01 プロローグ
「例えばつばきの魂を女湯で漂う泡に入れるとする」
アルバイトをすると返事した直後、俺は次の仕事と、魂を異世界に転生させることについて講習を受けていた。
「詳しく」
「女湯。ボディーシャンプー。見どころが満載だからハプニングを起こしたいのに、そうそう面白いことは起きない」
「普通に風呂に入ってるだけだからな」
「そこでつばきだ。キミが泡になって泡を立てた艶めかしい肉体の上をくすぐるように這えば、サービスシーンが撮れる」
「撮りましょう監督」
俺は目の前の神様が本物の神様なのだと確信した。
「もう一回言って」
気をよくした女の子が頬を垂らして指を立てる。女湯に合法的に忍び込むためなら提灯になるくらいどうってことない。
「取りましょう監督。これは監督にしか出来ないことです」
身を悶えさせる神様。ちょろい。
「よっし、じゃあ今から撮るか。行くぞ異世界転生!」
「ばっちこい!」
「でも今回男キャラしかいないんだけどね――アクショもがもが」
俺は慌てて監督の口を押さえつけた。
「ちょっと待て。つけ加えたけど何て言ったよ、おい?」
「もがもが……。今回は男キャラしかいないけどな」
「女湯は?」
「女とは一言も言ってない。女湯と男湯の時間を間違えた男二人の物語だから」
確実に女と言っていたが、揚げ足を取ったら気を損ねそうだ。
「それのどこにサービスシーンがいるんだよ」
「視聴者層は欲しがっている。ガイヤが私に囁いている」
「お前はガイヤの産みの親だろうが」
「だってとってもとっても凄くて偉い監督の私にしか撮れないって言った」
「誰でも撮れる。一昔前のラブコメが開拓して今はもう首都になってる」
むしろ本家の矢吹国民ならもれなく妹のおっぱいが揉めます。やったね!
「じゃあ、次は小物になって欲しい」
女湯を撮影する案は彼女の中で泡沫となって消えたらしい。無念。でもそのうち進言してみよう。
「小者?
悪党の傍でアニキすごーい! って褒めればいいのか?」
「いや、人じゃなくて物。小物。雑貨とか」
「……聞きたいんだけど、そんなのに転生してどうするんだよ」
「使い道はたくさんあるだろ。女子の部屋に何故かあるランプとかになれば着替えを覗けるぞ」
そのネタはもういいよ。
「さっきシャンプーでやっただろ。どうせ男部屋なんだろ」
「私としてはお前が欲情しようがちょっとはっちゃけようがドラマが撮れればいいから」
「女子部屋のランプになりたいです。もしくはベッド」
女子部屋のベッドになりたい人生だった。もう死んでるけど。
「よしよし。私はホワイト神様だから貴方の願いを叶えてあげましょう。ということでベランダのプランターになってくれ。
女子がベランダから落とすから、景気よく割れてくれればそれでいいから」
「それでいいわけねえだろ。またか。お前はまた殺すのか。二度刺さないと気が済まないのか」
「冗談だよ。
もう役は決まっている。新規で撮影したいドラマの小物だ。おそらく二週間ほど転生したままだが、引き受けてくれるか?」
「女子部屋か?」
「どんだけ執心して……。そうそう女子部屋がドラマに登場するわけないでしょ。
今回、つばきには西部劇の世界に行ってほしい」
「西部劇ってことは、アメリカ開拓期? 異世界の神様がそんな世界を所望する理由は?」
「ガンマンってこのあいだ読んだ漫画でかっこよかったー」
「正直でよろしい!
で、西部劇で何になればいいんだ? 女警官が腰に装着したホルスター?」
俺のボケを無視して、神様は説明した。
「西部劇に居酒屋あるじゃろ」
「バーとか酒場とかな」
「バーの入口でぎいぎいするドアあるじゃろ」
「スイングドアな」
西部劇と言えばガンマンの次にお約束なのが、風通し抜群で扉の役目を全く果たしてない両開きのスイングドアだ。
客が入ると胸の高さにある戸が音を鳴らす。
風を知らせる風鈴のように、スイングドアは人の往来を知らせる。
「あれをやってほしい」
「……スイングドアなんてやってどうするのか聞いていいか」
「それは追々説明する。いいじゃろ、どうせ暇なんだし。今度は痛い思いもしない。
ちょっと血生臭い展開になったら、もしかしたらドアを蹴破ったり銃で撃たれたりするかもしれないけど」
あ、これ痛いやつだ。
「さーてと。天国の秘湯巡りでもするか」
「まあまあ待たれよつばさ。いいことを教えてやろう。
胸の大きい女が胸丈の戸を開けるときに、両手が塞がっていたらどうする? 胸を押し着けて開けようと――」
「わかった引き受けた今すぐ異世界転生だ」
「わーちょろい。段々とお主の扱い方がわかってきた」
そんな茶番も一段落したので、そろそろ行こうか。
「説明は面倒だから筋書きをまた送る。アドリブで頼むぞ」
「任せてほしい」
「じゃあ異世界転生――アクション!」
視界はぶつりと途絶える。