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ジャンク・ジャンク・ジャンク・ヤード

                ☆





 リンドーが案内するジャンク置き場から【ジェネシス・アーサー】の通過しようとしているシールドの箇所まで、道はあってないようなものだった。

 強いていうなら、獣道がごとくゴミ溜めが若干掃けているような気がするだけの経路だ。

 ただ、僕が元から知っている【ジェネシス・アーサー】へのルートよりはかなり近道になっているようで、僕ら3人は迅速に現場へたどり着くことができた。


 ……たどり着いたところでやはり打つ手がないことに代わりはない。



『あるのは【Ver.ファフニール】の代名詞ともいえる【25mmドラグカノン】とパーツがいくつか。

 といっても、ドラグカノンの使用にはアーマーのエネルギーが必要。

 そのエネルギー供給ができるジェネレーターは損傷の激しいジャンク手前のが一つ、リンドーのが一つ。

 どちらも最大出力で1発撃った途端にジェネレーターがダウンするかオーバーヒートするか。』



「ジェネレーターが機能停止に陥れば、推進剤を使った高速移動はもちろん、四肢のコントロールすらままならなくなります……。」



 ヴィスカと二人で目の前の惨事を眺めながら僕らは溜息をつく。



『従わせてる……というより、競い合いながらシールドを通過しようとしている風にみえるね。』



「元々の通路が狭いので二人とも瓦礫の壁を削りながら迫っているようです。」



『……ここまで絵面が酷いとB級ホラーみたいに思えてきちゃうな。』


 

