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アップデート、アクティベート。


 あの進化はダメージ増加による形態変化か?

 ボスモンスターが一度の討伐でやられないことくらい、昨今のゲームじゃ当然のことだが、それにしたって何の前触れもなさすぎる。

 確かにリンドーによる【ドラグカノン】の一撃やヘイト稼ぎのために乱射した機関銃座による攻撃でダメージは与えていたが、奴にとっては微々たる程度のはず。


 というより、裏ボスクリーチャーの【エルド・アーサー】すら凌駕する第二形態がその劣等種である【ジェネシス・アーサー】にできるってのもおかしい話だ。

 【エルド・アーサー】は捨てられたジャンクパーツを兵装として利用していたが、攻撃パターンが増えるという常識の範囲内で進化してくれていた。


 だが【ジェネシス・アーサー】は、もはやクリーチャー用のリザルターアーマーと言っても過言ではない重装甲に身を包んでいる。

 単純にそこらへんにある装甲板を張り付けたものではない。

 クリーチャーの婉曲した四肢に装着できるよう整備されたオーダーメイドアーマーだ。


 フェイスアーマー部位には【ジェネシス・アーサー】の視認力を高めてしまう回転式のレンズフィルターが赤、青、紫の光を発しながら薄暗闇で残光を漂わせる。


 倍率レンズらしき赤のレンズで一点を見据えているということは、奴は既にこちらの姿を捉えているのかもしれない。

 その巨躯の背中に取り付けられたバックパックから、組み立て式のキャノン砲が姿を現す。 

 【ドラグカノン】の大口径を難なく超える正真正銘の砲身が射撃準備を開始する。

 


『戦車どころか、あれじゃ四足の機動兵器じゃないか。

 はっきりいって別ゲーすぎる!』



 つか、こっちは”開眼”状態だからかろうじて見えているのであって、あの射程から撃たれたら普通のプレイヤーは、あっちが外してくれない限り、ほぼ不意を突かれて大ダメージを負うに決まってる。

 第二形態から不意打ちで先制するとか、鬼畜の所業だ。


 あるいは、【ジェネシス・アーサー】に取り込まれた〈名無し〉の神経系情報が何かしら作用したか。



『よし、こっちも準備はできた。――”火球”』



 体内の熱が喉元から這い上がってくる。

 口腔で一度ためたあと、一気に息を吐き出して40㎝ほどの火球を天井と壁の間に向けて放つ。


 あえて敵のほうへ接近してまで来た道を引き返した理由がこれだ。

 まだジャンク置き場の金属片が敷き詰められている通路、ここなら――。



 狙い通りの箇所に着弾した火球は、ガラクタに接触した瞬間に巨大な火炎となって爆発し、その範囲内にあるガラクタを消失させた。


 支えを失ったことで通路へと瓦礫や金属片が雪崩れ込み、通路を更に狭めていく。

 敵側の行動範囲を狭めてしまえば”火球”をあてやすくなる、けど。



『焼石に水っぽいかも……やらないよかマシだと思いたい』



 通路のボトルネックじみた箇所へと陣を取り、敵へ向けて攻撃する準備を整えた。


 やがて巨躯による地鳴りとジェット噴射の轟音が近づいてくる。

 もう奴は開眼なしで視認できるほどの距離に迫っていた。

 青き流星のごとく一つの鉄の塊が推進剤を伴って今まさに跳躍する。



 その最中、赤白い発光を確認した。

 背部のキャノン砲による射撃ではない。おそらく前腕や胸部に取り付けられた副兵装のバルカンの類だろう。

 だが、無数の火花がガラクタのバリケードへと着弾して”炸裂”した。


 主砲を使ったわけでもないのに、バリケードは難なく弾け飛んで通路が清掃されていく。

 むしろこうなってしまったら、飛んできた金属片が当たってこっちのほうが危険だ。


 全然マシじゃない! 藪蛇極まりない!



