アーマード・フィラー
☆
『金色の粒子……? 金粉みたいに体液にへばりついてる。』
これどこかで見たことがあるんだけど……、なんだったっけ?
すんなりと思い出せそうな気がしたのに、記憶を参照した瞬間にその項目に繋がる引き出しがなくなる感覚があった。
だが、たとえ思い出せなくとも、この微妙に記憶が消えている感覚には覚えがあった。
僕自身の記憶が曖昧になる瞬間は、〈ロク〉に自分のキャラクターが奪われた前後である場合が多い。加えて、現実世界での戸鐘路久に関するパーソナルデータなんかも今じゃ希薄になりつつある。
それでも、この金色の粒子が舞う光景は明らかにSFチック――つまり【スターダスト・オンライン】内特有の光景といえる。ゲーム内の出来事はまだそれなりに覚えているのだから、おそらくこの記憶の希薄化は前者・キャラが奪われた際のものだろう。
『そこから推理するに、これってもしや……。』
「はい、オフィサー・木馬太一が使っていた次世代アーマーです」
こちらの考えを先読みしてヴィスカが返事を返す。
足取り軽く、彼女はついさきほどまで僕が探索していたジャンク山の一つを当たっていた。
想起の後押しになって僕は思わず自身の手を叩いていた。
そうだ、オフィサーが使っていた次世代アーマー【Ver.ファフニール】は元々重装甲に守られたやや機動性に欠けるデザインの後方支援機だった。
右腕に取り付けられた【25mmドラク・カノン】と呼ばれる携行型砲塔を装備しているのが特徴的だったが、このアーマーの真価はそれだけではなかった。
【アンチグラム・システム】。
重装甲板をパージすることで、黄金の結晶体によってつくられた放熱フィンを露出させる。
露出したフィンは接続された【25mmドラク・カノン】の帯熱を放出する一方で、光学系兵装を無効化する粒子も散布する。
加えて光の屈折を利用してアーマー装着者の姿を歪め、実弾系兵装による射撃にも対応できる。
確かこんな感じのアーマーだったと思う。
なるほど、オフィサーもキャラロストしたのだから、彼の使用したアーマーもまたジャンク品としてここに流れつくのか。
『【アンチグラム】の防御機能はあんまり意味ないかもしれないけど、【25mmドラク・カノン】の砲弾並みの一撃なら【ジェネシス・アーサー】にも深手を負わせられる!
しかも遠距離支援ならリンドーがいるし……。
うん、ツキが回ってきた!』
意気揚々とヴィスカとともに金属片の山をあさる。
放熱フィンの欠片が胸に付着したのはこの辺りだったはず……。
「……見つけました! 多分、砲塔のところを掴んでいます!
今ひっぱりあげますね」
『OK! 僕も手伝うっ!』
陽炎で揺らめいた【Ver.ファフニール】の黄金色の姿は僕以上にゴツくて重々しい感じだった。多分重量もそれなりにある。
今のヴィスカのジェネレーターだと引っ張りだす力が足りないかもしれない。
『よいしょっと』
……なんというか、ヴィスカの身体を抱きかかえることにも躊躇がなくなったな。
ヴィスカ自身があんまり意識してこないから、一方で僕が変に意識するのも恥ずかしい気持ちがあった。
【モルドレッド】の腕の大きさ的に、彼女の胸部にあたる部分(装甲の上から、である)へ触れざるを得ないけど、彼女自身も別段何か反応する素振りはないし……。
さっき、リスと僕が話していたときのリアクションといい、ヴィスカ自身、まだ”そういう”ことを意識する前に今の状況に陥ったののかもしれない。
――というしんみりした考えは程ほどに、僕はできうる限りしっかりと彼女を固定しつつ、まだ本調子とはいえない2足でふんばる。
ヴィスカも一瞬だけバーニアの推進力を用いて後方へと跳び上がった。
「ひゃぁっ!!」
『ぬあぁぁああぁ!?!?』
が次の瞬間、ジャンク山に埋もれているソレは呆気なく出てきてしまい、そのせいで出せる力の限りを発揮した僕ら二人は、行き場を無くした運動エネルギーとともに宙へと投げ出された。
尻尾を身体に巻き付かせて背中から別のガラクタ山へと叩きつけられ、揺り籠チックに大きく半回転してなんとか勢いを殺す。
『大丈夫か!?』
「は、はい。……でも、これ。」
視線を落としたヴィスカは自身が手に持っている”ジャンク”を掲げた。
『思ったよりも軽く引き抜けたのはそういうことか』
かつて【Ver.ファフニール】だったものは見るも無残にほぼ全ての装甲が引き剥がされていた。
殴打によるへこみ、鋭利な刃物による裂傷、爆発に巻き込まれたであろう乱雑な切断面。
それらの傷によってアーマーは基本的な骨組みだけを残し、ジャンクに成り下がっていた。
「あの……さきに謝っておきます……ごめんなさい。」
言わなければ多分僕は思い出せなかっただろうに……。
ヴィスカが謝る姿をみて【Ver.ファフニール】をここまで痛めつけたのは紛れもなく彼女だったことを想いだした。
【スレイプニーラビット】を装着した彼女は、僕が勝てなかったオフィサーを10秒と経たぬ間に圧倒し、キャラロストまで追い込んだのだ。
『ヴィスカが倒してなかったら今僕はここにいないよ。
ホント、どこにもいなくなってたと思うから、謝る必要ないって。
……でも肝心のジェネレーター部位の損傷が激しいな。
これだと今使ってるジェネレーターの出力とそう変わらない。
本来だったら砲弾を連発できるくらいのエネルギーがあるのに。
……使えそうなのは残った装甲版と黄金の放熱フィン、それとこの【25mmドラク・カノン】か。
武装に関しては結局、出力不足で連発は不可能か。
くそぅ、僕にもアーマーが使えたらなぁ』
それでも今あるもので随時作戦を練っていかないとならない。
こうしている間にも【ジェネシス・アーサー】の襲撃は迫ってきている。
使えるパーツ類を探索しながらも一番有効なカスタマイズを思案する。
やがて、シールドの様子を見に行っていたであろうリンドーが戻ると開口一番に告げた。
「旦那! 現れましたぜ!【ジェネシス・アーサー】が!!
――しかも、お連れを一人従わせていやした。」




