Take me lower.
放熱フィンの効果で冷却時間が急激に短縮されたらしい。
ついさっきまで”火球”を使った帯熱に悩まされていた胴体が完全崩壊に至る前に何とか凌いでくれた。
鳩尾部分、火球を形成する薬室は厚皮を透過した赤色を最早白色に発光させ、その外皮部分にあたるタール状の液体は灼熱で気化して不可思議なビビッド色を纏わせている。
……完全崩壊とはつまり、僕の身体が胴体を境に熔け落ちて真っ二つに別れるという意味だが……。
たとえそうはならなかったとしても、この有様を見ると無事だとは言い難い。
元から外見のキモさが振り切っているからそれほど気にならないが、胴体付近のところどころが水膨れっぽく腫れあがっていて、ふと人間のままだったらどのような描写になるのか想像して身震いする。
「■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッッァァアアアアァァァアアアァアアア!!」
そんな熱傷に刺すような轟声が【ジェネシス・アーサー】が発せられた。
同時に奴の腕部及び脚部ともいえる四足に装着されていた計10門以上のミサイルポッドから、飛翔する鳥の群れじみたミサイルが飛び立つ。
ある程度の高度を取ったかと思うと、今度は急降下して僕のほうへとミサイルは加速する。
放熱フィンを利用した粒子散布による視界干渉機能――アンチ・グラムシステムによって、ターゲットを絞れないとわかった途端、すぐに点ではなく面での攻撃に切り替えた……!
クリーチャーのくせして判断力が冴えている。
しかも広範囲の爆撃では粒子散布も不安定になるかもしれない。
そうなったら、今度こそ狙い撃たれて終わりだ。
【16mm大口径機関銃QM640】の銃身冷却には十二分に耐えていたが、こちらの”火球”による放熱には追い付けるだろうか?
『考えている暇はないか、”火球”連続発射!!』
ランダムに辺りを爆破しようと迫りくるミサイルの内、爆風が及びそうなものだけを選んで火球を放つ。
瞬間、火球が通過した箇所だけ辺り一面を覆っていた粒子の煌めきが消え去った。
そ、そうか。敵の砲弾すら打ち消した”火球”だ。
当然、散布された粒子だって飲み込んでしまう。
粒子による隠ぺいからの火球でスナイプ→火球による帯熱の処理→放熱によって粒子散布→スナイプ位置の隠蔽→以下、繰り返し…。
思いついたそんなスーパーチートコンボの算段が消えてしまった……。
放った火球はこちらの狙い通りにミサイルを迎撃することに成功する。
幸いにも火球の連続発射に身体は耐えてくれた。
オフィサー戦で〈リヴェンサー〉を正気に戻したときもそうだったけど、いざってときに役立つのはゲームシステムに則った効果だったりする。
現実世界じゃたかが放熱フィンの一部を身体に埋め込んだ(?)だけでこう容易く熱の循環がうまく回るはずもない。
まぁ、そのゲームシステムのせいで火球がミサイルどころか散布した粒子までをかき消しちゃったわけだけど。
再び破裂音の混じったジェット機のエンジン音が響く。
――粒子が途切れたのは火球を放った一瞬。
だが【ジェネシス・アーサー】はその間に現れた僕の姿を捉え、すぐさま攻勢に出ていた。
奴の装甲に取り付けられた巨大スラスターとバーニア各種が唸って真っ赤な推進剤を吐き出す。
ヴィスカのアーマー【スレイプニー・ラビット】よりは鈍足にも思えるが、あの巨体が高速移動してくる時点でSAN値が下がりそうな勢いだ。
【クラレント】の歪な切っ先を敵へ向け、防御の耐性に入る。
もちろんこちらも”火球”による迎撃の準備は万端だった。
だがしかし、【ジェネシス・アーサー】は各部位のバーニアを進行方向とは逆に噴射させ、急激に速度を落とした。
空気の壁が一斉にこちらまで降り注ぎ、身体がよろめきそうになる。
フェイントのつもりか!?
逆だ。的が止まってくれるなら、こっちだって”火球”をあてるのは容易い!!
――”火球”三点バースト射撃!
こちらも幕を張るように敵へと三つの火球を放つ。
打ち上げ花火の尺玉が上空のジェットエンジン目掛けて飛翔する。
が、尺玉は花開くことなく、代わりに僕の足元が爆破された。
【ジェネシス・アーサー】の身体が不可思議に浮かび上がり、巨体が空中で反転してまたしてもこちらへの接近を開始する。
『ッつ……、背部の主砲を撃った反動で軌道を変えたのか。
オマケに放たれた砲弾がけん制の役割まで担うなんて。』
その図体が出来ていい動きじゃないぞ。
まるっきり別ゲーじゃないか。 こっちにもなんかスーパーロボット的なの寄越せ。
パワードスーツで倒すレベル超えてるんだよ、ばっきゃろー。パワードスーツ着てないけど。
と、現実逃避ならぬゲーム逃避はおいといて、あの空中機動は確かに〈名無し〉によるもの。
つまりヴィスカと同じくらい、奴はアーマーを使いこなせるってことだ。
――けど、こっちにだって”火球”がある程度自由につかえる以上、奥の手ってものが生まれてるんだよ。
天が堕ちてくるような巨躯の急降下。
おそらく地上のどこにも逃げ場はないだろう。
奴にはバリエーション豊かな武装が数多く備わっているのだから。
でもそれなら地下は?
僕はわずか前方の地面に向かって”火球”を放った。