 半ばヤケクソで再度”火球”を放つ。

 さきほど撃ったときの熱がまだ冷めていなかったが、四の五の言っている間にこっちは5トントラック並みのタックルを喰らう羽目になる。


 相手が放つ弾の軌道と重なるようにして放たれた火球は、炸裂弾の一発と触れただけですぐさま爆発してしまう。

 だが、その爆発の範囲に飲み込まれた弾丸はどんな威力を誇ろうが消失させてしまう。



『よし、やっぱり”オブジェクト”に対してならこの火球は例外なく消滅させることができるっ』



 しかし【ジェネシス・アーサー】は脚部に取り付けてあるジェットエンジンを反転させると、推進力を進行方向の逆に噴射して急停止した。

 それどころか、その反動すらリコイル制御に利用して背部のキャノン砲を発射する。


 砲塔はサボを口からばらまき、砲弾は空気の壁をいくつもぶち破ってこちらへと迫ってくる。



 一方でこちらは”火球”の2連射で既に身体が気味の悪い灼熱に侵されている。

 痛みがないというのも考えものかもしれない。自分の身体が限界だと漠然と理解できるのに訴えてくるべき痛覚が【モルドレッド】にはないのだから。



『それでも、撃つ!』



 融解寸前な体内の熱袋に活を入れてもう一弾……否、あのキャノン砲弾が近くで着弾した時点で直撃でなくとも被害は甚大になる。

 ならば、着弾前に消滅させるしかない。


 そのためにはもっと広範囲をカバーできるように”火球”をばらまく必要があるっ。


 火球の4連射による弾幕を張る。

 

 内、最後に放った火球が砲弾に触れたらしく、遅れてきた発射の轟音を間抜けに途切れさせて砲弾を消滅させる。


 他の3つは両壁へとばらつき、新たなジャンクのバリケードを形成させた。



『――凌いだ! ……っ』



 だが、吐き気……というより息苦しさを感じてせき込むと、泥っぽい粘性のある体液が地面へと落ち込む。

 舌にはアイス舐めたようなドロリとした感触を感じた。



『(これ、もしかして火球のせいで体内から身体が熔けて――)』



 声が出ず、音声認識によって動くボイスセットは僕の声を人間のものに変更してくれない。


 ――もし痛みがあったらそれこそとてつもない地獄を今頃味わっているだろう。


 一度は相手の足を止めることはできた。

 ここはわずかに撤退して建物の影から不意打ちを仕掛けるべきだ。


 そう考えて踵を返した瞬間、ずるりと腹部あたりが滑り堕ちるような感覚に陥る。



 ――腹部の筋繊維まで熔けたってことか!?



 手足は動くのにイマイチ上手く動けない。不意に脱力して地面に倒れこむ。

 これほど筋肉の連結は大事だったのだと実感したひと時はない。



 這ってでも逃げようとしたところで僕の身体はあえなく巨躯の前足に押しつぶされた。



『(一瞬で距離を詰め過ぎなんだよ、この化物が……。)』



 罵詈雑言すら言えぬまま、僕は結局表情に影を落としてこちらを見下ろす【ジェネシス・アーサー】を睨みつけるしかなかった。

 踏まれたことで銃座の支えがへし折られ、僕の脇へと落ち込んで横たわる。




 【設置型16mm大口径機関銃QM640】のHUD表示が僕の視界に浮かんで消えていく。

 一応兵装としてはレア度が高い部類だ。

 ……あっちが使えるなら、僕のほうも使えろよ。同じクリーチャーだろうが!



 ……ん、HUD表示?

 どうしてリザルターアーマーも装備していない僕の視界に、こんな電子的SFチックなディスプレイが表示されているんだ?

 

 なんとなしに右下にあったロゴを読み上げる。



 ――[Stardust Online Ver.1.2 ”Dust To Dust.”]。



 ”塵から塵へ”。 スターダスト・オンラインがアップデートされた……?



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