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最小限の被害


 …………?


 ブラックアウトしていた視界に、薄雲った馴染みのある天井が映りこむ。

 戸鐘波留は勢いよく身体を起き上がらせると、自前のスマートフォンを手に取って真っ先に仲間たちへ全体メッセージを送る。


 古崎徹に抵抗する4人を”〈北見灯子〉”とともに戸鐘波留はみていたのだ。

 自分のほうが彼らの世話をするはずが、まさか助けられてしまうとは。


 時刻は午前0時を廻っていたが、返信は程なくして全員から返された。


 波留の無事を安堵する内容だったが……彼女が聞きたかったのは別のことだ。



「(あたしは卑しいな……。)」



 自分の心に気づいて嫌気がさす。

 この期に及んでもなお、彼ら彼女らが『スターダスト・オンライン』を封鎖する協力をしてくれるか否か、そんな打算的なことばかり考えている。


 最近は人間関係にえらく敏感になっていた。


 もう数年も前になるが、波留の協力者の一人、”坂城諸さかしろ もろ”は『スターダスト・オンライン』開発後半になって、身勝手な態度があからさまになっていった波留を咎めた。

 波留から見たら、4年前に彼女がゲームスタジオから追放されたのは、石橋マンタの傀儡に成り下がったスタッフ一同によるものだと理解していた。


 だが諸から言わせれば、いずれスタジオスタッフの波留に対する憤りが爆発するのは火を見るよりも明らかな状態だった、という。


 そして偶然、4年前のあのテストプレイの時に、スタッフは石橋マンタを筆頭に波留へと反旗を翻した。



 ――『皆、波留に頼ってばかりの開発に嫌気がさしていたんだ。自分たちで出来るって君に証明したいから、君をスタジオから追放した。

 ……もちろん、石橋に逆らってクビを切られるのを恐れていたってのもあるけど、クリエイターなんて凝り固まったプライドだけが先走る連中が選ぶ職業さ。』



「(スタジオを追放されて、しばらくした後、諸はあたしにそう言った。

 ……で、あたしはなんと返したか。


 『プライド? そんなのくそくらえ。

 結局、あいつらには手に負えなかった。

 凡人どもは、人様の弟を酷く扱って、足を引っ張ることしか考えてない!』


 だったっけ? 凡人って言葉で自分と他人を分けたのはアレが初めてだと思う。)」



 続けざまにメッセージが届く。

 〈リヴェンサー〉から、古崎徹に支配された〈学院会〉メンバーの安否を気遣う内容のものだった。

 波留は”心配ないと思う”と初めに前置きし、〈北見灯子〉が予め学院会のプレイヤーを逃がすための出口を用意していたことを説明する。


 あの空間――波留の見立てでは、あのキャラクリエイト手前の場所は、神経系情報を一時的に保存している、いわば”《パーソナルリザーブ》”といえるかもしれない――で波留は北見灯子に会った。


 彼女は波留の存在に気づくや否や告げたのだ。


 ――「すれ違いだね」。


 北見灯子はパーソナル・リザーブに存在する天蓋窓のような枠組から”古崎徹”の記憶を覗いていた。

 その記憶の情報を頼りにしてログアウト用のバックドア……逃げ道を用意することができたらしい。


 彼女は、あのパーソナル・リザーブから出ないと告げた。



「(多分、あの子の意識だけは、おそらく遊丹ちゃんと同じ状態になっているかもしれない。

 だとすれば、やっぱりゲーム自体を消去するという選択肢は選びづらいなぁ。

 けど今のところ、彼女以外の〈学院会〉プレイヤーは解放されているという意味だ。

 彼らに『スターダスト・オンライン』をプレイしないでください、と説得できればいいのに……。


 ……驕る言い方をするわけじゃないけど、あたしは優秀な部類の人間だ。

 興味が向いた分野において、不可能だったことは今までの人生で数えるほどしかない。

 

 つまり、できない人の気持ちが理解できない輩に説得できるわけないじゃん。)」


 

 『スターダスト・オンライン』で刻まれたV.B.W.による能力バフ。

 〈学院会〉の面々はそれを目当てにゲームをプレイする。

 プレイしなければV.B.W.の影響は薄まり、プレイヤーは”徐々に”本来の自分自身の能力に戻ってしまう。だからこそ、彼らはほぼ毎日といっていい頻度で『スターダストオンライン』にログインする。


 けれどログインすれば『スターダスト・オンライン』内でキャラロストする恐れが出てくる。キャラがロストされれば、強化した分の能力は帳消しとなり、刻まれたV.B.W.も本来の自分自身に上書きする形で急激に戻されてしまう。


 端的にいえば、ログインしなかった場合は自然治癒としてV.B.W.がなくなっていく一方、キャラロストした場合はV.B.W.がない状態を見本に再度、V.B.W.が刻まれるということだ。


 後者だとプレイヤーの神経系を司る脳に甚大なダメージが生まれる可能性がある。

 それは波留にとっても避けたいが、プレイヤーを支配している古崎徹の指加減でこれからもっとキャラロストは増えるはずだ。



「(我ながら危ないゲームを生み出したと思う。

 けど、神経系関連の調整はM.N.C.のアドバイザー頼りだったし、……あたし悪くない!

 とは言えないです、はい……。

 物理的に『スターダスト・オンライン』にログインさせないようにする?

 でもそれだと下手すればお縄につくハメになるし……。

 やっぱり現実世界こっちで説得して遠ざけるのが一番なんだよなぁ。

 古崎のやり方をまざまざと見せつけられた直後だし、今が説得のチャンスな気がする。)」



 波留が何気なくメッセージに書き込む。

 プレイヤーをなんとかして説得できないものか、と。


 名指しはしなかったが、半ば〈リヴェンサー〉こと元生徒会長・月谷芥に頼んでいる節があった。だが意外なことに真っ先に返信を返したのは〈笹川宗次〉だった。



『全員は無理かもしれないっすけど、俺やります。』


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