両手いっぱいのレーザー銃
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ログイン時間にはギリギリ間に合ったが、結局、あれこれ手を回した努力は思ったよりも実らなかったらしい。
戸鐘波留ことプレイヤー名〈HALⅡ〉は思わず視線を落としてしまいそうになった。
体躯の小さな彼女のキャラは、他のプレイヤーと比べれば比べるほど大人と子供のような差がある。
原因は『スターダスト・オンライン』開発者である彼女自身の背丈が、ゲームをプレイするための適切な身長に届いてなかったせいだった。
対象年齢15歳以上の『スターダスト・オンライン』にはキャラメイクする際の注意点として、身長は現実の数値と±5以内に設定される。
ゲームプレイに若干のギャップが生まれるためだ。
……だがしかし、戸鐘波留はゲーム内における一番低い身長の数値から+5に設定しても、背丈が足りなかった。
故に、自分の身長と同じであるモデリングキャラをつくってプレイする他なかったのだ。
ゲーム開発の片手間につくっておいた3Dモデリングだったため、リザルターアーマーの装着はできても、一つだけ致命的な欠点があった。
「――サササッと。」
〈HALⅡ〉は恐る恐るメニューからレア兵装【ビゾン・マキシマムレーザーガン】を選択して装備する。
銃身と平行に装着された円筒型スパイラルマガジンは、その下部がフォアグリップと合体しており、装備したプレイヤーにリサイズされて出現する……はずなのだが……。
「重ッ!!??」
〈HALⅡ〉のキャラクターだとその限りではない。
構造上、重心がバレルの先へと傾く【ビゾン・マキシマムレーザーガン】は、〈HALⅡ〉の小さな両の手では持ち切れず、思わず腕からこぼれて地面に転がる。
――やべぇ。アタシ、戦闘できねーじゃん。
意気揚々と4人に召集をかけた本人が、まさか戦闘に参加できないとはこれ如何に?
「大人としての尊厳がー!開発者としての意地がー!
全てー、崩れてくぅ」
今からでも”無印の〈HAL〉”にキャラを切り替えるか?
いやぁでも、強兵装があるのはこっちの”開発者用テストアカウント”だし……。
「満を持してチートアカウントでログインしたのに、これじゃああまりにもかっこ悪すぎない!?」
これじゃあ便利な兵装だけ出して使いこなせない出来損ないじゃんか。
アタシはどこぞの猫型ロボットかー!
――あー、うん。そりゃ失礼千万だ。
コミュ障ひきこもりのアタシじゃの〇太くんを元気づけられるドラ〇もん以下だぁ。
……いや、絶叫してないで真面目に考えよう。
〈HALⅡ〉は【キャリバー・タウン】市場区域の路地裏にて、所持品にある兵装を全て並べてみせた。
このロリっ子でも使える兵装を見つければいい。
「あー【ビゾン・マキシマムレーザーガン】が使えなかったのは正直、痛手だよ。
弾速はゲーム内で最速。 超高速の高熱原体を射出することでアーマーごと貫通する威力が生まれるっていうのに、しかも連射可能……くぅ……。」
まぁ、これはナナちゃんのキャラ〈プシ猫〉に装備させよう。
彼女の射撃技術ならキッチリ使いこなしてくれるだろうし。
「それから……”無反動キャノン砲”に”ウェザーマンアクティブ防護システム”、ジャミング用ホログラミングドローン”……。
ドローンなら使えるかもしれないけど、これってアタシの姿をドローンが映し出すことで影武者になってくれるだけだし……使いどころは微妙かな。
残りは、やっぱりサイズがおかしくなってる……。」
【無反動キャノン砲】はアーマー装着部位のテクスチャが剥がれかかって隙間からエラーメッセージが見える始末。
【ウェザーマン・アクティブ防護システム】は胸部と肩部を囲うようにして装着するため、こちらもサイズが大きすぎて腰のあたりまでズレ落ちてしまう。
「むむむ……。」
唸り声をあげる〈HALⅡ〉はまだ何か装着できるものがないか並べた兵装を目を皿にして眺める。
すると、視界の端に見慣れぬ剣のようなものを見つけた。
少しばかり大振りな剣だが、その刀身は透き通るような水色で構成されており、刃の向こうの景色が透過して星空のように煌めている。
けれどその静謐な美しさに似合わず、形は歪で、枯れた木の枝をそのまま柄に押しこんだかのようだった。
「近接兵装なんて持ってたっけかな?」
〈HALⅡ〉が首を傾げる。
”強化屋”による能力の上昇はまったくしておらず、”反応速度”に至っては一般的なレベルよりも劣る戸鐘波留は、自分が近接戦闘にまったく対応できないことを自負していた。
だからこそ、HUD表示にて【フォトンアーム・クラレント】と称されたその近接兵装がその場にあることを意外に思えてしまう。
レアリティは異常に高い。
上から数えて2番目にレア度高い”エピック”ランクの兵装がゲームの開始地点であるキャリバー・タウンで手に入るわけもなく、〈HALⅡ〉はやはり自分の所持品に混じっていたのだと思いこんでいた。
念のため路地裏を見回すと、車の古タイヤを用いてつくられた下水ホースに何かが引っかかっているのが見えた。
「……嘘……。」
〈HAL〉は言葉がそれ以上出なかった。代わりに足元の兵装を蹴散らして”何か”を抱きかかえると、そのまま一緒に倒れこむようにして地面へと寝かせた。
「……〈ヴィスカ〉、起きて!」
『スターダスト・オンライン』でプレイヤーが意識を失うことは有り得ない。
あるとすればそれは、現実世界において何かしらの非常事態があった場合のみ。
だが、現実で生身の肉体を持たない〈ヴィスカ〉という少女が意識を失っているということは……。
嫌な想像が頭をよぎり、〈HALⅡ〉は一心不乱に彼女を揺さぶった。




