動生成された兵装という意味に他ならない。

 更にあの重量。剣は大型でもない。

 むしろ外見の印象でいえば、枯れた枝のような形状をしているソレは軽量型に見える。


 その理由を考えるに、HALⅡには真っ先に思い当たる節があった。


 アップデートDLC【Dust To Dust】の要素であるプレイヤーのクリーチャー化。

 それに伴い解放されるクリーチャー専用の特殊兵装という隠しコンテンツ。


 【フォトンアーム・クラレント】がその特殊兵装だというなら、既に浄化作戦バトルロイヤルモードが開催されたってことだろうか。

 否、まだ午後10時すぎには早い。

 でもそうでなきゃ、今の時点でクリーチャー化したプレイヤーが存在するってことになる。

 じゃないとクリーチャー専用兵装だってクラフトできないのだから。



「で、それがわかったところで今ここに迫る危機には関係ないんだよねー……」



 よろけていた襲撃者のセンサーアイに光が灯り、四肢が力強く歩行を始める。

 全ては数歩先のHALⅡに反撃するためである。

 その手にある兵装を【ハイラウンダー・グレネーダー】から小型ナイフに切り替える。

 咄嗟にHALⅡは対峙する相手から距離をとろうと後ずさる。

 

 サメ肌のような突起物がいくつも張り巡らされた刀身を襲撃者が振り回すと、慣性のままに刃が分解され、刃片が排出されて宙へと広がっていく。


 いくつかはこちらの脇を抜けていく。

 それを確認した瞬間、HALⅡは防御態勢をとる。



「!!」



 襲撃者は手元に残った刀身の無いナイフの柄を握り込む。

 一瞬だけ付近に稲妻が走ったかと思うと、宙に撒かれたはずの刃片が急激に集約し、やがて〈HALⅡ〉を直線状に捉えた長剣に形を変えた。


 HALⅡはナイフから長剣に姿を変えた刃を避けようと身構えたが、彼女のアーマーに接触するように集合した刃が、サメ肌状の刀身を釣り針のカエシとなって引掛り、回避を阻止する。



「【レーザー誘導式電磁スペツナズナイフ】、厄介なものを持ってるなぁ!」



 襲撃者が一度にナイフを引き抜くと、HALⅡの身体はされるがまま引き寄せられ、襲撃者へと急接近する。 

 そして待ち構える敵が持ち出したのは先ほどのグレネードランチャーだ。



「爆破系兵装を接射するつもり!? 自分だってただじゃすまないのに!」



 刃の収縮に抗おうとすればするほど、刃が食い込んでダメージが深くなる。

 かといって抗わなければ待っているのは爆散だ。


 仮に攻撃を避けたとしても、これ以上打てる手立てもない……!!

 ならいっそ敵と自爆して〈ヴィスカ〉だけでも助ける!



 意を決してキャラロストに身構えたところで、収縮する刃と襲撃者の間にか細い手が割り込んだ。


 アーマーに身を包んでいたとしても、そんなことをすれば忽ち、無数の刃が腕をズタボロに引き裂いてしまう。



「逃げてよ! ヴィスカ!!」



 HALⅡは突如戦闘に乱入してきた彼女ヴィスカへと叫んだ。

 けれど、ヴィスカは虚ろな瞳で襲撃者の持つナイフの柄を包みあげると、それを下方向へと押しのける。

 でもそれだけで集約する刃の群れは抑えきれない。

 庇い立てしたヴィスカの左腕から背中まで、刀身が刺さり込み、果てにはその首にまで深々と貫通する。

 普通ならキャラロストする恐れがある大ダメージだった。

 しかし。



「――――――」



 衝撃的な光景にHALⅡは膝をついた。


 ヴィスカは刃の襲来をものともせず、足元に転がった【フォトンアーム・クラレント】で襲撃者を軽く引き裂いていた。


 股下から脳天にまで振り上げられた剣により、襲撃者は即死判定されてキャラロストする。



『……借りた。』



 ヴィスカはぼそりと一言告げると、何かの電子部品を地面に落として、自身も再び倒れ込んだ。

 刃によるダメージかと疑ったが、いつの間にか刃片が無数に刺さり込んだ彼女の姿は消えている。



「【ジャミング用ホログラミングドローン】を身代わりにして敵に接近したの……?」



 HALⅡの問いには誰も答えなかった。

 





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