07:無自覚な殺意
シェリル達のベースキャンプには、計8名ほどの男女が詰めている。樽や水瓶などが大量にあることから、ダオスはシェリル達の商売が大口相手への水商売なのだろうと察した。
「どの程度必要?」
「20リットルで」
ダオスが水を購入する量に全員が疑問を抱いた。その程度の量を入手するために、地下30階まで足を運ぶのかと。だが、その量が現状のダオスの限界だ。バックの中には、ハーフの死体が入っているのだ、それにこの水の量を足したら70~80キロ近くになる。鍛えている大人でも長時間運ぶのは辛い重さだ。
「でも、そのバック……エスカロリオが開発に携わったやつでしょう?」
「えぇ。ですが、来る途中にトラブルに見舞われましてね。その戦利品がここに入っているんですよ」
革袋に水を詰めてくれているシェリルに対してダオスが正直に応えた。決して、嘘は言っていない。聞かれていないから中身が何だか応えないだけだ。ダオスは、正直者だ。
「ほほぅ、じゃあ俺が中身を当ててやろう……!! 分かった、女だろう? 迷宮にいた可愛い子を思わず捕まえてしまったと」
バーダックの鋭い指摘にダオスは驚いた。ここまで的確に答えを突かれるとは思っていなかったのだ。
「正解ですバーダックさん。実は、ここに来る道中で『メイデン』の血盟の者達にモンスターを擦り付けられたので、お礼参りをしました。その戦利品がこの中に入っているんです。それにしても、よく分かりましたね。実は、こっそり見ていましたか?」
「なんだ、『メイデン』の連中最悪だな!! 」
「ちげーねーな。全く、女なら何をやっても許されるとでも思っているんじゃねーか」
周りにいたシェリルの仲間達は、ダオスの発言を冗談だと思っている。だが、シェリルとバーダックだけは、『メイデン』のメンバーを殺害したと確信していた。『ゴスペラーズ』に血縁者が在籍しているのだから、どんな性質の連中が集まっているかなど知っていて当然だ。
「他のキャンプには、『メイデン』の連中もいるから騒ぎは起こさないでくれよ」
「大丈夫ですシェリルさん。正当防衛ですから」
ダオスが当然の権利だと主張するがシェリルを悩ます結果になった。シェリルとバーダックは、エスカロリオと同じく頭のネジが数本外れている馬鹿だとダオスを再認識した。
………
……
…
それから、ダオスはシェリル達と交渉を行った。荷物持ちを一人雇いたいという要望だ。強化魔法が使える者……更に言えば、身体強化が使える者を雇いたいと要望したのだ。勿論、ダオスは相場が分かっているので死んだ『メイデン』連中の財産から遠慮無く支払う。
「出せるのはエース金貨2枚。無難だと思いますが、どうでしょうか?」
「でもな~、こっちの荷物を運ぶのにも強化魔法が使える奴は必要だしな」
ダオスが提示した金額にシェリルが非常に悩む。シェリル達の仲間には、強化魔法が使える者は2名おり、ここでダオスの提案を飲むと万が一に備えての予備が亡くなってしまうのだ。
「荷物の状況を見る限り近日中には、ダンジョンの外へと戻るのでしょう。ならば、逆に私を護衛として雇いませんか? お代は、50リットルの水と私の荷物を乗せて頂く事で構いませんよ」
さり気なく、要求する水の量を上乗せするダオス。自力で持たないのでよければ、当初予定していた量を持ち帰りたいのだ。
ダオスの提案は、シェリル達にしても悪くは無い。単独でここまで足を伸ばせる実力者を安く買いたたけるのだ。ダンジョンにおいて、安全策は幾重にも用意しておくべきだ。それが理解出来るが故にシェリルを悩ました。
ダオスのバックの中身が問題なのだ。下手をしたら、全く関係ないのに『メイデン』に睨まれる結果になる。『メイデン』は、女性だけの血盟であるとはいえ、その規模は大きい。シェリル達の血盟である『アリトライア』との戦力比は、隔絶している。
「1時間頂戴。仲間と話してみるわ」
「分かりました。では、少し散策に出てきますね」
