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異世界エンドロールに俺の名を。  作者: ゆまち春
プロローグ 勇者――の仲間の豚
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vs魔王(すぐ終わります)

 魔王城の最奥。


 そこには城の主――魔王がいた。


「よく来たな、勇者。歓迎するぞ。魔王流のもてなし方でな」


 とは言わなかった。


 部屋の中に溢れていたどす黒い空気の濁流だくりゅうに踏み込んだ瞬間、魔王の初撃が勇者を狙う。


 それは魔王の部屋の外でグダグダやっていた一行を吹き飛ばせる威力のダークマターを、超圧縮して勇者だけを狙ったものだった。


 初速マッハ3の攻撃は、視認してからでは避けられない。


 だから勇者は死ぬ。


 ここであの女の子が書いたバカバカしい筋書きを読もうか。


『勇者助かる。かばった豚死ぬ』


 ふざけてんのか!


 豚とは半人豚姿の俺であり、勇者とはイケメンのことだ。


『このシーンの意図としては、ラスボス戦だから魔王の強さを示したい。仲間が一人死ぬのは演出的に栄える。豚はさっきの傷でもうズタボロだったことにする』


 頭の中の筋書きをくしゃくしゃにする。


 ゴミ箱に捨ててやりたかったが、ため息ひとつで我慢する。


 誰かを立てるには犠牲が一番いい手段だ。


 イケメンの隣にはブサイク。

 性格が悪い奴の隣にはもっと性格が悪い奴。

 

 残念ながら、俺は主役の器じゃない。


 一度死んだくらいじゃ、主役になることはできなかった。


 だから二度、魔王の攻撃を受けて死ぬくらいどうってことない。


 でも痛いのは嫌だなあ。


「危ないぶひー!」

「な……!」


 魔王が攻撃を発生させる動作よりも先に勇者を突き飛ばす。

 

 超圧縮されたダークマターが、ピンポイントで俺の身体を貫いた。


「いってええええええええええええええええええええええええええええええええ」


 喉が焼けるほど声が出た。

 寧ろもう、喉の痛みしかわからない。


 吹き飛ばされた下半身は麻痺した。

 いや、上半身が吹き飛ばされたみたいだ。

 どっちでも一緒だけど。


 俺は死ぬ。


 トラックに轢かれたときよりも早く体は麻痺した。


 痛みよりも喪失感が強い。けれど感覚が麻痺したせいで、俺の体のどこが脳と連結していて、どこがしていないのか判別がつかない。


 壁に叩きつけられた上半身に勇者と忍者とシスターが寄ってくる。


 ああ、そうか。まだ俺の台詞は残ってる。


 前の戦いの傷が癒えてなかったんだ。それから……俺の代わりに世界を救ってくれ。こんなところだろう。


 その一言で優柔不断なこいつらは戦える。


「………………」


 言葉は出なかった。


 そりゃあ当たり前だろ。下半身が吹き飛んでるんだぞ。喋れるわけないだろ。


 サイドテールの忍者が耳を口に近づけてきた。 


 良い匂いがするかと思ったけれど、鉄の生臭い匂いしかしなかった。

 

 これ、俺の血だな。


「………………」


 笑い声さえ出ない。


「わかった」


 え?


 忍者が俺の目を見て頷いた。


「癒えてなかった傷じゃどうせ戦えない。だから、俺の代わりに世界を救ってくれ。そう言っている」


「………………」


 俺が思っていたことを代弁してくれた。ありがたいが、どういうことだ……?


 そういえば、こいつらはなんだ?

 こいつらも役者なのか?

 こいつらも俺と同じ死人なのか?


 手を握られる。忍者じゃなくて勇者だった。男かよ。


「絶対に、俺たちが魔王を倒す。お前も一緒だ。だから、そこで俺たちを見ていてくれ」


 勇者が立ち上がり、魔王と対峙する。その両横にシスターと忍者も並ぶ。


 シスターが巨大なメイスを持ち、忍者がスタッフを握っている。……逆じゃないのか、それ。


 忍者がちらりとこちらを見る。前みろ前。魔王に殺されるぞ。なんで俺が犠牲になったと思ってんだ。


 あの変な神様らしい変哲な脚本だよ、全く。


 流れ出た血は止まらない。

 指先も動かない。口は痙攣する。

 意識が朦朧もうろうとする。


 じゃあ後のお仕事は、豚の身体だけでいいみたいだ。


 痛みに耐えきれず、俺は目を瞑った。




 母さん、父さん、柚子ゆずこ、じいちゃんばあちゃん、バァバ。トラックに轢かれたときは言えなかった感謝を死んだあとだけど言っておくよ。


 大人数家族で大変なこともあった。物語の主人公みたいに恰好いいことをやりたかったけれど、特に何もできずに死んじゃってごめん。でも、俺は人を立てるほうが性に合ってるから。


 さようなら。今までありがとうございました。

 

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