 さっきはあくまでクリーチャー”っぽく”見えていた〈北見灯子〉は人型のナリをしていても【ジェネシス・アーサー】と並べば何ら遜色ない化物だった。

 一方でそのジェネシス・アーサーのほうは、【エルド・アーサー】よりも体格は一回りほど小さいが、どことなく嫌な威圧感を感ぜざるを得ないような獰猛さがあった。


 というより、見ていて痛々しさがある。


 『スターダスト・オンライン』におけるクリーチャーのダメージ表現が事細かに設定されているのは【モルドレッド】の身体を使いこなす僕自身よく知っている。

 爪が割れたり、今みたいに胸部の厚皮が剥がれて体液でべとべとになったり、そういったダメージの蓄積量が外見でわかるようになっている。

 プレイヤーは傷のある箇所を観察して攻撃することで効率的にクリーチャーを倒せるようになっているわけだが……。


 はっきり言って僕はもうプレイヤーという立場にはいない。

 かといって自身をもってこの世界の一員だと言えるわけでもない。


 けど、【ジェネシス・アーサー】がシールドに叩きつけて体毛から露出したピンク色の生肌が裂かれていくのを見ると嫌な気分になる。

 しかもアレが、ヴィスカの受けた”苦痛”をその身に内包しているだと聞いたら、なおのこと気の毒で仕方ない。


 シールドは依然として怪物の侵入を拒み続けている。

 だけど時々、シールドの透明な表面が波打ったように揺らぐことがあった。

 僕が通過したときもそうだったかもしれない。

 北見灯子から逃走する際、リンドーがシールドを通過した際は透明なままだったけど、僕が通過しようとした瞬間、歪みのようなものが見えた。

 だから僕はそこにシールドがあることに気づけたのだ。


 その経験を鑑みるに、やはり[フリューゲル・アンス]の言い分は正しいのかもしれない。


 シールドが大丈夫そうなら逃げ出すことも選択肢にあったが、こうなると忍びない。

 もっとも、僕ではなくヴィスカのほうは不十分な戦力でも一人で立ち向かうだろう。



『また自分のせいで迷惑がかかってる……。 とか考えてないよな?』



「……。」



 ヴィスカは一度困ったような笑みを浮かべると首を横に振った。



「大丈夫ですよ。 NPCを守りたいって思う気持ちのほうが強いです。

 以前、NPCでもプレイヤーでもない曖昧な存在だった私は、皆さんに認識すらされていませんでした。

 けど今は形はどうあれ、皆さんに頼られてますから嬉しいです。

 ……なんて言ったら我田引水みたいですが」



『なら僕だってとんだ自作自演野郎だよ。 自分でつくった自我有りNPCを守ろうとして良い気になろうとしてるんだから。』



「……それは、なんだかちょっと面白いです。」



 ヴィスカがクスクスと笑い声をあげる。

 僕のほうもつられて笑ってしまった。



『そうだ。 僕ら二人でマッチポンプみたいにスターダスト・オンラインを遊んでるんだ。そう思うとこの世界の中心が僕らにあるように思えてくる。』



 ヴィスカの思い通り、というわけにはいかないが、今見える範囲のスターダスト・オンラインという世界は確実にヴィスカや僕の”ために”忙しなく動いてるわけだ。



「フフ、私たちはワルいですね。

 ……けどそろそろ、お片付けしないといけません」



『……だな。 よし、今から作戦を伝え――』



 分の悪い作戦を伝えようとしたところで、僕らを呼び止める声が二つ聞こえた。

 そこにはガラクタ山の影に隠れるようにして、こちらに手招きするミストレイ兄妹の姿があった。

 終始辺りを見回しているところを見ると、どうやら二人は誰かの視線が怖いようだった。



「イチモツ様、あと……えっと、ヴィスカ様。 こっちこっち。」



 歩み寄って彼らが背に隠しきれない鉄の塊を発見する。

 ガラクタに埋もれていれば、なんてことはない外套掛けのような鉄の支柱だが、注意深く見るとそれは、逆さに倒れた台座付きの重機関銃だった。



『二人とも、これ……。』



「そぉ。イチモツ様やヴィスカ様がゴミ漁りしてたから、もしかしたらこの前見つけた武器が役に立つかもって、こっそり地下から持ってきたの。

 嬉しい?」



『もちろん。ありがとう!』



「えへへ……。それと、さっきは脚を斬ってごめんなさい。」



 リス・ミストレイは得意げに胸を張ったあと、テンションを急降下させて顔を俯かせる。

 


『気にすることないって、もう治りかけているしね。』



 すると今度はテンションを急上昇させて「だよねっ!」と笑みをかえした。

 モノで彼女に釣られている感覚はあったが、この際無問題ってやつだ。


 リスは視線を兄であるレンへと向けた。レンはぎょっとした表情で身体をビクつかせたあと、後ろで手を組みながらヴィスカへと歩み寄った。



「ヴィスカ様。さっきは、銃をむけてごめんなさい。 

 ……これ、使ってください。

 【電磁式ライフル】についてたカスタムパーツ、ボクには使えなかったから、外してたんです。 でもさっき、ヴィスカ様はエネルギーが足りないって困っていたから……。」



「うん、ありがと。私は全然怒ってないよ。 もし全部終わったらお話しようね」



 ヴィスカが柔らかい言葉選びでレンを安堵させている一方で、レンが後ろ手に隠し持っていたものを見た僕は、だらしなくマズル口を開いたままにしてしまった。



『エピックレアパーツ【マス・エフェクト・コア】……。』



 前に僕が初回ガチャで当てたカスタムパーツ。

 このシールドを町全体に張り巡らしている巨大兵器『キャリバーNX09』に使われているエネルギーコアだ……。

 幾分かリザルターアーマー用に小型化されていたソレを、僕は以前〈プシ猫〉というプレイヤーの【電磁ライフル】にカスタムアタッチメントとして使った。

 そして、流星が押し寄せるかのような一撃をみたことがあった。


 そうか。レンが使ってたライフルは、プシ猫が〈リヴェンサー〉に破壊された武装のリペア品か。

 それなら当然【マス・エフェクト・コア】だって付属している。


 破格のエネルギーを発するこのパーツは、ジェネレーターとして使うことができる……!!


 状況が一気に好転した。

 つい先ほどまでの悩みは、エネルギー供給が足りず、ジェネレーター部位自身が各パーツのエネルギー需要に間に合わないことが問題だった。


 でも【マス・エフェクト・コア】があれば、むしろ各部位へのエネルギー供給は”過多”レベルにまで跳ね上がる。

 しかも、だ。

 このパーツの唯一の弱点だった電子回路系への負担やあまり余ったエネルギーによる各武装・バーニア系のオーバーヒートは、ヴィスカの装着している【スレイプニーラビット】の剛性で十二分に耐えられるはず。



 し、しかも……こちらにある銃座付き重機関銃さんはどんなシューティングゲームでも放熱に悩まされる類の武装ではありませんか……!!



『く、クハハハ……なんだか楽しくなってきた!!』



 エネルギー供給は十分、しかもその無尽蔵のエネルギーをフルに使える銃座が一つ。

 弱点は武装のオーバーヒートとくれば、ここに出しましたるは【Ver.ファフニール】の金色放熱ユニット!



「ねぇねぇ、イチモツ様の様子がおかしいんだけど……」



「あ、僕知ってるよ。 イチモツ様録・第69度目の賦与で、ガクインカイの隠れ家に忍びこんだイチモツ様が兵装漁ってるとき、こんな感じだったと思う。」



「イチモツさんは『スターダスト・オンライン』が大好きですから」



 脇で僕の話題が交わされているようだったが、今の僕は【ジェネシス・アーサー】や北見灯子を如何にして撃退するか、に夢中になっていた。


 …………あ。



『よし、思いついた! 僕、今から戦車になる!』



「――ヴィスカ様、ホントにイチモツ様頭大丈夫?」



「……多分。」



 

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