シェリルの言葉にダオスは当然だと頷いていた。実弟の知り合いだとはいえ、他の連中にしてみれば全くの他人なのだ。赤の他人をメンバーに迎え入れる危険は周知の通り。仲間内の連携にも穴が開く可能性もある。
仲間同士で話すのに自分が居ては話しづらいだろうという気遣いでダオスは外へと出た。泉の側まで一人で歩いて行き、覗き込んだ。光源が少ないため、遠くまで見渡せないがその透明度にダオスは感心するばかりだ。
美しい。
共有の財産として利用される泉である為、生活排水などをここに捨てる者は誰も居ない。見つかった場合、即座に八つ裂きにされる。
しばらく水辺を散策していると、一人の女性が座り込んで泣いていた。ダオスは、全く気にもせずその横を素通りした。だが、服の裾を捕まれた。
「ちょ、ちょっと!! 女の子が泣いているのよ。普通声を掛けるでしょう」
突然、見ず知らずの女性から訳の分からないことを言われてダオスは、混乱していた。普通は、赤の他人が泣いていた場合、異性とか関係なく声など掛けない。それに女の子と言える年齢でもない。声を掛けている様子を誰かに見られれば、あらぬ誤解すら生む可能性もあるのだ。
それに、"誓い"持ちのダオスにしてみれば、いきなり異性に捕まれるなど首元にナイフを突きつけられるに等しい行為だ。
よって、ダオスは結論づける。
敵だと!!
必殺のコンボで殺して埋めてしまおうと思った所・・・・・・ダオスは、近づく足音を聞き取った。
「アイナ、他の探索者に迷惑を掛けるな。うちのメンバーが失礼をした」
ダオスを殺しに掛かってきたアイナという女性をかばう者。だが、殺しに掛かってきて置いて失礼した程度で終わらそうとしている当たり、この者達の正気を疑わざる終えないダオスである。
世の中、『知らずに殺しそうになっていたけど許してね』で済むのであれば、どれほど平和的に物事が進むだろう。夢物語である恒久平和がなされるだろう。
「失礼をしたというのならば、現物で詫びを示して欲しいものですね」
金で解決できない事は、本当に少ない。双方、探索者である故にわかりやすい解決方法をダオスが提示した。謝罪とは、相手が納得しなければ意味が無い。よって、ダオスは自らがどうすれば納得するかを相手に教えたのだ。
円満解決を望むのならば、ダオスの提案を飲まないはずがない。コレを飲まなければ、ダオスは確実に殺す意思を持っている。
女性からエース金貨が一枚投げられ、ダオスが懐へと治めた。金額に満足したダオスは、今回に限り見逃すことにした。それに、これ以上の厄介ごとはごめんだとダオスは来た道を引き返す事にした。
「今のエース金貨じゃありませんか。いくら何でも……」
「そうしなければ、アイナは死んでいたぞ。ちなみに、来月から減給だからな。で、一体何をやったんだ。ちょっと目を離した隙に殺されるような事をするようでは面倒がみきれないぞ」
「酷いです!! ただ、そこの人が泣いている女性を無視して素通りしそうだったので止めただけですよ」
ダオスは、エース金貨を渡してきた女性を警戒していた。
殺し合いに発展すればダオスは、自分の方が不利だと悟ったのだ。彼女が身に纏う装備と何重にも掛けている強化魔法。それに、身につけている抗魔クリスタルの数も質も相当なものだ。ダオスの状態異常魔法を持っても、幾度も魔法を発動しなければ抜けない程の安全対策を取っている。
「アイナは、先に戻っていろ。私は少し彼と話がある――付き合って貰えるかなダオス殿」
ダオスは、自己紹介する前から素性がバレていた事から、あの過剰なまでの装備と強化魔法の準備の良さに納得をした。
「女性の誘いとあっては無碍には出来ませんね。但し、人目の多い場所でなら……えーーと」
「1級探索者のミーシャ・バーモンドだ。『メイデン』の血盟主をしている」
「では、ミーシャ殿。中央広場で話をしましょうか」
人気の多い場所へと二人が移動した。
今日明日までが日次の限界の予感><
ネタはあるが執筆が間に合わない。
感想や評価など頂ければ作者嬉しいです・・・本当に。