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偽装侵入者


 僕ら二人が取り押さえられると同時にすぐ近くからも抵抗の声があがった。



「お、おいおいおい! こりゃ一体どういうことだ?

 [リンドー・ミストレイ]はプレイヤーに銃口を向けられることはあれど、同じNPCにまでそうされる理由はないぜ!」



 僕らと同じようにリンドー・ミストレイもまた身動きが取れない状況になっているらしい。

 今まで潜伏していたであろうキャリバータウン内のNPCが群れになってリンドーの逃げ場を無くしている。


 一方で僕やヴィスカのほうは[リン・ミストレイ]、[レン・ミストレイ]の兄妹がそれぞれ対応している。



「イチモツ様、それ以上動くと左足がもげてしまうわ。

 どうか無駄な抵抗はやめてね」



 【延長式はんだこてブレード】がいくらふざけた名前であっても立派な近接兵装だ。

 当然、生身の人間が使えるようにはできていない。


 身をよじってリンの姿を確かめる。

 そこにはビビッドな黄色と青の塗り分けがされたリザルターアーマーの使い手がいた。



『リン、どうしてキミがリザルターアーマーを装備してるんだ?』



 ヴィスカに【電磁式ライフル】の銃口を向けるレンもまた、徐々に各部位のアーマーを出現させる。


 この兄妹、先にジェネレーター部位のある腰部だけを呼び出してずっとこっちを急襲する機会をうかがってたのか。



「そんなの、”持ってるから”装備したに決まってるじゃない。

 ――ってことを聞きたいわけじゃないよね?

 でも話は簡単。

 あたしやレンにはリザルターアーマーを装着して調達員になるっていう役割があったから。

 ……あたしたちを助けてくれた”プレイヤー”に恩返しがしたいって動機で、キャリバータウンの新米調達員としてプレイヤーを助ける役割があるの。」



『リンドーもアーマーを装備してたけど、キミみたいに操作する技術は持ち合わせていない。 NPCにも力の差があるってことっ?』



「リンドーは所詮、クリーチャー化するNPCだからね。

 けど、あたしとレンは特別。プレイヤーと共闘するイベント用に、戦闘に関するステータスが他のNPCと違って詳しく定められているわ。」



 僕はともかく、ヴィスカまで不意をつかれる形になったのはそういうカラクリがあったせいか。

 じゃないと子供2人に僕らの相手をさせるのは不自然だ。

 NPCに歳の概念があるのかわからないが、兄妹二人の体躯はやはり小さい。

 


 リンの言動は誇らしげである一方、どこか諦念じみた影も感じさせるものだった。

 あのリンドーもそうだったが、NPCは自分のことを語るとき饒舌になる。

 それくらい個々人を仕切る特徴に執着しているのかもしれない。


 彼女は自分がしゃべりすぎていることに気づいたのか、それ以上の問いかけには答えてくれなかった。


 ヴィスカの無事を気にしつつ、僕はフリューゲルへと声を荒げた。



『今までの対応は嘘かっ!? フリューゲル・アンス!』



 フリューゲルはこちらを睨みつけると首を横に振る。



「話したことは真実です。

 それに、イチモツ様に対する敬意の念はわたし共の中にしっかり存在しています。

 だが、お連れの彼女の存在は捨て置くことができない。」



 その発言は酷く憤りを感じさせる。



「申し上げたように、〈名無し〉がキャラロストされた際に生まれた魂の残滓は全て【ジェネシス・アーサー】と呼ばれるクリーチャーに流れています。」



『【ジェネシス・アーサー】……このジャンク置き場の奥底、キャリバータウンと月面露出地区の境でさ迷っている四足の怪物か?』



「知ってらしたのですか。 奴をみたのであれば、その凶悪な姿も既に存しているかと思います。魂の器から氾濫する憎悪の塊を。」



『たしかに、僕は【ジェネシス・アーサー】を見たし、凶悪なクリーチャーだとは思うよ。 でも、他のクリーチャーと比べて特別なのかと問われればはっきりと頷くことはできない。

 キミたちには、僕らに見えないものが見えている。』



 フリューゲルは苦虫を噛み潰したような露骨な不快の表情を浮かべる。



「……。 話しても仕方がない、ということですか。

 では、目下の問題を教えてあげましょう。


 このままでは【ジェネシス・アーサー】がキャリバータウンのNPCを食い漁ることになります。

【ジェネシス・アーサー】の中にいるのがプレイヤーへの憎しみを蓄積させた〈名無し〉だからです。」



 憎しみを蓄積させたって……それじゃあまるで僕と〈ロク〉の関係にそっくりじゃないか。

 〈ロク〉――つまり、今現実世界で生きているであろうもう一人の僕が痛覚に準ずるもの・憎悪や憤怒に呑まれぬように、戸鐘波留は今【モルドレッド】の中にいる〈イチモツしゃぶしゃぶ〉をダミー、スケープゴート、身代わりにした。

 けれどヴィスカの機転で僕は【モルドレッド】のパッシブアビリティ《痛覚無効スーパーアーマー》の効果によって、痛みに呑まれないようになっている。


 〈名無し〉もまた同じだ。

 リスポーン属性が付与されていたおかげで完全なロスト自体は免れたものの、彼女も耐えがたい”死”に幾度も晒されてきた。

 学院会の連中が〈名無し〉を倒すことでレベル上げの道具にしていたからだ。

 彼女が討伐され、リスポーンされる最中、残った苦痛は徐々に〈名無し〉という不完全なキャラクターの枠組みから氾濫し、【ジェネシス・アーサー】という怪物に流れた。


 ってことなのだろうけど……事情が事情だけにヴィスカ本人に聞くのが一番わかりやすい気もする。

 


『でもちょっと待ってくれ。道理が合わない。

 プレイヤーへの憎しみが募り積もって、どうしてNPCのほうを襲うんだ?』



「それは……。

 わたし共が、プレイヤーに近い存在になりつつあるからです。 他でもない貴方様の魂がそうさせてくれた。

 けれどわたし共はプレイヤーの方々のように昇天――ログアウトすることができない。

 あの怪物が街に入り込んでしまったら、わたし共は貴方様からいただいたこの魂ごと、奴に食われることになる。」



 途方もない話じゃないか。



『け、けど、キャリバータウンのシールドはそう簡単に破れることはないだろう?』



「今はかろうじて”クリーチャーだと認識”してくれていますが、再三いうように、【ジェネシス・アーサー】もまた〈名無し〉という神経系情報を取り入れている。

 ここにいるということは見た目が【モルドレッド】である貴方様もシールドを抜けられたのでしょう?

 それはシールドが、貴方様の魂を見て”プレイヤー”と認識したからだ。

 では【ジェネシス・アーサー】は?

 まがいなりにも〈名無し〉というプレイヤーじみた存在の魂を取り込んだ奴もまた、シールドからプレイヤーと認識され、通過する恐れがあるのです。」



 

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