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【スティングライフル・オルフェウス】


                   ☆


「徹、小物臭い言葉使うの上手だね」



「ストーカー女め。人の言動に口出しするな。

 そのキャラクターも俺の所有物だってことを忘れるなよ」



「むぅ、違うでしょう? 

 元はあたしのキャラクターで、徹が奪って、またあたしが奪い返しただーけっ。 でしょ?」



「ちがうな。北見、オマエには貸し与えただけだ。 

 こちらの手足とならずに明後日な行動をするなら、力づくでも排除する。」



「そんな可愛らしいキャラクターで凄まれてもね。」



 〈北見灯子〉はそう言うと、古崎徹の頭を撫でた。

 やや彼女のプレイヤーキャラよりも、古崎徹が操る”〈ヴィスカ〉”というキャラクターは背が低い。

 その手触りの良い水色とブロントが遊ぶ長髪に幾度か指先を滑らせると、唐突に腹部へと衝撃が走る。



「と、徹、今初めてあたしに手をあげたね!

 徹の子供を孕むかもしれないお腹殴っていいと思ってるの!?」



「孕むわきゃねえだろ、低能が。」



「あ、そうね。これVR空間だもん。

 じゃあ猟奇的な性癖に付き合うのも良妻の努めってやつかな?

 もっと殴る?」



 既に〈北見灯子〉のキャラクターは装着しているアーマーごと満身創痍だ。

 その裂傷や破損部位を見るに、単純なダメージというよりも、無茶な戦い方で生じたものに見える。

 そんな身体を「もっと殴れ」だの言ってくるコイツははっきりいって正気じゃない。

 仮に俺が殴るような奴でも構わないという態度も色々振り切れている。  



「…………頭痛くなってきた。」



「そりゃあ大変。 あたしが代わりに【ジェネシス・アーサー】を引き入れてあげよっか?」



 悪戯に微笑む北見。



「そんなボロボロのアーマーじゃ、不意でもつかない限り不可能だ。

 接近がバレた時点ですぐさま応戦されキャラはロスト。

 それだとオマエのキャラクターがもったいない。」



 現在、【スティングライフル・オルフェウス】による効果でキャラクター内部の神経系情報を〈古崎徹〉のものに書き換えた。

 これにより、撃たれて書き換えられた〈ヴィスカ〉のキャラクターの使用権限は〈古崎徹〉へと移っている。


 弓がないボウガン型のハンドメイドライフル銃【スティングライフル・オルフェウス】には虫に似たクリーチャー【チャフ・グレムビー】の状態異常効果が備わっている。


 その状態異常効果というのが、キャラクターの支配である。

 【チャフ・グレムビー】の毒針に刺された者は、チャフ・グレムビーとして他プレイヤーを襲うようになる。


 ゲームの中であればそこまで珍しくもない状態異常だが、〈古崎徹〉はこれを応用して、他者のキャラクターを自分のキャラクターに書き換えるよう、【スティングライフル・オルフェウス】に設定したのだ。



 この兵装のおかげで古崎徹は〈ヴィスカ〉というキャラクターを奪い取るに至った。


 本来であれば元々使っていた〈北見灯子〉のキャラクターも同時に操れる予定だったのだが……遺憾なことに、〈ヴィスカ〉を支配した瞬間、〈北見灯子〉のプレイキャラクターが今話している”北見灯子”に奪い返されてしまった。


 ……どういう経緯でそうなったか、まだ詳しく調べることはできていないが、どうやら北見灯子の神経系情報は、俺〈古崎徹〉の神経系情報とイコールで結ばれてしまっているらしい。


 神経系情報はこのスターダスト・オンラインというゲームにおいて、もっとも信頼できる個人情報にあたる。

 他のオンラインゲームみたいに、ログインIDやパスワードは使わずとも、神経系情報がそれを担ってくれる。



 ――故に、俺がいくら【オルフェウス】で支配できるキャラを増やそうとも、その使用権限は俺だけじゃなく彼女にも及ぶということだ。



「今更ね。

 M.N.C.のリハビリプログラムであたしの力は証明したと思うんだけど?」



「あれは設定の数値を弄ったからできたことだろ?

 スターダスト・オンラインではまだ、リハビリプログラムのように思考能力の拡大はできない。

 もっと支配できるキャラクターを増やさなければ、神経系情報をフルに活用できる器が用意できない。

 だからこそ、俺は今から【ジェネシス・アーサー】を支配しにいく。」



 ゲームメニュー画面を開き、徹は【スレイプニーラビット】と称されたアーマーに装備されているいくつか兵装を確認する。

 視界の端で北見が何かを話しているようだったが、あえてスルーした。



「【有線式アンカーボルト】【強化合金トライクロウ】……アクティブにされている武装がこれだけ?

 全部殺傷能力に欠ける武器ばかりじゃないか。

 ……癪に障るな。 人を傷つけない善人プレイなんぞ反吐が出る。」



 一方で武装解除されている機能はどれもエグイほど強襲に適したものばかりだ。

 かつてトールを倒した【ハッキングケーブル シルベの糸】は相手の兵装をコントロール下に置く特殊兵装。

 これをアンカーボルトと接続すれば乏しい有効射程は広がり、弱点はほぼなくなる。

 極めつけはこの【アリアドネ・ユニット】。

 装着状態にすると八つの蜘蛛足がアーマーから現れ、それらが射出する避雷針へと雷を走らせる。

 アーマーの動力部どころか、中身の人体にも致命的なダメージを与える兵装だ。

 足を止める兵装に見えて、命取りに来る性能……ある意味汎用性は低く調整されているのかもしれない。


 他にも火力過多な【高出力レーザーライフル】なるものまで予備兵装に備わっている。

 全部、戸鐘波留が彼女のためにあつらえたものだろうか?

 はっきり言ってチート級のアーマーセットだ。



「……【ジェネシス・アーサー】には使うつもりだったのかもな。」



 危なかった。

 もし【ジェネシス・アーサー】がキルされていたら、また別の支配先を選ばないとならないが、そんな時間は生憎残されていそうにない。



「ジェネシス・アーサーを探す。 〈名無し〉の話ぶりから察するに、あれは近くにいる。」



 〈北見灯子〉がどうするか聞かないうちに【スレイプニーラビット】の推進器を起動させる。

 どうせ北見のアーマーでは追い付けない。

 それに、彼女ならキャラロストするヘマは犯さないだろう。


 ――ロストすれば俺の野望にとってマイナスになる。こっちを失望させることになる。

 なんだかんだ、北見は俺のことを茶化しはしても、足手まといにはなっていない。


 それを信頼する。



              ☆

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