私は私だったはず
深夜に目が覚めて、
不意に自分ってなんだろう
なんて、考えたことはありませんか?
はじめまして
...いや、この挨拶が正確かは私には分からないが
まぁ、今はいい
まずは自己紹介でもするとしようか
私は人だ
...なんだか、これも正確ではないような気がしてきたよし、言い直すことにしようか
少なくとも私は人として在ったことがある筈だ
...うん、これなら誤解が少なくていいかもしれない
私、という存在は母親と父親があって産まれた筈だ
とは言っても、母親から産まれたその瞬間を覚えているのでは無い
いや、「何を当たり前のことを」と、そう言いたいのはわかるとも
しかし、そんな "当たり前なことを、当たり前に知っている" というのは、今の私にとっては非常に重要なことなのだ
なぜならば、自らの姓名すら記憶にないのが、今の "私" という存在であるからだ
私は今、記憶喪失と呼ばれていた状態にあって、年齢も、職業も、家族の名前も覚えていないのである
何とも親不孝なやつだと私自身ですら思うよ、両親がいたということしか覚えてないから心は痛まないがね
そんなわけで随分と心細い思いをしていたから、誰かに話している、という体で現状を整理しようとしていたのだ
まぁ、案の定というか脱線仕掛けているがね
もちろん、止める気はない
所詮、独白なのだから、私を含めて誰も気にはしないだろう
"私" という存在があやふやな今、"私" が何であるかというのは、私にとってはとても重要なことなのだ
私が今いるこの場所はとても不思議な空間だ
上も下も右も左も前も後ろも立っているのかさえ、
"気にならない"場所だ
身体があるのかは分からないのだが、まぁ人であったのだから多分あるのだろう
色は、白っぽいような気もすれば、黒っぽいような気もする
白に見えたような気がして、それが正しいか考えていると次の瞬間には何色に見えたのかを覚えていない
簡単に言えば、何色か分からないのだ
強いて言うならば透き通ったように感じる色だ
光の三原色で作れる色に近い気がする
むむむ、のっぺりした色のような気もしてきた
色材の三原色を混ぜたような...
この話はやめよう、気分が悪くなってきた
そのくらい不思議な色なのだ
匂いは、多分ない...と思う
正直、ちょっと自信はないが私以外に人はいないし
私がないというのだから、ないのだ...たぶん
私が今いる場所の説明もこれでいいだろう
私は随分とここにいるような気がするが、
とにかく訳の分からない不思議な場所なのだ
そんな訳の分からない場所であるから
"私" が何であるのか見失ってしまったら、次はないような気がしてしまうのだ
この直感は正しいように感じる
ここには "私" を証明するモノは何も無い
私以外に "私" を証明する者もまた、いないのだ
と、そんな訳でこんな独白を始めたのだが
...正直に言って虚しくなってきた
そういえば、この場所で自分を認識したその時から、
寝るということをしていなかった
人であると言った手前、人らしくないことをし続けるのは良くないよな
人であるためには睡眠も必要だろう
ふむ、睡眠のことを考えてたら眠気がしてきたぞ
次にいつ目覚めるかは分からないが、おやすみ...
「...ふふっ、おやすみなさい。次に目が覚める時が楽しみです。」
"私" 以外の誰かの声が、誰もいないはずの不思議な空間に聞こえた気がした