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匿名通報

               ☆



 戸鐘波留は持っていた自身のスマートフォンを耳から離して画面を覗いた。


 呼び出しを続けているその端末に、坂城 諸の声は聞こえてこない。かれこれ30分、ずっと発信中と出るだけで、通話中になる気配は微塵もない。


 時刻は既に午後9時半。

『スターダスト・オンライン』拡張アップデート≪Dust To Dust≫のコンテンツである”バトルロイヤルモード”に古崎徹を強制参加させるには、彼がログインした瞬間を狙わなければならない。


 古崎徹の目的は、他人のプレイアブルキャラクターの使用権を上書きし、自身のプレイイングキャラクターとすることで能力の拡張を行うことだ。


 そのためにはプレイヤーが必要となる。

 バトルロイヤルモードが開始されれば、【キャリバー・タウン】のプレイヤーは参加か、町からの退去を余儀なくされる。

 町から出るリスクを知っている学院会のプレイヤーであれば、ほぼ必ずキャリバータウンへの残留――つまりバトルロイヤルへの参加を選ぶはずだ。


 なら、古崎徹も同じくバトルロイヤルへ参加せざるをえない。


 故に、彼がログインするであろう午後10時ジャストにバトルロイヤルを開始するのが望まれる。



 ……けど。

 諸とロク、午後7時ごろからログインしているはずの二人から連絡がまったくない。


 月谷芥こと〈リヴェンサー〉の薦めであたしの弟・戸鐘路久、〈ロク〉が3年前と同じように再び古崎徹、〈トール〉と直接対決することになったのは、百歩譲ってやむを得ないことかもしれないと思える。

 ロク自身もトールとの対決を望んでいたから。


 でも、こちらが静観しかできない状況はもう懲り懲りだ。



「ムムムムゥ……ウガー!! モロのヤロー、どして連絡よこさないんじゃー!!」



 諸は今、アンチ古崎グループのアジトで『スターダスト・オンライン』をプレイしているはず。

 でもあたしがいるA都心からじゃ、駅から遠いあのアジトまで午後10時までにたどり着ける自信がない。

 だってこの時間は酔っ払いとかいるし、そもそもアジトにたどり着けたとしても、あたしが使う分のログイン端末がない。

 諸の安全を確認しようがしまいが、結局静観しかできないあたしの誕生である。



 このまま自室でログイン待機するのが無難か……?


 そんなこと考えてる間にスマホに通話・着信とは別のアプリにメッセージが入る。



《モロ:いるか》



「諸!? 一体今までなにやってたの!?」



 声に出しながら返信のメッセージを打ち込むと、こちらが打ち終わる前に諸から再びメッセージが入った。



《モロ:そっちのメッセ、見栄ない 文字お菓子なる 察せ》



《ハル:察せってどういう意味? わからないよ》



《モロ:グループうらりぎった 六が的になた ゆもとさや危険 こざきとるが殺される こざきにテロ。察せ》



《ハル:文字化けしてない? 普通に打ってよ》



 …………。

 返信がこない。

 何度か返信を送っている間に諸のメッセージに違和感を覚える。

 いや、違和感しかないけど……これってフリップ操作と変換間違い?


 それに気づいた瞬間、一気に血の気がひいてしまった。

 画面が見れない状態で諸はスマホを操作している……?

 

 ドラマや映画の見過ぎか、躊躇わずに彼のメッセージが意味することを考える。

 こういう時に悪戯とかを疑って二の足を踏むのはナンセンスだ。

 仮に悪戯ならあたしが恥をかくだけ、無問題。

 


「変換間違いとかなら、そのままひらがなに直して、足りない部分は意訳意訳。」

 

 

 ……よし。多分こうだ。


 ”そっちのメッセージが見えない。文字がおかしくなるかもしれない。察してくれ。

アンチグループが裏切った。ロクが敵。湯本紗矢は危険。

古崎徹が殺される。 古崎の家にテロが押し入ってる”


 最後のテロ云々はほとんど憶測にすぎない。


 けど、アンチグループが一部のメンバーを集めて古崎邸を襲う計画を練っていたのをなんとなく知ってはいた。

 いくつかの銃器を用意している一人を偶然見かけたことがあったからだ。

 でも本物とかではなく、モデルガンのパッケージが山積みになっているのも見たことがあったため、冗談にしか思ってはいなかった。

 

 でもまさか実行に移すなんて……。


 ……紗矢ちゃんが危険人物になりえることも、あり得る話だとは思っていた。

 


「あぁもう、大人であるあたしが、紗矢ちゃんを助けなきゃいけなかったのに。」



 ロクを助けだすことに夢中で、あたしは紗矢ちゃんを頼れる協力者としか思おうとしなかった。

 そのツケが回ってきたのかもしれない。


 だからって己の非力を嘆く時間は残されていない。

 諸は最後に「察せ」とメッセージを残した。

 これは、省略した部分をこちらで推察して行動しろという意味に他ならない。



 スマホを手に取って月谷芥や釧路七重にメッセージを飛ばす。

 悲しきかな、アンチグループを除くと今頼れるのは普通の学生である彼らしかいない。



「――公衆電話ってこの辺にあったかな?」



 諸から返信が来ない以上、全部鵜呑みにして行動する。

 ”○○さんちに強盗が入った”なら、警察に電話するのが道理だ。



「まったく彼らは、あたしなんかよりずっと頼もしいよ。」



 送ったメッセージにはすぐ返信がついた。

 月谷芥、釧路七重、瀬川遊丹、笹川宗次、ほぼ同時のタイミングで協力を快諾してくれた。


 


 

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